グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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最終章 【創界の物語】

最終章14 【旅】

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『少しだけ違いますね。私が死ぬことにはなんの意味もない。ネイさんが死ぬことには、意味がある』

 ーー遠い記憶の中をさまよっていた。

 追体験とは言えど、ただ出来事を客観的に見ているだけであり、俺が直接何かをするわけじゃない。でも、過去の俺を見ていると、少しずつ記憶の蓋が開いてきて、思い出せなかったことを徐々に思い出せるようになっている。 

「ヒカリが戻ってくるまでの物語……。正直、俺に関係してる話じゃねぇな」

 俺はそう呟いた。今は、どんな些細なことでも口にしていたい気分だった。

ネイ「そうじゃよ。これが、ヒカリちゃんが戻ってくるまでの過程。ここら辺は、あまりお主と関係してないのう。でも、聞いて損はない話じゃろ」

「ああ、そうだな」

 俺が忘れていたヒカリのことを思い出した。ヒカリは、口が悪くて、演技力が高くて、だけど素直になれないバカで、最高の仲間だ。

 まだ、忘れてることがあるんじゃねぇかとも思う。だけど、ヒカリについて、これだけ思い出せれば十分だ。

 隣の席でヒカリは退屈そうに本を読んでいる。俺が全てを思い出すまで、こいつは何にも関わることが出来ないからだ。そんなこいつの為にも、早く思い出さなきゃな、全てを。

ネイ「ここまでを思い出せたのなら、次に行くか、ヴァル」

「……ああ」

 ここまで読み進めた内容は、どれも楽な話ではなかった。とてもキツくて、海の中で溺れてるかのように息苦しいものだった。

 自分のことではあるのだが、これを成し遂げてきたのは俺じゃないような気がしてならない。あんな出来事を、何をどうすればお前は乗り越えられるんだ。なぁ、『俺』。

 ……

 ……

 ……

 そうして、また記憶の旅が始まる。次はどんな物語なのか、どこまで読み進めたら、俺は全てを思い出せるのか。……そもそも、なんで先の話から過去の話に向かって読み進めてんだろうな。本を差し出してくるのはネイだから、そこらへんの意図がよく分からん。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

『お主にとって、ミイはそれほどの価値じゃなかろう!』

『私にとって、ミイさんは私を変えてくれた大事な存在なんです!だから、いいんです。私は、もう十分に生きましたから』

 ーー2人の女の子が言い合いをしている。片方は鬼のような角を生やしていて、もう片方は龍の羽と尻尾を生やした人物。

 見まごうことなき人物、ネイとユミだ。

 記憶の蓋がまた1つ開き、俺にこの2人のことを思い出させる。

 記憶がーー

 ーー大切な記憶が

 なぜ、俺は涙を流すのだろうーー

 少女の叫び声が聞こえていた。

 ずっと傍で聞き続けていた悲しくなる声だ。でも、今ではそれが唯一安心できる声になっている。

 俺、まだ覚えてんだな。

 思い出せないだけで、忘れたわけではなかった。ちゃんと、心に残っているんだ。どんな記憶だろうが。

「ユミって、今この場にいるのか?いるんだったら、会っておきたいんだけど」

ネイ「会いたいか?なら、会わせてやるぞ。綺麗になったもんじゃな。随分と女の子らしうなった。これも、ユミが変えてくれたお陰なのじゃろうかな?」

 記憶の本から解放され、俺はハッキリとした記憶でユミの姿を想像する。

 確か、最後に見たのはネイの誕生日あたりだったか……。あの時は、武人って程じゃねぇが、動きやすさに特化した薄い服装だったな。オマケに、ついさっき読んだ鬼のユミと違って、スラッと流れる髪の毛をポニーテールにしてたし……。一体、女の子らしくなったらどんな姿になるんだろうな、と想像しながら待っていると、ネイの後ろから黒髪ロングの和服美人が現れた。

「久し振りだな、ヴァル。つっても、お前の感覚じゃ1年程度か」

 見た目からは想像出来ない男勝りな口振り。……変わってるのが見た目だけで良かったぜ。

ユミ「お前、ちゃんと思い出したんだろうな?俺のことも、こいつのことも」

「……ああ、思い出した。お前らは大切な人だ、それだけ知ってれば十分だろ?」

ユミ「正解だ、ヴァル。はぁ~、お前が記憶喪失になってるとかうんとか聞いたから心配してたんだぞ?」

「その節はどうもだ。つっても、まだ1日も経ってねぇだろ」

 俺の感覚では、かなり長い時間を過ごしたと思っているのだが、実際現実の世界は1日も過ぎていないとネイから聞かされている。ーーここ、現実の世界ではないよな?まあいいか。

ユミ「まあそうなんだが、こうしてる間にも向こうの世界はどえらいことになってる。お前には、もっと早くに全てを思い出してもらわなきゃならねぇんだが……」

ネイ「待てユミ。誰がそこまで話していいと言った?」

 和やかに見ていたネイが急に割り込んできた。

ユミ「いいだろ別に。どうせ、思い出したら思い出したで話すつもりだったんだろ?なら、もう話してもいい頃じゃねぇかよ」

ネイ「まだじゃ。まだ見とらん記憶が1章分ある」

ユミ「へいへい」

 2人が何を話そうとしていたのかは分からないが、数秒と経たないうちに、俺は再び本の中の世界へと潜り込むことになった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

『なんで……助けに……来たの……』

 悲しい声だ。誰も信じてくれない、誰も助けてはくれない。信じられるものが全て消え、掴む藁すらも無くなってしまったかのように溺れている。

 龍人だったからという、ただそれだけの理由がこの子を苦しめる。龍人の何がいけないのか、当時の俺にはよく分からなかったし、記憶を取り戻してからも分からないままだ。でも、これに関しては分からないままでいいと思う。

 だって、俺はーー

「お前のことが好きだ」
『俺がお前を見捨てるわけねぇだろ』

 2つの声が反響するように響く。片方は俺の本音で、もう片方は恥ずかしさを包み隠した言葉。

『……怖かったんじゃ……ないの……』

「心が見えるとか言っておきながら、全然見えてねてぇよな、お前って。好きになった子を怖いと思うわけねぇだろ」
『お前、本当に心が見えてんのか?俺はそんな感情一切抱いてねえよ。今はお前を助ける。ただそれだけを思ってる』

 ーー今だから言える本当の言葉。

「……ごめんな……さい……本当は、分かってた......。あなただけは......そんなことを......思って......ないって...... セリカも......そうだった......。なのに......私は......感情のままに......当たり散らして......」

 ーー今だからこそ分かるネイの本当の気持ち。

 "死にたくない"という言葉には、肉体的にではなく、記憶の方での意味も込められていた。記憶を無くし、一時は自分という存在を理解出来なくなっていた俺には、その気持ちがよく分かる。

 自分という名の他人に自分を支配されていく恐怖。何事にも変え難いものだ。

 あの時から、俺は分かったフリをしていた。口先ばっかで、俺は何も分かっちゃいなかった。だから、死にたくないと言った子を死なせてしまうんだ。

 本当、どうしようもねぇ人間だと思う。本当のことを言えって偉そうに言うが、1番本音を隠してるのは俺自身だったんだ。記憶を取り繕っただけの俺がこう知ったげに思ってしまうのだから、お前は本当にバカな奴だったんだぜ。

「お前が望むなら、俺がずっと守ってやる。どうしたいかなんて聞かなくても分かる」
『お前は、一体どうしたかったんだ?』

『死にたく……ない……』

 ーー本当の声など最初から聞こえていた。あえて、聞き直す必要なんてなかった。俺は、ただ一言「"俺が""ずっと""お前だけを"守ってやる」と言えば良かったんだ。なんて、後悔したところで過去は変わらねぇし、今が幸せに生きられているのだから何も問題はない。そんな考えもあるだろう、だが、もう少し言葉選びは上手くしておきたかったという小さな後悔がある。

「記憶なんざ関係ねぇ。俺がお前のことを好きで、お前も俺のことが好きで、それがずっと続けばいいだけの話だったんだ。何が神様相手だ、んなもんぶっ飛ばせばいいだけの話だろ」

 記憶の旅人、深海の龍王、闇の魂、悪魔の科学者、龍の涙、黒の心、時の歯車。ーーそして記憶の結晶。

 "俺"という人物を象るための記憶が全て集まり、真の意味で完璧な"俺"へと戻る。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ーー全部、思い出した」

 俺の意識は、再び真っ白な空間に所狭しと本棚が突き詰められた空間へと戻る。右隣にはなぜか頬を赤らめたネイがいて、真正面にはムスッとした表情のヒカリがいる。

「ーーあの……俺なんかした?」

ヒカリ「別にぃ。ただ、ちょっと羨ましいなって」

 もしや、記憶の中だと思って呟いていたことが、全部寝言という形で筒抜けになっていた?え?マジで?だとしたら、独り言なら大丈夫でも、他人に聞かれると超恥ずかしいことを言ってた気がするんだが……

ユミ「お前も男だな、ヴァル。この1000年間、俺は1回もネイがデレるところを見たことはないってのに、こうも一瞬で落としちまうとはな」

ネイ「誰が同じ女相手にデレるか、バカもの!」

ユミ「な?ずっとこんな調子だったんだぜ、1000年間」

 1000年もキャラがブレねぇってある意味すげぇな。お前らなんか魔法使ってんだろ。

ネイ「ーーヴァル、ちゃんと全部思い出してくれたんですよね」

「ああ、全部思い出した。ーーありがとな、ネイ」

 俺はネイの頭を軽く撫で、目の前で相変わらずムスッとした表情を続けるヒカリに目を向ける。

「時間かかってしまってゴメン。だけど、俺はもう大丈夫だ。だからーー」

ヒカリ「分かってるわよ。手伝えばいいんでしょ、手伝えば。……はぁ、あんた、1つ言っとくけど、私は過去のヒカリであって、あんたが知る未来のヒカリじゃないんだからね。そこんとこ理解しておくように」

「ああ、分かってる」

 とは言うが、正直過去とか未来とかあまり関係ないように思う。だって、こいつ過去も未来も性格一緒だろ。何1つとして変わらねぇ安心感がある。

 ヒカリには言うことを言ったので、次はネイの方に顔を向ける。

「ネイ、話してくれ。未来で何があったのか。いや、何が起きるのかを」

ネイ「はい。少し長くなりますけど、ヒカリちゃんも聞いててくださいね」

ヒカリ「……」
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