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外伝 【白と黒の英雄】
外伝10 【鬼の涙】
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「オラオラオラオラァ!」
暗殺隊の動きは、ベルディア姉さんが指揮していたものと同じように素早かった。
動き出してから、ものの数分で集落の半分ほどを占領してしまった。ベルディア姉さんが敵に回らなくて本当に良かったと思う。ただ、それは指揮官が姉さんの時に限った話だ。
アイリスは、恐らく他の黒装束に紛れて行動しているだろう。そして、狙う相手は夜叉丸さん。
半分ほどを占領されたとは言っても、後退させられているわけではない。私達を取り囲むように、ジワジワと攻めてきている。誰一人として逃がさないつもりだ。
「クソっ、こいつら俺達を皆殺しにするつもりだ!」
1人、激しく暴れ回っていた羅刹がようやくそのことに気づいた。
「羅刹さん!できるだけ、一方向だけを攻撃し続けてください!いざという時の逃げ道にします!」
「分かった!龍人!」
羅刹がネイの言う通りに、暗殺隊が攻めてきた方とは逆方向を攻め始める。
「ごめんなさい!」
私も、負けずまいと暗殺隊の戦力を削ぎ落としていく。もちろん、殺しは嫌なので、戦闘継続が不可能なほどの怪我をさせる程度。殺されるよりも、怪我人を増やされる方が戦ってて辛いと、ミューエに教わったが、向こうは怪我人など気にせず攻め続けてきている。
怪我をしたら自業自得。そういう集まりなのだろう。
「うぁぁぁぁ!」
「いやぁぁぁ!」
遠くない場所から悲鳴、呻き声が聞こえる。暗殺隊の隊員は、やられたとしても一切声を上げない。これは郷の人達の声。
「お願いだからっ!私のために死んでよ!」
アイリスのことも気にしなくてはならない。そのために羅刹と共に行動している。彼女も助け出さなければならない人物である。戦力の増加が目的ではない。純粋に、彼女を助けたいという気持ちからだ。
《シュッ......》
2本のナイフが、私目掛けて飛んできた。
投げたのは、他の黒装束と比べて、異様な存在感を放つ人物。フードを被っていてよく顔が見えないが、恐らく......。
「......てめぇ、アイリスか?」
私目掛けて飛んできたナイフを、羅刹が横からキャッチし、その黒装束に向かって問いかける。
《シュッシュッ......》
黒装束は、答える代わりに再びナイフを投げてくる。
「黙りかよ。まあ、自分がアイリスだって言っちまったら、一族への裏切りになるもんなぁ?」
「......余計なことは喋らなくていい」
「......あーそうかよ。全く、こんな姿をセルカに見られたらどうなるのか知ってるだろ?」
「知ってる。でも、セルカを助けるためには......」
「......まだ諦めれてねえのか」
「当たり前だ!私は一分一秒だろうと、あの子を助けることを諦めたことはない!だから、私のために死んで!」
突然、アイリスが武器を剣に持ち替えて、羅刹に襲いかかる。
羅刹の方は、それを軽く流すと、持っていたアイリスの2本のナイフでフードを破く。
「戦ってる時に泣くくらいなら、最初っから戦うな。お前じゃ俺は殺せれねえ」
アイリスの両の瞳から、止めどなく涙が溢れている。
(このままじゃ、私が見た景色と同じになってしまう)
どうにかして止めたいが、相手は暗殺のスキルに長けた者。剣を本格的に扱ったことが少ない私では、簡単にやられてしまう。
「デルシアさん、ちょっとーー」
「ネイさん、ちょっと手伝ってくれませんか!」
突如として現れたネイに、これ幸いと大きな声で協力を願う。
「あぇ、えぇー......」
「お願いします、ネイさん。どうにかして、あそこに見える女の子の方を、対話ができるまでに追い詰めてくれませんか!?」
「え、あの子ですか?でも、なんの意味が......」
「敵軍の大将なんですっ!あっちのうるさい男に殺される前に、どうにかして話ができる状態にしたいんです!」
「......分かりました。なるべく頑張ります」
ネイの目がスっと変わる。そして、すぐには動き出さず、2人の様子を伺っている。
「デルシア、周りの兵を全員鎮めてろ。でなければ話はできない」
「......!?」
「分かったか!」
「は、はい!」
なんだ?今のネイの話し方は。普段の臆病な感じとは正反対の話し方。ジークではない。それだけは分かった。
私は、素直にネイに言われた通りに周りに残る兵達を鎮めにかかる。
「心配しなくても、抑えられたら呼ぶ」
「分かりました!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「戦ってる時に泣くくらいなら、最初っから戦うな」
羅刹に言われた言葉が胸に響いている。
頬を伝う涙を指先で拭い、ナイフを構え直す。
「お願い............さん............」
「え............ですか......」
羅刹の後ろにいる少女2人がヒソヒソと話をしている。恐らく、作戦でも伝えあっているのだろう。だが、私はどんな策で攻めてこようが防ぎきってみせる。
それが、セルカを助けるために必要なことなのだから。
「......泣き虫タイムは終わったか」
「黙れ」
相変わらずの煽りを見せる羅刹に向け、2本のナイフを投げつける。
「ナイフ投げの技も、俺の方が1枚上だ」
羅刹が、先程素手で回収した私のナイフを投げ、見事にこちらが投げつけたナイフにぶつける。
やはり、何年経とうが、羅刹に勝つことはできない。彼は強い。その強さが羨ましい。
「お願いだから......私のために死んでよ」
「よく聞こえねぇ。言いたいことあんならもっとハッキリと言え」
羅刹が耳の穴を小指でほじりながらそう言う。余裕の表れだ。
「お願いだからっ!私のために死んでよ!」
「悪ぃが、俺にはこの郷の奴らを守る使命があんだよ。てめぇにどんな事情があろうが、俺は道を譲らねぇ」
羅刹の瞳に、力が入ったような気がした。物凄い気迫も感じる。
「アイリスよォ......、お前に何があったのかは分かってるつもりだ!そして、お前だってこの郷が好きだったはずだ!なのに、なんで攻めてきやがったんだ!」
「仕方ないじゃない......。妹を守るためには、こうするしかなかったんだから......」
再び、両の頬に涙が伝っていく。
投げた2本のナイフは、羅刹に当たらず、代わりに羅刹の刃が私の喉元にまで迫る。
「悪ぃアイリス。セルカのことは任せとけ」
戦ってる最中はよく見えなかったが、羅刹も涙を流していた。
このまま死ぬ。その実感が湧いてきた。羅刹ならば、きっとセルカを助け出してくれるだろう。ごめんなさい、セルカ......。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「悪ぃアイリス。セルカのことは任せとけ」
アイリスの喉元に、愛用の剣を当てる。
このまま斜めに斬れば終わり。それだけの話だが、剣を握る手が震えている。
郷を守る。それが俺の使命であり、攻めてきたやつは容赦なく叩き潰す。そう決めていたのに、なぜここに来て迷いが出る。
「殺す勇気がねえならその女からどけ」
突然、後ろから殺気に満ちた少女の声がする。
「なんでここにいやがんだ」
「邪魔だ。青ガキ。敵だと割り切っているのなら殺せるはずだ。それができないのは、お前がまだまだガキだからだ」
「んだと?」
俺がまだまだガキだと?そんなわけない。俺には立派な使命がついている。強さだって、親父を除けばこの郷で1番だ。それを、なんでこんな女龍人に言われなければならない。
「てめぇ、誰に向かって口聞いてーー」
「邪魔だ」
俺の言葉に被さるようにしてそいつが言う。
「邪魔だ」。たった一言なのに、凄まじい殺気を感じる。
「どいつもこいつもガキだ。届きもしない夢を抱いて、自分の実力に酔っ払って、ありもしない理想を追い求める。ハッキリ言ってバカだ」
冷たく、心までをも凍らせるほど冷たい言葉。昼間に見た時とは全然違う。全てを見透かしたように話すそいつの目は、『色』が無かった。
「お前もバカなやつだ。こんなところで死んじまったらセルカも殺される。もっと悪足掻きしろ。今のお前がとった行動は、ただ妹を早死させるだけだ」
そいつは、アイリスにも同じように冷たい言葉を投げかける。
「デルシア、話をするなら今だ」
「ーーはい!」
少し離れたところから、あの革命軍のリーダーの声がしてくるーー
ーー
「アイリス......さんでしたっけ?」
駆けつけてきたデルシアが、すぐさまアイリスと向き合い、話を始める。一体何をしようというのだ。
アイリスは、涙を流したまま首を縦に振る。
「突然ですみません。私はデルシアと言います。アイリスさんの事情はいくらか知っています」
その言葉に、アイリスはキョトンとしたように首を傾げる。一体、こいつらはアイリスに何をしようってんだ。
「セルカさんのこと、よければ私達に任せてもらえませんか?」
「なっ、何を言う!」
「落ち着いて聞いてください。私は黒月の人間ではありませんが、黒月にベルディアという頼れる仲間を持っています」
「ベルディア様......?」
「はい。姉さんと私達に任せてもらえば、セルカさんは必ず助け出してみせます」
「......あなたがデルシア様であることは信じましょう。しかし、いくらあなた様とてセルカを助け出すことなど無理です」
そらそうだ。こんなヤツらがアイリスが何年かけても助け出せなかったセルカを簡単に救い出せるわけがない。
なのに、なぜかこの女にはそれができてしまうような気がする。
「お願いしますアイリスさん。私達を信じてください」
信じろ、なんてこの女に言っても無駄だ。セルカを連れ去られたその日から、こいつには人を信じることなどできなくなっているのだから。
「......あなた達にセルカのことを任せ切りにはできません」
「そう......ですか」
デルシアが落胆したように肩を落とす。
「ですが、あなた達に力を借りたい」
アイリスの目付きがハッキリしたものへと変わる。
「私を、デルシア様とともに行かせてください。セルカさえ助け出せれば、あとはどう使ってくれようが構いません!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
目の前で言葉を投げ合う2人の少女。
片方は上客のデルシア様。もう1人は、数年前にいなくなったアイリス。
アイリスがいなくなった原因は大方分かった。なぜ、この郷に攻めてきたのかも......。
例え、最初から相手がアイリスだと分かっていたとしても、敵は皆殺しにするつもりだったが、アイリスの事情を知り、デルシアの交渉が成功した今、考えを改める必要がある。
「おじい様?」
バレないようにしていたつもりだったが、アイリスに気づかれてしまった。
「心配しなくても、儂はお前を殺すつもりはない」
普段は出さないような、優しい声でそっと言う。
「すみません......」
「謝るな。話は全部聞こえとる。ようは、この郷の支配権を黒月に渡せばいいんだろ」
その質問に、アイリスがゆっくりと頷く。
「残念だが、それだけは無理だ」
「......はい」
「ただ、諦めることはない。先程、もう1人の上客が来た」
「「「 ? 」」」
全員が呆けた面をしている。
「デルシア、一昨日ぶり」
「べ、ベルディア姉さん!?」
「ごめんねぇ。あまりにも心配だったからゼータを向こうに置いて、途中から引き返しちゃった」
「え、えぇ......」
「それで、話は大体この人から聞いたんだけれど、セルカの救出、私達が手伝ってあげるわ」
「ど、どういうことですか!?」
「そのままの意味よ。私なら城で何をしようが怪しまれることはないわ。この郷がどうなったか、については嘘を流しとけば2日3日は持つわよ。その間に、あなたと私でセルカを助け出しましょう」
アイリスがかなり難しそうな顔で悩んでいる。
デルシア様の仲間であることは理解できているだろうが、正直2、3日でできるとは到底思えない。
それでも、降って湧いたチャンスではある。どうするかは、彼女次第、といったところか。
「デルシア様。そしてベルディア様。このようなまたとない機会を作って頂きありがとうございます。ベルディア様の提言に乗らせてもらえませんか」
「じゃ、セルカをたったの2、3日で救い出す方向でいいのね?」
「はい!」
「いい顔だわ。デルシア、何度も言うようだけど、こっちは任せておいて。セルカを救出したら、すぐに助けに向かうから」
「は、はい姉さん......。助けに向かう?」
「あ、そういえば言い忘れてたわね。今、アルフレア兄様がギリエア大橋に向けて進軍しているわ。それと、白陽の軍も同時に橋に向かってる。ここで両軍がぶつかれば、間違いなくあなたの助けたい人達が死ぬわ」
なにやら、重大な話を聞かされているようだが、黙って聞いておこう。
「両軍が衝突するまで、あと1週間程度。私とこの子が持ってる暗殺隊の指揮権はデルシアに託すわ。あとは、どうにかして戦いを停めなさい。お姉ちゃんは、あなたを信じたから」
「......はい。必ず、止めてみせます」
「若さっていうのはいいもんだ」
ここ最近、ガイルがよく言っていた言葉が脳を過る。本当に、若さというのはいい。そろそろ、羅刹にも新しい使命を与えてやる時か......
「おい、クソ息子!」
「なんだクソ親父!」
「お前に新しい使命を与えてやる!」
「断る!」
「デルシア様と共に行け!そしてデルシア様の理想を叶えてこい!」
「断るって言っただろ!」
「黙れクソガキ!お前の新しい使命はそれだ!郷を守ることは儂らに任せとけ!」
「親父なんかに任せられるか!」
「いいから行け!クソ息子!いや、羅刹!」
そう叫びながら、腰に携えてある剣を鞘ごと投げつける。
「痛って、いきなり何すんだ!」
「それは『鬼の刃』。この郷で1番強い刀だ!」
「......なんでそんなものを!」
「期待しておるからだ!クソ坊主!」
「......分かった。親父の期待を180度上回ってやる!」
いい顔してる。
やる気に満ちた、いい顔だ。
昔の儂も、こんな顔をしていた時期があったような......。
そんな感慨深い思いもあるが、今は見守る時。せいぜいガイルと共に悪巧みでもしておこう。
「おじい様。本日はこのようなご無礼をしてしまい、申し訳ございませんでした」
「おう!セルカを連れ帰ってきたら全部許してやる。頑張れアイリス」
「はい!」
暗殺隊の動きは、ベルディア姉さんが指揮していたものと同じように素早かった。
動き出してから、ものの数分で集落の半分ほどを占領してしまった。ベルディア姉さんが敵に回らなくて本当に良かったと思う。ただ、それは指揮官が姉さんの時に限った話だ。
アイリスは、恐らく他の黒装束に紛れて行動しているだろう。そして、狙う相手は夜叉丸さん。
半分ほどを占領されたとは言っても、後退させられているわけではない。私達を取り囲むように、ジワジワと攻めてきている。誰一人として逃がさないつもりだ。
「クソっ、こいつら俺達を皆殺しにするつもりだ!」
1人、激しく暴れ回っていた羅刹がようやくそのことに気づいた。
「羅刹さん!できるだけ、一方向だけを攻撃し続けてください!いざという時の逃げ道にします!」
「分かった!龍人!」
羅刹がネイの言う通りに、暗殺隊が攻めてきた方とは逆方向を攻め始める。
「ごめんなさい!」
私も、負けずまいと暗殺隊の戦力を削ぎ落としていく。もちろん、殺しは嫌なので、戦闘継続が不可能なほどの怪我をさせる程度。殺されるよりも、怪我人を増やされる方が戦ってて辛いと、ミューエに教わったが、向こうは怪我人など気にせず攻め続けてきている。
怪我をしたら自業自得。そういう集まりなのだろう。
「うぁぁぁぁ!」
「いやぁぁぁ!」
遠くない場所から悲鳴、呻き声が聞こえる。暗殺隊の隊員は、やられたとしても一切声を上げない。これは郷の人達の声。
「お願いだからっ!私のために死んでよ!」
アイリスのことも気にしなくてはならない。そのために羅刹と共に行動している。彼女も助け出さなければならない人物である。戦力の増加が目的ではない。純粋に、彼女を助けたいという気持ちからだ。
《シュッ......》
2本のナイフが、私目掛けて飛んできた。
投げたのは、他の黒装束と比べて、異様な存在感を放つ人物。フードを被っていてよく顔が見えないが、恐らく......。
「......てめぇ、アイリスか?」
私目掛けて飛んできたナイフを、羅刹が横からキャッチし、その黒装束に向かって問いかける。
《シュッシュッ......》
黒装束は、答える代わりに再びナイフを投げてくる。
「黙りかよ。まあ、自分がアイリスだって言っちまったら、一族への裏切りになるもんなぁ?」
「......余計なことは喋らなくていい」
「......あーそうかよ。全く、こんな姿をセルカに見られたらどうなるのか知ってるだろ?」
「知ってる。でも、セルカを助けるためには......」
「......まだ諦めれてねえのか」
「当たり前だ!私は一分一秒だろうと、あの子を助けることを諦めたことはない!だから、私のために死んで!」
突然、アイリスが武器を剣に持ち替えて、羅刹に襲いかかる。
羅刹の方は、それを軽く流すと、持っていたアイリスの2本のナイフでフードを破く。
「戦ってる時に泣くくらいなら、最初っから戦うな。お前じゃ俺は殺せれねえ」
アイリスの両の瞳から、止めどなく涙が溢れている。
(このままじゃ、私が見た景色と同じになってしまう)
どうにかして止めたいが、相手は暗殺のスキルに長けた者。剣を本格的に扱ったことが少ない私では、簡単にやられてしまう。
「デルシアさん、ちょっとーー」
「ネイさん、ちょっと手伝ってくれませんか!」
突如として現れたネイに、これ幸いと大きな声で協力を願う。
「あぇ、えぇー......」
「お願いします、ネイさん。どうにかして、あそこに見える女の子の方を、対話ができるまでに追い詰めてくれませんか!?」
「え、あの子ですか?でも、なんの意味が......」
「敵軍の大将なんですっ!あっちのうるさい男に殺される前に、どうにかして話ができる状態にしたいんです!」
「......分かりました。なるべく頑張ります」
ネイの目がスっと変わる。そして、すぐには動き出さず、2人の様子を伺っている。
「デルシア、周りの兵を全員鎮めてろ。でなければ話はできない」
「......!?」
「分かったか!」
「は、はい!」
なんだ?今のネイの話し方は。普段の臆病な感じとは正反対の話し方。ジークではない。それだけは分かった。
私は、素直にネイに言われた通りに周りに残る兵達を鎮めにかかる。
「心配しなくても、抑えられたら呼ぶ」
「分かりました!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「戦ってる時に泣くくらいなら、最初っから戦うな」
羅刹に言われた言葉が胸に響いている。
頬を伝う涙を指先で拭い、ナイフを構え直す。
「お願い............さん............」
「え............ですか......」
羅刹の後ろにいる少女2人がヒソヒソと話をしている。恐らく、作戦でも伝えあっているのだろう。だが、私はどんな策で攻めてこようが防ぎきってみせる。
それが、セルカを助けるために必要なことなのだから。
「......泣き虫タイムは終わったか」
「黙れ」
相変わらずの煽りを見せる羅刹に向け、2本のナイフを投げつける。
「ナイフ投げの技も、俺の方が1枚上だ」
羅刹が、先程素手で回収した私のナイフを投げ、見事にこちらが投げつけたナイフにぶつける。
やはり、何年経とうが、羅刹に勝つことはできない。彼は強い。その強さが羨ましい。
「お願いだから......私のために死んでよ」
「よく聞こえねぇ。言いたいことあんならもっとハッキリと言え」
羅刹が耳の穴を小指でほじりながらそう言う。余裕の表れだ。
「お願いだからっ!私のために死んでよ!」
「悪ぃが、俺にはこの郷の奴らを守る使命があんだよ。てめぇにどんな事情があろうが、俺は道を譲らねぇ」
羅刹の瞳に、力が入ったような気がした。物凄い気迫も感じる。
「アイリスよォ......、お前に何があったのかは分かってるつもりだ!そして、お前だってこの郷が好きだったはずだ!なのに、なんで攻めてきやがったんだ!」
「仕方ないじゃない......。妹を守るためには、こうするしかなかったんだから......」
再び、両の頬に涙が伝っていく。
投げた2本のナイフは、羅刹に当たらず、代わりに羅刹の刃が私の喉元にまで迫る。
「悪ぃアイリス。セルカのことは任せとけ」
戦ってる最中はよく見えなかったが、羅刹も涙を流していた。
このまま死ぬ。その実感が湧いてきた。羅刹ならば、きっとセルカを助け出してくれるだろう。ごめんなさい、セルカ......。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「悪ぃアイリス。セルカのことは任せとけ」
アイリスの喉元に、愛用の剣を当てる。
このまま斜めに斬れば終わり。それだけの話だが、剣を握る手が震えている。
郷を守る。それが俺の使命であり、攻めてきたやつは容赦なく叩き潰す。そう決めていたのに、なぜここに来て迷いが出る。
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「なんでここにいやがんだ」
「邪魔だ。青ガキ。敵だと割り切っているのなら殺せるはずだ。それができないのは、お前がまだまだガキだからだ」
「んだと?」
俺がまだまだガキだと?そんなわけない。俺には立派な使命がついている。強さだって、親父を除けばこの郷で1番だ。それを、なんでこんな女龍人に言われなければならない。
「てめぇ、誰に向かって口聞いてーー」
「邪魔だ」
俺の言葉に被さるようにしてそいつが言う。
「邪魔だ」。たった一言なのに、凄まじい殺気を感じる。
「どいつもこいつもガキだ。届きもしない夢を抱いて、自分の実力に酔っ払って、ありもしない理想を追い求める。ハッキリ言ってバカだ」
冷たく、心までをも凍らせるほど冷たい言葉。昼間に見た時とは全然違う。全てを見透かしたように話すそいつの目は、『色』が無かった。
「お前もバカなやつだ。こんなところで死んじまったらセルカも殺される。もっと悪足掻きしろ。今のお前がとった行動は、ただ妹を早死させるだけだ」
そいつは、アイリスにも同じように冷たい言葉を投げかける。
「デルシア、話をするなら今だ」
「ーーはい!」
少し離れたところから、あの革命軍のリーダーの声がしてくるーー
ーー
「アイリス......さんでしたっけ?」
駆けつけてきたデルシアが、すぐさまアイリスと向き合い、話を始める。一体何をしようというのだ。
アイリスは、涙を流したまま首を縦に振る。
「突然ですみません。私はデルシアと言います。アイリスさんの事情はいくらか知っています」
その言葉に、アイリスはキョトンとしたように首を傾げる。一体、こいつらはアイリスに何をしようってんだ。
「セルカさんのこと、よければ私達に任せてもらえませんか?」
「なっ、何を言う!」
「落ち着いて聞いてください。私は黒月の人間ではありませんが、黒月にベルディアという頼れる仲間を持っています」
「ベルディア様......?」
「はい。姉さんと私達に任せてもらえば、セルカさんは必ず助け出してみせます」
「......あなたがデルシア様であることは信じましょう。しかし、いくらあなた様とてセルカを助け出すことなど無理です」
そらそうだ。こんなヤツらがアイリスが何年かけても助け出せなかったセルカを簡単に救い出せるわけがない。
なのに、なぜかこの女にはそれができてしまうような気がする。
「お願いしますアイリスさん。私達を信じてください」
信じろ、なんてこの女に言っても無駄だ。セルカを連れ去られたその日から、こいつには人を信じることなどできなくなっているのだから。
「......あなた達にセルカのことを任せ切りにはできません」
「そう......ですか」
デルシアが落胆したように肩を落とす。
「ですが、あなた達に力を借りたい」
アイリスの目付きがハッキリしたものへと変わる。
「私を、デルシア様とともに行かせてください。セルカさえ助け出せれば、あとはどう使ってくれようが構いません!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
目の前で言葉を投げ合う2人の少女。
片方は上客のデルシア様。もう1人は、数年前にいなくなったアイリス。
アイリスがいなくなった原因は大方分かった。なぜ、この郷に攻めてきたのかも......。
例え、最初から相手がアイリスだと分かっていたとしても、敵は皆殺しにするつもりだったが、アイリスの事情を知り、デルシアの交渉が成功した今、考えを改める必要がある。
「おじい様?」
バレないようにしていたつもりだったが、アイリスに気づかれてしまった。
「心配しなくても、儂はお前を殺すつもりはない」
普段は出さないような、優しい声でそっと言う。
「すみません......」
「謝るな。話は全部聞こえとる。ようは、この郷の支配権を黒月に渡せばいいんだろ」
その質問に、アイリスがゆっくりと頷く。
「残念だが、それだけは無理だ」
「......はい」
「ただ、諦めることはない。先程、もう1人の上客が来た」
「「「 ? 」」」
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「デルシア、一昨日ぶり」
「べ、ベルディア姉さん!?」
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「え、えぇ......」
「それで、話は大体この人から聞いたんだけれど、セルカの救出、私達が手伝ってあげるわ」
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「そのままの意味よ。私なら城で何をしようが怪しまれることはないわ。この郷がどうなったか、については嘘を流しとけば2日3日は持つわよ。その間に、あなたと私でセルカを助け出しましょう」
アイリスがかなり難しそうな顔で悩んでいる。
デルシア様の仲間であることは理解できているだろうが、正直2、3日でできるとは到底思えない。
それでも、降って湧いたチャンスではある。どうするかは、彼女次第、といったところか。
「デルシア様。そしてベルディア様。このようなまたとない機会を作って頂きありがとうございます。ベルディア様の提言に乗らせてもらえませんか」
「じゃ、セルカをたったの2、3日で救い出す方向でいいのね?」
「はい!」
「いい顔だわ。デルシア、何度も言うようだけど、こっちは任せておいて。セルカを救出したら、すぐに助けに向かうから」
「は、はい姉さん......。助けに向かう?」
「あ、そういえば言い忘れてたわね。今、アルフレア兄様がギリエア大橋に向けて進軍しているわ。それと、白陽の軍も同時に橋に向かってる。ここで両軍がぶつかれば、間違いなくあなたの助けたい人達が死ぬわ」
なにやら、重大な話を聞かされているようだが、黙って聞いておこう。
「両軍が衝突するまで、あと1週間程度。私とこの子が持ってる暗殺隊の指揮権はデルシアに託すわ。あとは、どうにかして戦いを停めなさい。お姉ちゃんは、あなたを信じたから」
「......はい。必ず、止めてみせます」
「若さっていうのはいいもんだ」
ここ最近、ガイルがよく言っていた言葉が脳を過る。本当に、若さというのはいい。そろそろ、羅刹にも新しい使命を与えてやる時か......
「おい、クソ息子!」
「なんだクソ親父!」
「お前に新しい使命を与えてやる!」
「断る!」
「デルシア様と共に行け!そしてデルシア様の理想を叶えてこい!」
「断るって言っただろ!」
「黙れクソガキ!お前の新しい使命はそれだ!郷を守ることは儂らに任せとけ!」
「親父なんかに任せられるか!」
「いいから行け!クソ息子!いや、羅刹!」
そう叫びながら、腰に携えてある剣を鞘ごと投げつける。
「痛って、いきなり何すんだ!」
「それは『鬼の刃』。この郷で1番強い刀だ!」
「......なんでそんなものを!」
「期待しておるからだ!クソ坊主!」
「......分かった。親父の期待を180度上回ってやる!」
いい顔してる。
やる気に満ちた、いい顔だ。
昔の儂も、こんな顔をしていた時期があったような......。
そんな感慨深い思いもあるが、今は見守る時。せいぜいガイルと共に悪巧みでもしておこう。
「おじい様。本日はこのようなご無礼をしてしまい、申し訳ございませんでした」
「おう!セルカを連れ帰ってきたら全部許してやる。頑張れアイリス」
「はい!」
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