短編

リナ

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不死鳥シリーズ

ソルジ先生のスマホ教室(スナック組)

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 ※十話読了推奨
 ※フィン(野生児)とグレイ(機械音痴)の勉強会
 ※と思いきやソル×ライ回




「よーし、始めるぞ」

 深夜の店内でソルが仁王立ちする。今日はスナックおとぎも定休日。普段であれば各自好きなように過ごしてるのだが今日は珍しく四人全員揃っていた。それもそのはず。

「ソルジ先生のスマホ教室だぜ。耳かっぽじってよく聞け、老害共」

 スマホに慣れてないグレイとフィンに教える為、うちのデジタル大臣…ソルにスマホ教室を頼んだのだ。ソルはカウンターの前でふんぞり返り、グレイとフィンはテーブル席に腰掛け、俺は授業参観を眺める親のような気持ちでカウンターに立っていた。
 (立ってるだけじゃ暇だし…水回りの清掃と備品の整理でもするか…)
 ゴソゴソと作業しているとカウンターの向こうからぎゃあぎゃあ言い合う声が聞こえてくる。

「ブーブー!誰が老害ヨー!そもそもスマホ程度で大袈裟なのヨー!」
「まったくだ…駄犬に教わることなどない」
「アアッ?!あんま舐めた口きいてっとしばくぞゴラァ!」

 二人共スマホ教室の開催に納得がいってないらしい。不満を垂れる生徒二人もだが、ソルも「もう帰っていいか?」とげんなり顔で視線を送ってきて今にも教室が終了しそうな勢いである。仕方なく、キッチンに置かれたままの抹茶の袋を揺らしてやった。

 シャカシャカ

「チッ」

 舌打ちの後、渋々生徒の二人に向き直るソル。

「はぁ~~~っ!これだから老害は嫌なんだよ。スマホをただの“小さい機械”と侮るんじゃねえ」
「「?」」

 揃って首を傾げる生徒二人。少し可愛い。

「てめえらにもわかるよう言ってやるとだな…スマホは“大事な金庫のカギ"であり!“口が軽すぎる物知りな隣人"であり!“めちゃくちゃエロい恋人"でもあるんだよ!!」
「…んマァ、魅力的、すごくお近づきになりたいワネ」
「つまりライという事か?…ライは口は軽くないが」
「あーはいはい、もうそれでいい。とりあえず扱いが難しくて大事なものってのが理解できてればいいわ」

 やけくそのように手を振ってソルは説明を続けた。

「まずは影響が一番でかい“金庫のカギ”、セキュリティ面の話からするぜ。これはある程度設定やフィルタリングで防衛してやれるが、根本的な解決にはならねえ。てめえら自身のネットセキュリティ意識を上げて気をつけてもらう必要がある」
「それはそうネ」
「…例えばどうすればいい」
「はっ、そう言うと思って、てめえらの為に簡単なミニテストを作ってやったぜ」

 ソルの奴、意外に面倒見がいいな…と感心する。

「テストっつっても紙にかくやつじゃねえ。実地で試してやる。スマホを開け」

 ソルの指示でスマホを開く二人。ソルがささっと指を動かし自分のスマホに打ち込むと二人のスマホが振動した。二人は画面を見ると、はっと顔を青くして慌てたようにスマホに文字を打ち込んでいく。
 (なんだ…?)
 首を傾げてると「ほれ」と俺にだけ見えるようにスマホ画面を向けられた。

「…!」

 そこにはよくある迷惑メールが表示されていた。宅配便とかネット通販のメールをそっくり真似て作ってて何も知らなければ普通に騙されてしまうだろう。
 (なるほど、これが二人に送られたのか)

 ブーブー

 やがてソルのスマホが二回振動した。

「ったく…てめえらチョろすぎな」

 ニヤリと悪い笑みを浮かべてグレイ達の個人情報が引き抜かれた画面を見せる。グレイもフィンもバツが悪そうな顔をして見合う。

「だって…これいつも使ってる通販サイトからのメールデショ?定期的な情報更新って言われたら従った方がいいジャナイ」
「残念、ご愁傷様。こういう重要な情報、特に個人情報はメールでやり取りしねえんだよ」
「エッこれ偽物なノ?!そっくりヨ?!」
「ああ、“似せてる"だけだ。全く違う業者がてめえの個人情報抜くために送ってきてるって想定で作った。いわゆる迷惑メールってやつだな」
「はー怖いワネ…」

 グレイが詐欺の怖さを身に染みたのを確認してからフィンの方を見る。

「てめえもてめえだ。不死身野郎。ちょっと脅されたからって簡単に送金しようとするんじゃねえ」
「しかし…ライの大事な写真が流出してしまうから“パスワードかパスワードがわからなければ金を送れ"と書かれていた。ライを辱めるぐらいなら百万を支払った方が軽いだろう?」

 (百万って…)
 無茶振り過ぎる迷惑メールに頭が痛くなるが、偽物とわからずに読んでいたら高額な方が説得力が出てしまう気もして、焦りとは怖いものだな…と考えさせられた。

「グレイにも言ったが、個人情報や金に繋がる情報を書かせるのは大体迷惑メールだ。脅したり心を揺すってくるのがいい証拠だな。焦って思考させる余裕を奪い、その合間に新たな情報を抜いてくる」
「尋問と同じか」
「そういうこった。だから、迷惑メールっぽいのは基本無視でいい」
「ふむ…わかった、覚えておこう」
「ネエネエ、返信しないと被害が出るって言われても無視で良いのカシラ?そんな状況で無視って結構落ち着かないと思うのダケド」
「無視だ無視。どうしても不安なら、メールは閉じて自分で公式に問い合わせて確認しろ。ホームページにいくか電話だ」
「信用できる場所で問い合わせし直すって事ネ」
「ああ、そうだ。あとこれは絶対守ってもらうが、メール内のリンクは踏むなよ。いいか、な」
「「リンク?」」
「こういうhttpから始まる色の変わった文字だ。それに触れると詐欺野郎が作ったページに飛ばされて厄介な事になる。ぶっちゃけ踏んだ瞬間アウトのやつもあるから絶対踏むなよ、これはフリじゃねえ。いいか?踏むんじゃねえぞマジで」
「やけにしつこいわネ。そんなにやばいノ?」
「対処すんのがクソめんどいんだよ。だからもしてめえらのどちらかが踏んだりしたら…、罰として一週間ライをオレの部屋で寝させるからな」
「「!?」」

 いやなんで俺。突然の飛び火に驚いているとグレイとフィンから一斉にブーイングがあがる。

「きゃー!ダメヨー!!一週間って何する気ー!!」
「駄犬が。発情期もいい加減にしろ、去勢されたいのか」
「あーもう、ギャーギャーうるせえなあッ!こんなクソめんどい講師させられた上に、どうせてめえらの尻拭いはオレがやる事になんだよ!分け前をもらって当然だろがッ!」
「だからってライを人質にするのは卑怯ヨー!」
「そうだ。ペナルティという事なら我々自身に与えるべきだろう?何故ライを巻き込む」
「てめえら並大抵の事じゃ苦しまねえサイコパス野郎だろうが!そういう奴らは自分以外をターゲットにした方が効くんだよ」
「「…」」

 二人とも図星なのかぐぬぬっと黙り込んでる。俺はそんな様子を眺めながらソルの背中に尋ねた。

「…いや大前提として俺の意思は?」
「くくっ、そこは迷惑メールと同じで無視」
「誰が迷惑メールだ」

 ジト目を向ければけらけらと笑われた。…まあソルも本気ではないと思うし、これで二人の気が引き締まるなら良しとしよう(良くはないが)。

「うっし、次は“口が軽すぎる隣人”…ネットリテラシーの話だ」

 それからソルはわりと真面目にスマホ教室を行っていった。時々冗談を交えながら二人にもわかるよう例えをいれたり、実際にスマホを使わせたりして教える姿は新たな才能?一面?が垣間見えるのだった。



「さてと、最後に“めちゃくちゃエロい恋人”についてだが、まあ端的に言えばエロ利用だな」

 リスクの話もある程度終わり、一気に砕けた話に移った。

「それはなんとなくわかる気がするワ。雑誌とか映画とかそういうのを見なくてもエッチな気持ちになれるって事ヨネ」
「そうだ!まあてめえはインキュバスとしてリアル接触が必要だし需要は薄いかもしんねえが…それでも一人でするには困らねえぜってのはわかっとけ」
「はーい、先生」

 ここまでくると生徒側の二人も素直にソルの言葉に耳を傾けていた。ちゃんと教える姿を見て態度を改める気になったらしい。ふと真剣な表情でフィンが挙手する。

「愛おしい恋人が横にいるのにこんなものを使おうとは思えないのだが」
「はっ、ナチュラルに惚気んなうぜえ」
「しかし事実だ」
「あーはいはい!そうですね!!リア充は確かにスマホで発散する必要ねえよなあ!スマホもエロサイトもいらねえってか?!」
「…そこまでは言ってないが」
「うるせえ!てめえにスマホは無用の長物だ!返しやがれ!!」

 ちょっと拗ね気味のソルに笑う。

 すっ

 一通り作業を終えた俺は、二人のいるテーブル席に移動して同じように腰掛けた。それから挙手する。

「はい、先生、おすすめのエロサイトはありますかー」

 俺の質問に待ってたぜと言わんばかりに指さしてきた。

「よーし、やっと良い質問がきたな。それでこそ優等生のライくんだ。あとで地下の準備室に来なさい」
「さらっと連れ込もうとすんな」
「ははっまあ、冗談はさておきオレのおすすめはこの三つだな。ついでに広告キャンセル系を入れとくのもおすすめするぜ。さっきもいったが詐欺系に巻き込まれにくくなる。んでだ、意外にツイッダーも…」

 ソルのエロ解説が始まる。俺は普通に面白かったがフィンとグレイはキョトンとしていた。
 (この顔とスタイルだもんな…)
 外見に加え、人当たりも良いこの二人は当然のようにモテてきたのだろうし、自慰なんてほとんどしない人生を歩んできた事だろう。エロサイトの需要にピンとこないなんて羨ましい限りである。

 そんなこんなで最後は色々と脱線したが無事にスマホ教室は完了した。ソルが締めの言葉をいって終わらせる。

「ってなわけでスマホ教室は以上だ!とにかく怪しいものには触らず、でも便利な機能は使えるだけ使い倒せ!ってことだ!わかったな!!」

 グレイとフィンが頷くのを見てソルは「よしきた!」と目を輝かせた。

「よっし!じゃあ解散!!!野郎共!散れッ!!」

 そう言ってソルは二人を無理矢理廊下に追いやる。フィンは「??」と俺の方を気になるようにみていたが、シャワーがまだだったし最終的には廊下の奥へと消えていった。もう片方のグレイも「出掛けてくるワ~」とコートを羽織ってノリノリで出掛けていく。せっかくの定休日なのだし羽を伸ばすべきだろう。俺はそれらを見届けた後、冷蔵庫に向かった。夕方に用意しておいたそれを取り出す。

 コトン

「はい、スマホ先生のご褒美」

 すでにカウンター席に座り待機していたソルの前に皿を置いた。そこには抹茶とイチゴの二種類のマカロンが並んでいた。ソルの希望でこうなったのだがなかなか夜の店に似つかわしくない…可愛らしい絵面だった。しかもそれに目を輝かせてるのは普段オラついてる男なのだから余計に面白い。

「ひゃ~~~すっげえ!!!この丸さ!色!!天才か??!!!」
「どうしてもマカロンじゃないとやらないっていうから必死にレシピ探して作ったんだからな。ギリギリまで試行錯誤して作ったし、…って聞いてねえな」

 ぱくぱくむしゃむしゃと次々と平らげていくソル。もし狼の尻尾が生えていたらブンブンと派手に揺らしていた事だろう。そうとわかるぐらいソルは上機嫌に頬張っていた。いつも不機嫌そうに細められてる目もニコニコと三日月を描いてる。うまいか?なんて質問は必要ないほど気持ちの良い食いっぷりに、俺もなんだか食べたくなって、

 カタン

 冷蔵庫からもう一皿出した。こちらのマカロンは茶色かったり膨らんでないものもある…つまり失敗作なのだが、ソルの食いっぷりにつられて一つ口に入れてみた。
 (…少し固いな)
 不味くはないがマカロンとは言えないなと内心評価する。

「ん?ほれも、ンむぐ、…それ、も、てめえが作った奴か?」
「うん。失敗作だけどな」
「失敗作う?」

 ソルは俺の皿に手を伸ばしマカロンを奪った。ぱくっと頬張る。

「ん、うま」
「!」
「形はブサイクだけど普通にうまいぜ」
「……」

 ソルの事だし失敗作はこきおろしてくると思ったが…さらっとフォローされ嬉しかった。俺が何も返さないとすぐにソルは自分の皿からマカロンを取り口にいれていく。そしてとうとう完食してしまい、何もなくなった皿をペロペロと舐めだした。

「どんだけ好きなんだ」
「このクオリティのマカロンはレアなんだよ…高くねえとクリームがちゃっちいし、生地のさくぐにゃ感も甘い…ケーキ屋とかデパートで買うには目立つしよぉ」
「はは、あんたがマダムに囲まれながら並んでたら笑うわ」
「うるせぇ!だからてめえが作れって言ってんだよ!!」
「無理だって。さっきも言ったけど作るの面倒なんだから…しかもあんたしか食う奴いねえし…」

 フィンもグレイも甘い物はそこまで好まない。嫌いという程ではないが…喜んでくれるのがソルだけなのに作り続けるのはちょっとフィンに悪い気がしてくる。

「じゃあ!アイツらに毎日スマホの先生やってやるからさ!!」
「…スナックおとぎからハッカーを輩出するつもりか」
「くくっスナックおとぎの裏の顔がつじつま合わせともう一つできるなぁ」
「はあ、これ以上敵を作ってどうするんだ。とりあえず失敗…じゃなくて、崩れてる方もあげるから今回はそれで我慢してくれ」
「ったく珍しくケチだなぁ~…って待てよ?!まさかてめえ、失敗しまくったのが恥ずかしくてもう作りたくねえとかそういう事か??!おいおい可愛いところあんじゃねえか!失敗しても全部食ってやるしちゃんとうまかったから落ち込むなって…イッデェ!!!」

 結局、冷蔵庫の大量のマカロン(+もどき)は全てその日のうちに食べきられたのであった。



 end
     
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