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第5章 【黒の心】
第5章4 【鏡の四節】
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「ねぇねぇ、あなたはどう思う?自分のこと。強くて、みんなに恐れられて、一切女として見られていない自分を」
「別にどうでもいい。私は強い私しか認めない」
そう言い残して、目の前にいた偽りの自分を斬り捨てる。
「神殿が力を残していたとは......。他の皆も、こうして斬り捨てればいいのだが」
ヴェルド達よりも、かなり早くに試練を突破した剣士がいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「オラァ!避けんじゃねぇ!」
俺は、もう1人の『俺』に向かって、がむしゃらに攻撃を続けていた。
「認めたらどうだ?これは俺だ。お前の心だ」
「ふざけんな!俺は俺だ!」
「まだ分からないのかい?俺はお前の裏の顔だ。お前が心の片隅に抱いている闇の心だ。お前は似たようなものを知っているはずだ」
似たようなもの。ネイのことか。
確かに、あれは分かりやすい形だった。本人が暴走した姿を見た。でも、俺はこんな俺がいるとは思わない。
「君のような善人が、あいつのような傍迷惑なやつになるんだ」
「ネイを否定するな。それだけは、裏の俺も思わねえ」
「さあ?どうだろうね。こうやって、俺の口から出たんだ。少しくらい思ってるんじゃない?」
認めたくはない。しかし、こいつの言うことが全て本当なのだとしたら、本当の俺はどこにいる。
「本当の俺は、ここにいる。俺とお前だ」
目の前の『俺』が、静かに圧をかけるような声でそう言う。
「俺を認めろ。お前の中に、俺がいることを」
「っ......」
「認めたくないのか?少しくらい心に刺さることを言っていただろ?」
心が痛い。こいつが言っていることが、全然的外れじゃないからだろうか。俺が、少しでも思っているから、こうして心が痛むのだろうか。
「なら、1つだけ聞きたいことがある」
「ほう」
「みんなのことは好きか?」
「......好きだ。くだらない、アホだとは思っても、嫌いだとは思わない。アイツらはあれでいい」
「そうか......」
自分の本心は、仲間を嫌っていなかった。それだけが分かれば十分だ。俺は、例えどんなことがあってもアイツらを嫌いにはならない。
「ありがとな。変なところで大事なことに気づいたよ」
「そうか。つまり、お前は俺を認めるんだな?」
「心の奥底から善人のやつなんていない。お前が存在した。俺の心には悪がある。でも......」
「根っこの部分は変わらない。なんてことに気づくんだ。お前、いや『俺』は......」
「自分を見つめ直して、自分を認めて、みんなを好きでいる。これだけ分かってりゃ十分なんだろ?」
「そうさ。ここの試練は答えなんてない。納得のいくものを出せば、この幻から解放される」
「お前は、精霊かなんかか?」
「そうさ。僕は精霊ネメシス。心を写す精霊さ。お兄さん素晴らしい答えを持ってきたね。僕感心しちゃったよ」
『俺』が、姿を少年の姿に変えてからそう言う。
「ただ、気をつけなよ。ホンモノの善人は、ここの迷宮に囚われてしまう可能性がある。特に、あのネイとかいう子はね」
「っ、どういうことだ!」
「戻れば分かるさ。君が、どうやってあの子を助け出せれるか。見物だよ」
そう言い残して、精霊ネメシスは姿を消した。
「ヴァル、ヴァル!」
「っ、セリカ?」
気がつくと、目の前にセリカがいた。
「戻って来れたようだな。お前も」
「ヴェルド......」
「ったく、くっそ気持ちの悪いもんを見せられたぜ。お前もそうなんだろ?」
「あぁ、胸くそ悪かった。でも、あれも俺なんだな」
「!?......お前、あれを認めたのか?」
「どういうことだ?ただの悪の心だっただけだろ」
「そうか、お前らはそんな都合のいいやつだったのか」
ヴェルドが悔しそうにそう言う。本当に何を見てきたんだ?
「ナルシストな俺がいた」
「「「 ブッ 」」」
セリカ、フウロ、俺の3人が同時に吹き出した。
「ヴェルド......、お前の中に、そんな奴がいるとは......まずい、笑いが止まらねぇ」
「もう笑いこけてくれ。俺は恥ずかしいよ。あんな奴がいると分かってから。どんな顔すりゃいいんだ」
「ま、お前はお前らしくあれってことだ。つまり、シアラとくっつけば万事解決だ」
「フウロまでそんなこと言う!?」
フウロがこんなに笑っているのは久しぶりに見た。確かに、ヴェルドナルシスト説はすごく面白い内容だが。
「......そういや、ネイは?」
「まだ戻ってきてない。それどころか、お前らと違って姿が見当たらなかった」
フウロが真剣な顔に戻ってそう言う。
「俺達と違って?」
「ああ、お前らはここで、ボケーッと佇んでいた。ただ、あいつだけはいなくなってた」
どういうことだ?あいつもあの訳分からねえ試練に巻き込まれていたはず。特別な力故に巻き込まれずに済んだとしても、ここから離れるとは思えない。
「ちょっくら探してみるか」
俺は全神経を集中させて、ネイとの繋がりを確かめる。
「ここを下った先に反応がある」
「よし、すぐに行こう」
フウロが先導する形で先を進んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よう、俺」
背後から、私と同じ声がする。
「誰、ですか......」
「お前だ。俺はお前」
まさか、あの人格が現れたとでも言うのか。
「こうやって、目と目を合わせて話をするのは、初めてになるな」
「やっぱり、あなたは......」
「そうさ。もう1人のお前。確か、デルシア達には『暗殺者』、なんて呼ばれていたな?」
「なんで、あなたがここにいるんですか......」
「簡単な話だ。この神殿の力で俺が具現化しただけだ。それだけの話だ」
よく見えなかった『私』の姿が、徐々に鮮明になってゆく。
「お前は、いつになったら俺にその体を明け渡してくれるんだ?」
「なんで、あなたに渡さないといけないんですか。これは、私の体......」
「だから、俺はお前だっつてんだ。俺が使ったところで、お前はお前だ」
「断ります。私は、殺しなんてしない」
「どんなことがあってもか?」
突然、『私』が私に詰め寄ってくる。鼻の先と鼻の先が当たるくらいに。
「くだらねえ。アイツらは躊躇なく俺達を殺しにやってくる。なのに、お前は抵抗しないとでも言うのか?」
「っ......」
「どんな綺麗事を並べたって、お前は俺だ。認めろよ、いい加減。俺達は殺しの才能に優れている。それでしか自分を表現できねえんだ」
「っ、そんなことーー」
「ないってか?そんなわけねえ。あのバカどもだって、お前に求めているのは力だ。力が必要だから、あいつは契約を結んだんだ」
「ヴァ、ヴァルはそんなことーー」
「思ってないとでも?そんなわけあるか。契約結んですぐに戦場に駆り出したじゃねえか」
「そ、それは幸せな未来を作るためにーー」
「くだらねぇ。ただの口実だろ。あいつだってすぐに裏切っていくんだ。お前を1人残して、そしてお前がまた暴走したら、その時は躊躇なく斬り捨てるんだ。分からねえのか?」
「そんなことーー」
「ない、なんて甘えたことは言うな。なんなら、ここでそれを証明してくれてもいいんだぜ?」
そう言うと、『私』が私の剣を取り上げて無理矢理持たせる。
「ほら、斬ってみろよ。これが、偽の自分だと言うのなら、簡単に斬れるはずだよな?」
私は抜剣して、『私』に向かって剣の切っ先を突き当てる。
「どうした?斬らねえのか?まあ、できねえよな。だって、お前は殺しが嫌いなんだから」
「っ......」
その言葉を聞いて、その場に崩れ落ちた。
「認めろよ。俺がいれば、お前は暴走せずに済むんだ。自分の身を自分で守れるんだ。あんな役立たずどもに頼らなくていいんだ」
「い、やだ......」
「これはお前の本心だ。嘘偽りのない本心だ」
「いや、だ。嫌だ......」
「その体を寄越せよ。俺が上手いことやってやるよ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「死にたくねえんだろ?裏切られたくねえんだろ?なら、任せておけよ」
「嫌だ......、死にたく、ない......。助け、て、■■■」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
神殿の奥を目指してから数分経った。意外と距離のある道だった。ただ、どこにも分かれ道は無かったので、ネイが迷ってどこかに行ったということは無さそうだ。
「......だ、いや......」
微かに、泣き声にも近い声が聞こえた。
(まさか......)
俺は、思うと同時に全力で駆け出した。
「あ、ちょっと待ってヴァルー!」
後ろでセリカ達の止める声が聞こえたが、気にせず走り続けた。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ」
神殿の奥で、ネイが泣き崩れていた。
「おい、どうした!ネイ!おい!しっかりしろ!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
ネイは『嫌だ』と連呼するだけで、何も答えない。
「おいどうしたヴァル。急に駆けだし、て......」
フウロ達が追いついてきた。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「おいおい、どうしちまったんだよ」
「ネイさん、様子がおかしいです」
「ネイりん!返事して!」
「嫌だ......、死にたく、ない......。助け、て、■■■」
そこで、ネイが崩れ落ちた。
「おい!しっかりしろ!ネイ!」
「ヴァ......ル......」
少しだけ目を開けたネイが、そう言い残して、意識を失った。
「何を見たんだ......」
「とりあえず、ギルドに戻ろう。こんなところじゃ落ち着いて話もできない。幸い、吹雪は止んでいる」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あら、おかえりなさい。随分と早かったわねぇ」
ギルドに帰ってきた俺達を出迎えてくれたのは、いつも通りミラだった。
時は夕暮れの時間帯。今朝の出発から経路を考えると、かなり早い時間で終わらせてきた。その理由は、ネイにあるのだが。
「また、倒れちゃったのかしら?」
何も知らないミラが、そう尋ねてくる。
「いつも通りだと、良かったんだがな」
「?それって、どういうことかしら?」
どう説明するべきか。
俺達だって知らないことが多い。説明出来るやつがいるなら、俺達の代わりに説明してくれ。
「とりあえず、中に入ったらどうかしら?外は寒いでしょう?」
ずっと佇んでいる俺達に、ミラが中に入るよう促す。
「まーた暗い顔してんなァ。そして、またその嬢ちゃん絡みのか」
「そんなところだ」
酒が若干回っているグリードの質問には適当に返しておいた。
「朝早くに出かけたかと思えば、お陀仏になった龍人を連れ帰るとは......。お前らには休むことが出来ないのか」
ライオスがそんなことを言いながら傍にやってくる。近くにはエフィもいる。
「ヴァ......ル......」
背中に背負ってるネイが、微かな声を出した。
「目が覚めたか」
ネイを正面に回して、その顔をよく見る。
青くなっている感じはないし、しかめっ面もしていない。とりあえずは大丈夫そうか?
「もう、大丈夫です......」
ネイが俺の手から離れて、近くにあった椅子に座る。
「何か隠してることがあるなら言え。言わねえと分からねえからな」
「大丈夫です。隠し事なんて、してません」
そう言うネイの顔は、どことなく苦しそうだった。ずっと頭を押さえているし、暑くもないのに汗を流している。
「あぅ......、う"ぅ"......」
「本当に大丈夫なのか?俺の目には大丈夫そうに見えない」
「心配しなくて、結構です。ちょっと、お手洗いに......」
そう言って、ネイが立ち上がった。
フラフラな足取りで奥の方へと向かっていく。
「ついて行った方がいいか?」
「大丈夫です。すぐに、戻りますから」
ついて行くべきか否か。迷った末、ここで待つことにした。きっと大丈夫なはずだ。戻ってきてから色々と聞けばいい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
顔に思いっきり水を当て、鏡を見る。
酷い顔をしている。
「なんだお前。あの神殿から離れれば逃げれるとでも思ったのか?」
「っ......」
慌てて鏡から飛び退く。
まただ。また、私の心が私に語りかけてくる。どこへ逃げたって、あいつはやって来る。
「認めれば楽になるって言っただろ?それともあれか?こんな奴は私じゃないってか?笑い話はそのくらいにしとけ。これは紛れもないお前自身だ」
「そんなわけ......、ない......」
荒ぶる呼吸を整えながら、鏡に向かってそう言う。
「だったら、なんでそんなにお前は怖がってんだ?」
「あなたが、怖いから......」
「違うだろ?お前は気づいちまったんだ。自分の本心を聞いて、他の奴らがお前のことをどう思っているのか、気づいちまったんだ。認めたくないのなら、もう一度心理の魔法を使えばいい。そうすりゃ真実が見えるだろうさ」
「嫌だ、あの力だけは......」
「使いたくないんだろ?もう一度同じ思いをしてしまうから。そして、また気づいてしまうから。逃げるな、ネイ。お前は俺だ。まともな心を持ってないお前じゃ、すぐにダメになる」
「やめて......」
「俺に任せてろ。そうすりゃ、全てが上手くいく」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ネイりん、遅いね......」
ギルド全体が暗い空気の中、思い切って口を開いてみる。
「やっぱり、誰かがついて行った方が良かったんじゃない?」
「顔でも洗ってんだろ。ずっと見られっぱなしってのも気分が落ち着かないだろ」
ヴァルが諭すようにそう言う。
「そう、だよね。ごめん......」
再び、ギルドが静寂に包まれる。幸か不幸か、今日は人が少ないため、その空気がずっしりと身に染みる。
いつもの騒がしい空気じゃ、おちおちネイのことを心配していられなかっただろう。
《コツ......コツ......》
床を踏み鳴らすような音がして、ネイが戻ってきた。顔を洗っていたのか、指先から水を垂らしている。それに、なぜか顔を拭いていないため、びしょびしょになっている。
「......」
突然、ネイが濡れた顔を突き出してヴァルに飛びつく。
「お、おい、どうしたんだネイ。一応、人目があるーー」
それ以上の言葉をヴァルは発しなかった。代わりに、ヴァルの腹部あたりが赤く染まりだす。
「信頼ってもんは、くだらねえ毒になるんだな」
ネイが、ヴァルに刺した剣を抜いて、そう言った。
「別にどうでもいい。私は強い私しか認めない」
そう言い残して、目の前にいた偽りの自分を斬り捨てる。
「神殿が力を残していたとは......。他の皆も、こうして斬り捨てればいいのだが」
ヴェルド達よりも、かなり早くに試練を突破した剣士がいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「オラァ!避けんじゃねぇ!」
俺は、もう1人の『俺』に向かって、がむしゃらに攻撃を続けていた。
「認めたらどうだ?これは俺だ。お前の心だ」
「ふざけんな!俺は俺だ!」
「まだ分からないのかい?俺はお前の裏の顔だ。お前が心の片隅に抱いている闇の心だ。お前は似たようなものを知っているはずだ」
似たようなもの。ネイのことか。
確かに、あれは分かりやすい形だった。本人が暴走した姿を見た。でも、俺はこんな俺がいるとは思わない。
「君のような善人が、あいつのような傍迷惑なやつになるんだ」
「ネイを否定するな。それだけは、裏の俺も思わねえ」
「さあ?どうだろうね。こうやって、俺の口から出たんだ。少しくらい思ってるんじゃない?」
認めたくはない。しかし、こいつの言うことが全て本当なのだとしたら、本当の俺はどこにいる。
「本当の俺は、ここにいる。俺とお前だ」
目の前の『俺』が、静かに圧をかけるような声でそう言う。
「俺を認めろ。お前の中に、俺がいることを」
「っ......」
「認めたくないのか?少しくらい心に刺さることを言っていただろ?」
心が痛い。こいつが言っていることが、全然的外れじゃないからだろうか。俺が、少しでも思っているから、こうして心が痛むのだろうか。
「なら、1つだけ聞きたいことがある」
「ほう」
「みんなのことは好きか?」
「......好きだ。くだらない、アホだとは思っても、嫌いだとは思わない。アイツらはあれでいい」
「そうか......」
自分の本心は、仲間を嫌っていなかった。それだけが分かれば十分だ。俺は、例えどんなことがあってもアイツらを嫌いにはならない。
「ありがとな。変なところで大事なことに気づいたよ」
「そうか。つまり、お前は俺を認めるんだな?」
「心の奥底から善人のやつなんていない。お前が存在した。俺の心には悪がある。でも......」
「根っこの部分は変わらない。なんてことに気づくんだ。お前、いや『俺』は......」
「自分を見つめ直して、自分を認めて、みんなを好きでいる。これだけ分かってりゃ十分なんだろ?」
「そうさ。ここの試練は答えなんてない。納得のいくものを出せば、この幻から解放される」
「お前は、精霊かなんかか?」
「そうさ。僕は精霊ネメシス。心を写す精霊さ。お兄さん素晴らしい答えを持ってきたね。僕感心しちゃったよ」
『俺』が、姿を少年の姿に変えてからそう言う。
「ただ、気をつけなよ。ホンモノの善人は、ここの迷宮に囚われてしまう可能性がある。特に、あのネイとかいう子はね」
「っ、どういうことだ!」
「戻れば分かるさ。君が、どうやってあの子を助け出せれるか。見物だよ」
そう言い残して、精霊ネメシスは姿を消した。
「ヴァル、ヴァル!」
「っ、セリカ?」
気がつくと、目の前にセリカがいた。
「戻って来れたようだな。お前も」
「ヴェルド......」
「ったく、くっそ気持ちの悪いもんを見せられたぜ。お前もそうなんだろ?」
「あぁ、胸くそ悪かった。でも、あれも俺なんだな」
「!?......お前、あれを認めたのか?」
「どういうことだ?ただの悪の心だっただけだろ」
「そうか、お前らはそんな都合のいいやつだったのか」
ヴェルドが悔しそうにそう言う。本当に何を見てきたんだ?
「ナルシストな俺がいた」
「「「 ブッ 」」」
セリカ、フウロ、俺の3人が同時に吹き出した。
「ヴェルド......、お前の中に、そんな奴がいるとは......まずい、笑いが止まらねぇ」
「もう笑いこけてくれ。俺は恥ずかしいよ。あんな奴がいると分かってから。どんな顔すりゃいいんだ」
「ま、お前はお前らしくあれってことだ。つまり、シアラとくっつけば万事解決だ」
「フウロまでそんなこと言う!?」
フウロがこんなに笑っているのは久しぶりに見た。確かに、ヴェルドナルシスト説はすごく面白い内容だが。
「......そういや、ネイは?」
「まだ戻ってきてない。それどころか、お前らと違って姿が見当たらなかった」
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「ああ、お前らはここで、ボケーッと佇んでいた。ただ、あいつだけはいなくなってた」
どういうことだ?あいつもあの訳分からねえ試練に巻き込まれていたはず。特別な力故に巻き込まれずに済んだとしても、ここから離れるとは思えない。
「ちょっくら探してみるか」
俺は全神経を集中させて、ネイとの繋がりを確かめる。
「ここを下った先に反応がある」
「よし、すぐに行こう」
フウロが先導する形で先を進んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よう、俺」
背後から、私と同じ声がする。
「誰、ですか......」
「お前だ。俺はお前」
まさか、あの人格が現れたとでも言うのか。
「こうやって、目と目を合わせて話をするのは、初めてになるな」
「やっぱり、あなたは......」
「そうさ。もう1人のお前。確か、デルシア達には『暗殺者』、なんて呼ばれていたな?」
「なんで、あなたがここにいるんですか......」
「簡単な話だ。この神殿の力で俺が具現化しただけだ。それだけの話だ」
よく見えなかった『私』の姿が、徐々に鮮明になってゆく。
「お前は、いつになったら俺にその体を明け渡してくれるんだ?」
「なんで、あなたに渡さないといけないんですか。これは、私の体......」
「だから、俺はお前だっつてんだ。俺が使ったところで、お前はお前だ」
「断ります。私は、殺しなんてしない」
「どんなことがあってもか?」
突然、『私』が私に詰め寄ってくる。鼻の先と鼻の先が当たるくらいに。
「くだらねえ。アイツらは躊躇なく俺達を殺しにやってくる。なのに、お前は抵抗しないとでも言うのか?」
「っ......」
「どんな綺麗事を並べたって、お前は俺だ。認めろよ、いい加減。俺達は殺しの才能に優れている。それでしか自分を表現できねえんだ」
「っ、そんなことーー」
「ないってか?そんなわけねえ。あのバカどもだって、お前に求めているのは力だ。力が必要だから、あいつは契約を結んだんだ」
「ヴァ、ヴァルはそんなことーー」
「思ってないとでも?そんなわけあるか。契約結んですぐに戦場に駆り出したじゃねえか」
「そ、それは幸せな未来を作るためにーー」
「くだらねぇ。ただの口実だろ。あいつだってすぐに裏切っていくんだ。お前を1人残して、そしてお前がまた暴走したら、その時は躊躇なく斬り捨てるんだ。分からねえのか?」
「そんなことーー」
「ない、なんて甘えたことは言うな。なんなら、ここでそれを証明してくれてもいいんだぜ?」
そう言うと、『私』が私の剣を取り上げて無理矢理持たせる。
「ほら、斬ってみろよ。これが、偽の自分だと言うのなら、簡単に斬れるはずだよな?」
私は抜剣して、『私』に向かって剣の切っ先を突き当てる。
「どうした?斬らねえのか?まあ、できねえよな。だって、お前は殺しが嫌いなんだから」
「っ......」
その言葉を聞いて、その場に崩れ落ちた。
「認めろよ。俺がいれば、お前は暴走せずに済むんだ。自分の身を自分で守れるんだ。あんな役立たずどもに頼らなくていいんだ」
「い、やだ......」
「これはお前の本心だ。嘘偽りのない本心だ」
「いや、だ。嫌だ......」
「その体を寄越せよ。俺が上手いことやってやるよ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「死にたくねえんだろ?裏切られたくねえんだろ?なら、任せておけよ」
「嫌だ......、死にたく、ない......。助け、て、■■■」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
神殿の奥を目指してから数分経った。意外と距離のある道だった。ただ、どこにも分かれ道は無かったので、ネイが迷ってどこかに行ったということは無さそうだ。
「......だ、いや......」
微かに、泣き声にも近い声が聞こえた。
(まさか......)
俺は、思うと同時に全力で駆け出した。
「あ、ちょっと待ってヴァルー!」
後ろでセリカ達の止める声が聞こえたが、気にせず走り続けた。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ」
神殿の奥で、ネイが泣き崩れていた。
「おい、どうした!ネイ!おい!しっかりしろ!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
ネイは『嫌だ』と連呼するだけで、何も答えない。
「おいどうしたヴァル。急に駆けだし、て......」
フウロ達が追いついてきた。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「おいおい、どうしちまったんだよ」
「ネイさん、様子がおかしいです」
「ネイりん!返事して!」
「嫌だ......、死にたく、ない......。助け、て、■■■」
そこで、ネイが崩れ落ちた。
「おい!しっかりしろ!ネイ!」
「ヴァ......ル......」
少しだけ目を開けたネイが、そう言い残して、意識を失った。
「何を見たんだ......」
「とりあえず、ギルドに戻ろう。こんなところじゃ落ち着いて話もできない。幸い、吹雪は止んでいる」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あら、おかえりなさい。随分と早かったわねぇ」
ギルドに帰ってきた俺達を出迎えてくれたのは、いつも通りミラだった。
時は夕暮れの時間帯。今朝の出発から経路を考えると、かなり早い時間で終わらせてきた。その理由は、ネイにあるのだが。
「また、倒れちゃったのかしら?」
何も知らないミラが、そう尋ねてくる。
「いつも通りだと、良かったんだがな」
「?それって、どういうことかしら?」
どう説明するべきか。
俺達だって知らないことが多い。説明出来るやつがいるなら、俺達の代わりに説明してくれ。
「とりあえず、中に入ったらどうかしら?外は寒いでしょう?」
ずっと佇んでいる俺達に、ミラが中に入るよう促す。
「まーた暗い顔してんなァ。そして、またその嬢ちゃん絡みのか」
「そんなところだ」
酒が若干回っているグリードの質問には適当に返しておいた。
「朝早くに出かけたかと思えば、お陀仏になった龍人を連れ帰るとは......。お前らには休むことが出来ないのか」
ライオスがそんなことを言いながら傍にやってくる。近くにはエフィもいる。
「ヴァ......ル......」
背中に背負ってるネイが、微かな声を出した。
「目が覚めたか」
ネイを正面に回して、その顔をよく見る。
青くなっている感じはないし、しかめっ面もしていない。とりあえずは大丈夫そうか?
「もう、大丈夫です......」
ネイが俺の手から離れて、近くにあった椅子に座る。
「何か隠してることがあるなら言え。言わねえと分からねえからな」
「大丈夫です。隠し事なんて、してません」
そう言うネイの顔は、どことなく苦しそうだった。ずっと頭を押さえているし、暑くもないのに汗を流している。
「あぅ......、う"ぅ"......」
「本当に大丈夫なのか?俺の目には大丈夫そうに見えない」
「心配しなくて、結構です。ちょっと、お手洗いに......」
そう言って、ネイが立ち上がった。
フラフラな足取りで奥の方へと向かっていく。
「ついて行った方がいいか?」
「大丈夫です。すぐに、戻りますから」
ついて行くべきか否か。迷った末、ここで待つことにした。きっと大丈夫なはずだ。戻ってきてから色々と聞けばいい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
顔に思いっきり水を当て、鏡を見る。
酷い顔をしている。
「なんだお前。あの神殿から離れれば逃げれるとでも思ったのか?」
「っ......」
慌てて鏡から飛び退く。
まただ。また、私の心が私に語りかけてくる。どこへ逃げたって、あいつはやって来る。
「認めれば楽になるって言っただろ?それともあれか?こんな奴は私じゃないってか?笑い話はそのくらいにしとけ。これは紛れもないお前自身だ」
「そんなわけ......、ない......」
荒ぶる呼吸を整えながら、鏡に向かってそう言う。
「だったら、なんでそんなにお前は怖がってんだ?」
「あなたが、怖いから......」
「違うだろ?お前は気づいちまったんだ。自分の本心を聞いて、他の奴らがお前のことをどう思っているのか、気づいちまったんだ。認めたくないのなら、もう一度心理の魔法を使えばいい。そうすりゃ真実が見えるだろうさ」
「嫌だ、あの力だけは......」
「使いたくないんだろ?もう一度同じ思いをしてしまうから。そして、また気づいてしまうから。逃げるな、ネイ。お前は俺だ。まともな心を持ってないお前じゃ、すぐにダメになる」
「やめて......」
「俺に任せてろ。そうすりゃ、全てが上手くいく」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ネイりん、遅いね......」
ギルド全体が暗い空気の中、思い切って口を開いてみる。
「やっぱり、誰かがついて行った方が良かったんじゃない?」
「顔でも洗ってんだろ。ずっと見られっぱなしってのも気分が落ち着かないだろ」
ヴァルが諭すようにそう言う。
「そう、だよね。ごめん......」
再び、ギルドが静寂に包まれる。幸か不幸か、今日は人が少ないため、その空気がずっしりと身に染みる。
いつもの騒がしい空気じゃ、おちおちネイのことを心配していられなかっただろう。
《コツ......コツ......》
床を踏み鳴らすような音がして、ネイが戻ってきた。顔を洗っていたのか、指先から水を垂らしている。それに、なぜか顔を拭いていないため、びしょびしょになっている。
「......」
突然、ネイが濡れた顔を突き出してヴァルに飛びつく。
「お、おい、どうしたんだネイ。一応、人目があるーー」
それ以上の言葉をヴァルは発しなかった。代わりに、ヴァルの腹部あたりが赤く染まりだす。
「信頼ってもんは、くだらねえ毒になるんだな」
ネイが、ヴァルに刺した剣を抜いて、そう言った。
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