グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第2章 【異世界からの侵略者】

第2章4 【消記者の物語】

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 その日の帰り道でのことだった。

 結局、ヒカリ達は帰ってこず、夜までギルドで待っていた私はそのまま帰ることにした。

 すっかり暗くなっちゃったけど、あの2人なら通り魔とかに襲われても大丈夫よね。むしろ心配なのは私か……なんか怖いなぁ。1人で暗い夜道って。

 私はレラが言っていた通り魔のことが頭から離れず、無駄に神経をとがらせていた。いや、多分無駄にはならないと思う。なぜならーー

「お嬢ちゃん、こんなところで何をしているのだい?」

 突然、背後から声が聞こえてきた。

「え、あ、えーと」

 私はそれが自分に向けられたものだと知るのに数秒かかり、少し狼狽えてから後ろの方を見る。

「こんな時間帯に女の子が1人で歩くとか危ないよー?何せ、最近はーー」

 その先の言葉は聞こえなかった。

「最近はよく通り魔が出るから気をつけろよ、嬢ちゃん」

 代わりに別の声が聞こえてきた。

 その声の主は私の前に佇んでおり、さっきまでいた、巡回をしていたであろう騎士の人を真っ二つに斬っていた。

 ーーもしかして、この人が通り魔。

 私は咄嗟に逃げ出そうとしたが、体が動かなかった。金縛りにあったみたいに自由が効かない。

 恐怖から来ているものなのだろうか?ううん、違う。この人の魔法だ。魔導士なのに、こうもあっさり引っかかっちゃうなんて、何たる醜態……。

「逃げようとしても無駄だぜ、嬢ちゃん」

 男が近づいてくる。

「俺の目を見たやつは逃げることを許されなくなる。今、嬢ちゃんが逃げられなくなっているのは恐怖から足がすくんでいるわけでも、逃げる意志が無い訳でもない」

 そう言うと男は刀の切っ先を私の首筋に近づけて静かにこう言った。

「嬢ちゃんは俺の力で逃げることが出来なくなってるんだ」

 そう言うと男は刀を振り上げ切り裂こうとしてきた。

 体が動かない。目を閉じることも出来ない。冷たく、鋭い刃の切っ先が私の喉元を貫こうとしてくる。

「セリカ、危ない!」

 誰かが私の体を突き飛ばした。

「痛た......て、ヴァル!?」

 尻もちをつき、突き飛ばしてきた人物が誰なのか確認しようとすると、そこにはヴァルが居た。

ヴァル「大丈夫か?セリカ」

 ヴァルが手を差し伸べ問いかけてくる。

「なんとか大丈夫......そんなことよりもなんで、ここにヴァルが?」

ヴァル「レラの話を聞いた時になんか...嫌な予感がしたんだよ。それで悪ぃとは思いつつもセリカを付けさせてもらったんだ。そしたら、まさか本物が来るとは......」

 ヴァルはそう言うと拳を強く握りしめ、炎を灯す。

ヴァル「てめぇ何もんだ?それと、何のつもりだ」

 ヴァルは目の前にいる男に問いかける。

「見てわからないか?私は通り魔だよ。最近噂になっている」

 男は両の腕を広げ言う。

ヴァル「随分と野蛮な方法で記憶を取るんだな」

 ヴァルは睨みを効かせ、いつでも男を殴れるように体勢をゆっくりと屈める。

「あぁ、これかい?これはとある人に作ってもらった刀でねぇ、これで斬りつけるとあら不思議。なんと、斬った相手の戦士としての記憶を奪ってくれるんだよ」

 そう言うと男は高らかな声で笑った。

 戦士としての記憶を奪う刀。誰がそんな悪趣味なものを作ったのやら……。そもそも、記憶なんてものを奪って何に使うのだろう?

ヴァル「戦士としての記憶だと?そんなものをなぜ欲しがる?」

「君達には分からないだろうが、そのうち分かるさ。今日は失敗だったよ、それじゃまたね」

 そう言うと男は暗闇の中に紛れるようにして消えていった。

ヴァル「あ、待ちやがれ!」

 ヴァルは男の後を追いかけるが、もう、どこにも居なかった。

 たった一瞬でこの場を離れるなんて、転移術でも使わない限りは無理だ。で、転移術は使える人がいないと言ってもいいくらいには習得の難しい魔法。そんなものを扱えるなんて只者じゃない。

ヴァル「クソ。あ、そうだ」

 ヴァルは思い出したかのように私の方に駆け寄ってきた。

ヴァル「大丈夫だったか?セリカ」

「大丈夫って言いたいところだけど...」

 ーー正直怖かった。

 私は気づいた時には涙を流していた。

ヴァル「怖かったのか?」

 ヴァルが問いかけてくる。

「怖かった。凄く怖かった。殺されるかと思った」

 私は抑えることができず、大声で泣き始めた。

 あいつは明らかに私を狙ってきていた。殺されるかもと思った。あまりに突然の出来事過ぎて、自分でもよく理解出来てないけど、心に刻まれた恐怖が私の体を震わせている。

 怖い……怖かった……。ただ、それだけの感情が心を支配している。

ヴァル「大丈夫だ。俺が守ってやる」

 ヴァルは私を自分の胸の中に入れ、抱き締めた。

「うん......お願い……」

 私はしばらくの間、ヴァルの胸の中で泣き続けた。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「今日は色々とありがとね」

 なんやかんやでヴァルには家まで送ってもらった。その間、あの男は現れなかった。

ヴァル「気にするな」

 ヴァルは例には及ばないというふうに首を振る。

「あの人が噂の通り魔なのかな?」

ヴァル「多分そうだろうが......」

 ヴァルはまた何か思い当たる節でもあるのだろうか?

「何か思い当たることでもあるの?」

 前回の事件の時は関係なかったけど、もしかしたらヴァルの勘が当たるかもしれないと思い、私は問いかける。

ヴァル「いや、思い当たることではないな。ただーー」

「ただ?」

ヴァル「あいつ、何となくだが、人間って感じがしなかった」

「? どういうこと?」

 もしかして、魔人族とかエルフとかそういう意味なのかな?

ヴァル「言葉では説明にくいんだが......なんかあいつ人っていう感じがしなかったんだよなぁ......」

「殺人鬼だから......とかじゃないの?」

「いや、心の方じゃねえ。物理的……肉体的にだ」

「つまり、あの人がディランみたいな人ならざる生き物ってこと?」

ヴァル「多分、そういうことだと思う」

「多分って......言い出したのはヴァルでしょ?やめてよ、ディランみたいなのがまだいるって話」

ヴァル「本当にそんな気がするってだけだ。とりあえず、明日も気をつけろよ」

「うん、分かった」

 ヴァルは、月光が照らす夜道を踊るように飛びながら帰っていった。

 ーー帰り道くらい、ゆっくり歩けばいいのに。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヒカリ「おかえりーセリカ」

 部屋に戻った私を出迎えてくれたのはヒカリだった。

「なんだ、もう帰ってきてたのか......」

 私はホッとしたように椅子に腰掛ける。

 ーーあれ?王都までって、物凄く距離がある道じゃなかったっけ?そんな日帰りで帰って来れたっけ?

 私は今更ながらのことを思い、夜までギルドに残っていたことを軽く後悔した。

ヒカリ「あの依頼、ほとんどセリカ働いてなかったのにやけにお疲れね。何かあった?」

 私は言うべきか悩んだが言うことにした。

「実はね......帰り道で通り魔に襲われてねー」

ヒカリ「ふーん」

 結構大事な話というか、真剣な話ををしていると思うのだが、ヒカリは私の方を見ず、ずっと本を読んでいる。

「ねぇ、聞く気ある?」

ヒカリ「聞いてるから続けて」

「ーーはぁ、まあそれで......」

ヒカリ「あ、そうだセリカ」

 ヒカリが思い出したかのように言ってきた。結局話を聞く気は無いらしい。

ヒカリ「明日、私はちょっと用事があるからギルドには行けそうにない」

「どこまで行ってくるの?」

ヒカリ「ちょっと、イーリアスまでかな」

 ヒカリが嫌そうな顔をして言う。

「その様子だと......自警団の方から……なのかな?」

ヒカリ「正直行かなくても良いんだけどねー。でも、行かなかったら、それはそれでめんどくさい事になるし......まあ、そんなこんなで、明日はギルドに行けないから」

「そう、というか話を聞く気は無いのね」

ヒカリ「そんな事ないわよ。通り魔に襲われてどうせヴァルあたりに助けてもらったんでしょ」

 ーー見てたのではないだろうか。

「ーーその通り魔記憶を奪っていくらしいんだけど......ヒカりん何か知らない?」

ヒカリ「記憶を欲しがるやつとか、聞いたことないわね。ただ、1つ言えることは何かよからぬことが起きようとしているってことね。じゃあ、おやすみー」

 そう言ってヒカリはベットの方に向かっていった。

 よからぬ事か……何も起きない方が良いんだけど......
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