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不死鳥シリーズ
“家庭教師"のライさん(ユウキ組)
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※11話読了推奨
※鈴凪祭りから一週間後の家庭教師初回の話
※ライとユウキ組(ユウキ、柴沢、山田)と時々フィンが出てきます
※“巨乳の美人OL"のライさん(山田+ライ)から読むとわかりやすいけど読まなくても〇
※山田目線
あの日直接ライに会ってからというもの、俺の中ではすっかり“巨乳の美人OL”のイメージは消えて、“頼れるお兄さん"として確立された。…のだが、一か月ほど経過した今、それがどうしてか変わろうとしている。
「二人とも、問題解けたか」
教科書を片手に俺とユウキに勉強を教えてくれるライ。その姿は頼れるお兄さんそのもの。だが、
(これで鬼の顔も持っているんだもんな…)
高校で知らぬ者はいないと言っていい程の有名人。狂った不良達を諌めたヒーロー。それが彼のもう一つの顔だ。最初にその動画を見た時は心臓が止まるかと思った。いまだに信じられない気持ちが半分ほどあるが、前回会った時、つまりライのお見舞いに行った時にユウキと本人が認めていたのでまず間違いないだろう。
(今日、その実力が見れんのかな…)
俺がソワソワしながらライを盗み見ていると
「ん?どうした」
ライが問いかけてくる。
「…すんません、少し、ボーっとしてました」
「はは。まあ、二時間も勉強させられたらキツイよな。一旦休憩するか」
昼食以来の休憩が入り、ユウキと俺はやったーと両手を伸ばした。今日は家庭教師初回なのでライもそこまで厳しくやる気はないようだ。
「今は…えっと、十四時半か。家庭教師の終了時刻って」
「十八時だよ」
「そうだった。なら、飲み物でも用意するよ」
ライが冷蔵庫に向かおうとするのをユウキが慌てて止めた。
「待ってライ。それは後にしてさ、トレーニングルームに行こうよ」
「トレーニングルーム?」
「うん、マンションの共有スペースにジムとかトレーニングルームがついててさ、そこなら広いし、護身術とかの指南もできると思うから…気分転換に体動かしにいこうよ」
「体動かすのはいいが…ジムとトレーニングルーム付きのマンションってどんだけだよ…」
ライの言葉に同意するように俺も頷く。今日初めてここを訪れたがエントランスがオフィスロビーかよってくらい立派でビビったし、窓からの眺めは絶景だし(夜はさぞやロマンチックな雰囲気になるのだろう)、これが週一の家庭教師の為だけに使われるなんて…狐ヶ崎の財力恐るべし。
「えへへ、いつでも隣に移り住んでいいからね。ライのために空けとくからさ」
「…結構です」
相当ジムが魅了的だったのかライは少しだけ動揺するように瞳を揺らし、首を振った。
***
ジムには様々なマシンが置かれ、シャワー室も併設されており、マンション内の施設とは思えないほど充実していた。ライと共に「すげえ…」と呟いてると、その横のトレーニングルームの一室にユウキと柴沢が入っていく。ルームの扉には貸切と書かれていた為元々ここを使う予定だったのだろう。俺とライ、そして今日一度も口を開いていない恋人のフィンと共に中に入ると、四方が鏡張りになったダンス教室などでも使えそうな三十畳ぐらいの室内が広がっていた。ユウキが拳でコツコツと軽く床を叩く。
「防音になってるから遠慮なく暴れていいよ。で、何からやる?」
「まずは柔軟だろ。体が固いと怪我しちまうし」
「え~つまんなーい。そんなのより速攻喧嘩しようよ」
「そんなのとか言うな。体の柔らかさは何に対しても有利に運ぶんだからな。ほら、屈伸十回だ」
「うえ~」
「うっす…」
言われるまま柔軟をした。ただ、俺も内心こんな事が何の役に立つのだろうと疑問に思っていた。
(鬼の姿が見れるかと思ったのに…)
不貞腐れてる俺達を見て、ライは呆れ顔で「仕方ないな…」と漏らした。
「じゃあ、柔軟が終わったら一人ずつ相手してやる。制限時間は五分。相手の顔面を殴るか、背中を床につけさせたら勝ち。これでどうだ」
「わーい、そう言うの待ってましたー!」
「お願いします!!!」
ユウキと俺がはしゃぐのを見てライはやれやれと首を振った。なんで殴り合いでそんなにテンションが上がるのか不思議で仕方ないという顔だ。やっぱり普段の言動通り、ライ自身は喧嘩を嫌う質のようだ。鬼の一面が更に疑わしくなるが、これで真偽が確かめられるのだ。俺は興奮が収まりきらず「どっちからやる?」という問いに勢いよく「はい!!!」と挙手した。俺が自己主張した事が相当意外だったのかユウキもライも目を丸くしている。
「いいよ、やろうか」
ライは苦笑を浮かべ、軽く手首を揺らしながら少し離れた位置に行った。ユウキは扉とは逆側の壁に移動していき、柴沢とフィンは出入口である扉の前で待機する。今更だが恋人のフィンはこの状況をどう受け止めているのだろうと気になった。チラリと確認すれば、彫刻のように美しい姿勢で壁に寄りかかっている姿が見えた。オレンジの瞳は常にライに向けられ、口元には微笑を浮かべている。
(ワ、笑ってる…)
自分以外の男と絡んでいても気にならない…という事だろうか。
(実はあの人恋人じゃなかったり…?)
いやそんなわけはない。お見舞いの時にとんでもないディープキスをかましていたし、いくら外人でもあれは恋人にしかやらない行為だろう。というか大前提としてライを心配しているからこの場にいるんだろうけど…
(よくわかんねえ人だな…)
「山田、いつでもいいぞ」
ライの言葉で我に返る。そうだ。今はよそ見している場合じゃない。視線を戻すと、ライは片足を少し後ろに引いた状態でゆったりと構えていた。敵意もなければむしろお世話になってる相手に殴りかかるなんて気が引けたが、立っているだけでは鬼かどうかは確かめられない。
ぐっ
拳を振りかぶって、顔面を狙いに行く。ライは軽く身を引いて拳を避けた後、前のめりになった俺の手首を掴み…ガラ空きの腹に膝蹴りを入れてきた。
「くッ!う、ゲホゲホッ」
「未知の相手とやる時は少し距離をとった方がいいぞ」
「うっ…は、はい…ケホッ」
助言した後ライは手を離し、また三メートルぐらい離れた。もう一度やっていいという事だろう。前髪すら乱さず凛として立つ姿は普段の穏やかな空気とは違った空気を纏っており、少しだけ鬼の片鱗が見えてきた気がするが…その先は俺に暴けなかった。何度も挑戦しては、その度に軽くあしらわれ、あっという間に五分が過ぎていく。
どさっ!!
「山田、お疲れさん、良い気合だったぞ」
大の字で仰向けで寝てる俺にライが優しく手を差し伸べてくる。さっきまでの鋭い気配は消え、いつもの頼れるお兄さんに戻っていた。
「山田?」
「あ、いえ…ありがとうございました」
「こちらこそ怪我がなくてよかった」
わしゃわしゃと髪をかき混ぜられる。前にもやられた犬相手のような雑な撫で方だが、熱が出てない状態でやると少し気恥ずかしかった。
「はーい、終わったならそろそろ離れてね~~~」
壁から戻ってきたユウキが俺達を引き剥がしていく。
「さあ!待ちに待った俺の番だよ!ライと喧嘩するのは二回目だから楽しみだな~」
「お前、喧嘩嫌いじゃなかったのか」
「どうでもいい奴らとやるのは嫌いだよ。疲れるし痛いし。でもライに接触できるならむしろ大歓迎でーす」
「接触…」
「キッショ」
「山田は黙っててくれる?」
友人の台詞にドン引きしつつ、恐る恐る、壁際のフィンを見れば…先程の微笑から変化はなかった。恋人にセクハラ発言をされて眉一つ動かさないとは…ここまで感情が読めないと怖くなってくる。
「んじゃ、行くよ~」
「ああ」
二人の声で部屋の中心部に視線を戻す。俺の時と同様ライは動かず、代わりにユウキが少し横に歩いて様子を窺った後、ぐっと踏み込んだ。そして「えいやっ」とふざけた声と共にタオルをライの顔面に投げつける。いつの間にそんなものを、と思ったが、物を使うなというルールはなかったので一応セーフなのだろう。
「!」
タオルを引き剥がそうとする一瞬の隙を狙って、ユウキが容赦なくライの腹を蹴りつけた。
ドガッ!!
「っぐ…!!」
「あらら、流石に重いか」
ユウキが足を下ろしながら「前はこれで吹っ飛んだのに」と笑った。
(あのバカ、好きな人相手に回し蹴り決めてんじゃねえ)
下手したら内臓破裂させるし、普通、好かれたいと思ってる相手は殴れない…いや手加減くらいするだろうに。俺が唖然としていると、ライはタオルを払い落としながらはあと短く息を吐いた。蹴りを想定して腹筋に力を込めていたのかそこまでのダメージはなさそうだ。ライが喧嘩慣れしててよかったとホッと胸をなで下ろす。
「ユウキ、お前…」
「次こそ吹っ飛ばしてマウント取ってあげるよ。前みたいにね」
「!」
くすくすとユウキが笑うと、ライは瞳を鋭くした。
ギロリ
「!!」
黙ったまま睨みつけるその姿はとても既視感があった。
(あの目…!)
雨の中、獲物を探すように細められた鋭い瞳。動画で何度も見た鬼のものとそっくりの、いや…鬼そのものの姿に、俺はゾクリと全身の鳥肌が立つのを感じた。
「あはは、俺、ライに睨まれるのだーいすき」
ゾクゾクしちゃう、とユウキは陶酔しきった顔で囁く。ライはこれ以上付き合ってられないとばかりに首を振って、自分から踏み込んだ。そこからはしばらく均衡状態が続いた。互いに喧嘩慣れしている二人は素人とは思えぬ体捌きで殴る蹴るを繰り返した。親しい者への手加減など一切なく、あれ、この二人ってめちゃくちゃ仲悪かったっけ?と不安になってきた所で、
「うわっ」
おもむろにユウキがバランスを崩した。見れば、ユウキの足元に先程のタオルが落ちていた。あのユウキが床のタオルを見逃すわけはないから、ライが攻撃の合間に忍ばせたのだろう。タオルに足を取られもたつくユウキのシャツを掴むと、ライは顎を引き…思いっきり頭突きを喰らわせた。
ゴッ
痛そうな音が響き、思わず俺まで顔をしかめた。
「ウッ!い、――っだあッ!」
ユウキが鼻を押さえてよろよろと下がる。
「ライ石頭すぎー!鼻血出てるんですけど!」
「タオル使えば?その為に持ってきたんだろ?」
「かちーん」
「ついでに降参していいぜ。その様子じゃマウント取れなさそうだからな」
ライが挑発するように笑った。顔を殴ってはいないので、まだ勝敗は決まってない。ユウキに降参させるか、一発殴ってやる為に、あえてライは選択を残すやり方で腹の蹴りの仕返しをしたのだ。なかなかに好戦的である。
「ははっ!降参とか冗談でしょ!」
ユウキは黒い笑みを浮かべて、口元の血を荒々しく拳で拭った。
「絶対負かして押し倒してやる」
「…お前の頭にはそれしかないのか」
ライは呆れつつ、迫りくる男の手を躱すのだった。
***
それから三十分程体を動かした俺達はわりとくたくたになって休憩を終えた。最後は優勝者決定戦という事でライVS柴沢まで行われた。流石の鬼も、体重もタッパも負ける相手(しかもヤクザ)ではかなりやりにくそうで、時間内には勝敗が決まらず少し悔しそうにしていた。
「あれ?…ユウキはどこへ行った?」
ライが柴沢から渡されたタオルで汗を拭きながらユウキの姿を探す。確かにトレーニングルームにユウキの姿はなかった。俺はチラリとスマホを確認してからライに近づいていく。
「ライさん、腹減ってません?」
「あー少し…小腹がすいたけど…」
「よかった!じゃあ、部屋戻りましょう!ユウキなら勝手に戻ってくると思うし!」
「え、ああ…そうだな」
ライはエレベーターに向かう道中でもキョロキョロとユウキを探していた。柴沢がいるのにユウキがいないのは違和感があるのだろう。その心配する横顔を見て、俺は内心安堵するのだった。
(お見舞いの時は二人共ギクシャクしてたけど…嫌われたわけじゃなさそうだな)
どうせあのバカの事だから余計な事を言ってライを怒らせたのだろう。
(これなら…余計なお節介だったかな)
俺はライと他二人を連れて、家庭教師をやっていたあの部屋の前にまで戻った。そして横にずれる。
「?」
ライが不思議そうな顔で玄関扉に手をかけた。
ガチャ…パパ―ン!!
「家庭教師!第一回目!おつかれさまで~す!!」
クラッカーを手に、ユウキが玄関で出迎える。ちなみに俺も後ろからクラッカーを鳴らしたのでライは前後から食らった事になる。
「え、」
ライは髪に紙吹雪をつけながらキョトンとする。それを見てユウキがくすくすと笑った。
「あはは、一週間延期になっちゃったけど、やっと家庭教師が始まったしお祝いしようと思ってさ!」
「お祝い…?」
「うん!俺達にとっては初めての家庭教師だし、ライにも楽しく家庭教師やってほしいから、親睦会も含めて!ちなみに、今日はもう勉強の時間はありませんので悪しからず~」
「はぁ??お、おい!」
ライ以外の面子には祝いがある事を伝えてるので(もちろんフィンにも)全員驚く事なく部屋に入っていく。廊下からリビングの中まで雑さはあるがお祝いらしく飾り付けられていて、更にライは驚いていた。
「ユウキがいなかったのは…これを準備してたのか…」
「えへへ、怪しまれそうだから飾り付けは俺だけでやったけど、諸々の準備は柴沢と山田がやってくれたよ」
「二人も…わざわざすみません」
ライが頭を下げてきたので、柴沢と俺は「いえいえ」と応えた。
「あ!山田、アレ運ぼう」
「おう」
ユウキと共に冷蔵庫に向かい、朝のうちに準備しておいたケーキを取り出す。ライが待っているテーブルにはすでに菓子やピザなどは置かれていたが、その中心にケーキを置くとますますお祝い感が出た。ライは目を見開いてユウキと俺を交互に見てくる。
「お前達が作ってくれたのか?」
「うん」
「うっす」
作ったといっても、スポンジ生地はスーパーで売ってるのをそのまま使ったし、生クリームは袋に入っているものを買ったし(塗ったのは俺らだけど)、やった事と言えば最後にチョコスプレーをふりかけただけなのだが
「…ありがとな」
ライは今までで一番嬉しそうな顔をした。
「誕生日でも…こんなケーキ貰った事ないから、…嬉しいよ」
どうやらかなり喜んでもらえたようだ。ホッとしてる俺の横でユウキが興奮しきった様子で「その顔可愛すぎるって~!」と抱きつこうとする。
ガシッ
すかさず横から腕が伸びてきてユウキのハグを阻んだ。
「私の前でライに抱きつこうとするとは良い度胸だな」
今までずっと動きを見せなかったフィンが整いすぎた顔でにこりと微笑み、ぐぐぐっと力ずくでユウキを引かせていく。そして、牽制するようにライの横に並んだ。
「部外者が割り込んで申し訳ないが、家庭教師の時間が終わったのならライの横にいさせてもらう」
「ええええ~!!勉強がないだけで十八時までは家庭教師タイムなんですけどぉ!!!」
「では二度と家庭教師以外でライに絡まないと約束しろ。担当時間外への口出しをしたいのなら自分の行動を正せ」
「ぐぬぬぬっ」
「フィン落ち着けって。ユウキも…お祝いは皆でやった方が楽しいだろ」
ライの言葉に、ユウキはぷくっと頬を膨らませた。ライにだけ見せるそのガキっぽい仕草は、俺とやっぱり同じ年なんだなと思い出させられる唯一の瞬間だ。願わくはヤクザを継いでもこんな風に素でいられる相手といてほしいものだが…、ふと視線を感じて横を向けばフィンがこちらを見ていた。目が合うとにこりと完璧な笑みを向けられる。
(???)
「ま、いっか。立ってるのもあれだし、さっさと始めよ。あ、柴沢ジュース運んでくれる?」
「はい」
柴沢がいくつかのジュースを運んでくると、わいわいと皆で菓子やケーキをつまみ始めた。ゲームもある為娯楽には困らない。テレビに繋げたゲーム機で交代で遊びつつ談笑を楽しむ。ふと炭酸を口にしたユウキがイテテとぼやいた。
「大丈夫か?」
「平気平気。口の中の傷に炭酸がしみただけだし~誰かさんの拳が良い感じに入ったからさ~」
「…ごめんって」
少しバツが悪そうにライが謝るのを、ユウキは頬杖をつきながらにんまりと眺めた。
「ふふ、嘘うそ。ライからもらった痛みはご褒美みたいなもんだから、大事にしまーす」
「お前なぁ…」
「ブハッ!けほっけほっ、」
「え、山田汚い」
「うる、せっ、誰のせいだとっケホッ」
ジュースを吹き出した俺を呆れたように見ながらティッシュ箱を寄越してくる。いや「痛みはご褒美」ってドМかよ。しかもフィンも柴沢も、ライですらノーリアクションって逆に恐ろしいんだが。頼むから誰かツッコんでくれ。俺は差し出されたティッシュで軽く机と服を拭いてから立ち上がった。
(キッチンに布巾を取りにいこう…ついでに飲み物も追加するか)
そう思って冷蔵庫に向かうと
「手伝おうか」
意外な人物が声をかけてくる。見ると、淡く微笑むフィンがキッチンの入り口に立っていた。
「えっと、すみません。じゃあ、これとこれお願いします」
ペットボトルを渡せばフィンは快く受け取る。そのまま立ち去るかと思えば、フィンは俺に体を向けたまま手元のペットボトルに視線を落とした。そして、リビングで盛り上がる三人には聞こえない音量で囁く。
「随分気が利くようだな」
「へ」
「山田といったか。あのケーキはあなたの発案だろう?」
「!」
「すまない。褒めてるんだ。狐ヶ崎ならもっと実用的…いや、驚かせるのに特化したものを選ぶだろうからな。ライが喜ぶポイントをよく心得ている…素晴らしい案だ」
フィンはリビングで談笑するライを蕩けるような笑みで見つめた。
“ライが楽しそうにしてるのが本当に嬉しくて仕方ない"
そんな顔をしているが、その表情にどこか危ういものも感じて、漠然とした不安感を抱いた俺は無意識に後ずさっていた。
「良き友人として、これからも狐ヶ崎が道を外さぬよう見てやってくれ」
俺に綺麗すぎる微笑みを向けてから、キッチンを後にする。俺はその背中をジッと見つめた。
(あれがゴールデンレトリバーか…)
まだ二度しか会ってないし、会話したのも今のあれが初めてだったが…なんとなくユウキの言いたい事がわかった気がした。
(重そー…)
俺は一応ユウキを応援しているが、恋人との関係にヒビをいれてまで付き合わせようとは思ってなかった。もし仮にライが恋人と別れる事があって、その時、ユウキが一番心の近い所にいられたらいいな…ぐらいの気持ちだった。だが、あの感じだとまだユウキとの方が幸せになれるように思えて、どんだけだよ…と頭を抱えた。ユウキの言う通り世界には色んな人がいるらしい。
「はあ」
俺はため息を一つ吐いてから、懲りもなくライに悪戯しようとするユウキの姿を捉え、呟く。
「頑張れよ、チワワ」
end
※鈴凪祭りから一週間後の家庭教師初回の話
※ライとユウキ組(ユウキ、柴沢、山田)と時々フィンが出てきます
※“巨乳の美人OL"のライさん(山田+ライ)から読むとわかりやすいけど読まなくても〇
※山田目線
あの日直接ライに会ってからというもの、俺の中ではすっかり“巨乳の美人OL”のイメージは消えて、“頼れるお兄さん"として確立された。…のだが、一か月ほど経過した今、それがどうしてか変わろうとしている。
「二人とも、問題解けたか」
教科書を片手に俺とユウキに勉強を教えてくれるライ。その姿は頼れるお兄さんそのもの。だが、
(これで鬼の顔も持っているんだもんな…)
高校で知らぬ者はいないと言っていい程の有名人。狂った不良達を諌めたヒーロー。それが彼のもう一つの顔だ。最初にその動画を見た時は心臓が止まるかと思った。いまだに信じられない気持ちが半分ほどあるが、前回会った時、つまりライのお見舞いに行った時にユウキと本人が認めていたのでまず間違いないだろう。
(今日、その実力が見れんのかな…)
俺がソワソワしながらライを盗み見ていると
「ん?どうした」
ライが問いかけてくる。
「…すんません、少し、ボーっとしてました」
「はは。まあ、二時間も勉強させられたらキツイよな。一旦休憩するか」
昼食以来の休憩が入り、ユウキと俺はやったーと両手を伸ばした。今日は家庭教師初回なのでライもそこまで厳しくやる気はないようだ。
「今は…えっと、十四時半か。家庭教師の終了時刻って」
「十八時だよ」
「そうだった。なら、飲み物でも用意するよ」
ライが冷蔵庫に向かおうとするのをユウキが慌てて止めた。
「待ってライ。それは後にしてさ、トレーニングルームに行こうよ」
「トレーニングルーム?」
「うん、マンションの共有スペースにジムとかトレーニングルームがついててさ、そこなら広いし、護身術とかの指南もできると思うから…気分転換に体動かしにいこうよ」
「体動かすのはいいが…ジムとトレーニングルーム付きのマンションってどんだけだよ…」
ライの言葉に同意するように俺も頷く。今日初めてここを訪れたがエントランスがオフィスロビーかよってくらい立派でビビったし、窓からの眺めは絶景だし(夜はさぞやロマンチックな雰囲気になるのだろう)、これが週一の家庭教師の為だけに使われるなんて…狐ヶ崎の財力恐るべし。
「えへへ、いつでも隣に移り住んでいいからね。ライのために空けとくからさ」
「…結構です」
相当ジムが魅了的だったのかライは少しだけ動揺するように瞳を揺らし、首を振った。
***
ジムには様々なマシンが置かれ、シャワー室も併設されており、マンション内の施設とは思えないほど充実していた。ライと共に「すげえ…」と呟いてると、その横のトレーニングルームの一室にユウキと柴沢が入っていく。ルームの扉には貸切と書かれていた為元々ここを使う予定だったのだろう。俺とライ、そして今日一度も口を開いていない恋人のフィンと共に中に入ると、四方が鏡張りになったダンス教室などでも使えそうな三十畳ぐらいの室内が広がっていた。ユウキが拳でコツコツと軽く床を叩く。
「防音になってるから遠慮なく暴れていいよ。で、何からやる?」
「まずは柔軟だろ。体が固いと怪我しちまうし」
「え~つまんなーい。そんなのより速攻喧嘩しようよ」
「そんなのとか言うな。体の柔らかさは何に対しても有利に運ぶんだからな。ほら、屈伸十回だ」
「うえ~」
「うっす…」
言われるまま柔軟をした。ただ、俺も内心こんな事が何の役に立つのだろうと疑問に思っていた。
(鬼の姿が見れるかと思ったのに…)
不貞腐れてる俺達を見て、ライは呆れ顔で「仕方ないな…」と漏らした。
「じゃあ、柔軟が終わったら一人ずつ相手してやる。制限時間は五分。相手の顔面を殴るか、背中を床につけさせたら勝ち。これでどうだ」
「わーい、そう言うの待ってましたー!」
「お願いします!!!」
ユウキと俺がはしゃぐのを見てライはやれやれと首を振った。なんで殴り合いでそんなにテンションが上がるのか不思議で仕方ないという顔だ。やっぱり普段の言動通り、ライ自身は喧嘩を嫌う質のようだ。鬼の一面が更に疑わしくなるが、これで真偽が確かめられるのだ。俺は興奮が収まりきらず「どっちからやる?」という問いに勢いよく「はい!!!」と挙手した。俺が自己主張した事が相当意外だったのかユウキもライも目を丸くしている。
「いいよ、やろうか」
ライは苦笑を浮かべ、軽く手首を揺らしながら少し離れた位置に行った。ユウキは扉とは逆側の壁に移動していき、柴沢とフィンは出入口である扉の前で待機する。今更だが恋人のフィンはこの状況をどう受け止めているのだろうと気になった。チラリと確認すれば、彫刻のように美しい姿勢で壁に寄りかかっている姿が見えた。オレンジの瞳は常にライに向けられ、口元には微笑を浮かべている。
(ワ、笑ってる…)
自分以外の男と絡んでいても気にならない…という事だろうか。
(実はあの人恋人じゃなかったり…?)
いやそんなわけはない。お見舞いの時にとんでもないディープキスをかましていたし、いくら外人でもあれは恋人にしかやらない行為だろう。というか大前提としてライを心配しているからこの場にいるんだろうけど…
(よくわかんねえ人だな…)
「山田、いつでもいいぞ」
ライの言葉で我に返る。そうだ。今はよそ見している場合じゃない。視線を戻すと、ライは片足を少し後ろに引いた状態でゆったりと構えていた。敵意もなければむしろお世話になってる相手に殴りかかるなんて気が引けたが、立っているだけでは鬼かどうかは確かめられない。
ぐっ
拳を振りかぶって、顔面を狙いに行く。ライは軽く身を引いて拳を避けた後、前のめりになった俺の手首を掴み…ガラ空きの腹に膝蹴りを入れてきた。
「くッ!う、ゲホゲホッ」
「未知の相手とやる時は少し距離をとった方がいいぞ」
「うっ…は、はい…ケホッ」
助言した後ライは手を離し、また三メートルぐらい離れた。もう一度やっていいという事だろう。前髪すら乱さず凛として立つ姿は普段の穏やかな空気とは違った空気を纏っており、少しだけ鬼の片鱗が見えてきた気がするが…その先は俺に暴けなかった。何度も挑戦しては、その度に軽くあしらわれ、あっという間に五分が過ぎていく。
どさっ!!
「山田、お疲れさん、良い気合だったぞ」
大の字で仰向けで寝てる俺にライが優しく手を差し伸べてくる。さっきまでの鋭い気配は消え、いつもの頼れるお兄さんに戻っていた。
「山田?」
「あ、いえ…ありがとうございました」
「こちらこそ怪我がなくてよかった」
わしゃわしゃと髪をかき混ぜられる。前にもやられた犬相手のような雑な撫で方だが、熱が出てない状態でやると少し気恥ずかしかった。
「はーい、終わったならそろそろ離れてね~~~」
壁から戻ってきたユウキが俺達を引き剥がしていく。
「さあ!待ちに待った俺の番だよ!ライと喧嘩するのは二回目だから楽しみだな~」
「お前、喧嘩嫌いじゃなかったのか」
「どうでもいい奴らとやるのは嫌いだよ。疲れるし痛いし。でもライに接触できるならむしろ大歓迎でーす」
「接触…」
「キッショ」
「山田は黙っててくれる?」
友人の台詞にドン引きしつつ、恐る恐る、壁際のフィンを見れば…先程の微笑から変化はなかった。恋人にセクハラ発言をされて眉一つ動かさないとは…ここまで感情が読めないと怖くなってくる。
「んじゃ、行くよ~」
「ああ」
二人の声で部屋の中心部に視線を戻す。俺の時と同様ライは動かず、代わりにユウキが少し横に歩いて様子を窺った後、ぐっと踏み込んだ。そして「えいやっ」とふざけた声と共にタオルをライの顔面に投げつける。いつの間にそんなものを、と思ったが、物を使うなというルールはなかったので一応セーフなのだろう。
「!」
タオルを引き剥がそうとする一瞬の隙を狙って、ユウキが容赦なくライの腹を蹴りつけた。
ドガッ!!
「っぐ…!!」
「あらら、流石に重いか」
ユウキが足を下ろしながら「前はこれで吹っ飛んだのに」と笑った。
(あのバカ、好きな人相手に回し蹴り決めてんじゃねえ)
下手したら内臓破裂させるし、普通、好かれたいと思ってる相手は殴れない…いや手加減くらいするだろうに。俺が唖然としていると、ライはタオルを払い落としながらはあと短く息を吐いた。蹴りを想定して腹筋に力を込めていたのかそこまでのダメージはなさそうだ。ライが喧嘩慣れしててよかったとホッと胸をなで下ろす。
「ユウキ、お前…」
「次こそ吹っ飛ばしてマウント取ってあげるよ。前みたいにね」
「!」
くすくすとユウキが笑うと、ライは瞳を鋭くした。
ギロリ
「!!」
黙ったまま睨みつけるその姿はとても既視感があった。
(あの目…!)
雨の中、獲物を探すように細められた鋭い瞳。動画で何度も見た鬼のものとそっくりの、いや…鬼そのものの姿に、俺はゾクリと全身の鳥肌が立つのを感じた。
「あはは、俺、ライに睨まれるのだーいすき」
ゾクゾクしちゃう、とユウキは陶酔しきった顔で囁く。ライはこれ以上付き合ってられないとばかりに首を振って、自分から踏み込んだ。そこからはしばらく均衡状態が続いた。互いに喧嘩慣れしている二人は素人とは思えぬ体捌きで殴る蹴るを繰り返した。親しい者への手加減など一切なく、あれ、この二人ってめちゃくちゃ仲悪かったっけ?と不安になってきた所で、
「うわっ」
おもむろにユウキがバランスを崩した。見れば、ユウキの足元に先程のタオルが落ちていた。あのユウキが床のタオルを見逃すわけはないから、ライが攻撃の合間に忍ばせたのだろう。タオルに足を取られもたつくユウキのシャツを掴むと、ライは顎を引き…思いっきり頭突きを喰らわせた。
ゴッ
痛そうな音が響き、思わず俺まで顔をしかめた。
「ウッ!い、――っだあッ!」
ユウキが鼻を押さえてよろよろと下がる。
「ライ石頭すぎー!鼻血出てるんですけど!」
「タオル使えば?その為に持ってきたんだろ?」
「かちーん」
「ついでに降参していいぜ。その様子じゃマウント取れなさそうだからな」
ライが挑発するように笑った。顔を殴ってはいないので、まだ勝敗は決まってない。ユウキに降参させるか、一発殴ってやる為に、あえてライは選択を残すやり方で腹の蹴りの仕返しをしたのだ。なかなかに好戦的である。
「ははっ!降参とか冗談でしょ!」
ユウキは黒い笑みを浮かべて、口元の血を荒々しく拳で拭った。
「絶対負かして押し倒してやる」
「…お前の頭にはそれしかないのか」
ライは呆れつつ、迫りくる男の手を躱すのだった。
***
それから三十分程体を動かした俺達はわりとくたくたになって休憩を終えた。最後は優勝者決定戦という事でライVS柴沢まで行われた。流石の鬼も、体重もタッパも負ける相手(しかもヤクザ)ではかなりやりにくそうで、時間内には勝敗が決まらず少し悔しそうにしていた。
「あれ?…ユウキはどこへ行った?」
ライが柴沢から渡されたタオルで汗を拭きながらユウキの姿を探す。確かにトレーニングルームにユウキの姿はなかった。俺はチラリとスマホを確認してからライに近づいていく。
「ライさん、腹減ってません?」
「あー少し…小腹がすいたけど…」
「よかった!じゃあ、部屋戻りましょう!ユウキなら勝手に戻ってくると思うし!」
「え、ああ…そうだな」
ライはエレベーターに向かう道中でもキョロキョロとユウキを探していた。柴沢がいるのにユウキがいないのは違和感があるのだろう。その心配する横顔を見て、俺は内心安堵するのだった。
(お見舞いの時は二人共ギクシャクしてたけど…嫌われたわけじゃなさそうだな)
どうせあのバカの事だから余計な事を言ってライを怒らせたのだろう。
(これなら…余計なお節介だったかな)
俺はライと他二人を連れて、家庭教師をやっていたあの部屋の前にまで戻った。そして横にずれる。
「?」
ライが不思議そうな顔で玄関扉に手をかけた。
ガチャ…パパ―ン!!
「家庭教師!第一回目!おつかれさまで~す!!」
クラッカーを手に、ユウキが玄関で出迎える。ちなみに俺も後ろからクラッカーを鳴らしたのでライは前後から食らった事になる。
「え、」
ライは髪に紙吹雪をつけながらキョトンとする。それを見てユウキがくすくすと笑った。
「あはは、一週間延期になっちゃったけど、やっと家庭教師が始まったしお祝いしようと思ってさ!」
「お祝い…?」
「うん!俺達にとっては初めての家庭教師だし、ライにも楽しく家庭教師やってほしいから、親睦会も含めて!ちなみに、今日はもう勉強の時間はありませんので悪しからず~」
「はぁ??お、おい!」
ライ以外の面子には祝いがある事を伝えてるので(もちろんフィンにも)全員驚く事なく部屋に入っていく。廊下からリビングの中まで雑さはあるがお祝いらしく飾り付けられていて、更にライは驚いていた。
「ユウキがいなかったのは…これを準備してたのか…」
「えへへ、怪しまれそうだから飾り付けは俺だけでやったけど、諸々の準備は柴沢と山田がやってくれたよ」
「二人も…わざわざすみません」
ライが頭を下げてきたので、柴沢と俺は「いえいえ」と応えた。
「あ!山田、アレ運ぼう」
「おう」
ユウキと共に冷蔵庫に向かい、朝のうちに準備しておいたケーキを取り出す。ライが待っているテーブルにはすでに菓子やピザなどは置かれていたが、その中心にケーキを置くとますますお祝い感が出た。ライは目を見開いてユウキと俺を交互に見てくる。
「お前達が作ってくれたのか?」
「うん」
「うっす」
作ったといっても、スポンジ生地はスーパーで売ってるのをそのまま使ったし、生クリームは袋に入っているものを買ったし(塗ったのは俺らだけど)、やった事と言えば最後にチョコスプレーをふりかけただけなのだが
「…ありがとな」
ライは今までで一番嬉しそうな顔をした。
「誕生日でも…こんなケーキ貰った事ないから、…嬉しいよ」
どうやらかなり喜んでもらえたようだ。ホッとしてる俺の横でユウキが興奮しきった様子で「その顔可愛すぎるって~!」と抱きつこうとする。
ガシッ
すかさず横から腕が伸びてきてユウキのハグを阻んだ。
「私の前でライに抱きつこうとするとは良い度胸だな」
今までずっと動きを見せなかったフィンが整いすぎた顔でにこりと微笑み、ぐぐぐっと力ずくでユウキを引かせていく。そして、牽制するようにライの横に並んだ。
「部外者が割り込んで申し訳ないが、家庭教師の時間が終わったのならライの横にいさせてもらう」
「ええええ~!!勉強がないだけで十八時までは家庭教師タイムなんですけどぉ!!!」
「では二度と家庭教師以外でライに絡まないと約束しろ。担当時間外への口出しをしたいのなら自分の行動を正せ」
「ぐぬぬぬっ」
「フィン落ち着けって。ユウキも…お祝いは皆でやった方が楽しいだろ」
ライの言葉に、ユウキはぷくっと頬を膨らませた。ライにだけ見せるそのガキっぽい仕草は、俺とやっぱり同じ年なんだなと思い出させられる唯一の瞬間だ。願わくはヤクザを継いでもこんな風に素でいられる相手といてほしいものだが…、ふと視線を感じて横を向けばフィンがこちらを見ていた。目が合うとにこりと完璧な笑みを向けられる。
(???)
「ま、いっか。立ってるのもあれだし、さっさと始めよ。あ、柴沢ジュース運んでくれる?」
「はい」
柴沢がいくつかのジュースを運んでくると、わいわいと皆で菓子やケーキをつまみ始めた。ゲームもある為娯楽には困らない。テレビに繋げたゲーム機で交代で遊びつつ談笑を楽しむ。ふと炭酸を口にしたユウキがイテテとぼやいた。
「大丈夫か?」
「平気平気。口の中の傷に炭酸がしみただけだし~誰かさんの拳が良い感じに入ったからさ~」
「…ごめんって」
少しバツが悪そうにライが謝るのを、ユウキは頬杖をつきながらにんまりと眺めた。
「ふふ、嘘うそ。ライからもらった痛みはご褒美みたいなもんだから、大事にしまーす」
「お前なぁ…」
「ブハッ!けほっけほっ、」
「え、山田汚い」
「うる、せっ、誰のせいだとっケホッ」
ジュースを吹き出した俺を呆れたように見ながらティッシュ箱を寄越してくる。いや「痛みはご褒美」ってドМかよ。しかもフィンも柴沢も、ライですらノーリアクションって逆に恐ろしいんだが。頼むから誰かツッコんでくれ。俺は差し出されたティッシュで軽く机と服を拭いてから立ち上がった。
(キッチンに布巾を取りにいこう…ついでに飲み物も追加するか)
そう思って冷蔵庫に向かうと
「手伝おうか」
意外な人物が声をかけてくる。見ると、淡く微笑むフィンがキッチンの入り口に立っていた。
「えっと、すみません。じゃあ、これとこれお願いします」
ペットボトルを渡せばフィンは快く受け取る。そのまま立ち去るかと思えば、フィンは俺に体を向けたまま手元のペットボトルに視線を落とした。そして、リビングで盛り上がる三人には聞こえない音量で囁く。
「随分気が利くようだな」
「へ」
「山田といったか。あのケーキはあなたの発案だろう?」
「!」
「すまない。褒めてるんだ。狐ヶ崎ならもっと実用的…いや、驚かせるのに特化したものを選ぶだろうからな。ライが喜ぶポイントをよく心得ている…素晴らしい案だ」
フィンはリビングで談笑するライを蕩けるような笑みで見つめた。
“ライが楽しそうにしてるのが本当に嬉しくて仕方ない"
そんな顔をしているが、その表情にどこか危ういものも感じて、漠然とした不安感を抱いた俺は無意識に後ずさっていた。
「良き友人として、これからも狐ヶ崎が道を外さぬよう見てやってくれ」
俺に綺麗すぎる微笑みを向けてから、キッチンを後にする。俺はその背中をジッと見つめた。
(あれがゴールデンレトリバーか…)
まだ二度しか会ってないし、会話したのも今のあれが初めてだったが…なんとなくユウキの言いたい事がわかった気がした。
(重そー…)
俺は一応ユウキを応援しているが、恋人との関係にヒビをいれてまで付き合わせようとは思ってなかった。もし仮にライが恋人と別れる事があって、その時、ユウキが一番心の近い所にいられたらいいな…ぐらいの気持ちだった。だが、あの感じだとまだユウキとの方が幸せになれるように思えて、どんだけだよ…と頭を抱えた。ユウキの言う通り世界には色んな人がいるらしい。
「はあ」
俺はため息を一つ吐いてから、懲りもなくライに悪戯しようとするユウキの姿を捉え、呟く。
「頑張れよ、チワワ」
end
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