おまわりさんΩ、猛犬系ワンコに懐かれる

らんね

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10 「スーパー」らしい

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裕也くんがチョーカーを着けてくれて、首が守られている安心感と同時に、やはり慣れない感触が息苦しかった。慣れないチョーカーへの俺の不機嫌さを察知したのだろう、裕也君が提案してくれる。

「高瀬さん、帰る前に下でちょっと飲んでいく?」

その誘いに乗った俺は、一階の店の方に顔を出すことにした。

「あ~! えいちゃんいらっしゃい、元気そうじゃん!」

開店準備をしていた店のコ、景くんがぶんぶんと手を振ってくれる。

「聞いたよ、キミにも迷惑をかけた」
「いいって、ああいう時はお互い様!」

そう言ってケラケラ笑う景くんは、俺と同じΩだ。けれど家族仲が良くなくて自然と悪い仲間と夜の街を徘徊するようになったところを、シゲさんが保護して働くようになった。夜の街ではΩは性を売り物にする商売に身を染めてしまうことが多い中で、景くんはシゲさんに救われた形である。

「景、弱めのカクテル作ってやれ」
「おっけぃ!」

裕也くんに指示されて、景くんが張り切ってカクテルを用意する。様々な酒を混ぜて綺麗な色を出すカクテルが、景くんは子どもの頃の絵の具遊びみたいで楽しいらしく、熱心に研究していた。景くんのカクテル目当ての客もぼちぼちいるくらいだ。

「ど~ぞ、ほぼノンアルって言っていいくらいの酒だから」

景くんに招かれて、俺はカウンターの席に座る。

「ありがとう。赤からオレンジのグラデーションがきれいだな」
「だろ? 自信作!」

俺の感想に、景くんがニマッとした。
 それにしても休暇に入る前は夜勤だったので、飲酒は意図的に避けていたので、ほぼノンアルとはいえ久しぶりの酒の味だ。けど煽るようにして飲むようなものではないので、ちびちびと味わっていると、隣に裕也君が座った。
 俺と裕也くんをしばし見比べていた景くんが、ニシシと笑う。

「なんつーかさ、やっぱスーパーαのユウさんくらいじゃないと、えいちゃんは落とせなかったってことだな!」
「景、そのアホっぽい言い方やめろ」

嫌そうな顔をする裕也くんに、俺は思わずクスッと笑う。なんだそのスーパーαってと思うが、そう言いたくなるのもわかるかな。

「だって、この辺りに来るどんなαにも落ちなかったスーパーΩのえいちゃんだぜ? いやぁ、納得だね!」

いや、訂正。実際言われると恥ずかしいな、コレ。
 っていうか景くんの「落ちなかった」という言い方はどうなんだろう? 勤務中に出会う一般人と適切な距離を保つのは、警察官として当然の行動なのだが。それに夜の街にはもっと魅力的なΩがそこいらにいるのに、わざわざ警察官でゴツめな体格の俺に言い寄る奇特なαもいないだろうに。
 いや、奇特どころじゃないαがここにいたか。発情期Ωなんて面倒なものは、交番に捨てて行けばいいものを、わざわざ家に連れ込んでセックスにまで至ったα、裕也くんが。
 変わっている、本当に変わったαだ。そして俺はそんな変わったαである裕也くんを、馬鹿なαだと思えないし、自分が強引に犯された被害者だとも考えてすらいない。「運命」レベルの相性だとかは関係ない、この事実こそが俺の中の真実なんだろう。
 なんだろう、セックスの後よりも今の方が、すごく照れる――!
 自分の気持ちを知ってしまった俺は、きっと赤くなっているであろう顔を両手で隠すのだった。
 その後俺は、そのカクテル一杯だけで店を出る。
 寮まで送ってもらっている車の中は、無言だ。雰囲気悪くてゴメン、俺が色々いっぱいいっぱいで、今になってなにを話せばいいのかわからなくなったんだ。けど裕也くんはこっちをチラチラ見るものの、なにも言ってこない。
 そんな無言のドライブをして寮に着いてからの、別れ際。

「裕也くん」
「なに?」

俺がなけなしの勇気を振り絞って呼び掛けると、裕也くんがやわらかく応じてくれる。
 裕也くんからは「恋人になろう」と意志表示をされたけれど、俺からは匂わせなことは言えど、具体的な言葉ではなにも返してはいない。やっぱり、自分の気持ちに気付いてしまったのに、それは狡いだろう、年上の大人としては。

「キミのことをほどんど知らないのに。俺、キミを好きみたいだ」
「知ってる。けど言葉、嬉しい」

本当に嬉しそうにする裕也抱き寄せられてのキスが長くなって、なかなか車から降りられなかった。
 もう、寮の誰かに目撃されるのは、諦めよう。
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