グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第7章 【悪魔の科学者】

第7章1 【イーリアスの軍師】

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「よい"......しょっ......と"......!」

「ほらほら、休んでないで、頑張る頑張る!」

「無茶言わないでください......」

 硬い手すりにもたれかかる私。それを、楽しんでるかのように見てる『メイ』さん。

 治癒術師だと聞いたから、もっとお淑やかなか感じだと思っていたのだけれど、全然そんなことはなかった。普通に、セリカタイプの人だった。

「もう、1週間も経つのに、全然良くならないねー」

「逆に、1週間で治ると思ってたんですか?」

「思ってた」

 ......

 あぁ、なるほど。そういう事ね。

「ほらほら、無駄話は良いから頑張る頑張る!」

「もうちょっとだけ休ませてください」

「そんな調子だったら、1ヶ月経ってもヴァル君達のところに戻れないよ?」

 うぅ......それは困る......

「とは言っても......流石に休憩が必要かな?お水取ってくるから待っててー」

 そう言って、彼女は私のリハビリ用に改造された、医務室から出て行く。


 1週間......

 正確には、戦いが終わってから2週間くらい経っているのだけれど、足はもちろんのこと、体の龍化した部分は治らない。

「はぁ......」

「おーい、サボってて良いのかー?」

「ゲッ......」

 今度はクロムさん......

「体の調子はどうだ?」

「全くですね。治る気がしませんよ......」

「そうか......」

 確かめるかのように、私の鱗を触ってくるクロムさん。ちなみに、触られても、鱗の部分には感覚が無い。触られてるのに、触られてる感じがしないってのも、気持ちの悪いものだ。

「アポカリプスを異界に追いやるための代償はデカかった。まさか、メイでも治療が困難だとはな」

「まあ、期待はしてなかったですけどね」

「おい、俺の妹をバカにするのはやめろ」

「バカにはしてませんよ。所詮は人間の治癒術師でしたって話ですよ」

「お前の中の次元で物事を決めるのはやめろ。俺達がついて行けなくなる」

「無理してついて来なくて大丈夫ですよ。私は私のペースで頑張りますから」

「そうかいそうかい」

 ため息とともに、クロムさんは私を見下すかのような姿勢で立ち上がる。

 ヴァルにされるのならまだいいけど、クロムさんに見下されるのは、少しゾッとする。なんでゾッとするのかと言うと、ただ単にエクセリアが怖いからである。

「......ずっと引き籠もってて、辛くはないか?」

「慣れてるから大丈夫です」

「......これだから、引き籠もりは......」

「あ、今引き籠もりをバカにしましたね!?引き籠もりってのは、人と触れ合えない寂しさとかに慣れてるから、いざって時に1番強い存在なんですよ!」

「要は、ボッチだから大丈夫なんだろ」

「む......」

「お兄ちゃん、何やってんの?」

 私とクロムさんの会話に、大きな音を立てながら部屋に入ってきたメイが混ざり込んでくる。

「なあ、メイ。ここ最近、こいつは引き籠もりっぱなしだ。久しぶりに、お天道様の下に出してもいいとは思うのだが、どう思う?」

「うーん、まあ、ストレスも溜まってるっぽいし、たまにはいいんじゃない?それなら、車椅子が必要だね。取ってくるから待っててー」

 慌ただしい人だ。さっき水を取りに行ったのに、次は車椅子の回収。オマケに、持ってきたはずの水を持って行ってしまう始末。

「慌ただしい奴だな」

「それ、クロムさんが言います?」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ネイの治療が、中々上手く進まない。

 まさか、メイでも困難な治療だとは思いもしなかった。てっきり、神経の硬化を軽く溶いて、そのまま1週間のリハビリで歩けるようになると思っていた。

 まあ、そんな上手くいくわけないよな。世の中そんな甘くない。そういう事だ。

「クロムさん、足が止まってます」

「足が止まってるのは、お前もだけどな」

「嫌味ですか」

「いいや。皮肉だ」

「それ、ほとんど意味変わってませんよ」

 なんて、くだらない事を話しながら、姉さんが作り上げた王都を見て回る。

 この国に、龍人差別の観点が消えつつあるとは言え、こんな状態のネイを、そのままさらけ出すというわけにはいかない。せめて、龍化した部分は隠しておかないとな。というわけで、こいつの普段以上に薄着な格好に、軽くパーカーを被せておいた。道行く人に、こいつの事を色々と聞かれるが、その度に上手いことかわしている。

 手間がかかる奴だとは聞いていたが、まさかこういう所でも手間をかけてくるとはな。あいつ、普段どんな生活してるんだ?

 仕事があって、なおかつ金銭的な余裕はそこまでない。俺とは、生きてる場所が少し違う奴。俺としては、あいつらみたいな生活をしたいと思ってるんだがな。そう思って誕生したのが、俺が団長を務めるクロム自警団。

「グランアークの王都と比べると、やっぱりこっちの方は発展してませんよね」

「ああいう感じに発展させるだけが、国の在り方じゃないさ。街の人が、みんな笑顔でいられたらそれで良い。姉さんは、そう思ってこの国の発展に尽くしてきた。俺は、その後を継いでるに過ぎないんだ」

「折角『王様』って立場にいるんですから、税収増やすとかして贅沢すればいいのに」

「それは、親父がやってたことだ。あの時、本当に革命が起こるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。すぐに戦死した親父の後を継いだ姉さんの努力によって、俺達王族が根絶やしにされることは免れたがな」

「へぇー......。じゃあ、その時革命が起きてれば、クロムさんは現世にいなかったという訳ですか」

「あまり、不吉なことを言わないでくれ」

 本当にそんな状況になってみろ。3章4章で、これまでかってくらい死人が出る羽目になってるぞ。自分で言うのもあれだけど。

「ただ、やーっぱり、何もない街ですね。退屈しますよ」

「仕方ないだろ。それが、この国の在り方だって話したばっかりじゃないか」

「分かってますよ。ただ、やっぱり私はヴァル達とギャーギャー騒いでる方が楽しいんですぅ!」

「そう思うのなら、早く足を治すことだな。龍化ばっかりはどうしようもならんが、足さえ治れば自由の身だ。午後からのリハビリも頑張れよ」

「あぁー!嫌だー!やりたくなーい!」

 そんな子供みたいにギャーギャー言っても無駄だぞ?うちのメイに、その技は一切効かんからな。

「さて、そろそろ戻って昼飯にでもするか」

「そういや、昼過ぎにはラヴァンさんがザガル王国の情報を持って帰ってきますね」

「確か、そうだったな......って、なんでお前が知ってる!?」

 自警団内でしか知られてないはずの事情。え?誰か話した?絶対に外部に漏らすなって言ったはずだったよな?

 落ち着け俺。こんな事で取り乱してはならない。聖王なる者、常に冷静であれ。ひぃーひぃーふぅー。

「何やってるのか知りませんけど、クロムさん声が大きいから丸聞こえですよ」

「......待て。確かに、俺は声がデカいかもしれん。だが、話してるのは地下にある自警団の本部だ。いくら耳の良いお前だとしても、リハビリ中のお前が簡単に聞ける距離ではない」

「確か、あの時御手洗に言ってたんですよね。丁度、1階のところに」

 ......

 ......

 いや、耳が良いなんてものじゃないな。魔法でも使ってないか?あの時の俺は、幾分か声は抑えていた。それでも聞こえるって、その力を別のところに振り分けろ。絶対そっちの方がいいって。

「......おい、ネイ」

「はいなんでしょう?」

「お前には話してやるから、絶対に誰にも話すな。ヴァルとか、そこら辺の面子も含めてだ」

「......はい?」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ーー以上が報告となります。ここまでで、何か質問はありませんか?」

「はい、1つ良いですか」

「ネイさん、何か気になることでも?」

「なんでこの山を迂回して行くんですか?普通に、標高もそんなに高くないですし、登って行った方が早いですよ?」

「その事ですが、私達の軍には天馬がありません。無いと言うよりも、失ったという形です。時間はかかりますが、こうして進む他ありません」

「ほう......」

 天馬か......

 嫌な記憶を掘り起こされる気分になる。

 あの日、フェリシアが目にいっぱいの涙を浮かべて、姉さんを拐われ、天馬騎士隊が壊滅した事件。

 掘り返したくもない記憶だが、忘れてはならない記憶。ネイを同席させたはいいが、まさか思い出させられるとはな。

「ただ、そうなると道中が危険だな。ザガルの山賊共が潜んでるかもしれないぞ?」

 そう言うのは、我が自警団屈指の槍使い、『バアル』。彼は、馬に乗り、槍で敵を突く戦場の暴れん坊将軍。将軍じゃないけどな。

「そこをどうしようか悩んでるのだがな。うちの自警団は、お前ら王国関係組と、新しい女を含めて14人しかいない。しかも、治癒術師の1人であるリーシアが実家に帰省中だからな。地形の利を考えると、最悪全滅する未来も有り得る」

 『ルーダ』も、普段は平たいところで仕事をするので、今回の作戦には不安があるようだ。

「何でもいいけどー、あたしは山登りなんてごめんよぉ?山賊が出てくるかもしれない場所を、わざわざ通って行く必要があるのかなぁ?」

「そう仰られても、メノア様の懸念を取り除くために、別のルートを探してみましたが、ここが1番安全かもしれないということで落ち着いているのです」

 ......

 どうするべきか。遠回りにはなるが、黒月経由でラグナロクを目指すか?というか、隣国なのに、その国境にある山が別の国の物ってのもおかしな話だよな。

「......あの」

「どうした?またなんかに気づいたか?」

「ここ......」

 ネイが地図の1箇所を指差す。

 そこは、イーリアスより南方の地。そして、ザガルの隣国であるセツノ連邦。

「わざわざ危険な橋を渡るよりも、ザガルからの侵攻が何もないセツノに協力を要請する方が安全だと思います」

 確かに、それもそうだが、それは無理だな。

「セツノ連邦とは、一切の関わりがない。隣国だと言うのにな」

「何でですか?」

「それに関しては、俺が説明しよう」

 ここぞとばかりに『ロイ』が立ち上がる。

「セツノ連邦とは、最近結成された同盟国同士の塊であり、州と呼ばれるそれぞれの自治区がある。その自治区の代表者の中から更なる代表者4人が、4年ごとに連邦のトップとして国を治めている。その関係上、1度結んだ国交が4年後には消えていたり、逆に年が明けると急に親密な関係になったりと、とても気難しい国なのだ」

「ほう......」

「その関係上、先代のセレナ聖王は、何度も国交を結ぼうとしてきたが、その時の王が他国との関係を結びたくない人だったせいで、機会を逃した我がイーリアス聖王国は、未だに関係を結べていない」

 相変わらず、分かりやすい説明をしてくれるもんだ。ずーっと脳筋だと見た目で判断し続けてるんだがな。

「んー?でも、それなら今は結べるんじゃないですか?今が代替わりしてから何年目なのかは分かりませんけど、セレナさんが生きてた時から考えれば、もう1年は経ってる訳ですし」

「......そうだな。もしかしたら、そろそろ王の代替わりかもしれん。ダメ元で国交を結んでみるか」

「ダメ元で国交を結ぶ王なんて聞いたことないわよ......」

 メノアがそう言うが、これしか安全に行ける方法はないだろう。ただ、交渉の時は、いきなりザガルの侵攻に対する援助を求めてはいけない。こちらが欲しいものをチラつかせ過ぎると、交渉が有利に進まないからな。

「では、我々の目標は、セツノ連邦との協力関係を結ぶために動くということでよろしいですか?」

「ああ。それで行こう」

 ネイを同席させることに不安だったが、思わぬ糸口が見つかったもんだ。こいつ、ヒカリと同じように軍師の才能があるな。
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