グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第9章 【深海の龍王】

第9章6 【有耶無耶】

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ヒカリ「どうしたのよ。そんな不機嫌そうな顔して。なんかあった?」

 ブスーっと私の後ろを通りかけたネイを引き止め、私は適当に質問を送ってやる。

ネイ「別に......なんでもありません」

ヒカリ「嘘は体に毒よ。何があったのか大人しく話してみなさい。それまで逃がさないから」

 私達の周囲に結界を張り、機械を弄る手を止めてネイの顔を見る。

 ......泣いてる?

 多分、本人は気づいてない涙が薄らと頬を伝っている。

ネイ「......ヒカリちゃんは......好きな人っているんですか?」

ヒカリ「......そうね。まあ、いるっちゃいるかな?でも、異性として好きかどうかって言われれば話は別よ。あなたがどんな答えを求めてるのか知らないけど、大方ヴァルの事でしょ」

ネイ「......」

 その問に、ネイは黙って頷いた。口ではあーだこーだ言ってても、態度としては正直になるんだな。

ヒカリ「確かに、最近セリカと一緒にいることが多かったからね。でも、それが浮気とかそういうのに繋がるわけじゃないでしょ?それに、あんた達は正式に付き合ってるわけでもないんだし」

ネイ「......分かってるんですよ。ヴァルと私は契約をした。でも、ヴァルを独占できるわけじゃないって......でも、ヴァルが他の女と仲良くしてるのを見るのは嫌なんですよ」

 典型的なヤンデレタイプね。これは正しく導いてやらないと後々面倒なことになる。

ネイ「どうしたらいいんですか......?今まで、こんな気持ちを抱いた事なんて無かったのに......」

ヒカリ「......嫉妬ってやつかしらね。よく分からないけど、多分、あんたはセリカに嫉妬してるのよ」

ネイ「......」

 よく分からないって顔をしてるわね......まあそうよね。みんなの話じゃ、この子は『怠惰の魔女』だなんて呼ばれて、めんどくさい以外の感情を抱かなかったらしいから。でも、それはあくまで昔の話。今のこの子は私をベースに生まれた別人格。自分では否定してても、心のどこかに『感情』ってものは存在してるのよ。

 さて、そんな事を伝えたところで、ネイはどう思うだろうか?多分、感情のことなんてどうでもいい話になるだろう。

 この子の場合、私と同じように人間関係という部分が弱くなっている。自分の想いを伝えるのが下手くそなのよ。私もだけど......

ヒカリ「......そうね。まずは自分が思ってることを正直に言うところから始めてみるべきね」

ネイ「ヒカリちゃんはできない癖にですか?」

ヒカリ「う゛っ......」

 的確に痛いところを突いてくるなぁ......そんな事言われて、私がそれ以上に話を続けられるわけがないって自分なんだから分かるでしょ......

 ......私には分からないのよ。恋心なんて抱いたことはないんだもん。そんな、初めての感情を私に相談しないでよ......

ネイ「分かりました。なるべく精進します」

ヒカリ「あ......」

 行ってしまった......

ヒカリ「我ながら難しい子ね......」

 同じ存在でも、別々に生きていれば全く違う考えになるようだ。人間を育てるのは環境。先生も、よくこんな考えに至ったものだ。

 ......頑張りなさいよ。ネイ。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 この城に幽閉されてからどれくらいの時が過ぎただろう。

 朝の目覚めから始まり、夜の睡眠まで、ひたすらに「王女たるものあーだこーだ」でレイアに、昔、一通り訓練された作法を復習させられた。

 それが終わってからも、所謂夜の営みというやつでライトの隣にいなければならない日々。折角お父さんの縁談の話を断れたのに、これでは相手が違うだけで無理矢理結婚させられてるのと同じだ。

 時々レイアが敵がどーのこーの言うから、ヴァル達がこちらの世界に来ているのは確実なのだが、待てど暮らせどヴァル達が救出に来る気配がない。お願いだから早く来てよ!今はまだ穏便に進めてるけど、もうそろそろ限界が近づいてるから!

 と、叫んでやりたい気持ちをぐっと抑えて、私は色とりどりに皿に盛られた魚料理を今日も口にするのである。一応臣下達が魚介類なのに、食べるものがこれでいいのかと思ったが、そういえば海に暮らすもの達は海に暮らすものを食すのだから問題ないか、とくだらない事を考えて、また1口口に入れるのである。ちなみに、真正面にはライトがいる。食事の時くらい1人にさせてよ......

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 そんなこんなで食事を終え、今日も今日とてライトの相手をしなければならない。1人勝手に寝ててもいいのだが、そうしてしまうと夜中にライトが布団の中に潜り込んでくるのを1日目で知ったため、めんどうだけど、嫌々ながら毎晩毎晩自分から相手をしてやるのである。ちなみに、ここでヤラシイことを考えた人にはお帰り願いたい。

ライト「やぁ、今日も来てくれたんだ」

 私から仕掛けないと、アンタが夜這いを仕掛けに来るからでしょうが......!

 もう、その腹立つ顔面をぶん殴ってやりたいが、我慢我慢。今のところ、まだ穏便に済んでいるのだから、ヴァル達が助けに来るまでひたすら我慢。うん、我慢だ我慢。

セリカ「......で、今日は何をするつもり?」

ライト「おや、随分と素直になってきたねぇ。でも、まだ僕に対して警戒心を抱いてる。まあ、その顔も嫌いじゃないけども、君には笑顔でいて欲しいなぁ......なんて」

 本当に無駄にイケメンなその顔を殴ってやろうか?もう、メインヒロインの座が曖昧になってる私には敵がないし、オマケにこっちには、一応カグヤの鍵があるんだからね?数多の困難をくぐりぬけて来た私にとって、あんたらから逃げることくらい簡単なのよ?やらないけど。

 いけないいけない。思わず握り拳に力を込めすぎていた。本当に行動に移してしまいそうだから、ちゃんと拳を緩めないと......

ライト「君が僕のプリンセスになって早4日だ。そろそろこの街には慣れてきたかい?」

セリカ「アハハ、そうね、このへんてこりんな街にも慣れてきたわねー」

ライト「......?」

 怒りを抑えるのに必死で、ついつい自然とは程遠い棒読みで喋ってしまう。まあいいでしょ。どうせこの人には理解出来ないだろうし。

ライト「......今日は、君にとって嬉しいニュースがある」

セリカ「どんな......?」

 今の私には、どんなニュースだって不幸なニュースに聞こえてしまいそうだけどね。それを理解してから発言してほしいなぁ。

 一体何を言うんだろうと思った次の瞬間、私の目の前にヴァルが現れた。

セリカ「..................ヴァル!?」

ライト「どうだい?君のイメージを元に、僕の姿を君の理想通りにしてみたんだ」

 一瞬理解に苦しんだが、その正体がライトだと知って、すぐに怒りが舞い戻ってきた。

ライト「僕は君に満足している。だが、君は僕に満足していない。なら、僕が君の理想に近づかなければならない。それが男というものだ。そう考えた末、まずは君が好きな人間の容姿を真似ることにしてみたよ」

 ヴァルの顔でその口調だと、腹立つよりも面白さしか出てこないんだけどどうしたらいい?ヴァルがこんな喋り方してきた日には、ちょっと眼科と耳鼻科を同時に受診してると思う。

ライト「分かってる。君にとっての理想にはまだまだ届いていない。だが、僕は君の願いをなんだって叶えてあげられる。だって、君は僕のプリンセスなのだから」

セリカ「あっ......」

ライト「綺麗な唇だ。だが、僕にはまだ早い。今はお預けにしておくが、代わりに、これを受け取ってくれ」

セリカ「うっ......!」

 胸の辺りが苦しい......何かを入れられた?

 ズキズキとした感覚が、段々心臓の鼓動と同じ感覚で音を鳴らし始める。

ライト「これが、僕の愛の形だ。それは、僕の心臓だ。君に預かっててほしいんだ」

セリカ「心......臓......?」

ライト「僕は君のことが好きだ。そして、君のことを信頼している。だからこそ、僕の一番大事な物を君に預ける」

セリカ「......」

 2つの心臓が重なり合って、ライトの心臓が一層激しく高鳴り、段々と私の意識を奪っていく。

 もうダメだ。カグヤの鍵を握っていた右手の力が緩くなる。ポトンと、床に鍵が落ちて、私はいよいよ抵抗する手段を失った。

ライト「精霊魔導士か。やはり、君は素晴らしいプリンセスだ。......おやすみ、セリカ・ライトフィリア。僕のプリンセス」

セリカ「......」

 ......

 ......

 ......

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ネイと有耶無耶なままで終わった日の夜、俺は背中に感じる異常な冷たさで目が覚めた。

ヴァル「寒っ!いくら水着のままといえど、寒すぎるだろ......!」

 一体誰だ?と思って軽く手に炎を灯し、背中の辺りを照らしてみる。

 そこには、俺を必死に離さまいとしているネイの姿があった。

 さあ、ヴァル。お前はこういう状況の時どうする?普通に抜け出すか?それとも、何事も無かったかのように布団に戻るか?

 つか、今更だけど、こんなに服屋があって、誰も着替えてないんだな。飯は仕方ないと言えど、流石にあんな変な服を着るのは嫌か。いやでも、俺達の世界と比べて、布面積が大きくなってるだけで大して変わらねぇと思うがな。まあ、俺が着替えてないのだから何も言えないのだが、せめて女性陣は着替えたらどうだ?

 ちょっと待て。今そんな事を考えるべきじゃねぇだろ。俺が考えるべきなのは、この状況をどうするかだ。頼む、ネイ。お前は無駄にスタイル良いんだから服着とけ。俺を欲情させようと誘うな!

ヴァル「......とりあえず、便所に行くか」

 寒さのせいで尿意を感じた。これを言い訳に、俺はこの場から脱出する。

 ......

 ......

 ......

ヴァル「あぁーマジビビった。あいつ、俺が嫌いなのか好きなのかをハッキリさせろ。いや、俺が有耶無耶にしてるのが悪ぃのか......」

 昼間のことと言い、本来、セリカを取り戻すために使わなければならない頭を別の方向に割いてる気がする。元々無い頭なのだから、せめて1つの問題に答えを出さなきゃならねぇのに、その答えが超難問とかふざけてるだろ......。解けるやつがいるなら、俺の代わりにこの数式を解いてみろやゴルァ。

 はぁ......女ってムズい。今まで、異性との関係でこんなに悩んだことなんてなかったからな。ヴェルドあたりならいい感じの答えを持ってるんじゃねぇか?もしくはシアラ。シアラの方がペラペラと話してくれそうだな。今度お悩み相談でもしてみるか。

 そんなこんなで無事尿を足し、俺がベッドのある家具屋に戻ると、そこにはまた、別の異常な光景があった。

ヴァル「......」

 なんと、さっきまで俺が寝ていた場所で、ヒカリがぐっすりと寝ていたのである。

 多分、俺が便所に向かったのと入れ違いになったんだろうな。で、睡魔が襲ってきて、まともな判断を出来なかったヒカリが、丁度空いていた俺の就寝場所に寝転がったと......大体そんな筋書きか。

 ヒカリは何を寝ぼけているのか、「お姉ちゃん」と言いながらネイに抱きついている。体温低い組だから違和感を感じねぇんだな。これが俗に言う百合ってやつか......

 まあ、ヒカリが寝てるのは良しとしよう。他の空いてる場所を探せばいい......と思ったのだが、なんのイタズラか、ヴェルドとシアラで丸々2台を占拠してるし、グリードは寝相が悪すぎてこれまた2台を占拠している。で、ヒカリとネイが1台で寝てて、その隣でエフィが寝ている。数をよく数えれば分かっていたことなのだが、ベッドが丁度1台足りねぇんだよな。グリードがちゃんとした寝相で寝ててくれれば問題は無いの・だ・が!

 クソっ!俺は床で寝ろというのか......!

ヴァル「......何か!」

 ねぇのか!と思って丁度俺の視界にソファが舞い込んできた。

 これだァ!

 ......

 ......

 ......

ヴァル「......寝づら」

 翌日、寝違えることを覚悟しながら俺は就寝に至った。
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