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外伝 【白と黒の英雄】
外伝12 【白と黒の交わる夜】
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満月が照らす、この大陸最大の橋。ギリエア大橋。
その橋が放つ、他とは違う圧倒的な存在感。その存在感は、きっと歴戦の勇者達が物語っているのだろう。
この橋は、白陽と黒月が誕生するよりも前から、戦地として度々血の海に浸っていた。そのせいか、橋は全体的に赤く染っている。
古代人がどうやって建設したのかは知らないが、この何千年も存在する橋は、まるで宝石のルビーのように、赤々と輝いていた。
そんな戦場の代名詞かのような場所で、再び戦が起きようとしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いいか貴様ら。まもなくこの橋を黒月の軍が制圧にやってくる。1人たりともこちら側に入れるな。そして黒月の好きにさせるな!」
「「「 はっ! 」」」
白陽の軍隊がギリエア大橋に向けて進軍を開始する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「向こうがこの橋にやって来るのは予想外だったが、またとない好機だと思え。白陽を潰せ。1人たりとも逃がすな」
「「「 ...... 」」」
奇兵隊は何も言わずに、各自が持ち場へと移動する。
「オメガ」
散っていく奇兵隊、そして暗殺隊のうち、1人だけ只者ではない男の名を呼ぶ。
「暗殺隊の大部隊が無いことは痛手だが、いつも通りの強さを見せろ。貴様には期待しているところがある」
「......はっ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
赤く染まる大きな橋に、白と黒の軍隊が歩を進める。
陽月の開戦から9ヶ月、歴史が動いたとされる『虎玄の戦い』がまもなく始まる。
歴史を動かすのは白の軍隊か、はたまた黒の軍隊か。それとも、両軍の戦いを眺める、『異色』の軍隊か。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「もうすぐね。デルシア......」
「はい......」
遠目に見える赤く染った大きな橋。
私達とは反対の方向に白の軍勢。そして、やや左斜め前の方向に黒の軍勢。先頭に立って、軍を指揮しているのは、恐らく2人の兄。
「みなさん。最後に、作戦の確認をしたいのですが」
「はい。構いません」
「では、私達は、まず黒月の軍隊に接触します。暗殺隊を率いているのだから、向こうも考え無しには潰しに来ないと思われます。そしたら、軍を率いていると思われるアルフレアさんを、デルシアさんにどうにかして説得してもらいます」
アルフレアの説得。
正直、できたら奇跡だと思っている。いくら暗殺隊を後ろに率いていても、あの兄さんがどんな反応を示すかは未知数だ。向こうにシータがいれば、交渉は多少は楽になると思う。ただ、そんないるかどうかも分からないことを当てにしてはいられない。
「そして、説得に成功した場合ですが、黒月の軍隊に引き上げてもらいます。その時に暗殺隊の皆さんには、一旦散り散りになってもらいます。でないとシンゲンさんと対話することができないでしょうから。ちなみに、この説得もデルシアさん頼みです」
シンゲンの方も難しい。アルフレア兄さんは、暮らしていた期間とか、本人の意思とかで、いくらかは説得はしやすいだろうが、シンゲン兄さんの方は一緒に暮らしていた期間が短い上に、あの日の戦いのこともあるので、交渉はかなり難航すると思われる。というか、こんな大事な役回りを両方私がするだなんて。
「で、もし失敗した場合ですが、その時は力ずくで従ってもらうことにします」
なんともまぁ、大胆不敵なことを思いついたもんだ。話してダメなら暴力で従わせるとか......。力は正義なり、ということだろうか。
でも実際、その時のことを想定して軍隊を集めたという節はある。我ながらなんとも情けない。そうならないためにも、交渉は成功させる必要がある。
「どう?デルシア。いけそう?」
「うーん......、アルフレア兄さんの方はまだなんとかできそうですけど、シンゲン兄さんの方が......」
「一緒に暮らしていた期間が短い上、白陽側の人間もこちらにいないからね......」
せめてサツキくらいは、説得して傍に置いておきたかった。あの物分りのいい妹なら、きっと私の力になってくれるとは思ったのだが。時間が無さすぎた。
「皆様。まもなく、黒月軍がこちらに辿り着きます。総員、配置についてください」
「「「 ...... 」」」
ガンマの指示に、暗殺隊は物音を立てずに配置につく。返事をしないせいで、本当に通じているのかどうかが怪しくなる時がある。
「デルシアさん。チャンスは1度きりです。失敗したら、私の後も無くなるので頑張ってください」
「はい......。?」
あれ?今、物凄い自分勝手を押し付けられた気がするのだが......。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「もー、あの人達移動するのすっごく早いんだからー」
1人の少女が、その辺で手に入れた木の実を咥えて、木々の隙間を縫うようにすり抜けていく。
「かなりの長距離を追いかけたと思ったら、めちゃめちゃ寒い山に入るし、嫌だからって外で待ってたら寝てる間に勝手に行っちゃうし......」
やれやれといった感じで、少女はため息を1つこぼす。
「こんなことなら寒いとか言わずに、山に入ってればよかったよー」
後悔してももう遅い。よく爺ちゃんがやらずに後悔が残りそうなことはすぐにやれ、と言っていたが、本当にその通りだと思う。爺ちゃんの道徳も、たまには役に立つもんだ。
「あーあ、また戦いとかに巻き込まれてないといいんだけどなぁ」
この少女の願いは、数分としないうちに打ち砕かれるのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、作戦は決まったが、もう1つ考えるべきことがある。それは、どうやって交渉を持ち掛けるか、だ。
正面から行けば攻めてきたと勘違いされるだろうし、背後から近づけば不意打ちという形になって、あーだこーだめんどくさいことになる。
ベルディア姉さんの時のように、ジークに暴れてもらって、そのどさくさに紛れて交渉を持ち掛ける......。なんか失敗しそうな気がするし、あれはベルディア姉さんだったから上手くいったと思う。
今更思っても仕方ないのだが、どちらかに就いて、そこから引き合わせた方が簡単だったのではないか。わざわざこんな危険なことになることも回避出来たのではないか。まあ、今更思っても仕方ないのだが。
「デルシアさん、迷ってるところすみませんが、正面から仕掛けてもらえませんか?」
「え!正面から!?」
それは、ついさっき私の中で否決された答えだ。一体どうしろと。
「変に警戒されないように行っても無駄ですよ。むしろ、武器を捨てて真正面から行った方が相手は話を聞いてくれます」
「それで殺されたらどうするんですか」
「敵意を顕にしてきた時には、私達でどうにかします」
不安だな......。
でも、案が無いのだから、大人しくネイの考えに従う他ない。せめて、こんな神経を常に張り巡らせておかなければならない戦いの真っ最中でなければ良かったのに。
「頼みましたよ。何かあった時には、骨くらいは拾っておきますから」
死ぬの前提!?嫌だ、死にたくないよ!まだまだ知らないことが沢山あるって言うのに。
「分かりました。火葬でお願いします」
思っていることとは裏腹な言葉が口から出てきた。
遠目に黒月の軍隊が徐々にこちらに近づいてきているのがわかる。もう4、5分くらいで着くだろう。そして、やはり黒月の大将はアルフレア。アルフレアの隣にシータの姿は見当たらない。別のところにでも行っているのだろうか。
正面にいるアルフレア兄さんは、後ろの軍隊と少し距離を空けて走っている。
少し、距離を空けている......。
「......ネイさん。できることなら、今からアルフレア兄さんの首を、一瞬で羽交い締めにしてほしいのですけれど」
「そんなことしたら、一瞬で殺されてしまいますよ」
「いえ、いくら暗殺隊だろうと、自分達の大将の首を賭けられたら手出しできないと思います。正面から行っても、戦いになる可能性は十分にありますし、そっちの方が確実だと思います。ネイさんならできるでしょ?」
「余っ程自分に自信が無いみたいですね......。まあ、やるだけやってみーー」
「オラァ!捕まえたァ!」
突然、私とネイの間に少女が割って入ってきた。いや、正しくはネイに飛びついてきたと言った方が正しいかもしれない。
「うぅん。相変わらず柔らかいカラダしてるねー」
「だ、誰!?はな、離せー!」
少女はネイにただひたすらにじゃれついている。これが百合、おっとこれ以上を考えるのはいけない。
「カイナさん?」
「よっ、久し振りー。元気してたー?」
猫のような耳に尻尾。そして、相も変わらずのわんぱくさ。間違いなくカイナだ。
「あ、どうしてこんなところに、って顔してるね。いいよ。説明しよう!私はあんたらの後をバレない程度に追いかけてたんだが、あんたらがめちゃめちゃ寒い山に入ったせいで一時的に見失ったんだ。そして今に至る」
ごめん。大雑把すぎて全然分からなかったよ。というか、そろそろネイを解放してあげて。苦しそうだから。
「あれ?ネイ顔色悪くなってない?」
「突然抱きつかれて、首を絞められる形になったら、くふしくもありますよ。グハッ」
「あ、ごめん」
「デルシア。何を遊んでいるの。そろそろじかーー」
最悪なタイミングでミューエがやって来た。
「デルシア。怒らないからこの子はどういうことか説明してくれる?」
うわ、あの時の笑みだ。まずい。下手な説明をすれば殺される。
(あの、ネイさーー)
助けを求めてネイの方を見るが、ネイはぐったりと倒れていた。
未来が見えてるわけじゃないけど、この先怒られる未来しか目に浮かばない。へるぷみー!誰か助けて!
「あぁミューエ。久し振りだねー。里の時は世話になったよ」
「そうね。久し振りね。で、私の質問に答えてくれるかしら。事と場合によっては締め上げるから」
どうする?ここで怒られておく?いや、あの笑みを浮かべられている時に怒られるとヤバい。とにかくヤバい。では、どうやって逃れる?
助けを求めて辺りを見渡す。ネイがぐったりと倒れているのだけが目に入った。
《バタッ......》
ネイを見習い、私もその場に倒れる。
お願い、これで許して。
「デルシア。1つだけ言っておくわ。人がやった事をあとから真似しても、なんの意味もないのよ」
ダメみたいだ。というか、今の発言でネイの肩がピクっと揺れた気がした。
「それで、そろそろ私の質問に答えてくれる気になった?大丈夫。怒らないから」
怒らないから=怒ってる
つまり、今何を言ってもミューエは怒る。
(カイナさん。元はと言えばあなたが原因なんですから、カイナさんで説明してくださいよ)
「んー、でもさ、質問されたのはデルシアでしょ?なら、デルシアがちゃんと答えるべきなんじゃないの?」
ご・も・っ・と・も・で・す。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「へぇー、そういうことだったんだー。うん、なんでそれをもっと早くに言ってくれなかったのかなー?」
「いや、それは笑み......なんでもないです」
「ん?今なんて?」
「な、なんでもないです!ただなんとなく怒られる気がしただけです!」
「そう。まあいいわ。それで、カイナ。あなたは今、とんでもない場所に来ている自覚がある?」
「うん。何となくでわかるよー。むしろ、こういう時だからこそ来たんだー」
本当か?本当なのか!?
ここは戦場だ。そんなところを分かってて来るなんて、そんな人は自殺志願者か何かだろう。
「まあ、あたしのことは好きに使ってくれて構わないよ。うん。爺ちゃんにはナイショで付いてきたから、死なない程度の使い道でお願いねー」
それは構わないのだが、ネイが倒れたままで......。死んでないよね?
「うーん、それにしても、ネイのカラダは柔らかいなー」
話は終わったとばかりにピクリともしないネイの体を、カイナがベタベタ触る。
「うわーーーーーーー!」
あ、気がついた。
そしてネイがカイナの魔の手から逃れようと必死に暴れ回る。
「あなた達、話はもうどうでもいいんだけど、そろそろ時間よ。持ち場につきなさい。特にカイナは作戦に支障をきたす可能性があるから、私と一緒ね」
「えー、あたしはネイとがいいなぁ」
「嫌だー!」
「ほら、もう支障が出てきてるわ」
ミューエの言う通り、本当に支障をきたしかねない。それに、ネイには重要なことをやってもらおうと考えているから譲ることも出来ない。
「ちぇ、分かったよ。ネイを弄るのはまた後でにしとくよー」
今思ったのだが、カイナの立ち直りが早すぎる気がする。里を失ってからまだ1週間と少し程度しか経っていないのだが。
「あー、やっと解放されたー」
ネイが乱れた服装を整えながらそう言う。
「なんか、お疲れ様です。それで、悪いのですが......」
「もうめんどくさいから、私がアルフレアさんの首を羽交い締めにしときます。ただし、絶対に交渉を成功させてくださいね」
「はい。必ず成功させます」
流れで受け入れてくれた。これで対話を持ちかけるまでの流れはできた。後は、本当に私次第。
その橋が放つ、他とは違う圧倒的な存在感。その存在感は、きっと歴戦の勇者達が物語っているのだろう。
この橋は、白陽と黒月が誕生するよりも前から、戦地として度々血の海に浸っていた。そのせいか、橋は全体的に赤く染っている。
古代人がどうやって建設したのかは知らないが、この何千年も存在する橋は、まるで宝石のルビーのように、赤々と輝いていた。
そんな戦場の代名詞かのような場所で、再び戦が起きようとしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いいか貴様ら。まもなくこの橋を黒月の軍が制圧にやってくる。1人たりともこちら側に入れるな。そして黒月の好きにさせるな!」
「「「 はっ! 」」」
白陽の軍隊がギリエア大橋に向けて進軍を開始する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「向こうがこの橋にやって来るのは予想外だったが、またとない好機だと思え。白陽を潰せ。1人たりとも逃がすな」
「「「 ...... 」」」
奇兵隊は何も言わずに、各自が持ち場へと移動する。
「オメガ」
散っていく奇兵隊、そして暗殺隊のうち、1人だけ只者ではない男の名を呼ぶ。
「暗殺隊の大部隊が無いことは痛手だが、いつも通りの強さを見せろ。貴様には期待しているところがある」
「......はっ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
赤く染まる大きな橋に、白と黒の軍隊が歩を進める。
陽月の開戦から9ヶ月、歴史が動いたとされる『虎玄の戦い』がまもなく始まる。
歴史を動かすのは白の軍隊か、はたまた黒の軍隊か。それとも、両軍の戦いを眺める、『異色』の軍隊か。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「もうすぐね。デルシア......」
「はい......」
遠目に見える赤く染った大きな橋。
私達とは反対の方向に白の軍勢。そして、やや左斜め前の方向に黒の軍勢。先頭に立って、軍を指揮しているのは、恐らく2人の兄。
「みなさん。最後に、作戦の確認をしたいのですが」
「はい。構いません」
「では、私達は、まず黒月の軍隊に接触します。暗殺隊を率いているのだから、向こうも考え無しには潰しに来ないと思われます。そしたら、軍を率いていると思われるアルフレアさんを、デルシアさんにどうにかして説得してもらいます」
アルフレアの説得。
正直、できたら奇跡だと思っている。いくら暗殺隊を後ろに率いていても、あの兄さんがどんな反応を示すかは未知数だ。向こうにシータがいれば、交渉は多少は楽になると思う。ただ、そんないるかどうかも分からないことを当てにしてはいられない。
「そして、説得に成功した場合ですが、黒月の軍隊に引き上げてもらいます。その時に暗殺隊の皆さんには、一旦散り散りになってもらいます。でないとシンゲンさんと対話することができないでしょうから。ちなみに、この説得もデルシアさん頼みです」
シンゲンの方も難しい。アルフレア兄さんは、暮らしていた期間とか、本人の意思とかで、いくらかは説得はしやすいだろうが、シンゲン兄さんの方は一緒に暮らしていた期間が短い上に、あの日の戦いのこともあるので、交渉はかなり難航すると思われる。というか、こんな大事な役回りを両方私がするだなんて。
「で、もし失敗した場合ですが、その時は力ずくで従ってもらうことにします」
なんともまぁ、大胆不敵なことを思いついたもんだ。話してダメなら暴力で従わせるとか......。力は正義なり、ということだろうか。
でも実際、その時のことを想定して軍隊を集めたという節はある。我ながらなんとも情けない。そうならないためにも、交渉は成功させる必要がある。
「どう?デルシア。いけそう?」
「うーん......、アルフレア兄さんの方はまだなんとかできそうですけど、シンゲン兄さんの方が......」
「一緒に暮らしていた期間が短い上、白陽側の人間もこちらにいないからね......」
せめてサツキくらいは、説得して傍に置いておきたかった。あの物分りのいい妹なら、きっと私の力になってくれるとは思ったのだが。時間が無さすぎた。
「皆様。まもなく、黒月軍がこちらに辿り着きます。総員、配置についてください」
「「「 ...... 」」」
ガンマの指示に、暗殺隊は物音を立てずに配置につく。返事をしないせいで、本当に通じているのかどうかが怪しくなる時がある。
「デルシアさん。チャンスは1度きりです。失敗したら、私の後も無くなるので頑張ってください」
「はい......。?」
あれ?今、物凄い自分勝手を押し付けられた気がするのだが......。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「もー、あの人達移動するのすっごく早いんだからー」
1人の少女が、その辺で手に入れた木の実を咥えて、木々の隙間を縫うようにすり抜けていく。
「かなりの長距離を追いかけたと思ったら、めちゃめちゃ寒い山に入るし、嫌だからって外で待ってたら寝てる間に勝手に行っちゃうし......」
やれやれといった感じで、少女はため息を1つこぼす。
「こんなことなら寒いとか言わずに、山に入ってればよかったよー」
後悔してももう遅い。よく爺ちゃんがやらずに後悔が残りそうなことはすぐにやれ、と言っていたが、本当にその通りだと思う。爺ちゃんの道徳も、たまには役に立つもんだ。
「あーあ、また戦いとかに巻き込まれてないといいんだけどなぁ」
この少女の願いは、数分としないうちに打ち砕かれるのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、作戦は決まったが、もう1つ考えるべきことがある。それは、どうやって交渉を持ち掛けるか、だ。
正面から行けば攻めてきたと勘違いされるだろうし、背後から近づけば不意打ちという形になって、あーだこーだめんどくさいことになる。
ベルディア姉さんの時のように、ジークに暴れてもらって、そのどさくさに紛れて交渉を持ち掛ける......。なんか失敗しそうな気がするし、あれはベルディア姉さんだったから上手くいったと思う。
今更思っても仕方ないのだが、どちらかに就いて、そこから引き合わせた方が簡単だったのではないか。わざわざこんな危険なことになることも回避出来たのではないか。まあ、今更思っても仕方ないのだが。
「デルシアさん、迷ってるところすみませんが、正面から仕掛けてもらえませんか?」
「え!正面から!?」
それは、ついさっき私の中で否決された答えだ。一体どうしろと。
「変に警戒されないように行っても無駄ですよ。むしろ、武器を捨てて真正面から行った方が相手は話を聞いてくれます」
「それで殺されたらどうするんですか」
「敵意を顕にしてきた時には、私達でどうにかします」
不安だな......。
でも、案が無いのだから、大人しくネイの考えに従う他ない。せめて、こんな神経を常に張り巡らせておかなければならない戦いの真っ最中でなければ良かったのに。
「頼みましたよ。何かあった時には、骨くらいは拾っておきますから」
死ぬの前提!?嫌だ、死にたくないよ!まだまだ知らないことが沢山あるって言うのに。
「分かりました。火葬でお願いします」
思っていることとは裏腹な言葉が口から出てきた。
遠目に黒月の軍隊が徐々にこちらに近づいてきているのがわかる。もう4、5分くらいで着くだろう。そして、やはり黒月の大将はアルフレア。アルフレアの隣にシータの姿は見当たらない。別のところにでも行っているのだろうか。
正面にいるアルフレア兄さんは、後ろの軍隊と少し距離を空けて走っている。
少し、距離を空けている......。
「......ネイさん。できることなら、今からアルフレア兄さんの首を、一瞬で羽交い締めにしてほしいのですけれど」
「そんなことしたら、一瞬で殺されてしまいますよ」
「いえ、いくら暗殺隊だろうと、自分達の大将の首を賭けられたら手出しできないと思います。正面から行っても、戦いになる可能性は十分にありますし、そっちの方が確実だと思います。ネイさんならできるでしょ?」
「余っ程自分に自信が無いみたいですね......。まあ、やるだけやってみーー」
「オラァ!捕まえたァ!」
突然、私とネイの間に少女が割って入ってきた。いや、正しくはネイに飛びついてきたと言った方が正しいかもしれない。
「うぅん。相変わらず柔らかいカラダしてるねー」
「だ、誰!?はな、離せー!」
少女はネイにただひたすらにじゃれついている。これが百合、おっとこれ以上を考えるのはいけない。
「カイナさん?」
「よっ、久し振りー。元気してたー?」
猫のような耳に尻尾。そして、相も変わらずのわんぱくさ。間違いなくカイナだ。
「あ、どうしてこんなところに、って顔してるね。いいよ。説明しよう!私はあんたらの後をバレない程度に追いかけてたんだが、あんたらがめちゃめちゃ寒い山に入ったせいで一時的に見失ったんだ。そして今に至る」
ごめん。大雑把すぎて全然分からなかったよ。というか、そろそろネイを解放してあげて。苦しそうだから。
「あれ?ネイ顔色悪くなってない?」
「突然抱きつかれて、首を絞められる形になったら、くふしくもありますよ。グハッ」
「あ、ごめん」
「デルシア。何を遊んでいるの。そろそろじかーー」
最悪なタイミングでミューエがやって来た。
「デルシア。怒らないからこの子はどういうことか説明してくれる?」
うわ、あの時の笑みだ。まずい。下手な説明をすれば殺される。
(あの、ネイさーー)
助けを求めてネイの方を見るが、ネイはぐったりと倒れていた。
未来が見えてるわけじゃないけど、この先怒られる未来しか目に浮かばない。へるぷみー!誰か助けて!
「あぁミューエ。久し振りだねー。里の時は世話になったよ」
「そうね。久し振りね。で、私の質問に答えてくれるかしら。事と場合によっては締め上げるから」
どうする?ここで怒られておく?いや、あの笑みを浮かべられている時に怒られるとヤバい。とにかくヤバい。では、どうやって逃れる?
助けを求めて辺りを見渡す。ネイがぐったりと倒れているのだけが目に入った。
《バタッ......》
ネイを見習い、私もその場に倒れる。
お願い、これで許して。
「デルシア。1つだけ言っておくわ。人がやった事をあとから真似しても、なんの意味もないのよ」
ダメみたいだ。というか、今の発言でネイの肩がピクっと揺れた気がした。
「それで、そろそろ私の質問に答えてくれる気になった?大丈夫。怒らないから」
怒らないから=怒ってる
つまり、今何を言ってもミューエは怒る。
(カイナさん。元はと言えばあなたが原因なんですから、カイナさんで説明してくださいよ)
「んー、でもさ、質問されたのはデルシアでしょ?なら、デルシアがちゃんと答えるべきなんじゃないの?」
ご・も・っ・と・も・で・す。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「へぇー、そういうことだったんだー。うん、なんでそれをもっと早くに言ってくれなかったのかなー?」
「いや、それは笑み......なんでもないです」
「ん?今なんて?」
「な、なんでもないです!ただなんとなく怒られる気がしただけです!」
「そう。まあいいわ。それで、カイナ。あなたは今、とんでもない場所に来ている自覚がある?」
「うん。何となくでわかるよー。むしろ、こういう時だからこそ来たんだー」
本当か?本当なのか!?
ここは戦場だ。そんなところを分かってて来るなんて、そんな人は自殺志願者か何かだろう。
「まあ、あたしのことは好きに使ってくれて構わないよ。うん。爺ちゃんにはナイショで付いてきたから、死なない程度の使い道でお願いねー」
それは構わないのだが、ネイが倒れたままで......。死んでないよね?
「うーん、それにしても、ネイのカラダは柔らかいなー」
話は終わったとばかりにピクリともしないネイの体を、カイナがベタベタ触る。
「うわーーーーーーー!」
あ、気がついた。
そしてネイがカイナの魔の手から逃れようと必死に暴れ回る。
「あなた達、話はもうどうでもいいんだけど、そろそろ時間よ。持ち場につきなさい。特にカイナは作戦に支障をきたす可能性があるから、私と一緒ね」
「えー、あたしはネイとがいいなぁ」
「嫌だー!」
「ほら、もう支障が出てきてるわ」
ミューエの言う通り、本当に支障をきたしかねない。それに、ネイには重要なことをやってもらおうと考えているから譲ることも出来ない。
「ちぇ、分かったよ。ネイを弄るのはまた後でにしとくよー」
今思ったのだが、カイナの立ち直りが早すぎる気がする。里を失ってからまだ1週間と少し程度しか経っていないのだが。
「あー、やっと解放されたー」
ネイが乱れた服装を整えながらそう言う。
「なんか、お疲れ様です。それで、悪いのですが......」
「もうめんどくさいから、私がアルフレアさんの首を羽交い締めにしときます。ただし、絶対に交渉を成功させてくださいね」
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