272 / 434
第10章-Ⅱ 【記憶の旅人】
第10章40 【創界の記憶人《グランメモリーズ》】
しおりを挟む
冷たい秋風が頬を掠める。まるで、誰かがそっと息を吹きかけてきたみたいに、こそばゆくて、なんだか恥ずかしい気持ちになってくる。
「ここは......」
見慣れない街......いや、昔は見慣れていたはずの街並み。今よりももっと賑やかな商店街。八百屋のおっちゃんが鈍い声を上げ、精肉店の女将さんが、自身が産んだ子供達に囲まれながら店を切り盛りしている。そして、少し先を過ぎたところには、今も昔も変わらない。どの時代にだって存在する、おばあちゃんの経営する駄菓子屋がある。
懐かしい......。ただただ懐かしい。なんで、私はこんなところにいるのだろうか。私には、何か、やらなきゃいけないことがあったはずなんだ。......思い出せない。もう少し先に進めば、何かが見えてくるかもしれない。私は足を前に出す。すると、隣を小さな女の子2人が走り去っていった。
「こっちです!こっちこっち!」
「分かっておるから、そんなに慌てるでない!でないと、妾の、体が、ぜぇ、ぜぇ......」
「もう!だから毎日の全力疾走を欠かさないようにって言ってるじゃないですか!」
「そう言われてもめんどくさいから嫌じゃ!ぜぇ......」
「仕方ないですねー。なら、私がおんぶに抱っこしてあげますよ!」
「おんぶだけでお願いするのじゃ」
......あれは、1000年前の私。見た目はただのロリっ子少女だけど、あれで中身は6兆年を生きた魂。
「そうか......。ここは、いや、この時間は......」
このまま彼女達について行けば見られるはず。私にとっての大切な大切な時間が......。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃじゃーん!」
「じゃじゃーん!と言われて何を見れば良いのじゃ。見たところ、ただのボロ酒屋しかないぞ」
「それですよ、それ」
「はぁ?」
「なんと私、いえ、私達、このボロい酒屋を買い取っちゃいました!」
「何ともまあ、そこそこに思い切った買い物をしたのう」
「もちろん、ヨミさんの財源からです」
「お主、いっぺん地獄の淵ってやつを見てくるか?あぁ?」
「ごめんなさいごめんなさい。もちろん冗談なんですぅ、ちゃんと私達海賊団の資金から出しましたー!」
「ならばよい」
......2人の後を追いかけ、古臭い酒屋のある場所に出た。ここも見覚えがある。なんせ、これから200年は同じ場所で過ごすことになるのだから。
徐々に塞がっていた記憶の蓋が開いてくる。それを象徴するかのように、彼女達は動き、会話を繰り広げている。でも、本来なら、あの場所にもう3人いたはずなんだ。......思い出せない。誰だったかが、全然分からない。
「で、ここがなんだと言うのじゃ?」
「ギルドです!」
「ぎ・る・ど?」
「はい、そうです!ここにはたくさんの魔法使い達が集まって、この街の人々のためにその力を扱う。そして、いっつもいっつもワイワイガヤガヤしていて、とっても賑やかなギルド!になる予定です」
「いや、予定なのか......」
「安心してください!私が望む限り、全ての物は私の物です!」
「ジャ○アンみたいなやつじゃな」
「えへへ......。で、ヨミさん!」
「な、なんじゃ、急に顔を近づけて......」
「このギルドの名前、ヨミさんが決めてください!」
「は、はぁ!?なんで妾が......」
「だって、ここまで勝手に巻き込んだのは私達ですし、せめて名前くらいはヨミさんに決めてもらおうかなぁっと」
「そ、そういう事か......。仕方ない。妾が名付け親になるとするか」
「はい!よろしくお願いしますよ!」
「......そうじゃな......グランメモリーズなんてどうじゃ?」
「グラン、メモリーズ?どういう意味ですか?」
「うーん、創界の記憶人って意味じゃな。深くは考えるな。こんなのでええならこれにするが」
「じゃあ、これにしましょう!私達のギルド名はグランメモリーズ!今日から活動開始です!」
「あ、妾これから昼寝じゃから」
「寝かせません!やるべき事がたくさんあるのですから、どんどん勤勉に行きますよ!」
「あぁー......またこうなるのかぁ......」
......グランメモリーズ。今となっては、あの時の私が何を思ってこの名前を付けたのかは分からない。でも、多分だけど、ゼラ達が探し求めた財宝が、グランストーンとかいうものだったから、それに肖ってその名にしたんだと思う。
創界の名を持つ宝の元に集った記憶人......。そうか。私の想い出って意味で付けたんだ。自分勝手すぎる名前だったから、本当の意味を彼女達に話せなかった。だって、恥ずかしいんだもん......。
「ゼラぁ!ゼラぁぁぁぁ゛ぁぁぁぁ!」
ギルドの名前を思い出した時、急に辺りの景色が変わった。女の子の泣き叫ぶ声が聞こえて、そちらの方角に振り向くと、ベッドに横たわるゼラと、その傍らで泣き叫ぶ私の姿があった。
「泣か......ないで......。この......ギルドは......ヨミ......さん......に......」
「ゼラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
っ......やめて。
「妾が、妾がもっと早くに気付いておれば......あ゛ぁぁぁぁ」
......やめて!
「ゼラ......ゼラぁ......ゼラぁぁぁ!」
......やめてって言ってるでしょ!
世界は真っ黒に染まった。
今まで見えていたもの全てが黒く塗り潰され、私が見なくていいよう、全ての記憶から線を切る。なのに、全てを切ったはずなのに、嫌というほどに過去の記憶を見せられる。
もう思い出したくない。ずっと、ずーーっと忘れていたかったのに、まるで、忘れたとは言わせんぞ、とばかりに、私が嫌いな記憶を流してくる。
やめてよ......。もう、思い出すのは嫌なんじゃ......。どんな記憶であれ、もう思い出したくないんじゃ。悲しい思いをするくらいなら、二度と友など作らん方がええ。そう分かっていたのに......分かっていたのに!
「ヨーミさん!今日はこの依頼に出掛けましょう!」
やめろ......。
「ヨミさんヨミさん!いつまでも昼寝してちゃいけませんよ?これから怠惰なヨミさんには運動の時間です!」
見せないで......。
「ヨミさん。そんな悲痛な顔をしないでください。私が治らない病気だっていうのは、ずっと前から知っていたんですから」
忘れさせてよ......。全てを黒く塗り潰して、もう二度と思い出さなくていいように忘れさせてよ......!もう見たくない!聞きたくない!黙っててよ!黙って、大人しくしててよ!
「ツク......ヨミ?なんだか偉そうな名前ですねー。じゃあ、ヨミさんって、私は呼びます」
だから、やめてって言ってるじゃない!
「ヨミさんヨミさん!助けてくださいよー!」
......無理じゃよ。妾には何も出来ん。たかが何億、何兆年と生きてるだけで、妾には何も出来ん......。それは、現代でも同じことじゃろうが。
「ヨーミさん!私達、ずっと親友ですよ?」
「......やめて......」
泣いて泣いて、涙を流し続けて、思い出したくなかった記憶を掘り返されて、もう、私は何をすればいいのだろうか。
「ずっと殻に籠っていたい。もう、誰とも言葉を交わすことなく、私は、私の檻の中に閉じこもっていたい」
そうすれば、二度と悲しい思いをしなくて済む。そして、また、1兆でも2兆でも経つ頃には完全に忘れている。全てをデータにして、二度とその本を開かなければ、もう思い出すことはない。
「ヨミさん!夏だからって引きこもってちゃいけませんよ!」
「......」
別に、夏でも冬でも関係なく、妾はお主が連れ出さない限り引きこもっておるじゃろうが......。
「なあ、ゼラ。妾はどうすれば良かったんじゃ?お主を病が死に向けて追い詰めておる時、妾は何をすれば良かったんじゃ......」
答えは返ってこない。当たり前だ。ウザったらしい記憶も、あくまで記憶。ここにいる私の問いかけが返ってくることはない。
返事はどこからもやってこない。響くのは、私の声と記憶の声。ただそれだけ。
「お前と違って俺は怠け者じゃねえんだよ。色んなところに出歩いて、依頼主のために頑張って、そして、お前のためにも色々と頑張って......。誰か、こんな俺に頑張ったねの一言くらいかけてくれてもいいんじゃねえか......」
「......!ヴァル?」
突如として、この空間に、妾でもゼラでもない声が響いた。
「俺は、お前の手を取って良かったと思ってるよ」
「ヴァル......ヴァルぅぅぅ!」
声の主がここに現れたわけじゃない。あの日のように、私を助けに来てくれたわけじゃない。これはただの記憶。そう頭で理解してしまうと、途端に体から力が抜けていく。そして、私は辺りに適当に散りばめられた本の中で、涙を流しながら横たわった。
「......もう、戦えないよ。ヴァル。助けてよ。あの日のように、私のヒーローでいてよ......」
力なく叫んでも、彼がここに来ることは有り得ない。有り得るわけがない。ここは、完全に隔離された、私だけの空間。記憶を見ることは出来ても、誰かが訪れることは決してない。
「2人で生き残って、また、いつも通りの日々を遅れる日が来たら............ネイ。結婚しよう」
「......ごめん。ごめんなさい。もう、その約束は叶えられない......。もう、私には立って歩くことが出来ないから......だから、ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......」
どれだけの素晴らしい記憶があっても、もう私に立ち上がる気力はなかった。ずっと、ずっとこのまま閉じこもっている方が楽なんだ。ヴァルと交わした約束は、もう叶えられそうにない。叶えたくても、もう叶えられない。
......だって、私はただの女の子なんだから。
もう力はどこにも残ってないし、心の方だってぐちゃぐちゃになった。現実がどうなってるのかなんて知ったこっちゃない。私は、二度とここから出ることはない。外に出たら、また辛い目に逢うだけなんだから。それが分かっているのなら、何もしない方が楽なんだ。きっとそうに決まってる。私は頑張った。精一杯頑張った。だから、今しばらくは寝かせて......
「ヨミさん。約束を破るのだけはダメですよ!」
「......ゼラ?」
「ヨミさん。約束は守るためにあるもの。昔、私がそう教えてあげたでしょうが」
「......なんで、なんで、お主が......ここに......」
目の前に眩い光を感じ、思わず顔を上げた。すると、そこには、いるはずのないゼラが立っていた。
「っ......ゼラぁぁぁぁぁぁ!」
何の迷いもなく、私は突如として現れたゼラに抱きつく。
「もう、ヨミさんったら、私より随分と大きくなっているのに、相変わらず甘えん坊さんですね」
「ゼラぁぁぁ、ゼラぁぁぁぁぁぁ!」
「......辛かったですね。辛く、苦しい戦いの日々に身を投げ打って、やっと休めるかと思ったら嫌な過去を思い出して......。ハッキリ言って、この世界の神様は意地悪すぎですよ」
「ゼラぁ、ゼラぁぁぁぁ......」
なんでここに彼女がいるのかは、もう気にも留めなかった。ただそこにゼラがいる。それだけで、私は、手綱を失った馬のように、止まることなく泣き続けた。
「妾が、妾がもう少し早くに気付いておれば......!」
「ヨミさんのせいじゃありません」
「妾が、もっと本気で生きとっておれば......!」
「それは、神様にでも言っててください」
「妾が、もっと強かったら......」
「ヨミさんは十分に強いです」
「......っ......っ......ゼラぁ」
「大丈夫ですよ。ずっと、ここにいますから。私は、ヨミさんが望む限り、ここにいますから」
「妾は......妾はどうすれば良かったんじゃ......。皆から嫌われてのスタートで、やっと馴染めたかと思っても、すぐに訳の分からん呪いがやって来て、それでも必死に生きようとしたのに、それを望まない集団によって、どこか遠くへと追いやられて......。妾の何が気に食わんのじゃ......妾は、なぜこんなにも憎まれないけんのじゃ......一体、妾が何をしたというのじゃ!」
「......ヨミさんは精一杯頑張りましたよ。普通なら、もっと早くに心が折れても良かったはずなのに、ヨミさんは耐えに耐え抜いて、それで限界が来てしまったんです。だから、今、こうして泣きつく時間が与えられたんです。壊れてしまったヨミさんを治すため、ヨミさんが心ゆくまで休めるよう。私は、ヨミさんの味方です。ヨミさんが望む限り、ここに居続けます」
「......っゼラぁ......!」
嬉しかった。
何も考えられなくなった私のところに、かつての親友が来てくれたことが嬉しかった。私の頑張りを認めてもらえたことが嬉しかった。休んでいいよって言われたことが嬉しかった。許しを貰えたことが嬉しかった。
「休んで休んで、休み疲れたら、また私達の冒険小説を描きましょう。今度こそは、何の不幸もない、ドキドキハラハラとした冒険を、私達の手で描きましょう」
「......うん」
「でも、続きを描くためには、邪魔な存在がいます。今も、現実であなたの仲間が戦ってくれている。でも、もう、そう長くは続かない」
「うん......分かっておる......でも、妾には......」
「どうすることも出来ないなんて言わないでください。ヨミさんは1人じゃありません。私がずっとあなたに憑いています」
「......」
「だから、もう一度立ち上がりましょう。足が震えて立てないというのなら、私の怪力でヨミさんを支えます」
「......ゼラ......」
「たくさん後悔する事があったのなら、それ以上にこうしてて良かったと思えるような出来事を積み重ねましょう?そのために、私達には歩くための足が付いてる、話す口がある、聞くための耳がある、誰かの手を握るための手がある」
「..................分かったよ。ゼラ。もう一度、私は立ち上がる。涙を流さないのは、ちょっと難しいけど、それでも思い描いた未来を描くために、私は立つ。だから、手を貸して......」
「はい。いつでもどこでも、私達は一緒ですよ!」
泣き腫らした目を擦り、私は伸ばされたゼラの手を握る。こんなにも小さかったのか、と認識を新たにするが、それは私の体が大きくなっているからだろうと、自分の体に対して、成長してるんだなぁっと思う。
「さあ、たくさんの仲間、いえ、"ネイ"さんを愛してくれている人達が呼んでいます」
「......」
思えば、ここにある本は、私の記憶の一部だった。たくさん、たくさん並べられているけど、誰がこの空間に送り込んでくれたのだろうか?
......もしかしたら、ヒカリちゃん辺りが頑張っていたのかもしれない。私は、それを無視するかのように泣き続けていたけど、でももう大丈夫。記憶は全てインプットした。もう、欠片だって忘れない。忘れさせない。ずっと覚え続ける。
「......待ってて、ヴァル。今、そっちに向かうから」
この空間が明るく色を着け始め、やがては大きな大きな書庫へと姿を変える。私の精神世界と、世界の書庫が融合したのだ。
「私は......私の名は......」
「ネイさん。行きましょう」
ゼラに手を引っ張られ、私はこの空間を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヒカリ「やあァァァァ!」
イデアル「オールブレイク!」
ミル「歯ァ食いしばりな!」
ヒカリんとイデアルが遠距離から大爆発を起こさせる攻撃を連発させ、その煙に紛れ込むようにしてヒカリんのお師匠であるミルさんが強烈な一撃を入れる。だが、それは、奴に簡単に防がれてしまうけど、すかさず奴の背後からヴァルガ、ウルガと呼ばれる2人の如何にも父親って感じの男が攻撃する。が、これもまた、奴が背中に作りだした魔法陣によって防がれてしまう。
正に打つ術なし。といった状況だ。
奴は、攻撃を受ける度に大きく高笑いを上げている。その気になれば、ここにいるみんなを一瞬で殺すことが可能らしいのに、そんな事はせず、1人1人を徹底的に痛めつけている。
ヴァル「クソがァァァァァァ!」
「あなたはもう死ぬべきです」
奴が急に目の色を変えた。今までは徹底的に痛めつけるだけだったかもしれない。でも、あの目、あの動きは、完全に殺しに行くつもりだ......。
セリカ「ヴァルっ......!」
ヴァル「っ............」
「随分と綺麗に斬れましたね。血が一滴も付いていません」
ヴァルの首が............刈られた......。
ヒカリ「っ......ヴァルぅぅぅ!」
「あなた達に勝ち目はない。大人しく、楽に死ねる時まで待てばよいというものを......。まあ、これがあなた達の生き方なのでしょうね」
ヴァルが......死んだ?
ユミ「やべぇ......セリカ、さっさと逃げろ......」
セリカ「......」
逃げたい......。だけど、足が動かない。怖い......怖くて何も出来ない......。
誰でもいいから助けてよ......。もう、私達はやるだけやったよ......。
祈りはどこにも届かない。届いているのであれば、もう、とっくに助けが来ている。
......
......
......
もう、顔を上げ続けるのも疲れて、私は地面の方を向いた。すると、なぜか、甘く、とても心地のよい香りがした。
セリカ「花......?」
目の前に、白くて、綺麗な孔雀っぽい見た目の花が咲いていた。それも、戦いによって、すっかりと平原であった証拠を消した地面に、ポツンと1つ。
私の記憶が確かなら、こんなに甘い匂いがして、美しすぎる白い花は1つしかない。
月下美人。多分、それだと思う。でも、月下美人は満月か新月の晴れた日にしか咲かないし、何よりここには花の蕾などどこにもなかったはずだ。それなのに、なんでこんなものが?
「......花。月下美人ですか」
奴が、私が見ていたものに気づき、近付いてきた。
「月下美人の花言葉は、はかない恋、はかない美。追いかけてはならない。追いかけないのが恋愛の武士道。なんともこの場には相応しくない花ですが、彩りを加えてくれると思えばそれも良いでしょう。それにしても、もうすっかりと嵐も止んでしまいましたか......。綺麗な満月の見える夜です」
奴は、ご丁寧に月下美人の解説をしてくれた。でも、花言葉の部分には、少し、違う意味の言葉もある。
『強い意志』
月下美人は、大木や岩の割れ目ですら咲くほどに強い生命力を持っている。どんな環境であれ、強く生きようとするその様は今の私達とは正反対だ。
「それにしても、なぜ急にこんな花......まさか!」
奴が何かを思いだったのか、急に身を翻して敵陣の中心を見た。私も、釣られてそちらの方を見た。
セリカ「......ネイ......りん」
敵陣の中心には、とある人物を起点として、月下美人の花畑が広がっていた。
「ここは......」
見慣れない街......いや、昔は見慣れていたはずの街並み。今よりももっと賑やかな商店街。八百屋のおっちゃんが鈍い声を上げ、精肉店の女将さんが、自身が産んだ子供達に囲まれながら店を切り盛りしている。そして、少し先を過ぎたところには、今も昔も変わらない。どの時代にだって存在する、おばあちゃんの経営する駄菓子屋がある。
懐かしい......。ただただ懐かしい。なんで、私はこんなところにいるのだろうか。私には、何か、やらなきゃいけないことがあったはずなんだ。......思い出せない。もう少し先に進めば、何かが見えてくるかもしれない。私は足を前に出す。すると、隣を小さな女の子2人が走り去っていった。
「こっちです!こっちこっち!」
「分かっておるから、そんなに慌てるでない!でないと、妾の、体が、ぜぇ、ぜぇ......」
「もう!だから毎日の全力疾走を欠かさないようにって言ってるじゃないですか!」
「そう言われてもめんどくさいから嫌じゃ!ぜぇ......」
「仕方ないですねー。なら、私がおんぶに抱っこしてあげますよ!」
「おんぶだけでお願いするのじゃ」
......あれは、1000年前の私。見た目はただのロリっ子少女だけど、あれで中身は6兆年を生きた魂。
「そうか......。ここは、いや、この時間は......」
このまま彼女達について行けば見られるはず。私にとっての大切な大切な時間が......。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃじゃーん!」
「じゃじゃーん!と言われて何を見れば良いのじゃ。見たところ、ただのボロ酒屋しかないぞ」
「それですよ、それ」
「はぁ?」
「なんと私、いえ、私達、このボロい酒屋を買い取っちゃいました!」
「何ともまあ、そこそこに思い切った買い物をしたのう」
「もちろん、ヨミさんの財源からです」
「お主、いっぺん地獄の淵ってやつを見てくるか?あぁ?」
「ごめんなさいごめんなさい。もちろん冗談なんですぅ、ちゃんと私達海賊団の資金から出しましたー!」
「ならばよい」
......2人の後を追いかけ、古臭い酒屋のある場所に出た。ここも見覚えがある。なんせ、これから200年は同じ場所で過ごすことになるのだから。
徐々に塞がっていた記憶の蓋が開いてくる。それを象徴するかのように、彼女達は動き、会話を繰り広げている。でも、本来なら、あの場所にもう3人いたはずなんだ。......思い出せない。誰だったかが、全然分からない。
「で、ここがなんだと言うのじゃ?」
「ギルドです!」
「ぎ・る・ど?」
「はい、そうです!ここにはたくさんの魔法使い達が集まって、この街の人々のためにその力を扱う。そして、いっつもいっつもワイワイガヤガヤしていて、とっても賑やかなギルド!になる予定です」
「いや、予定なのか......」
「安心してください!私が望む限り、全ての物は私の物です!」
「ジャ○アンみたいなやつじゃな」
「えへへ......。で、ヨミさん!」
「な、なんじゃ、急に顔を近づけて......」
「このギルドの名前、ヨミさんが決めてください!」
「は、はぁ!?なんで妾が......」
「だって、ここまで勝手に巻き込んだのは私達ですし、せめて名前くらいはヨミさんに決めてもらおうかなぁっと」
「そ、そういう事か......。仕方ない。妾が名付け親になるとするか」
「はい!よろしくお願いしますよ!」
「......そうじゃな......グランメモリーズなんてどうじゃ?」
「グラン、メモリーズ?どういう意味ですか?」
「うーん、創界の記憶人って意味じゃな。深くは考えるな。こんなのでええならこれにするが」
「じゃあ、これにしましょう!私達のギルド名はグランメモリーズ!今日から活動開始です!」
「あ、妾これから昼寝じゃから」
「寝かせません!やるべき事がたくさんあるのですから、どんどん勤勉に行きますよ!」
「あぁー......またこうなるのかぁ......」
......グランメモリーズ。今となっては、あの時の私が何を思ってこの名前を付けたのかは分からない。でも、多分だけど、ゼラ達が探し求めた財宝が、グランストーンとかいうものだったから、それに肖ってその名にしたんだと思う。
創界の名を持つ宝の元に集った記憶人......。そうか。私の想い出って意味で付けたんだ。自分勝手すぎる名前だったから、本当の意味を彼女達に話せなかった。だって、恥ずかしいんだもん......。
「ゼラぁ!ゼラぁぁぁぁ゛ぁぁぁぁ!」
ギルドの名前を思い出した時、急に辺りの景色が変わった。女の子の泣き叫ぶ声が聞こえて、そちらの方角に振り向くと、ベッドに横たわるゼラと、その傍らで泣き叫ぶ私の姿があった。
「泣か......ないで......。この......ギルドは......ヨミ......さん......に......」
「ゼラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
っ......やめて。
「妾が、妾がもっと早くに気付いておれば......あ゛ぁぁぁぁ」
......やめて!
「ゼラ......ゼラぁ......ゼラぁぁぁ!」
......やめてって言ってるでしょ!
世界は真っ黒に染まった。
今まで見えていたもの全てが黒く塗り潰され、私が見なくていいよう、全ての記憶から線を切る。なのに、全てを切ったはずなのに、嫌というほどに過去の記憶を見せられる。
もう思い出したくない。ずっと、ずーーっと忘れていたかったのに、まるで、忘れたとは言わせんぞ、とばかりに、私が嫌いな記憶を流してくる。
やめてよ......。もう、思い出すのは嫌なんじゃ......。どんな記憶であれ、もう思い出したくないんじゃ。悲しい思いをするくらいなら、二度と友など作らん方がええ。そう分かっていたのに......分かっていたのに!
「ヨーミさん!今日はこの依頼に出掛けましょう!」
やめろ......。
「ヨミさんヨミさん!いつまでも昼寝してちゃいけませんよ?これから怠惰なヨミさんには運動の時間です!」
見せないで......。
「ヨミさん。そんな悲痛な顔をしないでください。私が治らない病気だっていうのは、ずっと前から知っていたんですから」
忘れさせてよ......。全てを黒く塗り潰して、もう二度と思い出さなくていいように忘れさせてよ......!もう見たくない!聞きたくない!黙っててよ!黙って、大人しくしててよ!
「ツク......ヨミ?なんだか偉そうな名前ですねー。じゃあ、ヨミさんって、私は呼びます」
だから、やめてって言ってるじゃない!
「ヨミさんヨミさん!助けてくださいよー!」
......無理じゃよ。妾には何も出来ん。たかが何億、何兆年と生きてるだけで、妾には何も出来ん......。それは、現代でも同じことじゃろうが。
「ヨーミさん!私達、ずっと親友ですよ?」
「......やめて......」
泣いて泣いて、涙を流し続けて、思い出したくなかった記憶を掘り返されて、もう、私は何をすればいいのだろうか。
「ずっと殻に籠っていたい。もう、誰とも言葉を交わすことなく、私は、私の檻の中に閉じこもっていたい」
そうすれば、二度と悲しい思いをしなくて済む。そして、また、1兆でも2兆でも経つ頃には完全に忘れている。全てをデータにして、二度とその本を開かなければ、もう思い出すことはない。
「ヨミさん!夏だからって引きこもってちゃいけませんよ!」
「......」
別に、夏でも冬でも関係なく、妾はお主が連れ出さない限り引きこもっておるじゃろうが......。
「なあ、ゼラ。妾はどうすれば良かったんじゃ?お主を病が死に向けて追い詰めておる時、妾は何をすれば良かったんじゃ......」
答えは返ってこない。当たり前だ。ウザったらしい記憶も、あくまで記憶。ここにいる私の問いかけが返ってくることはない。
返事はどこからもやってこない。響くのは、私の声と記憶の声。ただそれだけ。
「お前と違って俺は怠け者じゃねえんだよ。色んなところに出歩いて、依頼主のために頑張って、そして、お前のためにも色々と頑張って......。誰か、こんな俺に頑張ったねの一言くらいかけてくれてもいいんじゃねえか......」
「......!ヴァル?」
突如として、この空間に、妾でもゼラでもない声が響いた。
「俺は、お前の手を取って良かったと思ってるよ」
「ヴァル......ヴァルぅぅぅ!」
声の主がここに現れたわけじゃない。あの日のように、私を助けに来てくれたわけじゃない。これはただの記憶。そう頭で理解してしまうと、途端に体から力が抜けていく。そして、私は辺りに適当に散りばめられた本の中で、涙を流しながら横たわった。
「......もう、戦えないよ。ヴァル。助けてよ。あの日のように、私のヒーローでいてよ......」
力なく叫んでも、彼がここに来ることは有り得ない。有り得るわけがない。ここは、完全に隔離された、私だけの空間。記憶を見ることは出来ても、誰かが訪れることは決してない。
「2人で生き残って、また、いつも通りの日々を遅れる日が来たら............ネイ。結婚しよう」
「......ごめん。ごめんなさい。もう、その約束は叶えられない......。もう、私には立って歩くことが出来ないから......だから、ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......」
どれだけの素晴らしい記憶があっても、もう私に立ち上がる気力はなかった。ずっと、ずっとこのまま閉じこもっている方が楽なんだ。ヴァルと交わした約束は、もう叶えられそうにない。叶えたくても、もう叶えられない。
......だって、私はただの女の子なんだから。
もう力はどこにも残ってないし、心の方だってぐちゃぐちゃになった。現実がどうなってるのかなんて知ったこっちゃない。私は、二度とここから出ることはない。外に出たら、また辛い目に逢うだけなんだから。それが分かっているのなら、何もしない方が楽なんだ。きっとそうに決まってる。私は頑張った。精一杯頑張った。だから、今しばらくは寝かせて......
「ヨミさん。約束を破るのだけはダメですよ!」
「......ゼラ?」
「ヨミさん。約束は守るためにあるもの。昔、私がそう教えてあげたでしょうが」
「......なんで、なんで、お主が......ここに......」
目の前に眩い光を感じ、思わず顔を上げた。すると、そこには、いるはずのないゼラが立っていた。
「っ......ゼラぁぁぁぁぁぁ!」
何の迷いもなく、私は突如として現れたゼラに抱きつく。
「もう、ヨミさんったら、私より随分と大きくなっているのに、相変わらず甘えん坊さんですね」
「ゼラぁぁぁ、ゼラぁぁぁぁぁぁ!」
「......辛かったですね。辛く、苦しい戦いの日々に身を投げ打って、やっと休めるかと思ったら嫌な過去を思い出して......。ハッキリ言って、この世界の神様は意地悪すぎですよ」
「ゼラぁ、ゼラぁぁぁぁ......」
なんでここに彼女がいるのかは、もう気にも留めなかった。ただそこにゼラがいる。それだけで、私は、手綱を失った馬のように、止まることなく泣き続けた。
「妾が、妾がもう少し早くに気付いておれば......!」
「ヨミさんのせいじゃありません」
「妾が、もっと本気で生きとっておれば......!」
「それは、神様にでも言っててください」
「妾が、もっと強かったら......」
「ヨミさんは十分に強いです」
「......っ......っ......ゼラぁ」
「大丈夫ですよ。ずっと、ここにいますから。私は、ヨミさんが望む限り、ここにいますから」
「妾は......妾はどうすれば良かったんじゃ......。皆から嫌われてのスタートで、やっと馴染めたかと思っても、すぐに訳の分からん呪いがやって来て、それでも必死に生きようとしたのに、それを望まない集団によって、どこか遠くへと追いやられて......。妾の何が気に食わんのじゃ......妾は、なぜこんなにも憎まれないけんのじゃ......一体、妾が何をしたというのじゃ!」
「......ヨミさんは精一杯頑張りましたよ。普通なら、もっと早くに心が折れても良かったはずなのに、ヨミさんは耐えに耐え抜いて、それで限界が来てしまったんです。だから、今、こうして泣きつく時間が与えられたんです。壊れてしまったヨミさんを治すため、ヨミさんが心ゆくまで休めるよう。私は、ヨミさんの味方です。ヨミさんが望む限り、ここに居続けます」
「......っゼラぁ......!」
嬉しかった。
何も考えられなくなった私のところに、かつての親友が来てくれたことが嬉しかった。私の頑張りを認めてもらえたことが嬉しかった。休んでいいよって言われたことが嬉しかった。許しを貰えたことが嬉しかった。
「休んで休んで、休み疲れたら、また私達の冒険小説を描きましょう。今度こそは、何の不幸もない、ドキドキハラハラとした冒険を、私達の手で描きましょう」
「......うん」
「でも、続きを描くためには、邪魔な存在がいます。今も、現実であなたの仲間が戦ってくれている。でも、もう、そう長くは続かない」
「うん......分かっておる......でも、妾には......」
「どうすることも出来ないなんて言わないでください。ヨミさんは1人じゃありません。私がずっとあなたに憑いています」
「......」
「だから、もう一度立ち上がりましょう。足が震えて立てないというのなら、私の怪力でヨミさんを支えます」
「......ゼラ......」
「たくさん後悔する事があったのなら、それ以上にこうしてて良かったと思えるような出来事を積み重ねましょう?そのために、私達には歩くための足が付いてる、話す口がある、聞くための耳がある、誰かの手を握るための手がある」
「..................分かったよ。ゼラ。もう一度、私は立ち上がる。涙を流さないのは、ちょっと難しいけど、それでも思い描いた未来を描くために、私は立つ。だから、手を貸して......」
「はい。いつでもどこでも、私達は一緒ですよ!」
泣き腫らした目を擦り、私は伸ばされたゼラの手を握る。こんなにも小さかったのか、と認識を新たにするが、それは私の体が大きくなっているからだろうと、自分の体に対して、成長してるんだなぁっと思う。
「さあ、たくさんの仲間、いえ、"ネイ"さんを愛してくれている人達が呼んでいます」
「......」
思えば、ここにある本は、私の記憶の一部だった。たくさん、たくさん並べられているけど、誰がこの空間に送り込んでくれたのだろうか?
......もしかしたら、ヒカリちゃん辺りが頑張っていたのかもしれない。私は、それを無視するかのように泣き続けていたけど、でももう大丈夫。記憶は全てインプットした。もう、欠片だって忘れない。忘れさせない。ずっと覚え続ける。
「......待ってて、ヴァル。今、そっちに向かうから」
この空間が明るく色を着け始め、やがては大きな大きな書庫へと姿を変える。私の精神世界と、世界の書庫が融合したのだ。
「私は......私の名は......」
「ネイさん。行きましょう」
ゼラに手を引っ張られ、私はこの空間を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヒカリ「やあァァァァ!」
イデアル「オールブレイク!」
ミル「歯ァ食いしばりな!」
ヒカリんとイデアルが遠距離から大爆発を起こさせる攻撃を連発させ、その煙に紛れ込むようにしてヒカリんのお師匠であるミルさんが強烈な一撃を入れる。だが、それは、奴に簡単に防がれてしまうけど、すかさず奴の背後からヴァルガ、ウルガと呼ばれる2人の如何にも父親って感じの男が攻撃する。が、これもまた、奴が背中に作りだした魔法陣によって防がれてしまう。
正に打つ術なし。といった状況だ。
奴は、攻撃を受ける度に大きく高笑いを上げている。その気になれば、ここにいるみんなを一瞬で殺すことが可能らしいのに、そんな事はせず、1人1人を徹底的に痛めつけている。
ヴァル「クソがァァァァァァ!」
「あなたはもう死ぬべきです」
奴が急に目の色を変えた。今までは徹底的に痛めつけるだけだったかもしれない。でも、あの目、あの動きは、完全に殺しに行くつもりだ......。
セリカ「ヴァルっ......!」
ヴァル「っ............」
「随分と綺麗に斬れましたね。血が一滴も付いていません」
ヴァルの首が............刈られた......。
ヒカリ「っ......ヴァルぅぅぅ!」
「あなた達に勝ち目はない。大人しく、楽に死ねる時まで待てばよいというものを......。まあ、これがあなた達の生き方なのでしょうね」
ヴァルが......死んだ?
ユミ「やべぇ......セリカ、さっさと逃げろ......」
セリカ「......」
逃げたい......。だけど、足が動かない。怖い......怖くて何も出来ない......。
誰でもいいから助けてよ......。もう、私達はやるだけやったよ......。
祈りはどこにも届かない。届いているのであれば、もう、とっくに助けが来ている。
......
......
......
もう、顔を上げ続けるのも疲れて、私は地面の方を向いた。すると、なぜか、甘く、とても心地のよい香りがした。
セリカ「花......?」
目の前に、白くて、綺麗な孔雀っぽい見た目の花が咲いていた。それも、戦いによって、すっかりと平原であった証拠を消した地面に、ポツンと1つ。
私の記憶が確かなら、こんなに甘い匂いがして、美しすぎる白い花は1つしかない。
月下美人。多分、それだと思う。でも、月下美人は満月か新月の晴れた日にしか咲かないし、何よりここには花の蕾などどこにもなかったはずだ。それなのに、なんでこんなものが?
「......花。月下美人ですか」
奴が、私が見ていたものに気づき、近付いてきた。
「月下美人の花言葉は、はかない恋、はかない美。追いかけてはならない。追いかけないのが恋愛の武士道。なんともこの場には相応しくない花ですが、彩りを加えてくれると思えばそれも良いでしょう。それにしても、もうすっかりと嵐も止んでしまいましたか......。綺麗な満月の見える夜です」
奴は、ご丁寧に月下美人の解説をしてくれた。でも、花言葉の部分には、少し、違う意味の言葉もある。
『強い意志』
月下美人は、大木や岩の割れ目ですら咲くほどに強い生命力を持っている。どんな環境であれ、強く生きようとするその様は今の私達とは正反対だ。
「それにしても、なぜ急にこんな花......まさか!」
奴が何かを思いだったのか、急に身を翻して敵陣の中心を見た。私も、釣られてそちらの方を見た。
セリカ「......ネイ......りん」
敵陣の中心には、とある人物を起点として、月下美人の花畑が広がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる