グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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外伝 【白と黒の英雄】

外伝13 【黒の夜】

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 林の陰に隠れて、じっと息を潜める。

 距離は約200メートル。あともう少し近づいてくれれば、首に手をかけることが可能だ。

 180、160、150......

 あともう少し......

 目の前の獲物だけに意識を集中させて、他の感覚を削ぎ落とす。

 70、60、50......今だ!

 頭上に構えてある木の枝から、一気にアルフレアの首元まで飛びつく。

「っ......!?」

 相手が怯んだ。今が好機。

 蛇のようにしなやかな動きで、アルフレアの首元に剣を当てる。

「お前らの大将の首は押えた!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ネイが目に追えないほどの手つきで、アルフレアの首を抑えた。

「何者だ!貴様!」

 アルフレアが慌てもせずにそう尋ねる。

「デルシア、今だ」

「はい!」

 ネイがアルフレアの体をこちらに向けてそう言う。

「なっ、デルシア......お前......」

「私は死んでいません」

「......兄を裏切る気か......」

「いえ、協力してほしいんです」

「何を言っている。お前は裏切り者だ。協力も何もない」

 アルフレアがキッパリと言い切る。

 分かってはいたこと。しかし、アルフレアの命を握れている分、こちらが有利ではある。

「デルシア、今回は見逃してやる。俺達は白陽の奴らを斬り殺さなければならない。そして、その戦いがもうすぐで始まるんだ」

「そんなことはさせません。私は、その戦いを止めるために来たんです」

「言ってることは昔から変わらないらしいな」

「兄さんが白陽を潰したいと願うように、私にだって信念があるんです」

「そうか。ならば、お前も敵だということだな」

「そんなわけーー」

「デルシア離れろ!」

 突然、ネイがアルフレアから離れ、私を突き飛ばしてくる。

 その直後、私がさっきまでいた場所に爆煙が起こる。

「ゲホッゲホッ......」

 煙が漂う。魔法の類ではなさそうだ。

「......ネイさん!大丈夫ですか!」

 さっきまで私がいた場所に、ネイが倒れていた。

 あれほどの爆発だ。逃げそびれれば一溜りもないほどの大怪我をしているはず。

「良かっ......た......」

 そう言い残して、ネイが目を閉じた。
 背中には酷い火傷ができているし、体のあちこちにも火傷ができている。

「兄さん!」

「害なるものは排除するだけのことだ。俺の首を取って、有利になれたつもりだったんだろうが、お前らもデルシアを失えば同じことだ。先に手を出してしまえば、1番近くにいるやつが助けに行くはずだ」

 アルフレアの方が1枚上手だった。完全に読み間違えた。

「白陽が着くまで、まだ時間はある。デルシア、貴様の首を取らせてもらう」

 アルフレアが、鞘から漆黒の剣を取り出し、私に向けて構える。

 私も、鞘に収めてある閻王の刃を取り出し、1対1の真剣勝負の形になる。

「......見たことのない剣だ」

「私の剣は、ここで終わりになんてなりません」

「いい覚悟だデルシア。ここで終わりにしてやる」

 アルフレアの剣と、私の刃がカチンっと音を立ててぶつかり合う。

「腕が鈍っておるな。そんなんでは、俺に勝てるはずなどない!」

 アルフレアの剣が、一段と力を増して、私の刃を痛めつけてくる。剣ごと斬ろうとするつもりだ。

「こんなところで、負けるわけには......」

 力で押し返そうとするが、アルフレアの力には敵わない。ビクともしないし、むしろ私の方へとどんどん剣が近づいてくる。

「どうした?後ろにいる仲間達に助けは求めないのか?」

 アルフレアには、後ろに構えている軍隊の存在も分かっているらしい。

「ミューエさん!ネイさんの治療を!」

 その声を聞いたミューエが、細長い水の紐でネイの体を林へと運んでいく。

「あくまで、自分ではなく他人のためか......」

「私はここで負けません。みんなが、後ろにいる限り......」

「そうか、ならば!」

 突然、アルフレアが剣を押し付けてくるのをやめ、別の体勢に変わる。

「剣で攻撃するばかりが戦ではない!」

 アルフレアが構えた左手から、炎の玉が出てくる。

「魔法!?でも、兄さんは......」

「こんなご時世だ。力になるものはなんでも手元に置いておく。それが戦というものだデルシア!」

 アルフレアが放った火の玉が、私目掛けて飛んでくる。

 咄嗟に剣で攻撃を防ごうとするが、三連撃となっていた攻撃に、耐えきることができなかった。

「これがお前の剣か......」

 アルフレアが、私が落としてしまった剣を拾い上げ、じっくりと眺める。

「くだらんな。お前はこの状況下になっても仲間を呼ばんのか。イカれた根性だ。叩き潰してやる」

 アルフレアが私の剣を捨て、自前の剣を真っ直ぐに振り落としてくる。

(どこかに武器は......)

 このままでは真っ二つにされてしまう。どこかに、攻撃を受け止めれそうなものはないかと、辺りを見渡す。

(これだ!)

《ガギンっ!》

 剣が鈍い音を立てる。

「ネイさん。力を借ります」

 近くにあったのは、ネイが落とした剣。アルフレアの剣を弾き、投げ捨てられた私の剣を回収する。

「この期に及んでまだ抗うか!」

「私は負けるわけにはいかないんです!みんなのために、兄さん達のために!」

 2本の剣が、アルフレアの剣を弾き飛ばす。

 アルフレアが、丸腰の状態で佇む。しかし、まだ油断できない。アルフレアには魔法がある。ここは一気に攻めず、一旦体勢を整える。

(落ち着け私。兄さんの剣はこちら側にある)

 呼吸を整え、右手に構えた私の剣を兄さんに当てる。

 大丈夫だ。左で攻撃を受け止め、右で兄さんの首を取る。落ち着いてやればーー

 そこまで来て、別の感覚が脳を過った。

「っ......!」

 何かを感じて、右手の方向を横一文字に斬る。

 鮮血が散り、見えなかった化け物の体が顕になる。

「これは......」

 異界の敵。まさか、まだ残党がいたというのか......

「なっ、それは本当か!?」

 アルフレアが1人の兵士と何かを話している。

 まさか、暗殺隊に死傷者が出始めているのでは......

「そうか。お前らは集団になって辺りを警戒しろ。これ以上兵を減らすな」

「はっ!」

 兵士が軍隊の方へと戻っていく。

 私は、地面に落ちていた兄さんの剣を取る。

 敵が迫って来ている。無数の生の形を感じる。

(1万......いや、2万?)

 感覚でしかないが、それほどの多くの数がここに迫って来ている。

「っ......!」

 兄さんに近づいた化け物を斬り殺す。

 アルフレアは呆気にとられ、空に散る鮮血を眺めていた。

「兄さん協力してください!でないと、ここにたくさんの死体が並びます!」

 私は、兄さんの剣を兄さんに投げつけ、そう言う。

 数が異常に多い。獣人の里とは比べ物にならないほど敵がいる。

「これはどういうことだデルシア!なぜ、白陽が来てもないのに、死体が出ている!」

「敵です。白陽でも、黒月でもない、別の世界からの敵です!」

「ゆっくり話している暇はない、ということか!」

「はい!暗殺隊の皆さんに、気配を感じたら空を斬るよう伝えてください!奴らは姿が見えません」

 私と兄さんは、互いに背中を合わせて迫り来る敵を斬り殺す。

 辺りが更地のため、どこから来るかが分からない。

「姿が見えない敵か。なぜ、そんな厄介なやつがいるのか......。後で話せ!」

「はい!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「全く、厄介なことになったわね」

「全くです。よりによってデルシア様の交渉中に攻めてくるとは......」

「失敗してたけどね」

 デルシアの交渉は、失敗と言っていい。ネイがこんなになってしまったし、真剣勝負になってしまった。ただ、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 無駄話をせず、奴らの気配を感じとることに専念しなければならない。

「暗殺隊の皆さん!なるべく集団になって、四方八方から来る敵を1匹たりとも逃さないでください!」

 ガンマの指示に、暗殺隊がすぐに行動に移す。

 彼らは無駄話などしない。ただひたすらに、殺すことを考える。敵の存在を感じ取るのは雑作でもないだろう。

「デルシアは大丈夫かしらね」

「アルフレア様に、この状況を伝えることが出来れば、無事だと思います」

 流石のアルフレアも、この状況なら、何かを知っているデルシアに協力してくれるだろう。

「怪我人を片手に戦わせるなんて、かなり無理のある話じゃない」

「ミューエ様、周りは私とガンマ様にお任せして、ネイ様の治療に専念してください」

「ありがと。助かるわ」

 ガンマとイグシロナが、私を挟んで周囲を見張る。

 治療は順調に進んでいる。あと数分で治る。ただ、そうなった後もネイが目を覚まして自分の身を守ってくれないと......。

「戦い中悪いけど、白陽の方にも敵が出たみたいだ!」

 カイナが木々を渡ってやって来た。

「白陽にも!?」

「ああ。向こうは大混乱になってるねー。誰かが状況を伝えに行かないと」

 誰かと言っても、私は治療中。ガンマとイグシロナも離れそうにないし、カンナに至っては向こうから信頼されないだろう。

 シンゲンあたりが適切な指示を出してくれれば......

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「えいっ!」

「くたばれ!」

 敵の強襲が始まってから、30分程度が経過した。あたりは血の海になり、見ているだけで気分が悪くなる。

 これだけの死体が出たのに、奴らは休む暇なく攻めてくる。2万は考えすぎかと思ったが、あながちそうではなかった。

「チッ、こいつらはどれだけいるんだ」

 アルフレアが唾をその辺に飛ばして、敵の存在を感じ取ろうとする。

 敵が見えないというのは、ただ単に戦い辛いだけではない。敵がどれくらいいるのか、後どれくらい斬れば全滅するか、終わりの見えないことをやっている。1匹でも見逃せば、そこから犠牲者が更に増える。

「っ、シンゲン兄さん!」

 橋の向こう側でも、戦いが起きていた。

 誰かがこの状況を教えに行かないといけない。でも、ここから離れるわけにはいかない。

「行ってこいデルシア。今回だけ特別だ!」

 アルフレアが私の背を蹴り飛ばしてそう言う。

「でも、それだと兄さんが!」

「俺を誰だと思ってるんだ?黒月最強の騎士だ。こんな奴ら相手に死にはしない」

 兄さんの背が、この上なく頼もしい背に見えた。

 兄さんがあそこまで言ってくれてる。シンゲン兄さん達にも伝えに行くしかない。
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