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第9章 【深海の龍王】

第9章7 【決行の時】

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レイア「王子、奴らの動きに進展があります」

ライト「だろうね。流石に4日目だ。もう僕達のところへ攻め入る準備は出来ているだろう。レイア、掻き集められるだけの兵を掻き集めておきたまえ。戦いが始まるよ」

レイア「もう既に終わっております。奴らを、プリンセスに指1つとして近づけさせることは致しません」

ライト「なるほど。流石はレイアだ」

レイア「......王子」

ライト「どうしたんだい?」

レイア「......いえ。なんでもありません。どうか、お気をつけてください」

ライト「......?あぁ、分かっているよ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヒカリ「いーい?私達の魔法は基本的に、敵さんに通じないと捉えるもの。でも、物理攻撃は普通に効く。あんたらには、私が発明したこの機械魔法を使って戦ってもらうから」

グリード「随分と面白おかしな形をした武器だなァ。本当に使えんのかァ?これ」

 朝っぱらから召集がかかり、俺達はヒカリにへんてこりんな武器を手渡された。

 3日間ずーっと機械を弄ってるなとは思ってたが、まさかこんな物が作られてるとは思いもしなかった。ちなみに、俺が渡されたのは腕にはめて使うグローブ......なのかどうかは分からないが、とにかく殴り専用の武器。俺の意思1つで爪型、棘型、丸型と形を変えてくれるので、まあ戦闘においてワンパターンな戦いはなくなるだろう。

 そして、グリードが大剣、ヴェルドが刀、シアラは弓で、エフィが小道具一式ーー爆弾やら煙幕弾やらが備えられてるとのことーーを持っている。

 ネイだけは8つに分かれる大剣と普段の2本の剣を併用し、ヒカリも2丁の拳銃で戦うつもりだ。

ヴェルド「俺達、魔導士なはずなのに、魔法が効かねぇ相手ばかりをしてやってる気がするぜ。趣旨がズレてねぇか?」

ヒカリ「どうせアレでしょ。強い敵を作ろうと思ったら、攻撃効かないのが1番強いよね?って発想の下生まれたんでしょ」

グリード「たまには楽させてほしいぜェ。全く」

 魔法耐性が高まれば高まるほど魔法が効かなくなる。だが、俺達の魔法だって十分どころか、その何歩も先を行くくらい強くなってるはずだよな?

 何かカラクリがあるのか......。まあ、何にせよ機械の力を使えばどんな奴にだって怪我を負わせるくらいのことは簡単に出来る。

ネイ「......」

 一瞬こいつと目が合ったが、すぐに逸らされた。

 何も解決しないままに戦いに出ることになってしまう。今まではこいつと息が合っていたからこそ、戦いを有利に進められたこともあった。だが、今回ばかりはこいつの力を頼れそうにない。

 ......情けねぇ。俺が、もっとハッキリとした男であれば、こいつを悩ませることも、俺自身が悩むこともなかったというのに。

ヒカリ「......シアラ、戦闘中はヴェルドにくっつかないようにね」

シアラ「なんで今それ言うんですか!?」

ヒカリ「いや......ただ何となくよ。私の作戦に支障をきたしてもらっちゃ困るから」

シアラ「は、はぁ......?」

 こいつ、シアラじゃなくて俺達に向かって言ってるな。ツンデレのくせに空気読みは上手いな。

 ......戦闘中は気にするな。セリカを無事に取り戻してから考えればいい。最優先すべき事項を誤るな。俺が何をしたらいいのか。そんなもん、とっくに分かりきっているのだから。

ヒカリ「あ、そうそう。あんたら、これも付けときなさい」

 これ、と言われて渡されたのは、どこかで見た事のあるクソ発明品......

エフィ「これって、ヴァルさんが暴発させて大変なことになったーー」

ヴァル「それ以上言わなくていい......」

 これのせいでえらい目に遭ったというのに、また使えと......?冗談じゃない。こんなもん使えるか!

ヒカリ「改良を施して、安全装置と水中での呼吸だけが可能になった代物よ。ヴァルのお陰でブースターなんて要らないって分かったからね」

ヴァル「その失敗作で危うく死にかけた俺はどうすりゃいいんだ......」

ヒカリ「知らないわよ。と・に・か・く、それベルトで巻けるようにしてるから付けときなさい。万が一深海に放り出されても、海面に出るまでの時間は体を守ってくれるから」

 不安しか残らねえ器具だが、何も無いよりかはマシかと思い、水着の上から腰に巻きつける。

 ......なんか見た目だせぇな。

 全員そんな感じになってるのかと思ったが、バカ正直に腰に巻き付けたのは俺とグリードだけだったようだ。他は、腕やら足首やら太ももに巻き付けてる。おい、ヒカリ。お前、拳銃のホルダーも巻き付けてるのに、その少し上側に巻き付けて足が重くならねぇのか?

ヒカリ「さて、んじゃ、ちゃっちゃっと終わらせちゃいますか」

 全員準備万端。水着で戦うとか気にすんな。どうせ、敵の攻撃を喰らわなきゃ問題ねぇよ。

グリード「あの魚介類共に一泡吹かせてやるぜェ」

エフィ「お魚さんに恨みはありませんが、セリカさんのためなら頑張りますっ!」

ヴェルド「機械ってのが気に食わねぇが、やるだけやってやんよ」

シアラ「はいはい!シアラも頑張りますぅ!」

ヒカリ「......私の時にも、それくらい本気でやってくれてたら嬉しかったのになー。まあいいけど。......チャンスは1度きりよ。失敗したら次どころか命がないと思ってて」

ヴァル「......あぁ、やってやろうぜ!魚共ぶっ飛ばして、セリカを連れて帰るぞー!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァル「しゃぁー!突撃ー!」

ヒカリ「あんまり前に出すぎないようにね。あんたら、一応薄着状態なんだから」

グリード「お前らァ、早速魚介類のお出ましだァ!」

 私たちに立ちはだかる第1の壁は、今回1番の功労者であろうカニと、この間見たシャチだった。

グリード「早速この武器の威力試しだゴルァ!」

 グリードがカニに向けて大剣を振り下ろす。

 ......だが、カニにはダメージが入った様子がない。やはり、魔法無しでは厳しいか......

ヴェルド「たかが1発だ!もっとやれー!」

ヴァル「オラオラオラァ!」

 はぁ......あいつらバカね。多分だけど、甲殻類のカニは、その立派なボディで物理も魔法も無効化しちゃうのね。これは計算外だったわ。

 まあ、こんなこともあろうかと、エフィには大量の便利グッズを持たせてるからね。

ヒカリ「エフィ!紫のヤツ、スロー!」

エフィ「わ、分かりました!えい!」

 紫の煙幕がカニの周りを覆い、モヤっとした煙がカニの甲羅の色を白色に染めていった。正しくは、色素を抜いていってる状態なのだけれど。

ヒカリ「グランアタック・エレキ、トルネード!」

 この世界で無理矢理作ったものだから効果時間は短い。効果が切れる前に威力の高い攻撃を撃ち込む。

 これだけやっても、与えられるダメージは精々2割程度の外骨格を剥がすくらいか......しかも、剥がされたところは、僅か数秒で回復する。

 ワールドメモリーズを使うべきか......でも、あれは日に1度程度しか使用できない。それも、1時間も持たずにオーバーヒートで戦えなくなる。出来ることなら、これはセリカまであともう一歩になってから使いたい。

ヒカリ「エフィ、紫のヤツ、どれくらい作ってたっけ?」

エフィ「えーっと......あと4個しかないですね」

 意外と作ってたのね。だけど、4個だけか......それに、このカニを倒してもシャチが構えている。あいつ、私達が疲弊しきったところを奇襲する気満々ね。させないけど。

ヴァル「おい、ヒカリ!あのカニ全然攻撃が効かねぇけど、どうすんだよ!」

ヒカリ「そうね......いいわ。私とエフィでこの2体を片付けるわ。あんた達、どうにかして隙を作るからその間に抜けて行きなさい!」

ヴェルド「はぁ!?お前らだけでこいつらを倒せるわけーー」

ヒカリ「私を誰だと思ってるの?1度はあんた達の世界を完膚なきまでに侵略しようとした天才よ。これくらいの敵に苦戦するわけないじゃない」

 ......私があんた達に情けをかけなければ......いや、私の心が叫んでいなければ、あんた達の世界は私達の好きにされてたのよ。

 そんな私が行けって言うんだから、ちゃっちゃっと敵を倒してセリカを連れ戻して来なさい。

ヒカリ「......セリカは、私の友達だから。だから、ちゃんと連れ戻して来なさいよ。約束だからね」

ヴァル「......分かったよ。お前ら2人だけでいいんだな?」

ヒカリ「さっきからそう言ってるでしょ。何?私の力が信用出来ないとでも?」

ヴァル「いや、そういうわけじゃねぇけど......」

ヒカリ「なら悩むことなんてないでしょ。いいから、行きなさい!これは命令よ!」

ヴァル「......死ぬなよ」

 1度死んだ身よ。こんな奴ら相手に死ぬわけないじゃない。

ヒカリ「グランアタック・ダーク」

 敵の視界を奪い、ヴァル達が突破できるだけの時間を稼ぐ。

ヒカリ「今よ!」

 ヴァル達はこの期を逃さず、カニ、シャチの真下を通って敵拠点に向けて走り出す。

 こんな、高層建築だらけの場所なら、早々見つかることもないでしょう。

ヒカリ「さて、勝手に巻き込んじゃったけど、嫌なら逃げてもいいのよ?」

エフィ「いえ、私は逃げません。ここんとこ、ずーっと活躍がありませんから」

ヒカリ「そうね。今活躍して、読者からの好感度を爆上げしてやろうじゃない」

エフィ「はい!頑張ります!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴェルド「あいつら大丈夫か......?」

ヴァル「大丈夫だって言ってんだ。信じてやらねぇといけねぇだろ」

 前を走るヴァルの背中には、僅かながらの不安を感じとれる。なんていうか、いつもの俺達を置いて行くくらいの迫力ある走りを感じられないんだよな。

「止まりなさい。ゲテモノ達」

 頭上から女の声。しかも、俺達をゲテモノ呼ばわり......ゲテモノはどっちだよ。

ヴァル「誰だ!」

「......初めまして。私、王子ライト様に仕える者、レイアと申します」

 地上に降りてきた女は、さっきの態度とは打って変わって礼儀正しく自己紹介をする。

ヴェルド「......龍人?」

 羽は小さく、尻尾はでけぇが、これはどう見ても龍人だ。

レイア「ええ、龍人でございます。マリン族と言いましてね、泳ぎに特化した龍人ですよ」

ヴァル「マリン族......?」

ネイ「泳龍の上位互換。泳ぎに優れるって言ってましたけど、泳龍では不可能な深海での泳ぎもできる優秀な種族です。5000年前にこの世界から純血が全て消えて、全部ただの泳龍族になっていたはずですが......」

 これまた古い時間での話だな。適当に数千年単位で語っときゃ古感ある雰囲気出すのやめない?

レイア「王子と姫の間をぶち壊す輩は誰であろうと殺します。それが、私に出来る唯一の、王子を幸せにする方法だから」

ヴァル「なんか深そうだな。よく分かんねぇけど」

グリード「何でもいいから、とりあえずこいつもぶっ飛ばすことに変わりはねぇだろォ?行くぜェ!」

シアラ「待ってください!」

 全員が武器を取り出したところ、何故か急にシアラが前に出てきた。

レイア「誰ですか?私はあなたに毛ほどの興味もありませんが」

シアラ「ただ1人、恋焦がれる王子のために、己の恋心を押し潰して懸命に戦う!素晴らしいと思います。その姿勢」

レイア「は、はぁ......???」

 あ、いつもの言語不安定シアラ発動だ。こうなっては誰にも止められない。いや、このまま止まるな。俺達はその隙にこっそりと逃げ出すから。

レイア「待ちなさい、ゲテモノ。あなた達を先に通すわけがないでしょ」

 クソっバレてやがるか......

 レイアの目がある限り、通り抜け出来そうにない。大人しく、シアラの話が終わるまで待つか......待てるのか?

シアラ「レイアさん。あなたは、王子のことが好きですね!」

レイア「は、はい......!?」

シアラ「王子が好きなのに、王子には他に好きな人がいる。あぁ!なんと悲しい......しかし、悲しいだけで終わらせてはならない!己の恋心を正直にさらけ出し、己の気持ちを正直にぶつけるのです!」

「「「 ......?????? 」」」

 おい、今の理解できたやついるか?

 いねぇな!こいつ人間の言葉話してたのか?それとも、俺達がアホなだけか?

レイア「ご、ごちゃごちゃとうるさい人ですね。決めました。私はあなたを殺すことに全力を注ぎます。例え、他のゲテモノ共が先に進もうが、そんなものは気にしません」

 え?これチャンスなのか?行っていいのか?

シアラ「さあ、ヴェルド様!私とヴェルド様の力で、彼女の恋を実らせてあげましょう!」

ヴェルド「はぁ!?」

 なんで俺が巻き込まれなきゃならねぇんだ!今の流れからして、どう考えてもこいつとレイアが1対1で戦う場面だろうが!

ヴァル「ヴェルド」

ヴェルド「なんだ!」

ヴァル「頑張れよ」

ヴェルド「ふざけんな!」
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