グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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外伝 【白と黒の英雄】

外伝16 【黒・冷徹の兄】

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 血の舞う戦いから一夜が明けた。

 突然のことで、多くの犠牲が出ると思ったが、幸か不幸か、デルシアらがあれらのことを知っていたおかげで犠牲を少なくすることが出来た。だが、同時に、1つ貸しを作ってしまった。

 本当なら向かわせたくなかったが、白陽側を助けに行ったデルシアが戻って来なかった。変な紙切れが捨ててあったが、血に濡れていて読めたものではない。

 デルシアの安否が分からず、不安の念を抱いている彼らには申し訳ないが、事情説明ということで、黒月の城へと来てもらった。

「ーー以上となります」

 一通りの報告内容を伝えた俺は、我が父ギルスの顔色を伺う。

 今回の戦いは、はっきり言って失敗だ。白陽に負けたわけではないが、あの橋の占領は出来ずじまい。どんな罰が来ようと覚悟は出来ている。

「......そうか。もうよい、去れ」

「......はっ」

 想像の斜め上を行くような答えだった。どんな罰が来るかなんて想像はできなかったが、お咎め無しは考えもしなかった。

 俺は黙ってこの場を後にした。

 父親らしいのだが、らしくない。上手くは言えない。だが、普段とはかなり感じが違った。目は死んだ魚のようにやる気をなくしていたし、声の圧も無かった。

「......考えすぎか?」

 あんなことがあった翌日だ。少し、物事に対して敏感になっているだけかもしれない。

「......今は、彼らの話を聞く時か」

 話を聞いて、どうにかなるという宛はない。だが、それでも今の状況を知る必要はある。

「あら、暗そうな叔父様が歩いてると思ったら、お兄様じゃない」

「......ベルディア?」

 俺の考えを遮ってきたのは、紛れもなくデルシアに対してシスコンな妹、ベルディアであった。

「随分と会わないうちに老けたわねぇ。何歳になったんだっけ?」

「俺はまだ26で、お前と顔を合わせていないのは1週間だけだ」

「あら、そうだったかしら」

 戦時中だというのに、呑気なものだ。その呑気さはデルシアから譲り受けたものか?

「......ミューエ、イグシロナ、ガンマ、カイナ」

「......」

「お前は、この名前に聞き覚えがあるか?」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「お前は、この名前に聞き覚えがあるか?」

 その質問を繰り出された時、一瞬心臓が止まったような気がした。

「......その人達がどうかしたの?」

 落ち着け。昨晩、あの橋でデルシア達と兄様は顔を合わせたはず。だから、知っていてもなんら不思議ではない。

 問題は、なぜそれを私に聞いてきたのかということだ。

「昨晩、例の橋でちょっとしたいざこざがあった。なんでも、見えない敵が湧いたとのことだ。それについて、知ってる奴らを裏口から招き入れたのだが、そいつらの名前が今のそれだ」

 招き入れた。ということは、捕まったわけではない。第3の敵を目にして、偶然説得出来たということか?

「ちょっと待って、だとしたら、デルシアの名前が入ってないとおかしいはずよ」

「知ってるんだな」

 しまった......。
 つい口が滑ってしまった。

「......別に、お前を咎めるつもりは無い。ただ聞いてみただけだ」

 何を考えているのかは知らないが、アルフレアがデルシア達の話を聞けたことは分かった。でなければ、ここから怒涛の質問攻めがーー

「それで、お前は奴らとどんな関係だ。俺の質問に全部答えたらデルシアの事を話してやる」

 そんな甘いわけなかった。デルシアの居場所を知りたいが、どこまで話していいものやら。事と場合によっては、ここにいるミューエ達が危なくなる。

「......獣人の里で、たまたま知りあった仲よ。安心して、里の制圧は済ませてるから」

「お前は嘘が下手だな。デルシアらのことを考えろ。あいつらはこの戦いを止めるために動いてる。そして、お前はデルシアに対して甘々だ。大方、制圧したふりにでもすると言ったんだろ?」

 なんて洞察力だ。我ながら気づかれにくい嘘だと思ったのに。

「嘘は効かん。だが、何を話そうがあいつらの身辺は保障してやる」

「......分かったわよ。話せばいいんでしょ。話せば。ただし、今言ったことは守りなさいよ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 シックな感じのするレンガ模様の部屋。暖炉の火が赤々と燃え始めてから、どれくらい時間が経ったのだろうか。

 「父上にいつもの報告に行ってくる」。そう言ったアルフレアだったが、かれこれ1時間は経っている、と思う。時計もないので体感でしか分からない。まあ、ただただ暇だったからそう感じているだけかもしれない。

 部屋にいる面子は、ソワソワと落ち着かないイグシロナ、なぜか瞑想しているガンマ、そして、これまたイグシロナとは別の意味で落ち着きのないカイナ。本来なら、ここにデルシアもいるはずだったのだが......。

 赤き橋の惨劇。あの戦いーーどちらかというと事件ーーは、後にそう呼ばれるだろうとか、そんなくだらないことを考えていた。

《ガチャ......》

 ドアノブを回す音と、板が軋む音がして、やっとアルフレア......と、なぜかベルディアが現れた。

 まさか......

「あら、ミューエ。久し振り~」

 ベルディアがあの時と変わらない感じで話しかけてくるが、目が笑ってないのが見え見えだ。

「あははは......ごめん、全部話しちゃった」

 そんなことだろうとは思っていたが、本当にその通りだったとは。さて、ここからどうする。素直に全部話すか。こんな時にデルシアがいないことが、なぜか心細い。あと、すっかり忘れていたがネイも。

「そんなにビビらんでもいい。お前達の事情は全部知ったし、だからといって殺すつもりもない」

 冷たい声でそう言われても、イマイチ説得に欠ける。

「俺達が知らない世界からの襲撃、獣人の里での戦い、鬼族の集落。2週ちょっとで、よくそこらを回れたものだ」

 そう言いながら、アルフレアはガンマの目の前に立つ。

「......アルフレア様」

「此度は、俺達の不注意でお前に多大なる迷惑をかけた。エルドラに代わって謝辞を述べる」

「......アルフレア様のせいではございません。あれは、私とエルドラの問題。むしろ、なんの相談もなしに私が勝手にしてしまったことです。申し訳ございません」

 ガンマが閉じていた目を開けてそう言った。

「1つ、お聞きしますが、エルドラは今......」

「行方不明。お前が8年前に消えた日から行方不明だ」

「なっ......」

 これにはカイナを除いた全員が驚いた。確か、ガンマの話では黒月に残っていたはず。いや、あくまでそう思われるだけだったか。

「デルシアが突然いなくなった時はかなり驚いたが、今にして思えば白陽に移して正解だったかもしれん。あの女の考えてることは何一つ分からんかったからな」

「そうねぇ。エルドラはいい子ちゃんのフリをしていたけれど、私には分かったわ。あれは悪女の香り。デルシアを近くに置いていたら、今頃どうなっていたことやら。ただ、私に相談無しで突然消えたことは、どうにも解せないわね」

「すみません」

「まあいいわ。どうせ2年前に白陽にいるって知れたんだし、エルドラから守ったことを評価するわ」

 それを聞いて、ガンマがほっとしたように一息ついた。

「昔話は、このくらいでいいか?まずは、今後について話し合いたい」

 全員が頷いた。

「異界に敵がいて、そいつらが邪魔してくるとなれば戦争など続けられん。まずは奴らを皆殺しにする。ただ、その前に白陽と話し合う機会を設けてもいいと思う。正直な話、俺自身この戦争に意味は無いと理解している」

「だったらなんでーー」

「崖から転がり出した岩は止まらん」

「「「 ...... 」」」

「それに、俺には父上という絶対的な存在がある。あの人に逆らうことは難しい」

「まだ苦労してるのね。いい加減反抗期でも起こすんじゃないかと思ってるのに」

「あの人の力は俺が1番知っている。逆らうものならどうなることやら。下手したらお前の命も危うい」

「あら、だったら、そうなる前に逃げ出すわよ」

「それができたらどれだけ楽なことか......」

「もしも、お兄様がただただ親に逆らえないだけなんだったら、私はとっくに見捨ててるわね」

「お前の場合、デルシアの身さえどうにかなればあとはどうでもいいだろ」

「......これだから勘のいい人は嫌いなのよ」

 さらっと本音を漏らしたな。
 そこまでデルシアの身を案じているのなら、なぜデルシアの話を聞き続けるのか。拉致でもしてこの城で匿えば安全なはずだ。とは思ったが、私にもベルディアの気持ちは分かる。

「私はあの子が幸せになればそれでいい。だから、お兄様は二の次なのよ」

「兄よりも義妹いもうとを取るか......」

「悪い?」

「いや、今はそっちの方が助かる。お前が俺を庇って、変に罰を受けるのは避けたいからな」

「そうね。ただ、そこまで分かっているのなら、お父様の目を潜り抜ける方法ならいくらでも思いつくんじゃない?」

「思いつくが、全部その場しのぎにしかならない。その後がダメなんだ」

「っていうのは建前でしょ?」

「......」

 ベルディアの目がすっと真面目なものに切り替わる。

「建前ってどういうことだ?」

 すかさずカイナが口を挟む。

「最近のお父様の様子を見ていたら、嫌でも分かるはずでしょ。あの人はあの人じゃない」

「それって、どういうーー」

「ベルディア、それ以上話すな」

「いいえ、話すわ。ここには丁度いい観衆がいるからね」

「......」

「確か、戦争が始まってしばらくした頃だったわよね?お父様の態度が急変したのは。下す命令は非人道的なものばかり。まあ、それに関してはあまり不思議ではないわ。戦争が長引くことを見越してそう考えただけかもしれないし。でも、それから更にしばらく経った頃。それも、ごく最近。お父様は、害のない鬼族の集落へと兵を向けた」

「それは俺が決めたことだ!」

「違うでしょ。お父様がアイリスとセルカのことを話に出したからでしょ。お兄様は優しい人だからね。アイリスのことを思ったあなたは、アイリスが率いる暗殺隊を集落へと仕向けた。集落を彼女らに守らせるために」

「......」

「でも、作戦は上手くいってない。途中で何者かが集落を墜とせと指示を変えたから」

「なっ......」

「あなた以上に権限のある人なんて限られるからね。1人に」

 まさか......

「お父様がそう仕向けた。これだけ聞いても、まだお兄様はお父様をお父様だと信じるの?」

「くっ......」

「デルシアの話を聞いて、お兄様も考えが変わってるはずよ。少なくとも、私はデルシアが正しいと感じた。だから、悪いけど暗殺隊の8割はデルシアの指揮下にあるわ」

「やはり、お前だったのか......」

「お兄様が悪いと言ってるんじゃない。ただ、今言ったことを理解しているのなら、少しは私達に協力的になってもいいんじゃない?」

 凄まじいまでの論破。あの、冷徹な目をしたアルフレアが明らかに動揺している。

 まさか、ベルディアがここまで喋れる人だったとは......。

「ちっ......、なら、要求はなんだ」

「セルカの解放。及び、デルシア達への協力。多分だけど、デルシアは白陽にいる。伝令は私が伝えに行くわ」

「......今回はお前の口車に乗ってやる。言っておくが、俺は白陽を信用するわけではない。あくまで、デルシアを信じる」

「それで十分よ。まあ、欲を言えばこれを機に終戦ね」
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