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第9章 【深海の龍王】

第9章5 【プリンセス】

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 レイアに連れられ、私は薄暗い城のベランダ?らしき場所へと来ていた。

 分かりやすく言うと、ア○雪でエ○サが「少しも寒くないわ」って言って扉を閉めてた場所かな?まあ、そんな場所だ。

「おぉ......流石、プリンセス。似合ってる!物凄く似合ってるよ!」

セリカ「あ......はは......」

 ダメだよ、この人。絶対目的の人物とは違うのに、もう完全に私をプリンセスだと思ってるよ!

セリカ「......」

ライト「どうした?プリンセス」

 永龍族って、羽が小さくて尻尾が大きいんだな。しかも、妙なヒレが付いてる。泳ぐのに特化した龍人。そういう事か。

ライト「プリンセス?」

セリカ「......はっ!」

 いけないいけない。ついついこの人の体つきに見惚れてしまっていた。

ライト「どうかしたかい?」

セリカ「い、いやいやいやいや!ななななんでもない!」

ライト「そうか?まあいい。君が美しければ、君がどう思おうが関係ない。この素晴らしく美しい世界で、僕と君とのラブストーリーを育もうではないか!」

 ちょいちょいギャグっぽいこと言ってくるけど、マジでなんなの?この人。意味不明通り越して恐怖を感じるんだけど......

 そういえば、ここは深海であったはずなのに、やけに周りが明るいな。それに、私は青く暗い城にいる。そう、城にいるのだ。

 どう考えてもおかしなこの状況。私は、注意深く見ていなかった下の方を見下ろす。

セリカ「......!?」

 霧のせいでハッキリとは見えない。だけど、城下にある街は、私達の世界では到底考えられないような高層の建築物で覆い尽くされている。機械的と言えばいいのだろうか?魔法の気なんて一切感じない。ヒカリんが気まぐれで作ってる機械が、所狭しと詰められている状態。

 ......ヒカリんがいたら、間違いなく目を輝かせて探索していそうな街だな。第1感想なんてそれくらいのもんだった。

ライト「どうだい?この街は。君の世界では到底考えられないような高層の建築物が並んでいる。魔法がない世界だが、この世界に暮らす人々は豊かで幸せな生活を営んでいる。魔法がないのにね。まあ、人間なんて、そこにあるものを利用して、適応していく生き物だ。なければないで何も関係ないんだ」

セリカ「......」

 魔法がない世界......でも、ヒカリんは行き過ぎた科学は魔法になるとか言っていた。あんな高い建物が立ち並んでいたら、ちょっとした衝撃ですぐに崩れてしまう。でも、そうならないのは、この世界に住む人々が、魔法に近い技術を手に入れたから。

 不思議な世界だ。

 私達とは異なる文化を持った人達が、異なる生活を送っている。それは不思議なことで、同時に私に違和感をもたらした。

 この世界は何かがおかしい。理由はないが、そう感じたのである。

ライト「プリンセス、何やら眠そうだね」

セリカ「......」

 そういえば、夜中の見回りをしていた時から、気絶していた時を除いてずっと起きてるもんなぁ......。自分でも気づかないうちに目を擦って眠気と戦っていたようだ。

ライト「仕方ない。今日はここまでとしよう」

 ライトが何をしたのか、あたりが急に真っ暗となる。だけれど、私達がいる空間だけは、まだ薄暗いが光がある。

ライト「おやすみ、プリンセス。最後に、君の名前を教えてくれるかな?」

セリカ「......セリカ......ライトフィリア」

 ......

 ......

 ......

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「「「 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」」」

ヴァル「な、何にも見えねぇー!」

ヒカリ「あ、あんた達、落ち着きなさいってきゃっ!誰!?私の胸触ってきた人!」

シアラ「すみません!それ、多分私です!」

ヒカリ「そう、ならいいわ」

ヴェルド「どうでもいいから明かり!なんかねぇのか!」

グリード「確か、ここらの近くに電灯が置いてあるのを知ってるんだァ。ちょっくら取ってく痛で!」

ヴァル「ごめんグリード。お前、多分俺の足に引っかかったと思うわ」

グリード「おめェかよォ。ふざけんなァ!」

ヒカリ「ルミナス」

 てんやわんやだったこの空間に、ほんのりと小さな光が灯る。

ヒカリ「あんたらちょっとは落ち着きなさい。ガキみたいよ」

ヴェルド「仕方ねぇだろ!誰だって突然暗闇に放り出されたら怖ぇもんだわ!ってしれっとお前は俺にくっ付くな!」

シアラ「シアラも怖かったですぅ」

ヴェルド「うるさいわ!いいから離せ!」

 薄明かりに目が慣れてきて、ちょっとずつ周りがハッキリと見えるようになってきた。

 グリードは俺の足元に寝そべったままで、ヴェルドとシアラはいつも通り。ヒカリは若干の涙腺を残して手のひらに光を灯している。

 今この空間にいないのは、とっくに睡眠状態に入ってるネイとエフィだけだ。暗闇の中で誰かが殺される~っていう人狼状態にならなくて良かったな。

ヴァル「なんでお前泣いてんだ?」

ヒカリ「......?......!な、泣いてなんかないわよ!」

 俺の問いかけに対し、ヒカリは自分の頬を触って、涙の感触を確かめた後にそう言ってきた。

ヒカリ「な、泣いてなんかないんだからね!あなたの目は節穴よ!」

 節穴なら、むしろその涙腺が見えてないと思うんだが......まあいいか。気にしてほしくない部分なんだろう。

 心の中だけで言っとくが、案外怖がりなんだなって。普段の言動からじゃまるで想像出来ねぇな。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 翌日。

 誰も見張りなんてしてなかったが、敵さんは今の俺達を襲うことなんてしなかった。

 空は、普段の世界通りに光り輝いている。ただ、太陽が見えねぇってのが、俺達の世界とちょっと違う部分だな。

 朝起きた瞬間から、ヒカリの姿はどこにもなかった。ネイが怠惰だと言うのなら、あいつは間違いなく勤勉だな。とりあえず、1階の広間にでも行ってみるかと思い、俺は朝から重労働をするような気分で階段を下っていった。

ヒカリ「見てみなさい、これ」

 欠伸とともに現れた俺を、そのセリフと共にヒカリが迎えに来た。

 「見てみなさい」と言われて見せられたものは、柱に括り付けられた、モニター?らしきものだった。

ヴァル「なんだそれ?」

ヒカリ「この建物全体を管理するシステムを発見したのよ」

 いや、それだと説明になってないだろ。俺が聞きたいのはその四角いモニターに、たくさんのボタンが付いた板のことを指してんだよ。

ヒカリ「これをこうするとね......ほら、ちょっとあのあたりを見てなさい」

 こいつは、自分さえ理解出来ていればいいという考えで、俺の頭を無理矢理右手の服屋の方へと向ける。

 こんなところを見てて何になるってんだ?

ヒカリ「ほらっ」

 ヒカリがガチャっと板を叩くと、俺が見ていた方向の服屋が、なぜか昨日見た食料店になっていた。

ヒカリ「不思議だと思ってたのよ。服屋だらけのこのデパートで、なんで中途半端な位置に家具屋とかお菓子屋があるのかなって。そう思って、朝から変な信号のあるここらを漁っていたら、これを見つけたってわけ」

ヴァル「んじゃ、あれか。この商店街は、元から全部服屋ってことか」

ヒカリ「そういう事になるんじゃない?むしろ、そうであった方が違和感ないでしょ」

 服屋だらけって時点で十分違和感ありなのだが......

 まあいいや。これ使えば、この商店街の内装を一式変えることが可能ってわけか。面白ぇな。

ヒカリ「とりあえず、みんなが起きたら、活動の拠点を1階だけに絞るって伝えておいて。一々この広い建物内を行ったり来たりするのは面倒だから」

ヴァル「分かったよ......で、お前は何してるんだ」

ヒカリ「これをこうするとね......ほらっ」

 さっきのお菓子屋が、次の瞬間にはヒカリが持ってるような機械類が大量に並んである店へと変わった。

ヒカリ「家電量販店!これこそ、私が求めてた物よ!」

 子供のように目を光らせて、家電量販店と呼ばれた店へと駆け込む。

 機械なんて俺には一切分からねぇからな。こいつの心情が理解出来ねぇぜ。

ヴァル「......」

 ヒカリが弄ってた機械と対峙してみるが、何をすれば変わるのかが全っ然分からねぇ......なんか、記号やら西洋語やらがたくさんあってなんて書いてあるのか全然分からねぇ。これ読めるあいつもしかしなくても天才だろ。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 それからの俺達は、ひたすらヒカリの指示に従い、セリカを救出するための準備を始めた。

 と言っても、9割ヒカリがなんかよく分からねぇ機械をごちゃごちゃとしてるだけで、俺達にはこれといった役目がない。まあ、準備パートはヒカリが担当して、救出パートを俺達が全力でやるってことで良いのだろう。

 そんなこんなで3日くらいは時が過ぎたと思う。毎日毎日突然暗闇になるもんだから、その度にパニックになって大騒ぎをする羽目になる。結構な回数やってんだからいい加減慣れろって話だけどな。

ヴァル「......」

 3日間この世界で暮らしていたが、俺にはどうしても気になることがあった。あったと言うより、出来たと言った方がいいか?

ヴァル「やっぱここにいたか......」

 最上階までの階段を登りきり、この世界全体が見渡せそうな透明な板が張り巡らされた空間へと足を踏み入れる。

ネイ「ヴァル......」

ヴァル「お前、ここんとこずーっと不機嫌だよな。なんかあったのか?」

ネイ「別に......不機嫌だなんて思ってません......」

 そんなわけねぇだろ。最近、何を話してもずーっと無感情でいるし、何より俺を意識的に避けてる気がする。

 不機嫌だっていうのは、俺の勝手な見立てだが、何かがおかしいというのだけは分かる。

ネイ「......」

ヴァル「......」

 こいつが1度でも口を閉じれば、それ以降はもう何も話してくれない。諦めるしかないのか?

ネイ「ヴァルは......その......私のことが......好きですか?」

ヴァル「う゛っ......」

 いきなりそんな質問をされるとは思っていなかった......お陰で、心臓が止まりかけたぜ......

 「私のことが好きですか」か......適当に「仲間として好きだ」とかで濁したら、こいつは益々不機嫌になる気がする。女心ってやつだな。男には分からねぇが、察してやらねばならないこと。

 こいつが求める答えは、異性として好きかどうかだろうな。そうなれば、簡単に答えを出してやることは出来ない。

 俺はこいつの事が好きだ。だが、その感情は、恋心から来てるものだろうか?

 それが分からないうちは、まだ答えを出してやるわけにはいかないんだ。好きだって気持ちは、生半可に言葉にしちゃいけねぇもんだと思う。

ネイ「......もういいです。所詮、ヴァルの気持ちはその程度だったってことです」

ヴァル「あっ、待て......」

 伸ばしかけた手は空をかすり、俺の手がネイに届くことはなかった。

 ネイは、不機嫌そうな顔で階段を下り、最後に俺の方をチラリと見て立ち去っていった。

ヴァル「......」

 女とは難しい生き物だ。適当というものが一切通じない。

 どうすれば、納得してもらえるのか。どうしたら、こちらに振り向いてくれるのか。

 あいつはまだまだ子供だと思ってたが、どうやら子供なのは俺の方だったようだ。もういい歳だ。あいつと1つ屋根の下で暮らしてる以上、そろそろ答えが欲しくなるってのも当然ってものだ。

ヴァル「......最近、セリカと一緒にいることが多くなってたからな......」

 多分、それがあいつを不機嫌にさせる要因になっていたのだろう。

 ......ネイ。言わねぇと男って生き物は気づかねぇもんなんだ。
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