グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第10章-Ⅱ 【記憶の旅人】

第10章39 【絶望ノ記憶】

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ヒカリ「ハハハハハッ!ハーッハッハッハッ!」

 狂気に満ちた男が、いかにも悪役っぽい高笑いを上げて楽しんでいる。

 物凄い力を得て助けに来てくれたはずのユミは、意識を保つだけで精一杯。黒月はアルフレアを失ったせいか意気消沈。いや、それだけではなく、デルシアまでもが殺されてしまったことが響いているのだろう。

 ヴァル達も、奴が放つ衝撃波の1つ1つに耐えるしか出来ないでいる。かく言う私も、体の傷を刺激させないよう大人しくしつつ、呼び出せる精霊の殆どをサポートに回してるせいで攻撃に回れていない。守りを固めていては負ける戦いなのに、肝心の攻撃が誰も出来ないでいる。負け無しだった私達が、初めて完膚無きまでに敗北する。その事が、酷く怖く思えた。

ユミ「すま......ねぇ......せっか......助けに......たのに......畜生......」

セリカ「ううん。ユミは頑張ってくれた。1番あいつにダメージを与えてくれた。あいつが、規格外すぎただけだよ」

ユミ「......クソ......」

 ユミが静かに拳を地面に叩きつけた。本当なら、クレーターが出来るくらいにまで殴りたかっただろう。でも、ユミにはそう出来るまでの余力がない。アルラウネの治療でも、精々これ以上血を出さないようにするので限界である。一体、どんな傷の付け方をすれば、これほどまでに再生することが叶わなくなるのだろうか。......分からない。私には、何も分からない。

ヴァル「てんっめぇ!」

ヒカリ「無駄です。それほどまでに疲れきってしまえば、もう私に勝つことは叶わない。あなた達は敗北したのですよ」

ヴァル「まだ負けてねぇよ!まだ、俺の炎は燃え上がってる!まだ負けねぇ!」

ヒカリ「そうですか。では、そろそろあなた達の士気を下げることにいたしましょうか?」

 ヒカリがヴァルを数歩先に突き飛ばし、赤装束の一軍に向かって手振りをする。

 何をするつもり?と思った次の瞬間、赤装束の一軍の中から現れたのは......

ヴァル「......っ!何をするつもりだ!」

 いつも以上に威圧感と声量を感じられる叫びをヴァルが上げる。

 赤装束が連れて来たのは、いつの間にか私達の手元から離れていた、車椅子に座ったネイりんだった......。

ヒカリ「私が適当に動いていると思っていましたか?残念、私は常に先のことを見据えて動いている。ネイさんは、私達の手の中です」

ヴァル「......っ!返せ!」

ヒカリ「返せと言われて、大人しく返す輩など、この世界には存在しないでしょう?事実、あなた達が奪った命の数々を返せと言われて返せますか?それと同じことです」

ヴァル「何を適当なことぬかしてやがる!何でもいいからネイを返せ!その子は、俺にとって大切な人なんだ!」

 ヴァルは炎の拳を上げながら奴に近づこうとした。でも、再び起きた衝撃波により、バランスを崩して飛ばされてしまう。

ヒカリ「見れば見るほどに憎たらしい人です。なぜ、あなたのような人がたくさんの人に愛されるのか。同じ不死者として理解出来ません。だからこそ、私はあなたを殺さなければならない」

 奴が、ネイりんの首根っこを左手で持ち上げて宙に吊るした。ネイりんは、意識が無いながらも恐怖を感じているのか、息を荒くして腕を上げようとしている。

ヒカリ「ふんっ......。完全に意識を失わせたつもりでしたが、僅かな本能が残りますか。まあいい。それも今日、この瞬間を持って終わる」

 奴が光の刃を右手に生み出し、ネイりんの顎部分に突き上げた。

ユミ「ま......ず......い」

ヴァル「やめろ!それだけは......!」

ヒカリ「まずは、あなたが立つために必要な、その足から奪わせてもらいましょうか」

ネイ「っ......」

 ネイりんが小さな叫び声を上げた。

 奴がネイりんを僅かに飛ばし、両手で光の刃を振ってネイりんの膝の若干上を斬った。

 ネイりんは、そのまま地面に落下し、小さな叫び声を何度も何度も上げている。

ヒカリ「おや?このネックレスが欲しいですか?」

 落下した時に外れたのだろう。奴がネイりんが大切にしているネックレスを持って、見せつけるかのようにネイりんの目に向けてネックレスを振っている。ネイりんは、奪い返そうとしてるのか、必死に右手を伸ばして振っている。

ヒカリ「こんなもの、こうしてやるまでです」

 奴は躊躇いもなくネックレスを踏み潰した。粉々になったネックレスの破片が辺りに散りばめられ、ネイりんは意気消沈したかのように右腕を下げた。

 続けて、奴はネイりんの剣、それも、ずっと昔から握っていた方を取り上げ、己の魔法で刃の部分を粉々に砕いて地面に突き刺した。

ネイ「......」

 意識が無いはずなのに、ネイは涙を流している。本能にきっちりと刻まれた記憶が、ネイに"悲しさ"という感情を蘇らせたのだろうか?

ヒカリ「その右手も邪魔です」

 奴が、地面に横たわったままのネイりんの右腕を斬り落とした。これで、ネイりんの四股は左腕1本しか残っていない。

ヴァル「頼む!それ以上はやめてくれ!」

 ヴァルが、らしくもない土下座をして懇願している。でも、奴はそれが聞こえていないのか、ずっとネイに焦点を合わせて笑っている。

ヒカリ「ふふっ......まあ、今はこのくらいにしといてあげましょうか。いや、万が一の可能性もある。ここで、死へのカウントダウンを始めておきましょうか?」

 奴がネイの髪の毛を持ち、再び宙吊りにして持ち上げる。そして、ゆっくりと光の刃が左胸の部分に当てられた。

ヴァル「やめろーーーーーーー!」

 ヴァル達が悲痛な叫びを上げる中、私は怖くて声を出せなかった。喉の奥が乾いていて、もう何も発することが出来なかった。

ネイ「っ......」

ヒカリ「痛いですか?痛いでしょう。でも、それも時期に終わる。後は、その辺で命が尽きるまで、お仲間が1人、また1人とやられていく様を見ていなさい」

 左胸を貫かれたネイりんは、適当にその場へと投げ捨てられ、奴は満面の笑みでこちらを振り向いてきた。

ヒカリ「この中で叫び声を上げなかったのは立派です。その行いに敬意を示し、あなたには、お仲間が亡くなっていく姿を見ることなく死なせて差し上げましょう」

セリカ「あっ......」

 怖い。怖くて動けない。ユミが必死に「逃げろ」って言ってくれてるけど、私には動くことが出来ないでいる。

 諦めてしまったからなのかもしれない。もう、先に死んだ方がマシだと思えたのかもしれない。死が目の前に迫ってきた私は、何もすることが出来ないでいる。精霊を召喚することも、せめてでもの足掻きを見せることも出来ない。

 ......

 ......

 ......

 助けてよ。ネイりん......。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァル「やめろーーーーーーー!」

ヒカリ「っ......!」

 今のはヴァルの叫び声。あいつがあんな声を上げるなんて尋常じゃない事だ。まさか......

ヒカリ「ごめんクロムさん!先に行ってる!」

クロム「後から追い付く!」

 私はGenesisの権限を用い、強風を発生させて、その間を通り抜けるようにして飛ぶ。

ヒカリ(お願いだから、最悪の事態とか起こってないでよね)

 そうは念じるが、この距離でも聞こえてきたヴァルの叫び声を考えるに、最悪の事態......ネイの死亡くらいは考えていてもいい。考えたくはない可能性だけど。

 ......やがて、みんなが拠点を構えている場所に到着した時、私は"地獄"を見た。

 ヴァルが泣き崩れ、アルフレアとデルシアは死んでいる。おまけに、女神アカウントを使っていたはずのユミが満身創痍の状態。そして、不気味なまでに黒いオーラを放ち、暴走するザガルの兵達。

 私は、とある一点に注目した。久し振りに会う、先生がいる場所だ。先生は、私達には見せたこともない笑みを浮かべて、大きく高笑いしている。先生の足元にいるのは、右腕、両足をもがれ、心臓までを貫かれたネイだった......。

ヒカリ「嘘でしょ......」

 まさか、こんな早くにそんな事態になるなんて......。有り得ない。有り得るわけがない。いや、ユミがあんな状態になっているんだ。もう、先生が殺しを楽しむ時間も無くなったというわけなのか?

ヒカリ「っ......!あ゛ぁ゛ぁぁぁ!」

 クロムさん達を助けた時のように、大量の銃火器を呼び出して先生に向け、先生にだけ当たるよう乱射させる。

「遅かったですねぇ......ラクシュミーさん」

ヒカリ「っ......!?」

 先生が、乱射する私の目の前に一瞬にして近付いてきた。

「あなた達は負けたのですよ」

 まずい。こんな時に、よりにもよって弾切れ。武器を入れ替えれば済む話なんだけど、そんな僅かな間で殺されてしまう......。

「あなたには期待していました。ですが、その期待は大外れといったところです。さようなら」

「させないよ!フラッシング・アロー!」

 先生の刃が私の首を掠め取るよりも先に、風に包まれた矢が私の前を通り過ぎていった。

「ごめん、ラク!遅れた!」

ヒカリ「テミ......」

「ちゃんと師匠とお姉さん連れて来たよ!」

 テミが開いた門から、師匠とイデアル姉ちゃんの姿が現れた。

 援軍としては、かなり心強い面子かもしれない。でも、私が2人を欲したのは、ネイを救うために必要な人員だと思っていたからだ。だが、肝心のネイはもう殺されてしまった。もう、この2人までを巻き込む意味はないのだ。

ミル「ラクシュミー、来てやったけど、私達は何をすればいいんだ?あいつか?あいつをぶっ飛ばせば終わるのかい?」

ヒカリ「......」

 なんて言えばいいのだろう。折角駆けつけて来てくれた2人に、なんと言えばいいのだろうか。私は、ただ悪足掻きをしているだけに過ぎないのに、もう終わってしまう戦いに、今更この2人を巻き込んで何になる?

ヒカリ「......遅すぎるよ......テミ」

アルテミス「え......?」

「そうです。あなた達の到着は遅すぎましたねぇ。もう少し早く来ていれば、別の展開があったかもしれないと言うのに」

イデアル「っ!ユニバースブレイク!」

「無駄です」

イデアル「嘘っ!?」

 お姉ちゃんが超至近距離で放った爆発魔法は、全て先生の手の中にすっぽりと収まってしまった。

ミル「何があったのか知らないが、急に攻撃を仕掛けてきた相手に対して、何も反撃しないのはどうかと思うね!」

 師匠は錬金術と魔法の組み合わせで応戦しようと試みる。

 無駄だ......。

 この空間は先生のものだ。錬金術で地形を変えることは出来ないし、師匠が得意とする地属性の魔法も似たようなものだ。......元々、この2人を戦力としては数えてなかった。ただ、ネイの周りにいることによって、あの子に思い出という名の記憶を与えられると思っていた。

「さあ、次はあなたの番です。ラクシュミーさん」

ヒカリ「......っ!」

 いつの間にか3人は薙ぎ倒され、先生が光の刃を構えて私の前に飛びかかってきていた。

「俺の娘に手を出すな!」

 もう死のうかと考えた。でも、やはりというかなんというか、私は何故か生かされる体質らしく、突然現れた赤髪の男が、先生の刃を砕いた。

ヒカリ「......お父さん。なんで......」

ヴァルガ「俺も考えあっての行動だ。奴の口車に乗って、少しばかりの旅をしていた」

ヒカリ「奴......?」

ヴァルガ「イデアルとお前の実父、ウルガだ」

ウルガ「どうも。久し振りですかね?ラクシュミー」

 長い前髪で目元を隠した、もう1人のお父さんが、ヴァルガの隣に立っていた。

ウルガ「少しどころか、大分出遅れてしまいましたが、これからは私達も、奴を止めるためだけに戦います」

ヴァルガ「そういう事だ。戦う気が無くなったのなら、お前は下がってろ」

ヒカリ「......出来るわけないでしょ。私も戦う。40過ぎたおっさん共にカッコイイ真似はさせない!」

 もう一度、大量の銃火器を周囲に構え、私はお父さん達より2歩先に歩みでる。

イデアル「ちょっとお父さん!勝手に逃げ出したかと思ったら、また急にこんなところに現れるなんてどういうこと?説明してくれるよね?」

ウルガ「すみません。私にも訳あっての事です。後でお茶しながら話をしますから、それで手を打ってください」

イデアル「場所、もれなく牢屋になるけど、それで構わない?」

ウルガ「構いません。元より承知の上で脱走したのですから」
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