グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第5章 【黒の心】

第5章5 【裏の五節】

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「うっ......あっ......」

 刺された腹部が赤く染まる。

 一々確認しなくてもわかる、俺の血。直接見なくても、ドス黒さが服に滲んでいる。

「痛いか?ヴァル」

「おま......にを......」

 声を上手く出すことが出来ない。痛い、腹の傷がどんどん広がっていっているような気がする。

《バタン......》

 耐えきれず、その場に倒れてしまった。

「ヴァル!しっかりして!」

 たまらず、セリカとエフィが駆け寄ってくる。

「今、治療します!」
「お願い!アルラウネ!」

 2人の集中治癒が傷を治していく。

 黙ってネイの方を見る。

(あれは、ネイじゃねえ......)

 感覚でしかないが、そう思えた。ジーク達のような、別のところから乗り移ってきた人格。

 まずい。意識が段々遠のいていく。そういや、治癒魔法には副作用として睡眠効果があるとか聞いたことがあったな。

「......ちっ、うぜえんだよ」

 最後に、ネイのその言葉を聞いて俺の意識は無くなった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「うっ......あっ......」

 ヴァルが刺され、倒れゆく様を、俺は黙って見ていた。

「今、治療します!」
「お願い!アルラウネ!」

 2人の少女がいち早く我に返り、ヴァルの治療を開始する。

「......ちっ、うぜえんだよ」

 その様を見て、ネイがそう呟いた。

「お前、どういうことだ」

 拳を震わせ、怒りをできるだけ抑えた声でそう言う。

「どういうことも何も、うぜえから刺した。それだけだ」

「......お前、ネイじゃねえな」

「残念。俺はネイだ」

 そんなわけあるか。

 俺に対して衝動的に起こすのならまだしも、契約者で、恐らく恋心を抱いてる相手であるヴァルを、平気な顔で指し殺そうとするやつではない。

「全くもって信頼ってのは甘い毒になるっていうのを、ここの奴らはなぜ理解しないのかね」

 もう我慢ならない。

 ネイの体ではあるが、殴れば体からあの人格を引き剥がせれるだろう。

「オラッ!」

「殺意が見え見えだ。もっと上手くやるんだな」

 突き出した腕を掴まれ、そのまま捻り倒された。

「ヴェルド様!」

 たまらずシアラが駆け寄ってくる。今日、この時ばかりはウザいと思わなかったが、怪我人だけ増やしてしまった。

「お前は殺しても大丈夫だよな?」

 剣を握ったネイがジリ寄って来る。

「ヴェ、ヴェルド様は......!」

 バカ、逃げろ。今のそいつは何言っても聞かねえ。

「ライ......オス......」

 震える喉で、仲間の名を呼ぶ。クソっ、まだ状況を理解出来てねえやつがいるのか......

「......!シアラ!どいてろ!」

 やっと状況を理解出来たか......。まあ、仲間が目の前で刺されて動揺してしまうのは仕方ないが、全員意識をハッキリとさせろ。

「せやっ!」

 フウロが目で追えないほどの速さでネイの剣を取り上げる。

「おっと、油断しちまった」

「その体をネイに返せ!」

「返すも何も、この体は俺のだ」

「訳の分からないことを......」

「難しく考えすぎなんだよ。俺は俺。お前らがよーく知ってるネイだ!」

 訳が分からない。

 ネイが多重人格だったとでも言うのか。そんなわけな......待てよ。確か、俺は似たようなものを見たことがある。

「......ちっ、邪龍・フェノンとでも言えばお前らは理解出来るか?」

「......!」
「......!」

 邪龍・フェノン。
 世界を闇に陥れ、全てを破壊する存在。夢でも幻でもなけりゃ、あれと1回戦った。あれは憎悪を形にしたようなもんだった。

 悲しみ、苦しみ、怒り......。

「理解出来たか?」

「......なら、もう1人のネイはどこにやった」

 フウロがそう問いかける。

「......消えちまったよ。いや、俺と統合されたと言った方が良いか」

「消し飛べ!」

「雷雨!」

 言葉を並べても無駄だと悟った2人は、同時に襲いかかる。

 ライオスは雷の雨を、フウロは何もない剣激で......ってライオス、ここでその技を使うな。巻き添えを喰らうだろうが。

「やっぱ、御託並べるよりも力でぶつかった方が分かりやすいか!ハッそうだよなぁ!」

 華麗な身のこなしで技を避けていく。この辺は、邪龍教と戦っていた時のネイに似てる。似てる分、嫌でも認めなくてはならなくなる。

「弱ぇぞお2人さん!邪龍と戦ってた時はそんなだったか?」

 速すぎる。こんなの、全開の状態の俺でも、指1本触れられないだろう。

「うっ......」
「あ......」

 2人とも、いつやられたのかというくらいの速さで、腹に赤い滲みを作って倒れた。

「さーて、次はどいつだ。ーーあんま女に手ぇ出す気にはなれねえんだよなぁ」

 ネイの目線の先は、シアラがいる。ただの剣激なら、グリードあたりが止めれそうだが......。あいつどこに逃げやがった?

「やっぱ、俺はお前が許せねえわ」

「......っ」

 いつの間にか、ネイが俺の前にしゃがみこんでいた。剣を肩の上に乗せて。

 抵抗しようにも、右腕、左足に上手く力が入らない。骨折か捻挫か、それとも神経がやられたか。とにかく、痛みで動くことが出来ない。

「いいか。お前らが本気で殴りかかってくりゃ、倒せたかもしれねぇのに、仲間思いな生温い攻撃で誰がやられるかってんだ」

 ツケが回って来たか。こんなことなら、怒りに身を任せて、あの日、ぶん殴らなきゃよかった。そしたら、恨みを買うことなんてなかっただろうに。

 多分、俺は殺される。
 ヴァル達みたいに、腹一突きで済ませてくれるわけない。それだけはなんとなく予知できた。

「死......うぁ、......ヴェル......ド......」

 突然、ネイの様子が豹変した。

「おね......黙......い......引っ......止め......ろ!」

 よく分からないが、これはチャンスだ。でも、どうやってこの状況を切り抜けるか。

 他の仲間の助けを待つ、という選択肢もあるが、何が起こるか分からない中で下手に動かせない方がいい。

 となると......、目の前にネイのほっそい足が見える。これしかない。

「黙......ヴェル......動......あなた......てろ!......頼り......」

「うぉぉぉ!」

 動く左手でネイの右足を掴み、思いっきり内側に引っ張る。今の不安定な状態なら受け身なんて取れない。このまま硬い地面に頭をぶつけて脳震盪だ。すまん、後でドーナツ奢るから許してくれ!

「あっ......」

 計画通り、ネイは意識を飛ばしてくれた。

「......助かった」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「すぅーすぅー」

 なんとか、騒ぎを大きくせずに済んだ。

 右腕、左足が痛いが、シアラに手が及ばなかっただけ良しとしよう。

「痛ってぇ......」

「待っててください。今治療しますから」

 治癒魔法なんて地味だと思っていたが、役に立つ場面があまりにも多すぎる。戦い続きで体が休まらず、いっつも痛い思いをして......。俺も治癒魔法勉強してみよっかな?

「ごめんなさい。すぐに動けなくて」

 ミラが謝ってくる。

「気にすんな。むしろ、あの状況なら下手に動かねえ方がいい。つか、そんなことよりグリードの野郎はどこ行った」

 アイツだけは許さない。酒に酔ってたくせに、肝心な時にいなくなりやがって......。マジで逃げたんじゃねえだろうな。

「......言いづらいのだけれど、グリードはお酒を買いに......」

 よし殺そう。

 あいつはこうなった事も経緯も知らねえだろうが、酒を買いに出かけたんだったら殺すしかない。

「すぅーすぅー」

 奇妙なくらい大人しく寝てる。

 ちょっと頭を強く打たせすぎたか?

 グリードがどうこうってあるが、事の発端はこいつ。ヴァルの言う通り、こいつは本当に隠し事が多い気がする。

 それだけ、信頼されてないってことになるんだろうが......。

 「邪龍・フェノンとでも言えばお前らは理解出来るか?」
 あいつが放ったその名前。
 フェノンはネイと共に1度消滅した筈だからいなくなったと思っていたが、その考えは違うらしい。

 いや、フェノンとネイは全くもって別の人格ってわけではないのか。だから、「俺がネイ」なんてことを言ったのか。あれ?邪龍と化したネイが、一人称を『俺』にしてたっけ?

「ーートリガーは、恐らくあの神殿か」

 俺の考えを遮るように、1人の女が入ってきた。

「傷の具合はどうだ?」

「そっくりそのままお返しするぜ、フウロ」

「このくらい平気だ。やわな鍛え方はしとらん」

 はいはいそうですか。もうちょっと女の子らしい言葉遣いはできねえのか。

「お前は、この件についてどう思う?」

 フウロがネイを見てそう言う。

「どう思うって言われてもな......、ジーク達と同じ存在だと考えるのは間違ってる、くらいかな」

「そうか......」

 フウロにしては珍しく悩んでいる。いつもなら、こういう時は答えが出た状態で来るのに。

「......こいつを、ここに置いて正解だったのだろうか?」

「......?どういうことだ?」

 質問の意図がさっぱり読めない。ここに置いて正解だったかってどういう意味だ?

「あの日、こいつが初めてこの場所に来た日、こいつを、ネイをこのギルドに入れて正解だったのだろうかって話だ」

「そりゃぁ、そんなの......」

 入れて良かった。
 そう言いたいのに、口が縫い付けられたかのように開かない。

 本当にここに置いて正解だったのだろうか?こんな、龍人を忌み嫌う連中がいて、表面上明るく振舞ってるだけで、邪龍教とかいうわけのわからねえ連中が来て......。

 こいつはここにいて正解、いや、幸せだったのだろうか?

「......なあ、フェノンって、憎悪の塊みたいなもんなんだよな?」

「そう伝えられている。まあ、私も本物を見た限りではそう思うが......」

 憎悪......怒り。怒りを抑え込むこいつにとって、悩みの捌け口なんてどこにあるのか。何を言われても何をされても、嫌な顔1つせずに、ずっと俺達といて......。

「相当、ストレスが溜まってたんだろうなぁ......」

「それが、あの神殿での出来事をきっかけに、もう1つの人格として現れたんじゃないだろうか?」

 その考えはなかったが、確かによく考えてみれば、あの場所はもう1人の自分を見ることが出来た場所......思い出したくねぇ!

 おっといけねえ、雑念が......。
 それで、みんな突破方法は様々だが、なんとかもう1人の自分とケリをつけた。つけたのだが......。

「ネイが、もう1人の自分とケリをつけられなかったとしたら......」

「隠してた自分を連れて来てしまった......ということになるな」

 正直、考え事は得意ではないが、なんとなく原因が分かった気がする。

「いっ......」

 またしても、俺の考えを遮るように、変な音がした。

「目が覚めたかヴァル」

「......腹痛ぇ」

「開口一番、言う言葉がそれか」

「仕方ねえだろ。思ったことはそのまま言っちまうタイプなんだからっ痛てて」

 そら見た事か。お前の傷が1番深かったんだから当たり前だ。

「......夢じゃねえんだよな」

「安心するな全部現実だ」

「本当に安心できねえな」

 まあ、ヴァルにとっては全てが夢であって欲しかったことだろうしな。無理はない。

「......最初に言っておくが、俺は何も知らねえからな」

 さてはこいつ、さっきまでの話聞いてたな?

「......じゃあ、別の質問をしよう。お前はネイとどういう関係だ?」

「ど......って今聞く事じゃねえだろ!」

 それは俺も思ったが、返し方に僅かな動揺が見える。まさか、本当にネイとそういう関係なんじゃねえだろうな。

「冗談だ。私はお前らがどういう関係だろうと口出しはせん。だが、あいつから話してもらえたことは全部話せ。この件を解決するのに必要だ」

「......話して伝わるか?」
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