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外伝 【白と黒の英雄】
外伝15 【白・郷愁の城】
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目を覚ますと、見知らぬ天井、否、知っているはずの天井が目に映る。
ここはどこなのか。なぜ、室内にいるのか。昨日、何があったのか。
数々の疑問が湧き出てくるが、とりあえずは体を起こそうとする。そうすると、背中に猛烈な痛みが走る。
「いっ......」
「あぁああああ、だだだだだダメですよ。無理しては」
起き上がろうとしたところを、1人の少女に押さえられる。そのせいで、またしても背中の痛みを感じてしまった。
「ああああの、き、昨日何があったか、覚えていますかかかか?」
「昨日......?」
確か、黒月軍と白陽軍が激突すると聞いて、真っ赤な橋へと向かった。あれほどの赤く染った橋は、早々に忘れられるものでは無い。それで、確か、アルフレア兄さんの説得中に異界の敵が攻めてきた、んだと思う。
そこから、確か、白陽の方も大変だとかなんだとかで、そっちに向かったはず......。そこから先の記憶がすっぽり抜けてしまっている。
ただ、そのせいで1つだけ理解できたことがある。ここは私の部屋だ。ほんの数年だけ過ごしていた、私の部屋だ。
「えっと......デルシア様......ですよね?」
1人考え事をしていた私に、少女がそう尋ねてくる。
「はい。私がデルシアです」
「......そうですか。やっぱり、シンゲン様には、もう1人妹様が......」
安堵したような、不安なような、よく分からない表情で少女がそう言う。
「あああ、すみません。名乗り忘れてました。わわわ私、シンゲン様の従者をしている、かかかカンナ、と申します。いいい以後、お見知りおーー」
《ガンッ!》
「痛っ!」
カンナが、お辞儀をしようとしたのか、物凄い勢いで腰を曲げた。そして、その勢いそのままに寝転んでいる私の額にカンナの額を当ててきた。
「すすす、すびばぜん」
「い、いえ、これくらいは慣れてるので、大丈夫です」
「あああ、そうででですか」
なんだか落ち着きの足りない子だな、と思いつつ、段々と脳の整理が出来てきたので聞きたいことが出てきた。
「あの、シンゲン兄さんと、ネイ......私の連れの女の子はどこにいますか?」
「はい。えっと、確か和室の方でサツキ様も交えてお話をしておられるかと......」
いや、この城大半が和室作りなんだけど......。まあいいや。3人で話せる場所なら、あの部屋くらいだろう。
「痛ててて......」
私もその場に行こうと起き上がるが、背中の痛みが酷く、立って歩けそうにないことに気づいた。
「だ、ダメですよ!まだ安静にしてないと!御三方なら、そのうち様子見にやって来ます。ですから、今は安静にしていてください!」
カンナが、ハッキリとした口調でそう言ったが、大人しくそうしているわけにはいかない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「異界、見えない敵、黒月軍、デルシア......。流石に理解が追いつかんな」
シンゲンが難しそうな顔をしてそう言う。まあ、気持ちは分かる。私だって理解出来てないことだらけなのだから。
「短くまとめると、異世界なるものが存在して、そこから敵が湧いて出てきている、ということでよろしいのだな?」
茶髪の女性、サツキがそう言う。
「多分......そういうことだと......」
「多分か......。随分と曖昧なんだな」
「はぁ......、私自身理解出来てないことだらけなので」
デルシア達も、多分理解出来てないとは思う。でも、実際に異世界に行った彼女達ならば、私よりも理解出来ていることが多いだろう。
「......まあいい。とりあえず、別な敵がいる。そいつらを倒すのがお前らの目的ってことでいいんだな?」
「はい。そのために、色んなところを回ってたようなのですが......」
「散り散りになってしまったな。今の情勢では、向こうに使者を送ることなどできない」
そうに決まっているだろう。大きな戦いが少ないとは言え、一応戦争している状態なのだ。お互いに相手国を潰すつもりで。和平など結ぶことはできないだろう。
どうにかして、仲間達と連絡を取ることはできないだろうか。
「そちらを信用はする。しかし、すぐに行動に移すことはできない。黒月とどうにかして協議の場を設ける。それだけは約束しよう」
「......できるんですか」
「......自信はない。最悪、もう1回ドンパチしないといけなくなる」
約束破りの道が完備されている。だが、それは仕方のないこと。ミューエ達が私と同じように話をしてくれてるとは思う。あの状況を目の当たりにしたのだから、あんな殺気立った兄でも話くらいはするだろう。それはそうとして、白陽とは協力関係を結ぶことが出来る。デルシアの意見を聞けてはないが、彼女ならばOKを出すだろう。
「分かりました。その約束を守るという条件で、私達は一時的に白陽との協力関係を結びます」
「必ず、戦争を平和的に終わらせてみせよう」
固い握手を交わした。
これで、白陽側の心配はないはず。
「なあ兄さん。そろそろ姉さんの様子でも見に行かないか?」
「そうか。もう1時間くらい経ってるのか」
「そろそろ起きているだろう。いくら寝坊しやすい姉さんと言えど、痛みで目を覚ましているに違いない」
痛み......。
昨晩のことはよく覚えていない。ジークが勝手に戦ったと聞いただけ。火傷が治りきっていない状態だったので、今でもヒリヒリしている。それと、デルシアが背中からバッサリとやられた。ジークの勘でも追い付かないほどの合間に。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「だからダメです!」
「3人に合わせてください!」
「ご自分の体を大事にしてください!」
「これくらい平気です!」
「とてもそうには見えません!」
押し問答を繰り返すほど30分。
どれだけ止めようとしても、デルシアは3人のところに向かおうとする。
勢いは向こうの方が凄いが、私にだって任された者としての意地がある。
「ダメです!安静にしててください!」
「どうしたカンナ。お前が大声を上げる日なんて、一生来ないと思ってたのだが」
「す、すすすすみません!シンゲン様!」
「いや、謝らなくていい。どうせ、デルシアの勢いに合わせてただけだろ」
まさしくその通り。
白陽の王族とは思えない龍の姿をした少女。若干の世間知らずなところがあり、子供っぽい性格。一体、どうやって抑えろと......いや、今はそんなことはどうでもいい。シンゲン様がやって来て良かった。
「デルシア、そんなに焦らんでも、俺達は逃げも隠れもせん。カンナに無茶をさせるな」
「すみません。でも......」
「一刻も早く話したいことがあったんだろ?なら、今この場で言え」
すごい。さっきまであんなに勢いの凄かったデルシアを、一瞬で包み込んでしまった。
「......ネイという少女から、大方話は聞いている。お前が話したかったことも、恐らく全部聞いている」
「そう、ですか......」
「その傷じゃ、しばらくは動けん。大人しく俺達の言う通りにしてろ。悪いようにはせん」
「......そうだ。ネイさん以外のみんなは!」
デルシアがシンゲン様の両腕に掴まってそう言う。問いかけるデルシアの表情は、普段、私がしているような不安げな顔よりも酷いものだった。
「......他の者の行方は知らない。恐らく、黒月軍にでも捕まったか、歓迎されたか......。どちらにせよ、こちらから連絡を取ることは出来ない」
重々しい口調でそう言った。それを聞いたデルシアの顔が、暗く曇った。
(......離れ離れになってしまった......。暗殺隊がいると言えど、死んでるかもしれない。いや、そんな悲観的な考えはダメ。今はみんなの無事を祈って、できることを......できること......)
デルシアがぶつぶつと何かを呟いている。そのせいか、暗い顔は真剣な表情へと切り替わった。
「この傷って、どれくらいで治ると思いますか」
「ひゃっ......」
突然鬼のような形相で振り向いてきたもんだから、つい変な声が出てしまった。
「あっ、すみません。驚かせてしまって」
それに気づいたらしく、素直に謝ってくる。
「えーっと、このままだと、あと2週間くらいは......」
「2週間......ですか......」
2週間じゃ遅すぎるって顔をしている。それもそのはず。2週間も黒月が大人しくしているとは限らない。それと、異界の敵も。
「......5日でどうですか」
「?それってどういうーー」
「5日だったら間に合いそうですか!」
震える喉に意識を集中させ、ハッキリとした口調でそう言う。全身が熱く昂っている。
「欲を言えば1日で動けるようになりたいのですが」
流石に1日は厳しすぎる。というかできない。ただ、3日なら......
「3日でどうでしょうか!」
「おいカンナ。それはお前の体に負担がーー」
「デルシアさんは本気なんです。なら、私が日和ってるわけにはいきません!」
心臓がバクバク鳴っている。こんなに大きな声を出して、自分の意見を言うのは何時ぶりだろうか。
「あの、体に負担がってどういうことですか?」
「それに関しては気にしないでください。取引です。私はデルシアさんの体を全力で治療します。ですから、デルシアさんは目的を成し遂げて、生きて帰ってきてください」
自分の覚悟をデルシアにぶつける。
生まれてこの方自分の意見をハッキリ言えたことは無い。ましてや、他人のために自分を犠牲にするという考えを持ったことも無い。でも、この人は私と正反対の生き方をしている。弱く情けない自分が、強くカッコイイ人の助けになるのなら、後悔はしない。
「......色々と聞きたいことがありますが、今は目を瞑ります。3日でお願いします!」
取引成立。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「まさか、カンナがあそこまで声を上げるとはな」
「それもそうだが、言ってる内容も大概だ。何があいつを変えようとしたんだろうな」
「答えなんて、すぐそこにいただろ」
デルシアの存在が、カンナの行動力となった。なったのは良いのだが、
「無茶はさせられない。5日くらいにしといた方がいい」
「姉さんはせっかちすぎる。もう少し落ち着いて行動すればいいものを」
デルシアもデルシア。落ち着きのないところは、母さんに似ている。
「しかし、すぐに行動に移したいのはこちらも同じだ。それに、色々と進めるためにはデルシアの協力が必須。妥協点でネイさんがいるが、言っちゃ悪いがあの子は使えそうにない」
「随分な物言いだな。あの子はデルシアよりも賢く、冷静そうに見えたが」
「......上手く言えないのだが、ネイさんは内側に黒いものがある」
黒いもの?それは、昨日見ていた男勝りな人格だろうか。でも、それなら黒には見えない。
「......なんとなくだが、殺しが得意そうに見えただけだ。私達と話している間も、常にこちらの仕草一つ一つに気を使っていた」
「それではまるでーー」
「暗殺者。短く言えばそれしかない」
サツキの言う通り、暗殺者そのものだ。殺気を一切見せず、何かあればすぐに殺せれるような構え。敵の動きに順応する判断力。
「本当に、あの子はそこまで見ていたと言うのか?」
「分からない。なんとなくそう感じただけだ。根拠は一切無い」
根拠は無いと言われても、今の考えであの子の行動全てに意味があるように思えてきた。もしかしたら、黒月の使者ということも有り得る。ただ、暗殺者のような動きなんて、パッと見で分かるわけない。
「......腹を割って話せば、なにか聞けるかもしれん。飯を用意しておけ。そこで、洗いざらい全部聞きだしてやる」
「敵の胃袋でも掴む気か。今の時代、劇とかでも見ないぞ」
「自白させるわけじゃない。ただ、聞きたいことを舌に乗せて吐き出させてやるだけだ」
「それ言ってる意味同じだぞ」
ここはどこなのか。なぜ、室内にいるのか。昨日、何があったのか。
数々の疑問が湧き出てくるが、とりあえずは体を起こそうとする。そうすると、背中に猛烈な痛みが走る。
「いっ......」
「あぁああああ、だだだだだダメですよ。無理しては」
起き上がろうとしたところを、1人の少女に押さえられる。そのせいで、またしても背中の痛みを感じてしまった。
「ああああの、き、昨日何があったか、覚えていますかかかか?」
「昨日......?」
確か、黒月軍と白陽軍が激突すると聞いて、真っ赤な橋へと向かった。あれほどの赤く染った橋は、早々に忘れられるものでは無い。それで、確か、アルフレア兄さんの説得中に異界の敵が攻めてきた、んだと思う。
そこから、確か、白陽の方も大変だとかなんだとかで、そっちに向かったはず......。そこから先の記憶がすっぽり抜けてしまっている。
ただ、そのせいで1つだけ理解できたことがある。ここは私の部屋だ。ほんの数年だけ過ごしていた、私の部屋だ。
「えっと......デルシア様......ですよね?」
1人考え事をしていた私に、少女がそう尋ねてくる。
「はい。私がデルシアです」
「......そうですか。やっぱり、シンゲン様には、もう1人妹様が......」
安堵したような、不安なような、よく分からない表情で少女がそう言う。
「あああ、すみません。名乗り忘れてました。わわわ私、シンゲン様の従者をしている、かかかカンナ、と申します。いいい以後、お見知りおーー」
《ガンッ!》
「痛っ!」
カンナが、お辞儀をしようとしたのか、物凄い勢いで腰を曲げた。そして、その勢いそのままに寝転んでいる私の額にカンナの額を当ててきた。
「すすす、すびばぜん」
「い、いえ、これくらいは慣れてるので、大丈夫です」
「あああ、そうででですか」
なんだか落ち着きの足りない子だな、と思いつつ、段々と脳の整理が出来てきたので聞きたいことが出てきた。
「あの、シンゲン兄さんと、ネイ......私の連れの女の子はどこにいますか?」
「はい。えっと、確か和室の方でサツキ様も交えてお話をしておられるかと......」
いや、この城大半が和室作りなんだけど......。まあいいや。3人で話せる場所なら、あの部屋くらいだろう。
「痛ててて......」
私もその場に行こうと起き上がるが、背中の痛みが酷く、立って歩けそうにないことに気づいた。
「だ、ダメですよ!まだ安静にしてないと!御三方なら、そのうち様子見にやって来ます。ですから、今は安静にしていてください!」
カンナが、ハッキリとした口調でそう言ったが、大人しくそうしているわけにはいかない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「異界、見えない敵、黒月軍、デルシア......。流石に理解が追いつかんな」
シンゲンが難しそうな顔をしてそう言う。まあ、気持ちは分かる。私だって理解出来てないことだらけなのだから。
「短くまとめると、異世界なるものが存在して、そこから敵が湧いて出てきている、ということでよろしいのだな?」
茶髪の女性、サツキがそう言う。
「多分......そういうことだと......」
「多分か......。随分と曖昧なんだな」
「はぁ......、私自身理解出来てないことだらけなので」
デルシア達も、多分理解出来てないとは思う。でも、実際に異世界に行った彼女達ならば、私よりも理解出来ていることが多いだろう。
「......まあいい。とりあえず、別な敵がいる。そいつらを倒すのがお前らの目的ってことでいいんだな?」
「はい。そのために、色んなところを回ってたようなのですが......」
「散り散りになってしまったな。今の情勢では、向こうに使者を送ることなどできない」
そうに決まっているだろう。大きな戦いが少ないとは言え、一応戦争している状態なのだ。お互いに相手国を潰すつもりで。和平など結ぶことはできないだろう。
どうにかして、仲間達と連絡を取ることはできないだろうか。
「そちらを信用はする。しかし、すぐに行動に移すことはできない。黒月とどうにかして協議の場を設ける。それだけは約束しよう」
「......できるんですか」
「......自信はない。最悪、もう1回ドンパチしないといけなくなる」
約束破りの道が完備されている。だが、それは仕方のないこと。ミューエ達が私と同じように話をしてくれてるとは思う。あの状況を目の当たりにしたのだから、あんな殺気立った兄でも話くらいはするだろう。それはそうとして、白陽とは協力関係を結ぶことが出来る。デルシアの意見を聞けてはないが、彼女ならばOKを出すだろう。
「分かりました。その約束を守るという条件で、私達は一時的に白陽との協力関係を結びます」
「必ず、戦争を平和的に終わらせてみせよう」
固い握手を交わした。
これで、白陽側の心配はないはず。
「なあ兄さん。そろそろ姉さんの様子でも見に行かないか?」
「そうか。もう1時間くらい経ってるのか」
「そろそろ起きているだろう。いくら寝坊しやすい姉さんと言えど、痛みで目を覚ましているに違いない」
痛み......。
昨晩のことはよく覚えていない。ジークが勝手に戦ったと聞いただけ。火傷が治りきっていない状態だったので、今でもヒリヒリしている。それと、デルシアが背中からバッサリとやられた。ジークの勘でも追い付かないほどの合間に。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「だからダメです!」
「3人に合わせてください!」
「ご自分の体を大事にしてください!」
「これくらい平気です!」
「とてもそうには見えません!」
押し問答を繰り返すほど30分。
どれだけ止めようとしても、デルシアは3人のところに向かおうとする。
勢いは向こうの方が凄いが、私にだって任された者としての意地がある。
「ダメです!安静にしててください!」
「どうしたカンナ。お前が大声を上げる日なんて、一生来ないと思ってたのだが」
「す、すすすすみません!シンゲン様!」
「いや、謝らなくていい。どうせ、デルシアの勢いに合わせてただけだろ」
まさしくその通り。
白陽の王族とは思えない龍の姿をした少女。若干の世間知らずなところがあり、子供っぽい性格。一体、どうやって抑えろと......いや、今はそんなことはどうでもいい。シンゲン様がやって来て良かった。
「デルシア、そんなに焦らんでも、俺達は逃げも隠れもせん。カンナに無茶をさせるな」
「すみません。でも......」
「一刻も早く話したいことがあったんだろ?なら、今この場で言え」
すごい。さっきまであんなに勢いの凄かったデルシアを、一瞬で包み込んでしまった。
「......ネイという少女から、大方話は聞いている。お前が話したかったことも、恐らく全部聞いている」
「そう、ですか......」
「その傷じゃ、しばらくは動けん。大人しく俺達の言う通りにしてろ。悪いようにはせん」
「......そうだ。ネイさん以外のみんなは!」
デルシアがシンゲン様の両腕に掴まってそう言う。問いかけるデルシアの表情は、普段、私がしているような不安げな顔よりも酷いものだった。
「......他の者の行方は知らない。恐らく、黒月軍にでも捕まったか、歓迎されたか......。どちらにせよ、こちらから連絡を取ることは出来ない」
重々しい口調でそう言った。それを聞いたデルシアの顔が、暗く曇った。
(......離れ離れになってしまった......。暗殺隊がいると言えど、死んでるかもしれない。いや、そんな悲観的な考えはダメ。今はみんなの無事を祈って、できることを......できること......)
デルシアがぶつぶつと何かを呟いている。そのせいか、暗い顔は真剣な表情へと切り替わった。
「この傷って、どれくらいで治ると思いますか」
「ひゃっ......」
突然鬼のような形相で振り向いてきたもんだから、つい変な声が出てしまった。
「あっ、すみません。驚かせてしまって」
それに気づいたらしく、素直に謝ってくる。
「えーっと、このままだと、あと2週間くらいは......」
「2週間......ですか......」
2週間じゃ遅すぎるって顔をしている。それもそのはず。2週間も黒月が大人しくしているとは限らない。それと、異界の敵も。
「......5日でどうですか」
「?それってどういうーー」
「5日だったら間に合いそうですか!」
震える喉に意識を集中させ、ハッキリとした口調でそう言う。全身が熱く昂っている。
「欲を言えば1日で動けるようになりたいのですが」
流石に1日は厳しすぎる。というかできない。ただ、3日なら......
「3日でどうでしょうか!」
「おいカンナ。それはお前の体に負担がーー」
「デルシアさんは本気なんです。なら、私が日和ってるわけにはいきません!」
心臓がバクバク鳴っている。こんなに大きな声を出して、自分の意見を言うのは何時ぶりだろうか。
「あの、体に負担がってどういうことですか?」
「それに関しては気にしないでください。取引です。私はデルシアさんの体を全力で治療します。ですから、デルシアさんは目的を成し遂げて、生きて帰ってきてください」
自分の覚悟をデルシアにぶつける。
生まれてこの方自分の意見をハッキリ言えたことは無い。ましてや、他人のために自分を犠牲にするという考えを持ったことも無い。でも、この人は私と正反対の生き方をしている。弱く情けない自分が、強くカッコイイ人の助けになるのなら、後悔はしない。
「......色々と聞きたいことがありますが、今は目を瞑ります。3日でお願いします!」
取引成立。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「まさか、カンナがあそこまで声を上げるとはな」
「それもそうだが、言ってる内容も大概だ。何があいつを変えようとしたんだろうな」
「答えなんて、すぐそこにいただろ」
デルシアの存在が、カンナの行動力となった。なったのは良いのだが、
「無茶はさせられない。5日くらいにしといた方がいい」
「姉さんはせっかちすぎる。もう少し落ち着いて行動すればいいものを」
デルシアもデルシア。落ち着きのないところは、母さんに似ている。
「しかし、すぐに行動に移したいのはこちらも同じだ。それに、色々と進めるためにはデルシアの協力が必須。妥協点でネイさんがいるが、言っちゃ悪いがあの子は使えそうにない」
「随分な物言いだな。あの子はデルシアよりも賢く、冷静そうに見えたが」
「......上手く言えないのだが、ネイさんは内側に黒いものがある」
黒いもの?それは、昨日見ていた男勝りな人格だろうか。でも、それなら黒には見えない。
「......なんとなくだが、殺しが得意そうに見えただけだ。私達と話している間も、常にこちらの仕草一つ一つに気を使っていた」
「それではまるでーー」
「暗殺者。短く言えばそれしかない」
サツキの言う通り、暗殺者そのものだ。殺気を一切見せず、何かあればすぐに殺せれるような構え。敵の動きに順応する判断力。
「本当に、あの子はそこまで見ていたと言うのか?」
「分からない。なんとなくそう感じただけだ。根拠は一切無い」
根拠は無いと言われても、今の考えであの子の行動全てに意味があるように思えてきた。もしかしたら、黒月の使者ということも有り得る。ただ、暗殺者のような動きなんて、パッと見で分かるわけない。
「......腹を割って話せば、なにか聞けるかもしれん。飯を用意しておけ。そこで、洗いざらい全部聞きだしてやる」
「敵の胃袋でも掴む気か。今の時代、劇とかでも見ないぞ」
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