グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第5章 【黒の心】

第5章2 【昼帯の二節】

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「ったく、なんでこんなくっそ寒い日に、わざわざ出かけなきゃならねえんだよ!」

 ヴェルドが嫌味たっぷりにそう言う。

「いいじゃないですかぁ。どうせフウロさんから逃げるいい口実になったでしょ?」

 シアラがべっとりとヴェルドにくっ付いてそう言う。

「あのバカどもはほっといて、セリカ、外に出たはいいがどこか行く宛てがあるのか?」

「うーん、白陽だと、神社とか寺とかいう、神様仏様がいるところにお参りに行くらしいんだけど......」

「生憎、この宗教のしの字も無い国に、そんなものはねえな」

「そう、だよね......」

 思っても仕方がないのだが、ちょっとくらい神様に頼る文化があってもいいんじゃないかと思う。

 あちこちで戦いが絶えず起こっているわけだし、何か、祈りを捧げるものがあっても......、そういや、邪龍がいたな。

「なら、私達ギルドの創立者が眠ってる再霊島ーー」

「ダメです」
「ダメだ」

 ですよねー。
 2人とも乗り物はダメだからなぁ。そもそも、こんな寒い日にわざわざあの島に行くのはどうかとも思う。

「......1つだけ、それっぽい場所に心当たりがありますが」

「ホント!?」

「ギルドに戻らないとダメですが」

「やめよう」
「やめとこう」
「ヴェルド様ぁー」

 1人頭のおかしい人がいたが、ギルドに戻るのは全員嫌だそうだ。

「じゃ、どうする?」

「大人しく戻った方が良くないですか?」

「断る」
「死ぬ」
「ヴェルド様ぁー!」

 やっぱり嫌なのか。
 ほとぼりが冷めるのは、後30分くらいあれば足りそうかな?

 何はともあれ、とにかくギルドに戻るのはダメ。でも、外にいると寒い。

「セリカさん、よければ私の羽織を貸しましょうか?」

 ネイが羽織っていた立派な織物を渡してくる。

「いいの?」

「このまま倒れられても困りますし、私は寒くないですから」

「そう?」

 貸してくれるのは構わないが、露出高めになる状態は嫌いなはずだ。そんなものを借りてきたこと自体間違ってたと今思ったのだが。

「人目はそんな多くないですし、ジロジロ見てくる輩がいたら血祭りにしますよ」

「ふーん?」

 渡してくれるものはありがたいので、素直に羽織る。さっきまでの寒気が一気に吹き飛ぶくらい暖まってきた。

「ヴェルド様ぁー、この後2人でどこか、デートにでも行きませんか?」

「断る!」

「んもぅ、焦れったいんですからぁー」

「ねぇ、このバカどうにかならねえ?」

「自分でどうにかしろバカ」

「俺、こんな酷ぇ友人を持ってたか?」

「いい加減、シアラとくっついてしまえばいいのに」

「それだけは嫌だ!」

 ヴェルドは必死だ。
 別に、シアラはそんなブスでもないし、むしろ美人の類だし、性格だってそんなに悪くない。悔しいけれど、料理も少しだけできるし。女の子として完璧では?

「セリカ、どんなことがあろうが、こんなベトベトくっ付いてくる奴は嫌だ」

「シアラ、そこ改善したらどうにかなるらしいよ」

「了解です、セリカさん。私、もっと頑張ります」

 そう言って、シアラがヴェルドから離れた。

「ヴェルド、お疲れ」

「黙れヴァル!」

 いつも通りで安心した。
 今年も良い1年になるといいな。

「というわけで、腹括ってギルドに帰ろう!」

「「 ...... 」」

 ヴァルとヴェルドが「はぁ!?」とした顔でこちらを見てきた。

「「 拒否権は? 」」

「ない!諦めろ!」

「お前最近フウロに似てきてね?」

「うーん、フウロにバッチリ仕込まれてるからかな?」

「やべぇよ。こいつやべぇよ」

 フウロに似てきてる自覚はある。別に構いはしない。むしろ、料理できなくてバカにされてる分、こういうところで私の株を上げておかなければ。

「さぁ!帰ろう!良い1年が待ってるぞー!」

「グリード達、死んでねえといいな」

「ああ、そうだな」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

《ガチャり......》

 俺は、恐る恐るギルドの戸を開ける。

 中を覗くと、誰も帰ってきてる様子は無かった。未だにフウロが寝ているくらいだ。

(大丈夫そうだ......。誰も帰ってきてねえけど)

(そうか、よし入れ)

 ヴェルドと小さく耳打ちをしてギルドに入る。

「あら、随分早かったわね。おかえりなさい」

 ミラがかなり明るめで大きな声ーー気を張り巡らせてる本人達にそう聞こえるだけだがーーでそう言う。

「バカ、ミラ、何大きな声でーー」

「あ......?」

 今になって気が付いた。
 ミラはいつも通りの大きさで声をかけてきただけだ。しかし、今俺が急にデカい声を出してしまったせいで......

「なんだお前らか......」

 フウロが起きてしまったが、本人は何事も無かったかのように再び寝る。

「危ね......」

 ヴェルドがほっと一息吐いて中に入ってくる。

「そんなに恐れなくても大丈夫よ。フウロがキレ気味なのは、もっと別のことだから」

「「 やっぱキレてんじゃん 」」

 何も大丈夫じゃないよ。フウロがキレてる時点でそれ相応の何かがあるはずだよ。

「そんなにピリピリするな、2人とも。私はお前らに対してキレてなどいない。ましてや、他の者達に対してもだ」

「そ、そうか。じゃあ、一応聞いてみるんだけど、なんでそんなにキレ気味なの?」

「......実はな、王国騎士団から、年明け早々の仕事がやって来た。私宛にだ」

 フウロが袴の中から1枚の紙を取り出して、俺達に見せる。

「えーっと、写し鏡の神殿?」

「そんなところに何があるってんだ?」

「未調査の神殿らしい。崩壊の危険とかもあるから、魔導師の方が適任だと言われた。おまけに、明後日までの期限付きだ」

 なるほどな。つまり、フウロがキレ気味な原因は、散々色々とあって(主に邪龍討伐)、やっと休めれるかと思った矢先に舞い込んできた仕事。おまけに、昨日は暴れ回る俺たちを鎮めるのでかなり体力を消耗しただろう。そんなところにやって来た早急の仕事なのだから、例えどれだけ簡単だったとしても、若干のイライラは募るばかりだろう。

「なんなら俺達が行こうか?どうせ暇してるし」

「いや、『魔導師』でないとダメだ。お前らは『魔道士』だろうが」

 言葉って難しいね。同じ言葉でも意味が違う言葉を出されると頭がこんがらがる。

 それはどっかに置いといて、魔導師なら、セリカがそれに値する精霊魔導師だ。問題ないだろう。

「セリカを連れていけばいいだろ」

「それはそれで、なんか負けた気がするから嫌なんだ」

 結局お前のプライドの問題じゃねーか!

 俺達の好意をくっそ高ぇプライドで潰すな!

「まあでも、お前達がそう言ってくれるのなら、任せてもいいかもな。よし、セリカとネイは必ず同伴だ。そいつらを監視してろ」

「なんで私がこんな寒空の下を......」

「さっきの話を聞いていただろ。お前がいないとダメだ。なぜかは知らんが」

「要するに、それなりの実績があるものじゃないと、危険ってことだと思います」

「えぇー、ネイりんが言うなら、仕方ないか......。私の、正月......」

「一応自営業みたいなもんだからな、働ける時に働いとかないといけねえんだよ!」

「ヴェルド様は私と一緒に働きましょう」

「お前、つい数分前までの話聞いてた!?」

「んー、聞いてはいましたけど、やっぱり私はベタベタして愛情を表現する方がいいです」

「ねぇこいつ何も学ばないタイプ?」

「うるさい、夫婦漫才は外でやってろ!」

「夫婦じゃねぇ!」

 相変わらず騒がしい場所だ。シアラは変わらずだし、フウロも変わらず怖いし、セリカはセリカで色々と頑張ってるし......

 ネイだって......

「あぅ、うぅ、う"ぁ"ぁ'ぁ"!」

 突然、ネイが頭を抱えてその場に崩れ落ちた。

「どうした!?ネイ!」

「あ"ぁ"......ダメ......出てき......ちゃ......」

 そのままネイが倒れた。

「おいネイ!しっかりしろ!おい!」

 体を揺するが、反応がない。

「今の......、あの時に見た......」

「突然目眩と頭痛が起きるって言ってたやつか。しかし、あれは邪龍絡みだったはずだろ?そうじゃないのか、ヴァル」

 ヴェルドとフウロが一斉にそう言う。

「知らねぇ。こいつは何も言わねえから。ただ、フウロの言うように、もし邪龍絡みの不調なんだとしたら......」

「また、邪龍が復活するかもしれんな」

 考えたくはない。しかし、ネイが、まだ自分の中には邪龍がいると語っていた。完全に否定することはできない。

「え?でも、邪龍は倒したはずでしょ?ネイりんがそうなることは、もう無いはずなんでしょ?」

 セリカが、酷く恐れた様子でそう言う。

「こいつ自身が言ってたんだ。いつ邪龍に戻ってもおかしくないって」

「それじゃ、ネイりんは......」

「あくまで可能性だ。それに、俺達が過剰に反応しすぎただけで、全くもって別のモンってこともある」

「......そうだったな。悪い、セリカ。変なことを想像させてしまって」

「いやいいよ。フウロは悪くない」

 みんなにはそう言ってはいるが、1番慌てているのは俺自身。
 こいつを守ると決めた矢先のことでもあるし、何より邪龍による苦しみを何度もこいつから聞いた。

 まだ、何か、足りないものがあるのか。それとも......

「なあフウロ。写し鏡ってことは、もう1つの人格とか見れたりすんのか?」

「突然、突拍子もないことを言ってどうした?それに、勘にしては全然的外れじゃないことを言うな」

「見れるんだな?」

「......あぁ見れるらしい。ただ、それは何百年も前。今もその力が神殿に残っているとも限らないし、そもそもそれを調査する目的で行くんだ」

 そうか。なら、ネイを連れていけば......

「もう1つの人格を確かめる......か。残念だが、見れるのは本人だけだ」

「そうか......」

「1つ、聞きたいのだが、見て何になるんだ?」

「もしかしたら、まだ邪龍の人格が残ってるんじゃねえかと思っただけだ」

「......お前が行くと言えば、その子は何も言わずについて行くだろうな。今、その子を守れるのはお前だけなんだぞ」

「言われなくても分かってる」

「他の奴らには黙っておけ。もっと休みたい気分だったが、私もついて行く」

「別に、お前が無理することじゃ......」

「いや、私自身気になることがある。今はまだ、言えないが」

 フウロがいつになく神妙な面持ちでそう言う。

 邪龍、魔女、スカイローズ......。気になることは普通にありそうだ。

 ネイの頭痛が、邪龍と絡んではほしくないが、もし、別の、もっと最悪なものだったら......。そんなことは考えたくもない。

「ヴァル、行けば分かる話だろ。多分。俺にだって責任はある。ついて行くぜ」

「ヴェルド様が行くなら、シアラもご一緒しまーす」

「チッ......」

 おい、ヴェルド。お前、それは建前だったろ。もっと真剣にネイのことを考えろ。

「明日の6時半だ。誰にもバレないよう、こっそりと行くぞ」

「ゲッ、6時半はちょっとキツいかも......」

「なら留守番でもいい」

「いえ、行きます」

 こうして、またしても厄介事を片付ける冒険が始まった。正月くらいゆっくり休ませろよ。
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