31 / 434
第2章 【異世界からの侵略者】
第2章18 【繋がりの物語】
しおりを挟む
1週間後
「とりあえず、こんな感じか」
私は地面に計画表を書くのをやめ棒を突き立てる。この計画表には向こう2週間の予定が刻まれている。
アルテミス「食糧調達係殆ど私じゃん」
それを見たアルテミスが愚痴をこぼす。
「だって、テミこの1週間で大分狩りの腕が上がったじゃん」
アルテミス「そりゃそうだけどさー」
「頑張ってねー」
アルテミスの不満に対して、私は軽く応援の言葉をかける。
アルテミス「ねえ、1つ聞くんだけど、この最終日に書いてある『魔獣討伐』って何?」
「え?その言葉のまんまだけど......」
アルテミス「いやいやいや、あんなの私達で倒せるわけないでしょ!」
「その為に2週間の準備期間を設けたんじゃん。四の五の言わず働け!」
アルテミス「ラクは闇教師かなんか!?」
「はいはい、うるさい子はお口にチャックですよー」
完全にバカにするようにそう言い、私はさっさと計画表の通りに動こうとする。それを見て、アルテミスが何か言い返そうとしたが、黙って森の中へと進んで行った。
「じゃ、私はエンドラル魔法の練習でもしましょうかねー」
『魔法も錬金術も一切禁止』って言うのは魔獣討伐に関してなら無視というのが私の頭の中でできている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
それから更に1週間とちょっと経った後での話である。
「はぁ、なんだかんだ言ってあの日から1ヶ月経つまで後もうちょっとねー」
私は木の葉っぱでできたベッドの上に寝転がりながらにそう言った。
「最初はどうなるかと思ったけどね」
アルテミスが同じように私の隣に寝転がり、そう言った。
「2週間とちょっと。多分、この1ヶ月が人生で1番頑張ってた期間になると思うんだけど」
アルテミス「これが終わったら本格的な修行が始まるかもしれないのに、よく言うねー」
「うん。でもさ、そっちの修行は確かにかなり厳しいかもしれないけど、ちゃんとしたご飯とか布団が用意されてるだけ楽だと思わない?」
アルテミス「それもそうね。というか、私は巻き込まれただけなんだけど......」
「結局、今は楽しんでるんだから良いじゃない」
アルテミス「そんな『終わりよければすべてよし』みたいな言い方しないでよ」
「ははは」
そして、私は特に意味もなく夜空を見上げる。
2週間前に作った雨避けだが、やはりというかもう既にボロボロになってできた隙間から空が見えるようになっていた。
アルテミス「星、綺麗だね」
「そうね。ーーねえ、質問の答え考えた?」
アルテミス「うん。なんとなくの答えは出たよ」
「『最も失いたくないものは何か』、考えてみれば結構簡単な質問だったよね」
アルテミス「ラクも答え、出たんだ」
「うん。答えは即ち...」
「勇気!」
アルテミス「勇気!」
2人の声がハモる。
「なんだ、考えてたこと一緒だったのか......」
アルテミス「何その残念そうな感想」
「いや、ただテミはどういう経緯でその考えに辿り着いたのかなぁって」
アルテミス「昔の偉い人が言ってたんだよ『金を失うのは小さく、名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失うことはすべてを失う』って」
「考え方も一緒か......」
私は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
アルテミス「それ、思いっ切りブーメランになって自分に突き刺さってるよ!」
「ふふ。さて、答えも出たんだし、明日はあの魔獣を討伐するわよ!」
私は起き上がりざまにそう言った。
アルテミス「ってまだ諦めてなかったの!?」
「当たり前じゃん。あんだけ挑戦して攻略法を構築してきたんだから!というわけで、明日行くから手伝ってね」
アルテミス「えぇ......」
アルテミスが諦めにも似たような表情で私を見上げた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、例によって翌日
私達は例の魔獣の住処の前に来ていた。
「グルルル」
魔獣が唸り声を上げる。
「ここであったが100年目!今日こそ捻り潰してくれる!」
私は手を銃のような形にし、魔獣に突きつけた。
「ギガフィア!」
私が詠唱すると同時に、魔獣の足元から炎が噴き上げる。
アルテミス「っていつの間にギガ魔法まで使えるようになったの!?」
アルテミスがビックリしている。
「ふっふーん。これも修行の成果ってやつでねぇ」
アルテミス「なら、わざわざミルさんに弟子入りしようとか思わなくてもよかったんじゃ......」
「それじゃあダメなの。私は錬金術を習いたくてこうしてるんだから。魔法はもういいの」
アルテミス「はいはい。そんなことよりもまだ魔獣はやる気だよ」
アルテミスが魔獣の方を指さしながら言う。
「すーっ、ギガサンダー!」
今度は掌を魔獣に向けて突き出し、雷を発生させる。
「グォォォオ」
かなりの手応えを感じた。後もう少しと言ったところだろうか。
「グオラァァァァ」
ーー突然、魔獣が酷く暴れ出しこちらに突っ込んでくる。
「ヤバっ......」
慌てて魔法を使おうとするが、この距離では間に合わない。
アルテミス「ウィンド!」
魔獣の足元に弱い風魔法が当たり、魔獣がラクシュミーの横を転がっていく。
アルテミス「強い魔法は発動までに時間がかかるんだから、こういう時は弱い魔法を使わないと......」
アルテミスが呆れたように言う。
「むぅ......ギガウィンド」
私は言い返すことが出来ず、魔獣にトドメの一撃を与える。
アルテミス「これで終わりね。それにしても、呆気ない殺られざまね」
アルテミスが魔獣の死骸を前に言う。
「所詮、その程度だったってことでしょ」
アルテミス「まあ、そうだけど。それより、本当に魔法使ってよかったのかな?」
「誰も見てないから大丈夫でしょ」
アルテミス「そういうもんかな?」
「そういうもんだって。さて、この死骸どうしようかな。焼いて食べちゃおっか」
アルテミス「えぇ......魔獣を食べるの......」
アルテミスが若干引き気味に言う。
「魔獣だって、元々はただの動物だったんだし、魔獣化してる元である瘴気を抜けば普通の生き物よ」
アルテミス「そうだったの!?」
「知らなかったの!?まあ、いいや。さっさとこれ持って帰ろう」
そう言い、私は魔獣の死骸を引っ張ってキャンプ地を目指した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その日の夜
ラクシュミー「だーかーらー!この魔獣化の元となってる瘴気の塊を見つけたら、ここをこうして、はい出来上がりって言ってるでしょー!」
ラクシュミーが全くもって訳の分からない瘴気の取り除き方?をやっている。
「何回見てもわからない」
ラクシュミー「じゃあ、もう教える意味ないじゃん」
「そもそも私、教えてなんて言ってないし......」
ラクシュミー「もう、せっかく最後の晩餐に魔獣の食べ方ってのを教えてあげようとしたのに......」
「最後の晩餐って私達、明日死ぬんか......」
ラクシュミー「はい、これ」
突然、ラクシュミーが何やら得体の知れないものを差し出してくる。
「何これ?」
ラクシュミー「見ての通り元魔獣の焼肉だけど」
「どう見ても焦げてない?」
ラクシュミー「まあ、元々魔獣だったから自然とそういう色になるのよ」
「えぇ......」
どこからどう見ても焦げているようにしか見えないせいで、全然食欲が湧かない。
ラクシュミー「まあ1回騙されたと思って食べてみなよ。意外とイケるって」
ラクシュミーがそう言いながら、美味しそうに肉を食べている。
「そ、そこまで言うなら......」
私も意を決して肉に齧り付く。
「ーー美味しい......」
見た目とは裏腹に、普通に美味しかった。
ラクシュミー「でしょ?」
そう言い、ラクシュミーは次から次へと肉に手を伸ばしている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ラクシュミー「はぁー美味しかった」
ラクシュミーがそう言いながら寝転がり、夜空を見上げる。私もそれに習って寝転がる。
星が綺麗だ。
「ねぇ、1ヶ月前のこと覚えてる?」
私は特に意味もなく問いかける。
ラクシュミー「ーー覚えてる。弟子入りをお願いして、OKを貰ったと思ったらこの島でサバイバルしろって......意味が分からなかった」
ラクシュミーが思い出を振り返るように目を瞑り言う。
「人間は水さえあれば2ヶ月は生きられる。でも、実際は色々な条件が噛み合って1ヶ月も生きられない。でも、生きることが出来たよね?」
ラクシュミー「それ覚えてたんだ」
「今思い出したんだけどね」
ラクシュミー「ふふ......明日が最終日かー」
「そういや、明日だったか」
ラクシュミー「そこで、私達が出した答えを師匠にぶつける。それが答えであることを信じて」
「それも大事だけど、明日の朝食はどうなってるの?」
ラクシュミー「あぁー!あの肉全部食べなきゃ良かったー!」
今更後悔しても遅かった。
魔獣の死骸を見ても、残っているのは食べるには難しい箇所だけだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
最終日
「最終日!」
私は特に意味もなく大声でそう言い、海に向かってモリを投げる。
「朝食ゲット」
投げたモリは、距離が結構離れていたにも関わらず、見事に魚に命中した。
ーーそして、3時間後。
ミル「さてと、後ろにある魔獣の死骸が気になるが、一旦それは置いといて『この世で最も失いたくないもの』の答えを聞かせてもらおうか」
目の前の巨乳の女性、ミルが訊ねてくる。
私は思わず息をのみ、アルテミスの方を見る。アルテミスもこちらを向いてきて頷く。
「「 この世で1番失いたくないもの。それは、勇気! 」」
2人は息を揃えて言う。
ミル「ほう、その心は?」
「金を失うのは小さく、名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失うことはすべてを失う。昔の偉い人がそう言ってた」
アルテミス「それを真似するわけじゃないけど、でも、勇気を失えば人は何も出来なくなる」
「そう考えたから、1番失いたくないものは『勇気』になった」
私達は早口でそう言い切った。
「ーーふっ、フハハハハッ」
突然、ミルが顔に手を当て笑い出した。
ミル「予想とはちょっと違うが、完璧な答えだな。よろしい、船に乗れ。ちゃんとした飯と布団が待っている」
しきりに笑った後ミルがそう言う。
「え、てことは......」
ミル「そうだ。合格だ」
「「 や、やったーーーー! 」」
私達はお互いを抱き合い、素直に喜びの感情を顕にした。
ミル「ところで、1つ聞きたいんだが、後ろにあるあの死骸はなんだ?」
「ああ、酷いじゃないですか師匠!魔獣居ないとか言ってたのに普通にいたじゃないですか!」
ミル「魔獣?ああ、『グリオン』のことか。普段は巣から出ないから大丈夫だと思ったんだが......」
アルテミス「いや、普通に襲ってきたんですけど......」
ミル「ふーん。まあいい。あれは近々討伐する予定だったから一石二鳥になったな」
「「 えぇ...... 」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「せーんせーーーーい!」
私は大きな声でそう言いながら、神社の戸を大きな音を立てて開けた。
「先生、ただいま帰ってきまし……」
そこで、私は言葉を失った。
ヒカリ「ああ、お帰りなさい。ラクシュミーさん。アルテミスさんは一緒じゃないんですか?」
ヒカリがそう問いかけてける。
「テミは今頃走って追いかけてきてると思うんだけどーー」
そこで、私は一旦言葉を区切る。そして、こう問いかけた。
「一応聞くんですけど、この子ら何ですか?」
ヒカリ「ああ、あなた達が居なくなるもんだから、近所のお母さん達から子供を預かって教育をしているんですよ」
「へ、へぇー......」
私はそれを聞いて、改めて子供たちの方に目を向ける。全員、私よりかなり幼く見える。言葉もそろそろ理解し出てきたがくらいの歳だ。
アルテミス「ちょっとラクはーやーいー!」
アルテミスが入ってくる。そして、同じように子供たちを見て言葉を失い、ヒカリが同じような流れで説明する。
ヒカリ「そんなことよりも、ちゃんと錬金術の勉強はできたんですか?」
そして説明が終わると同時に、ヒカリが話題を変えるために問いかけてくる。
「へへーん。バッチリ」
それに対して、私はVサインで答えた。
ヒカリ「それは良かった。で、どんな修行内容だったんですか?」
「…………」
「…………」
その質問に対しては私達は同時に固まった。
ヒカリ「あ、あのー何があったんでしょうか......」
「できれば......その質問はやめて欲しいかな......」
私はそう答える。
ヒカリ「あっ、そうですか」
ヒカリは何かを察したらしい。
「へぇ、また新しいガキが増えてんじゃねぇか」
ーー突然、後ろの方から男の声がした。
ヒカリ「また、あなた達ですか......」
ヒカリはそう言いながら、私とアルテミスを自身の後ろの方へ回す。
「へん、無許可で学校やってんだ。縛らないわけがねえだろ?」
ヒカリ「私は無償で教育を行っているんです。ここは学校ではありません!」
ヒカリが聞いたこともないような大きな声でキッパリとそう言った。
「とか言いながら、しっかりと徴収してんじゃねぇか?まあ、どうでもいいこの神社は1週間以内に取り壊されることになった。それを伝えに来ただけだ。じゃあな」
そう言い、男達は立ち去っていく。
「先生、誰ですか?あの人達」
ヒカリ「はあ、役所の人ですって。誰がそうするように指示したのかは分かりませんが、私の教育はダメだったようです」
ヒカリが落胆するように肩を落とす。
「そんな事ないよ。先生のお陰で魔法、使えるようになったし......」
私は励まそうとするが、上手く言葉が思いつかない。
ヒカリ「ありがとうございます。でも、ここは壊されることになってしまいました。ここにいてももうどうにもなりません。あの男達がもう一度来る前に帰ってください」
ヒカリが悲しそうにそう言った。
「でも......」
ヒカリ「いいんです。少しの間でしたけど、私の知識を多くの子供たちに与えることが出来たんですから」
ヒカリはそう言い笑顔を見せるが、それはどう見ても作り笑いにしか見えなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ただいま」
半年ぶりに帰る我が家。玄関から足を踏み入れると、何故かは知らないがどことなく寂しい感じがした。
ーーそう言えば、師匠のところに行く時、お姉ちゃんには何も言わなかったな。今更だけど。
「あれ?姉ちゃん居ないの?」
入る前から薄々感じてはいたが、どの部屋にも姉の姿は見当たらなかった。
「折角勉強してきた錬金術でも見せようかと思ったのに......」
私はそう呟き、自室のベッドの上に寝転がった。
神社が壊される。あの神社は私に生き方を教えてくれた大切な場所。絶対に壊させたくなんかない。でも、自分一人の力じゃ......
私は必死にあの神社を壊されない方法を考えたが、結局思いつかず寝てしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、翌日。
私は昨日ヒカリに言われたにも関わらず、神社に来ていた。理由は簡単、この神社の取り壊しを阻止するため。何ができるか知らないけど、魔法も錬金術も極めたんだし、何とかなるはず。
「あ、テミ......」
アルテミスの方が先に来ていた。
アルテミス「先生はああ言うけど、やっぱり壊されたくないなって思って......」
「考えは一緒か......」
私とアルテミスはしばしの間神社の方を見つめた。
「ほお、ガキがまだここに居るとはなぁ」
昨日と同じ声がした。
「ふーん?あの男はもう立ち去ったか......まあいい。お前らには色々と散々な目に合わされたからな。ここで一発その時の借りを返させてもらうぜ!」
男が訳の分からないことを言う。否、訳が分からない訳ではない。この声の主は森でアルテミスを襲っていたやつの声だった。
「ギガブリザード!」
私は男の突進を華麗にかわし、足元に氷を張る。
「やる気か......小娘」
「この神社は壊させない。ギガフィア!」
私は動きづらくなっている男達に向けて更なる追撃を仕掛ける。
「あの時のようにはいかねえよ!」
男達の中のうちの一人が攻撃をかわし、こちらにやってくる。
アルテミス「ウィンド!」
すかさずアルテミスがフォローを入れるが、男はそれもかわす。
「つーかまーえた」
呆気なく捕まってしまった。
「チッ手間かけさせやがって。さて、お嬢ちゃん達、おじさん達に逆らった罰は重いよォ?」
男が不気味な笑みを浮かべこちらを見てくる。今すぐにでも唾を吐きつけてやりたいところだが、首元を締められてるせいでそんな余裕がない。
ヒカリ「その子達に手を出さないでください」
ーーよく聞き慣れた声がした。
「おお、やっと先生のお出ましか......」
ヒカリ「その子達を離して下さい」
ヒカリが鬼の形相で男達を睨む。
「いいけどよォ、こいつら俺達に刃向かってきたんだぜ?この落とし前はどう付けたらいいんだ?」
ヒカリ「ーーどうせ、あなた達の目的は私を捕らえて牢に入れることでしょう?なら、私を捕まえなさい」
「やけに素直だな?」
男達はヒカリを囲うように移動する。
ヒカリ「ただし、その子達には今後一切手を触れないでください」
「......へん、分かったよ」
そう言い、男は私とアルテミスを解放した。
「先生!」
すかさず、私はヒカリに駆け寄ろうとする。
ヒカリ「ダメです!」
ヒカリが声でそれを制する。
「でも......」
ヒカリ「仕方のないことです。頑張ってた生きてください」
ヒカリはそう言い残し、男達に連られて行く。
「せんせーーーーーい!」
私は大声でそう叫んだが、返事が返ってくることはなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ただいま......」
私は止まない涙を手で拭いながら家の中に入る。
相変わらず、家には人の気配を感じない。ただ、何か違和感を感じる。なんか、鉄?みたいな金属くさい匂いがするのだ。
「お姉ちゃん?」
私は涙を手で拭い続け、昨日と同じように色々な部屋を開けていく。ただ、どこにも姉の姿は見当たらない。
「昨日といい、どこに行ったんだろう」
そう呟きながら、私は最後の1部屋であるリビングに足を踏み入れる。すると、鼻にツンと来るような刺激集がしてきた。
「お姉......ちゃん......?」
足元に赤い液体が広がっている。そして、その中心に姉の姿がある。
「お姉ちゃん。お姉ちゃん!」
私は体が赤い液体で濡れることを気にせず、姉の体を揺すり必死に声をかける。
「お姉ちゃん!」
姉からの返事はない。完全に息絶えている。
「そんな......嫌だ......嫌だ嫌だ嫌だ!」
私の目からまた別の涙が零れ落ちる。
「お姉ちゃーーーーーーん!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「誰かに殺されたらしいよ」
「可哀想に。犯人は分かっているのかい?」
「それが、全然わからないんだってさ。それにしても、こんな時に父親はどこに行ったんだろうね」
「そんなことよりも、あの子はどうなるんだろう」
「誰かが引き取るしかないよね」
葬式の最中、おばさん達が後ろでヒソヒソと話をしているのが聞こえる。
そして、前の方では今、まさに火葬が行われていた。
姉の死。それは先生を失って絶望していた私の心を更に黒く染めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、一通りの葬儀が終わり、皆が色々と話をしている。
アルテミス「ラク......」
アルテミスが声をかけてくる。
「うちで世話をしようにもどうすることも出来ない。済まないラクシュミー」
アルテミスの叔母が謝る。別に謝らなくたっていい。姉を失い、先生も失った時点でどこに行ったって生きていくのは難しいと思っている。
「よお、久しぶりだな。ラク」
ーー突然、後ろの方から声をかけられる。
「......あんた、ひょっとしてシヴァかい?」
叔母さんが目を丸くして驚いている。
「随分見ないうちに大きくなったねぇ......って言いたいところなんだが......」
「そんな雰囲気じゃねえよな」
叔母さんとシヴァと呼ばれた男の人が何やらよく分からない会話をしている。
「誰なの?この人」
私は思い切って問いかけてみる。
「あんたと5歳も差が離れている兄のシヴァだよ。お姉ちゃんから聞かされなかったかい?」
全くもって聞いたことがない。
シヴァ「まあ、俺の事なんてどうでもいい。それよりラクシュミーの引き取りで困っているんだったよな?」
「ええ、そうだけど......まさかあんたが引き取るつもりかい?」
シヴァ「当たり前だろ?それでいいだろ、ラクシュミー?」
シヴァが問いかけてくる。
「どうでもいい」
この状況で選択肢は1つしか無いだろう。私ではどこに行ったって嫌われる。なら、兄について行った方がいい。
シヴァ「そうか。じゃあ、ラクは俺が預かるからな」
「ああ、好きにしておくれ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うぅ......」
強烈な頭痛に頭を押さえ、痛む体を無理矢理起き上がらせる。
ーー何で今更こんなことを思い出したんだろう。
軋む首で辺りを見渡す。近くにいたのはミラだけだった。
「あ、無理しちゃダメよ」
ミラがこちらに気づき、駆け寄ってくる。
「み......んな......は......?」
やはり、声が上手く出せない。それでも最低限の言葉で問いかける。
「さっきね。解放軍の幹部全員を揃えた。この街から集中的に攻撃していくって『カゲロウ』ってやつが伝えに来て、それでみんなシヴァに連れられて敵の本拠地に向かったの」
「ダメ......だ......ラー......ス......に......勝てれ......る......訳が......ない......みんな......死んで......しまう......」
私は普段より重く感じる体を強引に起こし、部屋を出ようとする。
「ダメよ!そんな体で行っちゃぁ!」
「うる......さい......」
ミラを押し退け、強引に部屋を出ていった。
「とりあえず、こんな感じか」
私は地面に計画表を書くのをやめ棒を突き立てる。この計画表には向こう2週間の予定が刻まれている。
アルテミス「食糧調達係殆ど私じゃん」
それを見たアルテミスが愚痴をこぼす。
「だって、テミこの1週間で大分狩りの腕が上がったじゃん」
アルテミス「そりゃそうだけどさー」
「頑張ってねー」
アルテミスの不満に対して、私は軽く応援の言葉をかける。
アルテミス「ねえ、1つ聞くんだけど、この最終日に書いてある『魔獣討伐』って何?」
「え?その言葉のまんまだけど......」
アルテミス「いやいやいや、あんなの私達で倒せるわけないでしょ!」
「その為に2週間の準備期間を設けたんじゃん。四の五の言わず働け!」
アルテミス「ラクは闇教師かなんか!?」
「はいはい、うるさい子はお口にチャックですよー」
完全にバカにするようにそう言い、私はさっさと計画表の通りに動こうとする。それを見て、アルテミスが何か言い返そうとしたが、黙って森の中へと進んで行った。
「じゃ、私はエンドラル魔法の練習でもしましょうかねー」
『魔法も錬金術も一切禁止』って言うのは魔獣討伐に関してなら無視というのが私の頭の中でできている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
それから更に1週間とちょっと経った後での話である。
「はぁ、なんだかんだ言ってあの日から1ヶ月経つまで後もうちょっとねー」
私は木の葉っぱでできたベッドの上に寝転がりながらにそう言った。
「最初はどうなるかと思ったけどね」
アルテミスが同じように私の隣に寝転がり、そう言った。
「2週間とちょっと。多分、この1ヶ月が人生で1番頑張ってた期間になると思うんだけど」
アルテミス「これが終わったら本格的な修行が始まるかもしれないのに、よく言うねー」
「うん。でもさ、そっちの修行は確かにかなり厳しいかもしれないけど、ちゃんとしたご飯とか布団が用意されてるだけ楽だと思わない?」
アルテミス「それもそうね。というか、私は巻き込まれただけなんだけど......」
「結局、今は楽しんでるんだから良いじゃない」
アルテミス「そんな『終わりよければすべてよし』みたいな言い方しないでよ」
「ははは」
そして、私は特に意味もなく夜空を見上げる。
2週間前に作った雨避けだが、やはりというかもう既にボロボロになってできた隙間から空が見えるようになっていた。
アルテミス「星、綺麗だね」
「そうね。ーーねえ、質問の答え考えた?」
アルテミス「うん。なんとなくの答えは出たよ」
「『最も失いたくないものは何か』、考えてみれば結構簡単な質問だったよね」
アルテミス「ラクも答え、出たんだ」
「うん。答えは即ち...」
「勇気!」
アルテミス「勇気!」
2人の声がハモる。
「なんだ、考えてたこと一緒だったのか......」
アルテミス「何その残念そうな感想」
「いや、ただテミはどういう経緯でその考えに辿り着いたのかなぁって」
アルテミス「昔の偉い人が言ってたんだよ『金を失うのは小さく、名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失うことはすべてを失う』って」
「考え方も一緒か......」
私は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
アルテミス「それ、思いっ切りブーメランになって自分に突き刺さってるよ!」
「ふふ。さて、答えも出たんだし、明日はあの魔獣を討伐するわよ!」
私は起き上がりざまにそう言った。
アルテミス「ってまだ諦めてなかったの!?」
「当たり前じゃん。あんだけ挑戦して攻略法を構築してきたんだから!というわけで、明日行くから手伝ってね」
アルテミス「えぇ......」
アルテミスが諦めにも似たような表情で私を見上げた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、例によって翌日
私達は例の魔獣の住処の前に来ていた。
「グルルル」
魔獣が唸り声を上げる。
「ここであったが100年目!今日こそ捻り潰してくれる!」
私は手を銃のような形にし、魔獣に突きつけた。
「ギガフィア!」
私が詠唱すると同時に、魔獣の足元から炎が噴き上げる。
アルテミス「っていつの間にギガ魔法まで使えるようになったの!?」
アルテミスがビックリしている。
「ふっふーん。これも修行の成果ってやつでねぇ」
アルテミス「なら、わざわざミルさんに弟子入りしようとか思わなくてもよかったんじゃ......」
「それじゃあダメなの。私は錬金術を習いたくてこうしてるんだから。魔法はもういいの」
アルテミス「はいはい。そんなことよりもまだ魔獣はやる気だよ」
アルテミスが魔獣の方を指さしながら言う。
「すーっ、ギガサンダー!」
今度は掌を魔獣に向けて突き出し、雷を発生させる。
「グォォォオ」
かなりの手応えを感じた。後もう少しと言ったところだろうか。
「グオラァァァァ」
ーー突然、魔獣が酷く暴れ出しこちらに突っ込んでくる。
「ヤバっ......」
慌てて魔法を使おうとするが、この距離では間に合わない。
アルテミス「ウィンド!」
魔獣の足元に弱い風魔法が当たり、魔獣がラクシュミーの横を転がっていく。
アルテミス「強い魔法は発動までに時間がかかるんだから、こういう時は弱い魔法を使わないと......」
アルテミスが呆れたように言う。
「むぅ......ギガウィンド」
私は言い返すことが出来ず、魔獣にトドメの一撃を与える。
アルテミス「これで終わりね。それにしても、呆気ない殺られざまね」
アルテミスが魔獣の死骸を前に言う。
「所詮、その程度だったってことでしょ」
アルテミス「まあ、そうだけど。それより、本当に魔法使ってよかったのかな?」
「誰も見てないから大丈夫でしょ」
アルテミス「そういうもんかな?」
「そういうもんだって。さて、この死骸どうしようかな。焼いて食べちゃおっか」
アルテミス「えぇ......魔獣を食べるの......」
アルテミスが若干引き気味に言う。
「魔獣だって、元々はただの動物だったんだし、魔獣化してる元である瘴気を抜けば普通の生き物よ」
アルテミス「そうだったの!?」
「知らなかったの!?まあ、いいや。さっさとこれ持って帰ろう」
そう言い、私は魔獣の死骸を引っ張ってキャンプ地を目指した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その日の夜
ラクシュミー「だーかーらー!この魔獣化の元となってる瘴気の塊を見つけたら、ここをこうして、はい出来上がりって言ってるでしょー!」
ラクシュミーが全くもって訳の分からない瘴気の取り除き方?をやっている。
「何回見てもわからない」
ラクシュミー「じゃあ、もう教える意味ないじゃん」
「そもそも私、教えてなんて言ってないし......」
ラクシュミー「もう、せっかく最後の晩餐に魔獣の食べ方ってのを教えてあげようとしたのに......」
「最後の晩餐って私達、明日死ぬんか......」
ラクシュミー「はい、これ」
突然、ラクシュミーが何やら得体の知れないものを差し出してくる。
「何これ?」
ラクシュミー「見ての通り元魔獣の焼肉だけど」
「どう見ても焦げてない?」
ラクシュミー「まあ、元々魔獣だったから自然とそういう色になるのよ」
「えぇ......」
どこからどう見ても焦げているようにしか見えないせいで、全然食欲が湧かない。
ラクシュミー「まあ1回騙されたと思って食べてみなよ。意外とイケるって」
ラクシュミーがそう言いながら、美味しそうに肉を食べている。
「そ、そこまで言うなら......」
私も意を決して肉に齧り付く。
「ーー美味しい......」
見た目とは裏腹に、普通に美味しかった。
ラクシュミー「でしょ?」
そう言い、ラクシュミーは次から次へと肉に手を伸ばしている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ラクシュミー「はぁー美味しかった」
ラクシュミーがそう言いながら寝転がり、夜空を見上げる。私もそれに習って寝転がる。
星が綺麗だ。
「ねぇ、1ヶ月前のこと覚えてる?」
私は特に意味もなく問いかける。
ラクシュミー「ーー覚えてる。弟子入りをお願いして、OKを貰ったと思ったらこの島でサバイバルしろって......意味が分からなかった」
ラクシュミーが思い出を振り返るように目を瞑り言う。
「人間は水さえあれば2ヶ月は生きられる。でも、実際は色々な条件が噛み合って1ヶ月も生きられない。でも、生きることが出来たよね?」
ラクシュミー「それ覚えてたんだ」
「今思い出したんだけどね」
ラクシュミー「ふふ......明日が最終日かー」
「そういや、明日だったか」
ラクシュミー「そこで、私達が出した答えを師匠にぶつける。それが答えであることを信じて」
「それも大事だけど、明日の朝食はどうなってるの?」
ラクシュミー「あぁー!あの肉全部食べなきゃ良かったー!」
今更後悔しても遅かった。
魔獣の死骸を見ても、残っているのは食べるには難しい箇所だけだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
最終日
「最終日!」
私は特に意味もなく大声でそう言い、海に向かってモリを投げる。
「朝食ゲット」
投げたモリは、距離が結構離れていたにも関わらず、見事に魚に命中した。
ーーそして、3時間後。
ミル「さてと、後ろにある魔獣の死骸が気になるが、一旦それは置いといて『この世で最も失いたくないもの』の答えを聞かせてもらおうか」
目の前の巨乳の女性、ミルが訊ねてくる。
私は思わず息をのみ、アルテミスの方を見る。アルテミスもこちらを向いてきて頷く。
「「 この世で1番失いたくないもの。それは、勇気! 」」
2人は息を揃えて言う。
ミル「ほう、その心は?」
「金を失うのは小さく、名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失うことはすべてを失う。昔の偉い人がそう言ってた」
アルテミス「それを真似するわけじゃないけど、でも、勇気を失えば人は何も出来なくなる」
「そう考えたから、1番失いたくないものは『勇気』になった」
私達は早口でそう言い切った。
「ーーふっ、フハハハハッ」
突然、ミルが顔に手を当て笑い出した。
ミル「予想とはちょっと違うが、完璧な答えだな。よろしい、船に乗れ。ちゃんとした飯と布団が待っている」
しきりに笑った後ミルがそう言う。
「え、てことは......」
ミル「そうだ。合格だ」
「「 や、やったーーーー! 」」
私達はお互いを抱き合い、素直に喜びの感情を顕にした。
ミル「ところで、1つ聞きたいんだが、後ろにあるあの死骸はなんだ?」
「ああ、酷いじゃないですか師匠!魔獣居ないとか言ってたのに普通にいたじゃないですか!」
ミル「魔獣?ああ、『グリオン』のことか。普段は巣から出ないから大丈夫だと思ったんだが......」
アルテミス「いや、普通に襲ってきたんですけど......」
ミル「ふーん。まあいい。あれは近々討伐する予定だったから一石二鳥になったな」
「「 えぇ...... 」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「せーんせーーーーい!」
私は大きな声でそう言いながら、神社の戸を大きな音を立てて開けた。
「先生、ただいま帰ってきまし……」
そこで、私は言葉を失った。
ヒカリ「ああ、お帰りなさい。ラクシュミーさん。アルテミスさんは一緒じゃないんですか?」
ヒカリがそう問いかけてける。
「テミは今頃走って追いかけてきてると思うんだけどーー」
そこで、私は一旦言葉を区切る。そして、こう問いかけた。
「一応聞くんですけど、この子ら何ですか?」
ヒカリ「ああ、あなた達が居なくなるもんだから、近所のお母さん達から子供を預かって教育をしているんですよ」
「へ、へぇー......」
私はそれを聞いて、改めて子供たちの方に目を向ける。全員、私よりかなり幼く見える。言葉もそろそろ理解し出てきたがくらいの歳だ。
アルテミス「ちょっとラクはーやーいー!」
アルテミスが入ってくる。そして、同じように子供たちを見て言葉を失い、ヒカリが同じような流れで説明する。
ヒカリ「そんなことよりも、ちゃんと錬金術の勉強はできたんですか?」
そして説明が終わると同時に、ヒカリが話題を変えるために問いかけてくる。
「へへーん。バッチリ」
それに対して、私はVサインで答えた。
ヒカリ「それは良かった。で、どんな修行内容だったんですか?」
「…………」
「…………」
その質問に対しては私達は同時に固まった。
ヒカリ「あ、あのー何があったんでしょうか......」
「できれば......その質問はやめて欲しいかな......」
私はそう答える。
ヒカリ「あっ、そうですか」
ヒカリは何かを察したらしい。
「へぇ、また新しいガキが増えてんじゃねぇか」
ーー突然、後ろの方から男の声がした。
ヒカリ「また、あなた達ですか......」
ヒカリはそう言いながら、私とアルテミスを自身の後ろの方へ回す。
「へん、無許可で学校やってんだ。縛らないわけがねえだろ?」
ヒカリ「私は無償で教育を行っているんです。ここは学校ではありません!」
ヒカリが聞いたこともないような大きな声でキッパリとそう言った。
「とか言いながら、しっかりと徴収してんじゃねぇか?まあ、どうでもいいこの神社は1週間以内に取り壊されることになった。それを伝えに来ただけだ。じゃあな」
そう言い、男達は立ち去っていく。
「先生、誰ですか?あの人達」
ヒカリ「はあ、役所の人ですって。誰がそうするように指示したのかは分かりませんが、私の教育はダメだったようです」
ヒカリが落胆するように肩を落とす。
「そんな事ないよ。先生のお陰で魔法、使えるようになったし......」
私は励まそうとするが、上手く言葉が思いつかない。
ヒカリ「ありがとうございます。でも、ここは壊されることになってしまいました。ここにいてももうどうにもなりません。あの男達がもう一度来る前に帰ってください」
ヒカリが悲しそうにそう言った。
「でも......」
ヒカリ「いいんです。少しの間でしたけど、私の知識を多くの子供たちに与えることが出来たんですから」
ヒカリはそう言い笑顔を見せるが、それはどう見ても作り笑いにしか見えなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ただいま」
半年ぶりに帰る我が家。玄関から足を踏み入れると、何故かは知らないがどことなく寂しい感じがした。
ーーそう言えば、師匠のところに行く時、お姉ちゃんには何も言わなかったな。今更だけど。
「あれ?姉ちゃん居ないの?」
入る前から薄々感じてはいたが、どの部屋にも姉の姿は見当たらなかった。
「折角勉強してきた錬金術でも見せようかと思ったのに......」
私はそう呟き、自室のベッドの上に寝転がった。
神社が壊される。あの神社は私に生き方を教えてくれた大切な場所。絶対に壊させたくなんかない。でも、自分一人の力じゃ......
私は必死にあの神社を壊されない方法を考えたが、結局思いつかず寝てしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、翌日。
私は昨日ヒカリに言われたにも関わらず、神社に来ていた。理由は簡単、この神社の取り壊しを阻止するため。何ができるか知らないけど、魔法も錬金術も極めたんだし、何とかなるはず。
「あ、テミ......」
アルテミスの方が先に来ていた。
アルテミス「先生はああ言うけど、やっぱり壊されたくないなって思って......」
「考えは一緒か......」
私とアルテミスはしばしの間神社の方を見つめた。
「ほお、ガキがまだここに居るとはなぁ」
昨日と同じ声がした。
「ふーん?あの男はもう立ち去ったか......まあいい。お前らには色々と散々な目に合わされたからな。ここで一発その時の借りを返させてもらうぜ!」
男が訳の分からないことを言う。否、訳が分からない訳ではない。この声の主は森でアルテミスを襲っていたやつの声だった。
「ギガブリザード!」
私は男の突進を華麗にかわし、足元に氷を張る。
「やる気か......小娘」
「この神社は壊させない。ギガフィア!」
私は動きづらくなっている男達に向けて更なる追撃を仕掛ける。
「あの時のようにはいかねえよ!」
男達の中のうちの一人が攻撃をかわし、こちらにやってくる。
アルテミス「ウィンド!」
すかさずアルテミスがフォローを入れるが、男はそれもかわす。
「つーかまーえた」
呆気なく捕まってしまった。
「チッ手間かけさせやがって。さて、お嬢ちゃん達、おじさん達に逆らった罰は重いよォ?」
男が不気味な笑みを浮かべこちらを見てくる。今すぐにでも唾を吐きつけてやりたいところだが、首元を締められてるせいでそんな余裕がない。
ヒカリ「その子達に手を出さないでください」
ーーよく聞き慣れた声がした。
「おお、やっと先生のお出ましか......」
ヒカリ「その子達を離して下さい」
ヒカリが鬼の形相で男達を睨む。
「いいけどよォ、こいつら俺達に刃向かってきたんだぜ?この落とし前はどう付けたらいいんだ?」
ヒカリ「ーーどうせ、あなた達の目的は私を捕らえて牢に入れることでしょう?なら、私を捕まえなさい」
「やけに素直だな?」
男達はヒカリを囲うように移動する。
ヒカリ「ただし、その子達には今後一切手を触れないでください」
「......へん、分かったよ」
そう言い、男は私とアルテミスを解放した。
「先生!」
すかさず、私はヒカリに駆け寄ろうとする。
ヒカリ「ダメです!」
ヒカリが声でそれを制する。
「でも......」
ヒカリ「仕方のないことです。頑張ってた生きてください」
ヒカリはそう言い残し、男達に連られて行く。
「せんせーーーーーい!」
私は大声でそう叫んだが、返事が返ってくることはなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ただいま......」
私は止まない涙を手で拭いながら家の中に入る。
相変わらず、家には人の気配を感じない。ただ、何か違和感を感じる。なんか、鉄?みたいな金属くさい匂いがするのだ。
「お姉ちゃん?」
私は涙を手で拭い続け、昨日と同じように色々な部屋を開けていく。ただ、どこにも姉の姿は見当たらない。
「昨日といい、どこに行ったんだろう」
そう呟きながら、私は最後の1部屋であるリビングに足を踏み入れる。すると、鼻にツンと来るような刺激集がしてきた。
「お姉......ちゃん......?」
足元に赤い液体が広がっている。そして、その中心に姉の姿がある。
「お姉ちゃん。お姉ちゃん!」
私は体が赤い液体で濡れることを気にせず、姉の体を揺すり必死に声をかける。
「お姉ちゃん!」
姉からの返事はない。完全に息絶えている。
「そんな......嫌だ......嫌だ嫌だ嫌だ!」
私の目からまた別の涙が零れ落ちる。
「お姉ちゃーーーーーーん!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「誰かに殺されたらしいよ」
「可哀想に。犯人は分かっているのかい?」
「それが、全然わからないんだってさ。それにしても、こんな時に父親はどこに行ったんだろうね」
「そんなことよりも、あの子はどうなるんだろう」
「誰かが引き取るしかないよね」
葬式の最中、おばさん達が後ろでヒソヒソと話をしているのが聞こえる。
そして、前の方では今、まさに火葬が行われていた。
姉の死。それは先生を失って絶望していた私の心を更に黒く染めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、一通りの葬儀が終わり、皆が色々と話をしている。
アルテミス「ラク......」
アルテミスが声をかけてくる。
「うちで世話をしようにもどうすることも出来ない。済まないラクシュミー」
アルテミスの叔母が謝る。別に謝らなくたっていい。姉を失い、先生も失った時点でどこに行ったって生きていくのは難しいと思っている。
「よお、久しぶりだな。ラク」
ーー突然、後ろの方から声をかけられる。
「......あんた、ひょっとしてシヴァかい?」
叔母さんが目を丸くして驚いている。
「随分見ないうちに大きくなったねぇ......って言いたいところなんだが......」
「そんな雰囲気じゃねえよな」
叔母さんとシヴァと呼ばれた男の人が何やらよく分からない会話をしている。
「誰なの?この人」
私は思い切って問いかけてみる。
「あんたと5歳も差が離れている兄のシヴァだよ。お姉ちゃんから聞かされなかったかい?」
全くもって聞いたことがない。
シヴァ「まあ、俺の事なんてどうでもいい。それよりラクシュミーの引き取りで困っているんだったよな?」
「ええ、そうだけど......まさかあんたが引き取るつもりかい?」
シヴァ「当たり前だろ?それでいいだろ、ラクシュミー?」
シヴァが問いかけてくる。
「どうでもいい」
この状況で選択肢は1つしか無いだろう。私ではどこに行ったって嫌われる。なら、兄について行った方がいい。
シヴァ「そうか。じゃあ、ラクは俺が預かるからな」
「ああ、好きにしておくれ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うぅ......」
強烈な頭痛に頭を押さえ、痛む体を無理矢理起き上がらせる。
ーー何で今更こんなことを思い出したんだろう。
軋む首で辺りを見渡す。近くにいたのはミラだけだった。
「あ、無理しちゃダメよ」
ミラがこちらに気づき、駆け寄ってくる。
「み......んな......は......?」
やはり、声が上手く出せない。それでも最低限の言葉で問いかける。
「さっきね。解放軍の幹部全員を揃えた。この街から集中的に攻撃していくって『カゲロウ』ってやつが伝えに来て、それでみんなシヴァに連れられて敵の本拠地に向かったの」
「ダメ......だ......ラー......ス......に......勝てれ......る......訳が......ない......みんな......死んで......しまう......」
私は普段より重く感じる体を強引に起こし、部屋を出ようとする。
「ダメよ!そんな体で行っちゃぁ!」
「うる......さい......」
ミラを押し退け、強引に部屋を出ていった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる