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Ifシリーズ
義理のお兄ちゃん(おまけ)
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おまけ
①「悪ガキ三人+エスのその後の話」
②「クソ上司の話」
③「翌日のザクルトの話」
***
「はあ~モヤモヤする~」
「にゃは、それを言うならムラムラでしょ」
「ムラムラとモヤモヤどっちもなんだよ!なのに横にいるのはお前だし…あーもう、だっるう…」
「言っとくけどそれはこっちの台詞でもあるからにゃー」
公園に似つかわしくない二人のイケメンが言い合っている。俺はそれをなんとなく見つめてから首根っこを掴んでいた青年の方を見た。青年はまるで親の仇だとでも言うように鋭く睨みつけてくる。
「そんなに睨むなよ。歩きながら説明してやったろ?」
「…」
「ルトと義兄を見てわかったはずだ。あの二人は互いに気を遣いすぎて距離を縮められずにいたんだよ。本当は近寄りたかった二人の背中を俺らが押してやった。ただそれだけだ。他意はない」
「…だとしても、やり方があっただろう」
ルトを泣かしたのは許せない、と唸られた。その瞳に映る熱はどう見ても友情の域を超えたものを感じた。
(やれやれ…)
義兄を見たら諦めがつくかと思ったが、思ってるより諦めが悪いらしい。俺と同じくらい腹に抱えるタイプなのだろう。自分を見るようで哀れにも思えたがこれ以上踏み込む義理はない。
「ルトは演技できないタイプだから前もって伝えられないし何よりそんな時間はなかった。加えて、義兄もかなり手強そうな人だったからな。ある程度の強い揺さぶりが必要だと判断した」
「…揺さぶりだと?…あれは集団レイプだ」
「なかなか良い指摘だが、“クラスメイト"のお前がそこまで噛みつく必要はないだろ?落ち着けって」
「…」
「どうしても気にくわないなら俺を殴ればいい。だが、義兄の時みたいに大人しく殴られるつもりはないからな」
ルトと義兄に殴られるなら文句はないがエスは別だ。お前だって甘い汁を吸ったじゃないか、と視線で詰ればエスは奥歯を噛みしめ睨み付けてくる。
「…っ」
「なになに~?喧嘩~?」
「にゃはは、この際だしそっちでスッキリさせちゃう~?」
シータとアイザックも言い合いを止めて近寄ってくる。エスはそれを見ても怒りを収めなかったが、拳は握り締めたままで振り上げようとはしなかった。…冷静で何よりだ。ここで殴り合いになっても誰も満たされない。
プップー
クラクションが鳴った。見れば公園の横に車が停められていた。先ほど俺達を“送迎"してくれたクリス先生の車だ。気付いたアイザックが我先にと駆け寄っていく。
「あ!クリス来た!んじゃ、当て馬同盟の皆~また明日にゃ~」
「うわー!ずるい!お前だけイチ抜けして激重恋人とスッキリする気だろ!」
「にゃはは、恋人とセックスして何か問題でも~??」
「うるさーい!!誰かに見つかって捕まれ!!!」
負け惜しみのようにシータが噛みつき、アイザックはくすくすと笑って車に乗り込んだ。
「さて、俺らも帰るとするか。エスももういいな?」
「……良くはない」
「なんだよ。まだ俺らに文句があるのか」
「違う…」
「…ん?ああなるほど」
エスはルト達の家の方を見て、顔をしかめている。ルトが義兄に酷い事をされてないか不安なのだろう。俺を容赦なく殴っていたのを目の当たりにしているし当然と言えば当然の反応だ。
「俺の勘だが、ああいうタイプは恋人には手を出さない。守る対象に入ってる相手は特に大事に扱うはずだ」
「…義弟はそれに含まれるのか」
「まあ、それは人によるだろうが」
ルトを抱き上げた時の目を見て確信した。あれは家族を見る目じゃない。確かな欲情を孕んだ目だった。
「…とにかく、何かあればお前に電話がいくだろうから、その時は助けに行ってやれ」
「…」
納得がいってないという顔ではあるが状況は理解できたらしい。エスはそれ以上は何も言わず俺達に背を向けた。とぼとぼと公園を後にするのを見届けたところでシータのぼやきが聞こえてくる。
「お前のそういう所、嫌い」
「え?」
「そうやって一番損する役を買って、自ら嫌われ役になって…、明日になったら普通に笑ってんだろ。…キモ過ぎ」
「はは、シータはたまに痛い所を突いてくるな。そもそも今回のはお前の案だろ?」
「僕はルトくんイジメよ♥って言っただけでお前がどう締めるかは言ってない。もっとうまく立ち回るやり方をわかってる癖に全体図ばかりみて…本当に気持ち悪いよ」
「俺の事をよくみてるんだな…」
「キモい事言うな。腐れ縁で視界に入っちゃうだけだから。てか、アイも気付いてると思うからね、その悪癖」
「そうか、俺は良い友人を持ったなあ」
「チッ」
埒が明かないというように舌打ちされる。それからほぼ同時に俺達はため息を吐いた。この二人で公園にいても虚しいだけだ。さっさと帰ろう。
「バン、どこに行くのさ」
「ん?いや、普通に…帰るだけだが?」
「ここで帰ったら本当にただ損しただけじゃん」
「まあ、そうなるな」
「無理。我慢できない。今からナンパか…夜遊びしに行こ」
「いやいや…学生だしお前といってどうすんだよ」
シータと俺じゃ恋愛対象というか性欲が向く対象が微妙にずれている。
(今回はたまたまかぶったが…)
一緒に行動した所で互いに不利益を被るだけだ。
「いーから、行くの!僕が満足できる相手が見つかるまで付き合って」
「はあ…?ったく…」
あまりにも自分勝手な言い分に呆れてしまうが、それと同時に、胸を占める何とも言えぬ孤独が薄まった気もした。
性に奔放で愉快な友人がいるのもたまには悪くない。
***
ブツッ
「あーあ、切られちゃった」
社長室で退屈そうにしていた男がため息と共に社用携帯を机に置いた。横に従えていた秘書の女性が顔色を変えず尋ねてくる。
「無断欠勤として処罰を与えますか?」
「いや、いい。半休申請を通してやって」
「…いいんですか」
意外だ、というように秘書が目を見開く。社長椅子に腰掛けた男は上機嫌なまま机に置かれたファイルを手に取った。
「いいよ。彼、仕事はできるけどちょっと女遊びが酷くてその分クレームも出しやすかったから。これを機に落ち着いてくれると会社としても助かる」
「…まあ、確かに」
あの見た目と性格ですから。客でも仕事相手でも好みであれば手を出す。厄介なのは相手を必ずその気にさせてしまう事だ。いっそホストになった方がいいのでは?と秘書は眉をひそめた。
「レインさまあ~~やっべえすう!!」
社長室を叩き割るようにしてスーツの男が入ってくる。男は部屋に入ってきた瞬間滑り込むようにして社長椅子の前で土下座した。
「すんません!!!ザク先輩の代理で行ったら…なんかキレられちゃいましたあ~~~!!」
「…やっぱだめか。とりあえずインク、お前は後でお仕置きするとして…サキ」
横に従えていた秘書が「レインさま」と呼ばれた男の方を見る。
「今すぐジャックに連絡して向かわせろ」
「彼は今休暇中ですが」
「この前粗相した事を引き合いに出せばNOとは言えないはずだ。何か文句を言ったら俺の命令だと伝えろ」
「わかりました」
そういって秘書が廊下に消えた。残されたインクは土下座したままひやひやと「レインさま」を見上げる。大きな失敗をしたというのに「レインさま」はどこかご機嫌に見えた。
「レインさま…、何か、良い事、ありました?」
「たった今悪い知らせを持ってきた身で、よく聞けるね」
「ひいいすみませんんん!!」
頭を下げてお仕置きを待つ。だが、やはりいくら待っても鞭も蹴りも降ってこなかった。やっぱりおかしい。絶対何かある。恐る恐る視線だけで確認すると、「レインさま」はファイルの中身を眺めてにこにこと微笑んでいた。
「女に困ってない彼が虜になる子かあ…気になるなあ…」
「…ザク先輩の事っすか…?」
「うん、義理の弟ができたらしいんだけど。その子の事やけに気にしててさ…、ふふ、会議中の彼を見せてやりたかったな。アイツ、ちらっとスマホを見たと思えば顔を真っ青にして「義弟が!!」っていって飛び出したんだから。あっはは。あんな取り乱した顔初めて見たよ、最高…ははっ」
腹を抱えて「レインさま」は笑った。ザクが動揺する姿が見れて大層愉快らしい。あの不敵な笑みを絶やさない男が取り乱すなんて想像できないな、と驚いていると
「そうだ。今度弟くんを会社に呼んで接待してあげようか。皆で可愛がってあげたら喜ぶかもしれない」
「いやいや…泣きますよ、絶対。そもそも何歳なんすか、その弟は」
「16歳。高校生」
「完全アウトじゃねえーすか…」
うちの社員は皆見た目は良いが、その反動のようにヤバイ奴が多い。えげつない性癖と下半身の緩さを持ってるのが共通要項としてある。別にそれを「レインさま」が強いたわけでもないのに。そういうのばかり集まってくるのだから不思議だ。
(ってか、高校生ってことは…先輩が襲うのもアウトじゃないっすか…)
あの唯我独尊の「ザク先輩」なら仕方ないがとうとうそっちにも手を出し始めたのかと呆れた。あの人は欲しいと思ったら必ず手に入れる男だ。
「禁断って、気持ちいいもんねえ…」
しみじみと「レインさま」が溢した。なんだかんだ一番楽しんでるのはこの人なのだろう。会社のヤバい奴らをまとめているトップが一番ヤバいなんて、取引先の人達は誰も思わない。こんな穏やかな優男が実はとてつもないドSで、しかも一度執着したら狂い殺すまで手放さないなんて…。
(廃人にされた奴隷達が何人もいるって噂で聞いた…)
ぶるるっ
土下座しながら身震いする。義弟だかなんだか知らないが「レインさま」が興味を持ってしまった事に同情する。
(可哀想になあ…)
社員の奴らも大概だろうし、そんな奴らに囲まれたら義弟くんも無事ではすまされないだろう。そしてザク自身もそれをみて怒り狂うはずだ。うん、修羅場すぎる。俺はその日は休んでおこうと…心に決めるインク。
「彼がどんな顔をするのか、楽しみだなあ」
「いや、レインさま…ダメですよぉ…」
「新しい玩具でも買っとこう」
「聞いてますう??…イダァイ!!」
「誰が起きていいって言った。土下座してろ」
「はいい!!!すんません!」
鞭で打たれてすぐに体を戻した。うん、もうだめだ。どうやら完全に「レインさま」はやる気らしい。
可哀想に、義弟くん。
そしてザク先輩。
かなりの修羅場を覚悟しつつ、とりあえず手を合わせるインクなのであった。
***
「へっきし!」
「おい、大丈夫か。風邪ひいたか?」
「へいき」
朝ご飯を食べていると、おもむろにくしゃみが出た。前に座っていた義兄が心配そうに見てくる。一足先に食べ終えた義兄は頬杖を突いて俺が食べる姿を眺めていた。何が楽しいのかはわからないが、俺としても義兄と一緒に過ごせるのは嬉しいので文句はない。鼻をかんでから食事に戻った。
「学校はどうする。休むか?」
「…」
「アイツらも同じ高校なんだろ。また襲われるかもしれねえし、落ち着くまで休んでおいた方がいいんじゃねえの」
「バンはそんな事…しないと思うけど、」
「いーや、アイツは下心ありありのスケベ男子だった」
「スケベ男子…」
バンの事をそんな風に言われても困るというかなんというか。一瞬バンとのキスを思い出してしまい首を振った。
(あんまり深く考えちゃダメだ)
バンは俺と義兄が仲良くできるようにやってくれただけで他意はないはずなんだから。義兄にはバンの人柄もわからないだろうしあの場面だけでは説明のしようもない。説得するのは諦めて、頷くだけにしておく。
「そうか。じゃあ今日は寝とけ、体怠いだろ」
「…でも、行く」
「あ?」
授業はそんなに好きじゃないけど、父が用意してくれた機会は無駄にしたくない。ちゃんと勉強して…返さなくてはいけない。こうして何不自由なく生きていられている事に、そして、義兄と出会わせてくれた事に…ちゃんと報いたい。
「行くったら行く」
「…あーそうかよ。お前が気にしねえならいいけどよお。何かあればすぐ連絡しろよ」
「…うん」
朝起きてすぐスマホを確認すると義兄の連絡先が入っていた。「よろしくな」と挨拶するスタンプだけ張られていたその画面を思いだしくすりと笑う。
「何笑ってんだ?」
「なんでもない。ねえ、ザクは会社はいいの?」
「ん?ああ、今日は昼前の会議に間に合わせればいいだけだ」
余裕だぜ、とコーヒーを傾けながら笑う。
「早朝に出勤しろってルールはないの?」
「ないない。クソみたいなノルマはあるがなあ~」
「…なんだ、じゃあ本当にこの一週間は俺を避ける為に朝早くに出てたんだ」
「う…おう…なんだ、まだ怒ってんのか」
「別に、怒ってはないけど」
立ち上がり皿を回収して流しに持っていこうとすると「俺様がやる」と横から奪われた。朝目が覚めてからずっと俺の体を気遣って優しくしてくれるのだが、ここまでされると逆に申し訳なくなる。昨日はくたくたで泥のように眠ったが、起きたら案外平気だった。義兄のやり方がうまかったのか若さゆえか。
(どちらにせよこんな扱いは俺達には不釣り合いだ)
俺達は一応…義兄弟であり、恋人ではない。
「あ、おい、ルト!どこ行くんだよ!」
「制服着てくる。そろそろ出ないと遅刻しちゃうから」
皿を洗っていた義兄が追いかけてくる気配がしたが自分の部屋に逃げ込んで
「…ふう」
一呼吸置く。それからハンガーにかけられていた学ランに腕を通して身支度を整えていく。鞄を持ち再び廊下に出ると、
「…」
義兄が腕を組んで待っていた。不貞腐れているが俺の姿を見た瞬間ふっと瞳を柔らかくするのを確認して、内心微笑んだ。歪な形の兄弟だが、義兄が自分で感情を揺らす姿がみれるのは悪くない。というか嬉しい。これが世間的に言う「恋愛感情」なのかは今の俺にはわからないが。
「準備できたか?送ってやるよ」
「ありがと」
玄関で並んで靴を履く。新鮮だった。父親ともこんな風に家を出た事はない。かなり記憶を遡れば一度や二度はあったかもしれないが、ほとんど記憶にない。だからこそ胸が熱くなった。
(これが家族と過ごす朝なんだ…)
じんわりと感動していると、玄関の外を出てすぐに手を握られぎょっとする。
「?!…ちょっと、こんな所で…」
「兄弟ならセーフだろ」
「ええ…都合のいい時だけ兄弟設定利用するんだから…」
「利用できるものは利用する。当然だろうが」
「じゃあ…あっちの兄弟とも手を繋いで歩くわけ?」
「無理に決まってんだろ、吐くわ」
つまり兄弟で手は繋ぎたくない、と。だけど設定だけ利用する、と。昨日今日でわかったことだが、義兄はなかなかの俺様だと思う。そんなところも…嫌いではないが。
「それよりもだ、ルト」
「ん?」
「今日、仕事終わったら…俺様の家に連れてってやるよ」
「!」
まさかの言葉に足が止まる。義兄は特に構えた風でもなく気軽に誘っているようだった。ニヤリと笑ってウィンクしてくる。
「無駄に眺めのいいタワマンで贅沢させてやる。あ、時間があえば帰社するついでに車で拾ってやるぜ。授業終わったら連絡しろよ」
「え…ザクが車で迎えに…?」
めちゃくちゃ目立たないか、それ。
「目立ってもいいだろ、兄弟なんだし」
「…また言ってるし…」
「それによく聞け!うちの一番のアピールポイントはズバリ、しっかり防音されててやり放題な事だ!全館空調で廊下をまっぱで歩いても寒くねえしいつどこでくたばっても俺様が世話してやれるぜ。密室だから世間体を気にする必要もねえしな。どうよ、行きたくなっただろ!?」
「やり放題って…あんたの頭ってそれしかないの…?」
「けけ、当たり前だろうが。性欲を煽る対象が横にいるんだぜ?盛らねえ方がおかしいわ」
「…うう(照)」
「つーか生意気言うようになったなあ。まあ、そっちの方が可愛くなくて可愛いけどな」
「…どっちだよ」
むくれつつも、でも、その手は離さずに二人でのんびり歩いた。しばらくそうして他愛のない会話をしていると前方によく知る人物が立っている事に気付く。ハッと我に返って義兄の手を離した。
「エスだ」
共通の通学路である交差点でエスが待っていた。下校はよく一緒になるけど朝はほとんど会うことがないエス。
(エス、朝が弱いはずなのに…、待っててくれたのかな…?)
エスはじっと俺の方を見ている。昨日あんな事があったし心配してるのかもしれない。俺は昨日散々義兄と話し合って(肉体も嫌と言うほど交流して)理解しあえたが、エスはバンにつれられて以来何も知らされてないのだ。
(早く説明してやらないと…)
そう思ってると横にたっていた義兄が唸るように言った。
「チッ、エス…、確かクラスメイトだったか…。まあ、アイツならルトに噛みつく勇気はなさそうだし、逆に近くで見張っててもらえるならありがてえぐらいか…」
義兄はブツブツと独り言のようにぼやいたと思えば、俺の背中を叩いてくる。
「よし、俺様は邪魔しねえようにここで見送るわ」
「…」
意外だった。俺様の義兄の事だから、開口一番エスに脅しの一つや二つ吹っ掛けるかと思っていたが…案外冷静らしい。
「俺様だってルトの青春を邪魔するつもりはねえしな。ちゃんとそこは弁えてる」
「…そ、っか。ありがとう…」
「けけ。もちろん、恋愛と揉め事は割って入らせてもらうがな」
恋愛と揉め事。もうそんなに揉めるとは思えなかったが(今回だって義兄と仲良くなりたくて一悶着あったわけだし)なるべく普通の学生らしく静かに暮らそうと心に決めた。
(こんなイケメンが現れたら毎回騒ぎが大きくなっちゃうし…)
一人でうんうんと頷いていると、義兄が仁王立ちで見下ろしてくる。
「いいか、ルト!約束忘れんじゃねえぞ!ちゃんとクソガキ共にさらわれずに帰って来い。返信なかったら学校乗り込むからな、いいな!」
「…乗り込まれるのは困るけど…うん、ちゃんと帰るよ」
「よろしい。じゃあ行け」
背中を押され数歩歩いた後、俺は立ち止まった。
「…」
ずっと言ってみたかった言葉が喉元まで上がってきていた。
「おいルト、どーした?」
義兄が不思議そうにしてるので、俺は一呼吸の後、決心して振り返る。大きめの声で言った。
「…い、…いってきます!!」
「ああ、いってこい。また後でな」
「…うん」
“また後で"
そう願える家族がいるなんて嘘みたいだ。
(嬉しい…)
何度も振り返り、その姿を確かめながらエスの元に走る。義兄は苦笑しながら「さっさと行け」と手で追い払う仕草をする。でもそんな態度をとっていても義兄は、俺がエスと角を曲がるまでずっと優しく見守ってくれていた。
end
①「悪ガキ三人+エスのその後の話」
②「クソ上司の話」
③「翌日のザクルトの話」
***
「はあ~モヤモヤする~」
「にゃは、それを言うならムラムラでしょ」
「ムラムラとモヤモヤどっちもなんだよ!なのに横にいるのはお前だし…あーもう、だっるう…」
「言っとくけどそれはこっちの台詞でもあるからにゃー」
公園に似つかわしくない二人のイケメンが言い合っている。俺はそれをなんとなく見つめてから首根っこを掴んでいた青年の方を見た。青年はまるで親の仇だとでも言うように鋭く睨みつけてくる。
「そんなに睨むなよ。歩きながら説明してやったろ?」
「…」
「ルトと義兄を見てわかったはずだ。あの二人は互いに気を遣いすぎて距離を縮められずにいたんだよ。本当は近寄りたかった二人の背中を俺らが押してやった。ただそれだけだ。他意はない」
「…だとしても、やり方があっただろう」
ルトを泣かしたのは許せない、と唸られた。その瞳に映る熱はどう見ても友情の域を超えたものを感じた。
(やれやれ…)
義兄を見たら諦めがつくかと思ったが、思ってるより諦めが悪いらしい。俺と同じくらい腹に抱えるタイプなのだろう。自分を見るようで哀れにも思えたがこれ以上踏み込む義理はない。
「ルトは演技できないタイプだから前もって伝えられないし何よりそんな時間はなかった。加えて、義兄もかなり手強そうな人だったからな。ある程度の強い揺さぶりが必要だと判断した」
「…揺さぶりだと?…あれは集団レイプだ」
「なかなか良い指摘だが、“クラスメイト"のお前がそこまで噛みつく必要はないだろ?落ち着けって」
「…」
「どうしても気にくわないなら俺を殴ればいい。だが、義兄の時みたいに大人しく殴られるつもりはないからな」
ルトと義兄に殴られるなら文句はないがエスは別だ。お前だって甘い汁を吸ったじゃないか、と視線で詰ればエスは奥歯を噛みしめ睨み付けてくる。
「…っ」
「なになに~?喧嘩~?」
「にゃはは、この際だしそっちでスッキリさせちゃう~?」
シータとアイザックも言い合いを止めて近寄ってくる。エスはそれを見ても怒りを収めなかったが、拳は握り締めたままで振り上げようとはしなかった。…冷静で何よりだ。ここで殴り合いになっても誰も満たされない。
プップー
クラクションが鳴った。見れば公園の横に車が停められていた。先ほど俺達を“送迎"してくれたクリス先生の車だ。気付いたアイザックが我先にと駆け寄っていく。
「あ!クリス来た!んじゃ、当て馬同盟の皆~また明日にゃ~」
「うわー!ずるい!お前だけイチ抜けして激重恋人とスッキリする気だろ!」
「にゃはは、恋人とセックスして何か問題でも~??」
「うるさーい!!誰かに見つかって捕まれ!!!」
負け惜しみのようにシータが噛みつき、アイザックはくすくすと笑って車に乗り込んだ。
「さて、俺らも帰るとするか。エスももういいな?」
「……良くはない」
「なんだよ。まだ俺らに文句があるのか」
「違う…」
「…ん?ああなるほど」
エスはルト達の家の方を見て、顔をしかめている。ルトが義兄に酷い事をされてないか不安なのだろう。俺を容赦なく殴っていたのを目の当たりにしているし当然と言えば当然の反応だ。
「俺の勘だが、ああいうタイプは恋人には手を出さない。守る対象に入ってる相手は特に大事に扱うはずだ」
「…義弟はそれに含まれるのか」
「まあ、それは人によるだろうが」
ルトを抱き上げた時の目を見て確信した。あれは家族を見る目じゃない。確かな欲情を孕んだ目だった。
「…とにかく、何かあればお前に電話がいくだろうから、その時は助けに行ってやれ」
「…」
納得がいってないという顔ではあるが状況は理解できたらしい。エスはそれ以上は何も言わず俺達に背を向けた。とぼとぼと公園を後にするのを見届けたところでシータのぼやきが聞こえてくる。
「お前のそういう所、嫌い」
「え?」
「そうやって一番損する役を買って、自ら嫌われ役になって…、明日になったら普通に笑ってんだろ。…キモ過ぎ」
「はは、シータはたまに痛い所を突いてくるな。そもそも今回のはお前の案だろ?」
「僕はルトくんイジメよ♥って言っただけでお前がどう締めるかは言ってない。もっとうまく立ち回るやり方をわかってる癖に全体図ばかりみて…本当に気持ち悪いよ」
「俺の事をよくみてるんだな…」
「キモい事言うな。腐れ縁で視界に入っちゃうだけだから。てか、アイも気付いてると思うからね、その悪癖」
「そうか、俺は良い友人を持ったなあ」
「チッ」
埒が明かないというように舌打ちされる。それからほぼ同時に俺達はため息を吐いた。この二人で公園にいても虚しいだけだ。さっさと帰ろう。
「バン、どこに行くのさ」
「ん?いや、普通に…帰るだけだが?」
「ここで帰ったら本当にただ損しただけじゃん」
「まあ、そうなるな」
「無理。我慢できない。今からナンパか…夜遊びしに行こ」
「いやいや…学生だしお前といってどうすんだよ」
シータと俺じゃ恋愛対象というか性欲が向く対象が微妙にずれている。
(今回はたまたまかぶったが…)
一緒に行動した所で互いに不利益を被るだけだ。
「いーから、行くの!僕が満足できる相手が見つかるまで付き合って」
「はあ…?ったく…」
あまりにも自分勝手な言い分に呆れてしまうが、それと同時に、胸を占める何とも言えぬ孤独が薄まった気もした。
性に奔放で愉快な友人がいるのもたまには悪くない。
***
ブツッ
「あーあ、切られちゃった」
社長室で退屈そうにしていた男がため息と共に社用携帯を机に置いた。横に従えていた秘書の女性が顔色を変えず尋ねてくる。
「無断欠勤として処罰を与えますか?」
「いや、いい。半休申請を通してやって」
「…いいんですか」
意外だ、というように秘書が目を見開く。社長椅子に腰掛けた男は上機嫌なまま机に置かれたファイルを手に取った。
「いいよ。彼、仕事はできるけどちょっと女遊びが酷くてその分クレームも出しやすかったから。これを機に落ち着いてくれると会社としても助かる」
「…まあ、確かに」
あの見た目と性格ですから。客でも仕事相手でも好みであれば手を出す。厄介なのは相手を必ずその気にさせてしまう事だ。いっそホストになった方がいいのでは?と秘書は眉をひそめた。
「レインさまあ~~やっべえすう!!」
社長室を叩き割るようにしてスーツの男が入ってくる。男は部屋に入ってきた瞬間滑り込むようにして社長椅子の前で土下座した。
「すんません!!!ザク先輩の代理で行ったら…なんかキレられちゃいましたあ~~~!!」
「…やっぱだめか。とりあえずインク、お前は後でお仕置きするとして…サキ」
横に従えていた秘書が「レインさま」と呼ばれた男の方を見る。
「今すぐジャックに連絡して向かわせろ」
「彼は今休暇中ですが」
「この前粗相した事を引き合いに出せばNOとは言えないはずだ。何か文句を言ったら俺の命令だと伝えろ」
「わかりました」
そういって秘書が廊下に消えた。残されたインクは土下座したままひやひやと「レインさま」を見上げる。大きな失敗をしたというのに「レインさま」はどこかご機嫌に見えた。
「レインさま…、何か、良い事、ありました?」
「たった今悪い知らせを持ってきた身で、よく聞けるね」
「ひいいすみませんんん!!」
頭を下げてお仕置きを待つ。だが、やはりいくら待っても鞭も蹴りも降ってこなかった。やっぱりおかしい。絶対何かある。恐る恐る視線だけで確認すると、「レインさま」はファイルの中身を眺めてにこにこと微笑んでいた。
「女に困ってない彼が虜になる子かあ…気になるなあ…」
「…ザク先輩の事っすか…?」
「うん、義理の弟ができたらしいんだけど。その子の事やけに気にしててさ…、ふふ、会議中の彼を見せてやりたかったな。アイツ、ちらっとスマホを見たと思えば顔を真っ青にして「義弟が!!」っていって飛び出したんだから。あっはは。あんな取り乱した顔初めて見たよ、最高…ははっ」
腹を抱えて「レインさま」は笑った。ザクが動揺する姿が見れて大層愉快らしい。あの不敵な笑みを絶やさない男が取り乱すなんて想像できないな、と驚いていると
「そうだ。今度弟くんを会社に呼んで接待してあげようか。皆で可愛がってあげたら喜ぶかもしれない」
「いやいや…泣きますよ、絶対。そもそも何歳なんすか、その弟は」
「16歳。高校生」
「完全アウトじゃねえーすか…」
うちの社員は皆見た目は良いが、その反動のようにヤバイ奴が多い。えげつない性癖と下半身の緩さを持ってるのが共通要項としてある。別にそれを「レインさま」が強いたわけでもないのに。そういうのばかり集まってくるのだから不思議だ。
(ってか、高校生ってことは…先輩が襲うのもアウトじゃないっすか…)
あの唯我独尊の「ザク先輩」なら仕方ないがとうとうそっちにも手を出し始めたのかと呆れた。あの人は欲しいと思ったら必ず手に入れる男だ。
「禁断って、気持ちいいもんねえ…」
しみじみと「レインさま」が溢した。なんだかんだ一番楽しんでるのはこの人なのだろう。会社のヤバい奴らをまとめているトップが一番ヤバいなんて、取引先の人達は誰も思わない。こんな穏やかな優男が実はとてつもないドSで、しかも一度執着したら狂い殺すまで手放さないなんて…。
(廃人にされた奴隷達が何人もいるって噂で聞いた…)
ぶるるっ
土下座しながら身震いする。義弟だかなんだか知らないが「レインさま」が興味を持ってしまった事に同情する。
(可哀想になあ…)
社員の奴らも大概だろうし、そんな奴らに囲まれたら義弟くんも無事ではすまされないだろう。そしてザク自身もそれをみて怒り狂うはずだ。うん、修羅場すぎる。俺はその日は休んでおこうと…心に決めるインク。
「彼がどんな顔をするのか、楽しみだなあ」
「いや、レインさま…ダメですよぉ…」
「新しい玩具でも買っとこう」
「聞いてますう??…イダァイ!!」
「誰が起きていいって言った。土下座してろ」
「はいい!!!すんません!」
鞭で打たれてすぐに体を戻した。うん、もうだめだ。どうやら完全に「レインさま」はやる気らしい。
可哀想に、義弟くん。
そしてザク先輩。
かなりの修羅場を覚悟しつつ、とりあえず手を合わせるインクなのであった。
***
「へっきし!」
「おい、大丈夫か。風邪ひいたか?」
「へいき」
朝ご飯を食べていると、おもむろにくしゃみが出た。前に座っていた義兄が心配そうに見てくる。一足先に食べ終えた義兄は頬杖を突いて俺が食べる姿を眺めていた。何が楽しいのかはわからないが、俺としても義兄と一緒に過ごせるのは嬉しいので文句はない。鼻をかんでから食事に戻った。
「学校はどうする。休むか?」
「…」
「アイツらも同じ高校なんだろ。また襲われるかもしれねえし、落ち着くまで休んでおいた方がいいんじゃねえの」
「バンはそんな事…しないと思うけど、」
「いーや、アイツは下心ありありのスケベ男子だった」
「スケベ男子…」
バンの事をそんな風に言われても困るというかなんというか。一瞬バンとのキスを思い出してしまい首を振った。
(あんまり深く考えちゃダメだ)
バンは俺と義兄が仲良くできるようにやってくれただけで他意はないはずなんだから。義兄にはバンの人柄もわからないだろうしあの場面だけでは説明のしようもない。説得するのは諦めて、頷くだけにしておく。
「そうか。じゃあ今日は寝とけ、体怠いだろ」
「…でも、行く」
「あ?」
授業はそんなに好きじゃないけど、父が用意してくれた機会は無駄にしたくない。ちゃんと勉強して…返さなくてはいけない。こうして何不自由なく生きていられている事に、そして、義兄と出会わせてくれた事に…ちゃんと報いたい。
「行くったら行く」
「…あーそうかよ。お前が気にしねえならいいけどよお。何かあればすぐ連絡しろよ」
「…うん」
朝起きてすぐスマホを確認すると義兄の連絡先が入っていた。「よろしくな」と挨拶するスタンプだけ張られていたその画面を思いだしくすりと笑う。
「何笑ってんだ?」
「なんでもない。ねえ、ザクは会社はいいの?」
「ん?ああ、今日は昼前の会議に間に合わせればいいだけだ」
余裕だぜ、とコーヒーを傾けながら笑う。
「早朝に出勤しろってルールはないの?」
「ないない。クソみたいなノルマはあるがなあ~」
「…なんだ、じゃあ本当にこの一週間は俺を避ける為に朝早くに出てたんだ」
「う…おう…なんだ、まだ怒ってんのか」
「別に、怒ってはないけど」
立ち上がり皿を回収して流しに持っていこうとすると「俺様がやる」と横から奪われた。朝目が覚めてからずっと俺の体を気遣って優しくしてくれるのだが、ここまでされると逆に申し訳なくなる。昨日はくたくたで泥のように眠ったが、起きたら案外平気だった。義兄のやり方がうまかったのか若さゆえか。
(どちらにせよこんな扱いは俺達には不釣り合いだ)
俺達は一応…義兄弟であり、恋人ではない。
「あ、おい、ルト!どこ行くんだよ!」
「制服着てくる。そろそろ出ないと遅刻しちゃうから」
皿を洗っていた義兄が追いかけてくる気配がしたが自分の部屋に逃げ込んで
「…ふう」
一呼吸置く。それからハンガーにかけられていた学ランに腕を通して身支度を整えていく。鞄を持ち再び廊下に出ると、
「…」
義兄が腕を組んで待っていた。不貞腐れているが俺の姿を見た瞬間ふっと瞳を柔らかくするのを確認して、内心微笑んだ。歪な形の兄弟だが、義兄が自分で感情を揺らす姿がみれるのは悪くない。というか嬉しい。これが世間的に言う「恋愛感情」なのかは今の俺にはわからないが。
「準備できたか?送ってやるよ」
「ありがと」
玄関で並んで靴を履く。新鮮だった。父親ともこんな風に家を出た事はない。かなり記憶を遡れば一度や二度はあったかもしれないが、ほとんど記憶にない。だからこそ胸が熱くなった。
(これが家族と過ごす朝なんだ…)
じんわりと感動していると、玄関の外を出てすぐに手を握られぎょっとする。
「?!…ちょっと、こんな所で…」
「兄弟ならセーフだろ」
「ええ…都合のいい時だけ兄弟設定利用するんだから…」
「利用できるものは利用する。当然だろうが」
「じゃあ…あっちの兄弟とも手を繋いで歩くわけ?」
「無理に決まってんだろ、吐くわ」
つまり兄弟で手は繋ぎたくない、と。だけど設定だけ利用する、と。昨日今日でわかったことだが、義兄はなかなかの俺様だと思う。そんなところも…嫌いではないが。
「それよりもだ、ルト」
「ん?」
「今日、仕事終わったら…俺様の家に連れてってやるよ」
「!」
まさかの言葉に足が止まる。義兄は特に構えた風でもなく気軽に誘っているようだった。ニヤリと笑ってウィンクしてくる。
「無駄に眺めのいいタワマンで贅沢させてやる。あ、時間があえば帰社するついでに車で拾ってやるぜ。授業終わったら連絡しろよ」
「え…ザクが車で迎えに…?」
めちゃくちゃ目立たないか、それ。
「目立ってもいいだろ、兄弟なんだし」
「…また言ってるし…」
「それによく聞け!うちの一番のアピールポイントはズバリ、しっかり防音されててやり放題な事だ!全館空調で廊下をまっぱで歩いても寒くねえしいつどこでくたばっても俺様が世話してやれるぜ。密室だから世間体を気にする必要もねえしな。どうよ、行きたくなっただろ!?」
「やり放題って…あんたの頭ってそれしかないの…?」
「けけ、当たり前だろうが。性欲を煽る対象が横にいるんだぜ?盛らねえ方がおかしいわ」
「…うう(照)」
「つーか生意気言うようになったなあ。まあ、そっちの方が可愛くなくて可愛いけどな」
「…どっちだよ」
むくれつつも、でも、その手は離さずに二人でのんびり歩いた。しばらくそうして他愛のない会話をしていると前方によく知る人物が立っている事に気付く。ハッと我に返って義兄の手を離した。
「エスだ」
共通の通学路である交差点でエスが待っていた。下校はよく一緒になるけど朝はほとんど会うことがないエス。
(エス、朝が弱いはずなのに…、待っててくれたのかな…?)
エスはじっと俺の方を見ている。昨日あんな事があったし心配してるのかもしれない。俺は昨日散々義兄と話し合って(肉体も嫌と言うほど交流して)理解しあえたが、エスはバンにつれられて以来何も知らされてないのだ。
(早く説明してやらないと…)
そう思ってると横にたっていた義兄が唸るように言った。
「チッ、エス…、確かクラスメイトだったか…。まあ、アイツならルトに噛みつく勇気はなさそうだし、逆に近くで見張っててもらえるならありがてえぐらいか…」
義兄はブツブツと独り言のようにぼやいたと思えば、俺の背中を叩いてくる。
「よし、俺様は邪魔しねえようにここで見送るわ」
「…」
意外だった。俺様の義兄の事だから、開口一番エスに脅しの一つや二つ吹っ掛けるかと思っていたが…案外冷静らしい。
「俺様だってルトの青春を邪魔するつもりはねえしな。ちゃんとそこは弁えてる」
「…そ、っか。ありがとう…」
「けけ。もちろん、恋愛と揉め事は割って入らせてもらうがな」
恋愛と揉め事。もうそんなに揉めるとは思えなかったが(今回だって義兄と仲良くなりたくて一悶着あったわけだし)なるべく普通の学生らしく静かに暮らそうと心に決めた。
(こんなイケメンが現れたら毎回騒ぎが大きくなっちゃうし…)
一人でうんうんと頷いていると、義兄が仁王立ちで見下ろしてくる。
「いいか、ルト!約束忘れんじゃねえぞ!ちゃんとクソガキ共にさらわれずに帰って来い。返信なかったら学校乗り込むからな、いいな!」
「…乗り込まれるのは困るけど…うん、ちゃんと帰るよ」
「よろしい。じゃあ行け」
背中を押され数歩歩いた後、俺は立ち止まった。
「…」
ずっと言ってみたかった言葉が喉元まで上がってきていた。
「おいルト、どーした?」
義兄が不思議そうにしてるので、俺は一呼吸の後、決心して振り返る。大きめの声で言った。
「…い、…いってきます!!」
「ああ、いってこい。また後でな」
「…うん」
“また後で"
そう願える家族がいるなんて嘘みたいだ。
(嬉しい…)
何度も振り返り、その姿を確かめながらエスの元に走る。義兄は苦笑しながら「さっさと行け」と手で追い払う仕草をする。でもそんな態度をとっていても義兄は、俺がエスと角を曲がるまでずっと優しく見守ってくれていた。
end
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