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Veritas1章 【運命の少女】
Veritas1章1 【もし、あの時あの場所で】
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悲しい結末に終わり、望まぬ形となった未来。果たして、それは"本当の"物語だったのだろうか?
もし、あの時別の選択をしていれば、もしあの時、1歩勇気を踏み出していたら。そんな、後悔する時が人生には幾度となく訪れる。僕たちの未来も、その1つ1つの選択肢を変えていれば別の結末を迎えることが出来ただろう。
さて、これからお話するのは後悔したくないからこそ生まれた別の物語。あの時死ぬはずだった彼女が生きていれば、世界はどうなっていたのだろうか。理想の未来は描けたのだろうか。どうなるのかは僕にも分からない。でも、これが僕に出来る最後の手段になるだろう。
さあ、未来を掴む時だ。グランストリアVeritas。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私は裏切り者。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私は悪魔の子。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
幸せになることなんか許されない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
幸せになっちゃいけない子。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
でも、
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私にだって、自分の道を選ぶ権利くらいはある。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
水界暦1145年6月7日ーー
ヴァル「炎龍の鉄砕!」
ゴードの拳がフウロに振り落とされる直前、ヴァルがゴードの頭に一撃を加えた。
「ヴァル!」
ヴァル「お前らにこの世界を好きにはさせねえよ!」
ヴァルがゴードの頭の上で、ゴード達に向かって睨みを利かせている。なんとか体勢を立て直すことは出来たか……いや、まだ私達が不利だ。
ライガ「クソ、ガキ共が......」
ライガがヴァルに向かって突進をする。そして、ヴァルはそれを軽々と避ける。
ヴァル「今朝の様にはいかねえよ!」
ヴァルは通り過ぎていったライガに素早く飛びつき、強い一撃を御見舞した。
ゴード「中々やるようですね......」
ゴードが頭を押さえながら体勢を整える。
「全く......こんな奴ら相手にどれだけ時間がかかっているのよ」
ちょっとずつ押し返していると、不意に後ろの方から声が聞こえた。
「ヒカリん......」
フウロ「無事だったのか?」
ヒカリが銃と分厚い本を手に持ち、睨むようにゴード達を見つめている。
ヒカリ「こんな奴らさっさと倒しちゃいなさい」
そう言うとヒカリはコートから銃の引き金に指をかけ、ゴード達にその銃口を向ける。
ヴァル「よっしゃぁ!ここからは俺たちのターンだ!」
ヴァルがゴードに向かって突進攻撃をしようとした、その時ーー
ヒカリ「そうなると......良いわね」
ヒカリがサッと銃口の向きを変え、ヴァルの方に向けて引き金を引いた。それを、ヴァルは咄嗟の勘で左に避ける。
ヴァル「......どういうつもりだ?」
私達が一斉にヒカリの方を見ると、ヒカリはしっかりとした敵意を持って私達を睨んでいた。いや、どこか悲しげな目だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
あの時、別の選択をしていたら。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私だって本当は分かっていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
分かっていたし、答えもあった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
けれど、私は敵対する道を選んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
でも、まだ間に合うのかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
まだ、みんなと一緒にいられるのかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
答えは何も分からない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
けれど、自分の道は自分で決められる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私は未来を知っている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私はーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っ……こんな未来……捨ててやる!」
手に持っていた本を両手で引き裂き、地面に叩きつける。そして、銃を捨てて手のひらに魔法陣を描いてゴード達に突っ込む。
ゴード「ご苦労様です。ヒカリさーー」
「残念。私、もうあんた達に構ってやらないから」
ゴードのゴツゴツとした顔に手を当て、とびきりの爆煙を浴びさせてサッと身を引く。手のひらに残る熱い感触。私が初めて味方を裏切った……いえ、裏切りなら少し前にもした。そして、私はそれを後悔した。
心に残したくない後悔。未来を知っているからこそ、ここでしたくない後悔を振り払う。
ライガ「ヒカリ!何してやがる!」
ライガが一瞬攻撃するかどうかを躊躇い、それでもと迷いを払うように顔を振って突撃してきた。
ーーその一瞬の遅れが、命取りだ。
「エンドカラー」
迫り来るライガの額に、銃のような形にした手の指先を当てる。ライガの動きが一瞬止まり、その後白い光を輝かせて爆散した。
「……」
ゴード「ーーヒカリさん。どういうつもりですか」
「……いえ。何でもないわ」
しばらくゴードと睨み合った後、私は誰も巻き込まないようエンドカラーを放ち、そっとこの場から離れた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
これで……良かったのかな。
暗い夜道。行く宛てもなく、1人の少女がひっそりと路地で体を縮ませている。
「やっぱり、人付き合いは苦手だ……」
裏切りに裏切りを重ね、味方は誰もいなくなった。いえ、味方なんてものは最初からいなかった。全員、互いに互いを利用し合うだけの関係で、死にさえしなければ基本は自由な集まりだった。
ギルドの連中だってそう。みんなバカで、うるさくて、喧嘩ばっかなのに、そのくせいざという時は団結して戦って……
「バッカみたい……」
この体勢でいるのもキツくなって、少し伸びをする。そして、路地から離れ、街灯を頼りにブラブラと歩く。
「ヴァルは、やっぱり何も覚えてなかった……。最初から、何も」
あの書庫で交した2度目の約束。でも、やっぱり彼は覚えていない。当たり前だ。あの時の彼は未来人。思い出してくれるとしたら、もっと先の未来なのだから。
適当に歩き、少し疲れたら人気のないところで子供みたいに体を縮ませる。どこへ行きたいのかも分からず、何をしたいのかも分からず、ただ適当に歩いている。きっと、今のこの街の状況下なら、ギルドに行けば彼がいるだろう。そして、彼はきっと許してくれる。彼はバカみたいに優しいから。でも、他はどうだろうか?
「……怖い……な」
他人から虐げられることに慣れてはいても、自らその場に飛び込むなんて愚かなことはしたくない。
……分からない。
……本当に何をすればいいのか分からない。
何であの時、たった1発と言えどヴァルに弾丸を放ってしまったのだろうか。あんな事してなければ、私はしれっとみんなのところにいられたかもしれないのに。
「子猫ちゃんがこんな夜中に1人で遊び歩いているとは、獣共に見つかったら強姦ものだよ?」
「っ……!」
不意に頭上から聞こえた声に、私はコートの中から銃を引き抜こうとした。けど、そこにあるはずのものが無かった。
「君が今欲してるのはこれかな?子猫ちゃん」
ーーと、自らの額に銃口を当てられる。
「……ラナ」
ラナ「ピンポン、正解だ」
見た目は本で読んだものと大分違うが、その雰囲気はラナそのものだった。
「……何であんたがここにいるのよ。あんたは確かーー」
ラナ「うん。僕は本来君の中にいて、君が記憶を失ったタイミングで現れるはずの生き物さ」
「……」
何を企んでいるのかよく分からない。これも、私が未来を変えてしまった弊害なのだろうか?いやーー
「そういや、あんた。しれっとギルドの一員としていたような……」
記憶があやふやではあるが、私が書庫から戻ってきたタイミングで、ラナと名乗る人物は既にギルドにいた。あまり目立つような人ではなかったが、確かにそこにいた。
ラナ「順を追って説明しよう」
「……」
ラナ「まず君が書庫から戻ってきたこの世界。君がそうしたように、この世界は正史を辿っていない。まあ、正史と呼べるものはとうの昔にごっちゃごちゃにはなっているけどもね。で、僕は10年ほど前からグランメモリーズに所属している。歴史の見方を変えたということさ」
「……私に憑いて、ネイを強化させる方が良かったんじゃないの」
ラナ「確かに前回はそれをやった。でもね、それだけじゃ足りなかった」
「足りなかった?」
ラナ「うん」
ラナが私の額から銃口を離し、そのまま投げ捨てるように私に銃を返した。そして、どこへ向かうのか、適当に歩き出した。
話は歩きながらってことか。
ラナ「前回の周。君は最終決戦に向かう前に死に、その影響でネイも生き残れなかった。そして、英雄となった彼が世界の扉を焼き付くし、物語はそこで終焉を迎えた」
「失敗したってことかしら」
あれだけ用意周到にやって来たと認識してたのに、それでも失敗するなんて、本当、無能にも程があるわ。ーーまあ、それは私の責任なのでしょうけど。
ラナ「僕は、形式的には未来を迎えた世界を捨て、再び過去へと戻ってきた。といっても、ただ戻るだけでは同じことの繰り返しだ。だから、僕は君という存在が生まれた時間軸に飛んできた」
「それはつまり、未来を知った私がいる世界線ってことかしら」
ラナ「ああそうだ。未来を知る君。その君が取る選択肢ならば、絶望の未来を塗り替えられる。僕は最後の仮説としてそれを選んだ。そして、見事に君は別の未来を歩み出している。実に興味深いよ」
「……」
でも、私がこのまま変わった未来を辿ったら……
ラナ「ネイが生まれなくなる。そう思っているのだろう?」
「っ……!」
ラナ「安心したまえ。そのために僕がこうしてギルドの一員としているのさ。能力的には前回のネイに劣るが、これでも僕は君が知っているネイほどの力はあるからね。なんなら、何万回も世界を繰り返したせいで、精神力はずば抜けて高いよ。これでも不安かい?」
「……いえ、そういうわけじゃないわ。ただーー」
私は知っている。先の未来で、彼とネイが結ばれることを。そして、結ばれた2人がいたからこそ、数々の戦いを突破できたのだということを。
そんな、大事な歴史を私1人のワガママで潰してしまってもいいのだろうか。やはり、私は死ぬべき存在なんじゃないだろうか。
「……いえ、分からないわ」
ラナ「だろうね。僕にとっても未知の世界だ。ネイが生まれない世界。僕という代役はあるが、それでも苦しい戦いが続くことは必至だろう。でも、違う可能性を辿らなければ辿り着けない未来がある。だから、君は安心してこの世界を生きると良い。僕は暫し、書庫に戻るとするよ」
そう言って、ラナは唐突に消えた。代わりに、私の目の前にあったのは、明かりの消えたグランメモリーズのギルドハウスだった。
「……仲直り……そういう表現でいいのかは分からないけど、とりあえず、蟠りは解けってことかしら」
明かりは付いていなくとも、中に何人かいるのは分かる。扉の取っ手に手をかけるが、その瞬間に手が震え出す。
必死に抑えようとするけども、そうすればするほど手の震えが増していく。
「本当、ろくでもない未来だわ」
ただ居場所が欲しいだけなのに、なぜこんなにも怖がらなければならないのだろうか。
ラナ、どうせなら扉だけでも開けていってよ。
カタカタと震えながらも、まるで重たいものでも押し開けるかのようにして、両手で扉を開く。どんな罵倒を浴びせられるのか、そう身構えていたのに、私の身には何も起きなかった。
そう、誰も私を歓迎してくれはしない。鋭く月夜に光る剣先が、私の鼻っ面に当たるだけ。
「……フウロ……ね。流石、ギルドの番人だわ」
フウロ「色々と聞きたいことがある。このまま拘束させてもらうぞ」
後ろの方にはグリードとヴェルドの2人が縄を持って構えている。その更に奥は暗がりで何も見えないが、少なくとも人はいない。そう、ここに彼はいない。
「……残念だけど、大人しく捕まってやる義理はないわ」
フウロ「ほう。これだけの面子を相手にしても余裕でいられるか」
「ええ余裕ね。あなた達がいくら束になろうとも私には勝てない。絶対的な自信がある。だってあなた達、傍から見ても雑魚なんだから」
ヴェルド「んだと!」
フウロ「待て、ヴェルド」
1歩踏み出しかけたヴェルドを、フウロが右目で制す。
「で、どうする?このまま私に挑んで負ける?それとも、私を放し飼いにする?いえ、放し飼いって表現も変ね」
フウロ「何が言いたい?」
「ーー私、彼……ヴァル以外に話すつもりはないから。彼が戻ってくるまでの間、自由にさせてもらうわ」
「俺がどうかしたか」
突然、背後から声がした。警戒はしていたはずなのに、まるで突然そこに転移してきたかのように気配が突然現れた。
「っ……」
ヴァル「何でか知らねぇけど、俺になら話すって言ってんだろ?なら、しばらく2人にしてくれ。大丈夫、死にはしねぇよ」
ヴェルド「お前、それ死ぬ奴のセリフだからな」
ヴァル「散々フラグ立てるグリードが今の今まで生きてんだ。大丈夫だ」
グリード「おいそれどういう意味だァ」
ヴァル「そのまんまの意味だよ。ーーんじゃ、行くか」
ヴァルが去っていく音がする。私がああ言った手前、ついて行かなきゃいけないのだけど、足が動かない。それに、振り向くことすら出来ない。
ヴァル「どうした?ヒカリ。話すことがあるんじゃねぇのか」
「っ……ねぇ、覚えてる?」
もし、あの時別の選択をしていれば、もしあの時、1歩勇気を踏み出していたら。そんな、後悔する時が人生には幾度となく訪れる。僕たちの未来も、その1つ1つの選択肢を変えていれば別の結末を迎えることが出来ただろう。
さて、これからお話するのは後悔したくないからこそ生まれた別の物語。あの時死ぬはずだった彼女が生きていれば、世界はどうなっていたのだろうか。理想の未来は描けたのだろうか。どうなるのかは僕にも分からない。でも、これが僕に出来る最後の手段になるだろう。
さあ、未来を掴む時だ。グランストリアVeritas。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私は裏切り者。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私は悪魔の子。
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幸せになることなんか許されない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
幸せになっちゃいけない子。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
でも、
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私にだって、自分の道を選ぶ権利くらいはある。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
水界暦1145年6月7日ーー
ヴァル「炎龍の鉄砕!」
ゴードの拳がフウロに振り落とされる直前、ヴァルがゴードの頭に一撃を加えた。
「ヴァル!」
ヴァル「お前らにこの世界を好きにはさせねえよ!」
ヴァルがゴードの頭の上で、ゴード達に向かって睨みを利かせている。なんとか体勢を立て直すことは出来たか……いや、まだ私達が不利だ。
ライガ「クソ、ガキ共が......」
ライガがヴァルに向かって突進をする。そして、ヴァルはそれを軽々と避ける。
ヴァル「今朝の様にはいかねえよ!」
ヴァルは通り過ぎていったライガに素早く飛びつき、強い一撃を御見舞した。
ゴード「中々やるようですね......」
ゴードが頭を押さえながら体勢を整える。
「全く......こんな奴ら相手にどれだけ時間がかかっているのよ」
ちょっとずつ押し返していると、不意に後ろの方から声が聞こえた。
「ヒカリん......」
フウロ「無事だったのか?」
ヒカリが銃と分厚い本を手に持ち、睨むようにゴード達を見つめている。
ヒカリ「こんな奴らさっさと倒しちゃいなさい」
そう言うとヒカリはコートから銃の引き金に指をかけ、ゴード達にその銃口を向ける。
ヴァル「よっしゃぁ!ここからは俺たちのターンだ!」
ヴァルがゴードに向かって突進攻撃をしようとした、その時ーー
ヒカリ「そうなると......良いわね」
ヒカリがサッと銃口の向きを変え、ヴァルの方に向けて引き金を引いた。それを、ヴァルは咄嗟の勘で左に避ける。
ヴァル「......どういうつもりだ?」
私達が一斉にヒカリの方を見ると、ヒカリはしっかりとした敵意を持って私達を睨んでいた。いや、どこか悲しげな目だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
あの時、別の選択をしていたら。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私だって本当は分かっていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
分かっていたし、答えもあった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
けれど、私は敵対する道を選んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
でも、まだ間に合うのかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
まだ、みんなと一緒にいられるのかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
答えは何も分からない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
けれど、自分の道は自分で決められる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私は未来を知っている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私はーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っ……こんな未来……捨ててやる!」
手に持っていた本を両手で引き裂き、地面に叩きつける。そして、銃を捨てて手のひらに魔法陣を描いてゴード達に突っ込む。
ゴード「ご苦労様です。ヒカリさーー」
「残念。私、もうあんた達に構ってやらないから」
ゴードのゴツゴツとした顔に手を当て、とびきりの爆煙を浴びさせてサッと身を引く。手のひらに残る熱い感触。私が初めて味方を裏切った……いえ、裏切りなら少し前にもした。そして、私はそれを後悔した。
心に残したくない後悔。未来を知っているからこそ、ここでしたくない後悔を振り払う。
ライガ「ヒカリ!何してやがる!」
ライガが一瞬攻撃するかどうかを躊躇い、それでもと迷いを払うように顔を振って突撃してきた。
ーーその一瞬の遅れが、命取りだ。
「エンドカラー」
迫り来るライガの額に、銃のような形にした手の指先を当てる。ライガの動きが一瞬止まり、その後白い光を輝かせて爆散した。
「……」
ゴード「ーーヒカリさん。どういうつもりですか」
「……いえ。何でもないわ」
しばらくゴードと睨み合った後、私は誰も巻き込まないようエンドカラーを放ち、そっとこの場から離れた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
これで……良かったのかな。
暗い夜道。行く宛てもなく、1人の少女がひっそりと路地で体を縮ませている。
「やっぱり、人付き合いは苦手だ……」
裏切りに裏切りを重ね、味方は誰もいなくなった。いえ、味方なんてものは最初からいなかった。全員、互いに互いを利用し合うだけの関係で、死にさえしなければ基本は自由な集まりだった。
ギルドの連中だってそう。みんなバカで、うるさくて、喧嘩ばっかなのに、そのくせいざという時は団結して戦って……
「バッカみたい……」
この体勢でいるのもキツくなって、少し伸びをする。そして、路地から離れ、街灯を頼りにブラブラと歩く。
「ヴァルは、やっぱり何も覚えてなかった……。最初から、何も」
あの書庫で交した2度目の約束。でも、やっぱり彼は覚えていない。当たり前だ。あの時の彼は未来人。思い出してくれるとしたら、もっと先の未来なのだから。
適当に歩き、少し疲れたら人気のないところで子供みたいに体を縮ませる。どこへ行きたいのかも分からず、何をしたいのかも分からず、ただ適当に歩いている。きっと、今のこの街の状況下なら、ギルドに行けば彼がいるだろう。そして、彼はきっと許してくれる。彼はバカみたいに優しいから。でも、他はどうだろうか?
「……怖い……な」
他人から虐げられることに慣れてはいても、自らその場に飛び込むなんて愚かなことはしたくない。
……分からない。
……本当に何をすればいいのか分からない。
何であの時、たった1発と言えどヴァルに弾丸を放ってしまったのだろうか。あんな事してなければ、私はしれっとみんなのところにいられたかもしれないのに。
「子猫ちゃんがこんな夜中に1人で遊び歩いているとは、獣共に見つかったら強姦ものだよ?」
「っ……!」
不意に頭上から聞こえた声に、私はコートの中から銃を引き抜こうとした。けど、そこにあるはずのものが無かった。
「君が今欲してるのはこれかな?子猫ちゃん」
ーーと、自らの額に銃口を当てられる。
「……ラナ」
ラナ「ピンポン、正解だ」
見た目は本で読んだものと大分違うが、その雰囲気はラナそのものだった。
「……何であんたがここにいるのよ。あんたは確かーー」
ラナ「うん。僕は本来君の中にいて、君が記憶を失ったタイミングで現れるはずの生き物さ」
「……」
何を企んでいるのかよく分からない。これも、私が未来を変えてしまった弊害なのだろうか?いやーー
「そういや、あんた。しれっとギルドの一員としていたような……」
記憶があやふやではあるが、私が書庫から戻ってきたタイミングで、ラナと名乗る人物は既にギルドにいた。あまり目立つような人ではなかったが、確かにそこにいた。
ラナ「順を追って説明しよう」
「……」
ラナ「まず君が書庫から戻ってきたこの世界。君がそうしたように、この世界は正史を辿っていない。まあ、正史と呼べるものはとうの昔にごっちゃごちゃにはなっているけどもね。で、僕は10年ほど前からグランメモリーズに所属している。歴史の見方を変えたということさ」
「……私に憑いて、ネイを強化させる方が良かったんじゃないの」
ラナ「確かに前回はそれをやった。でもね、それだけじゃ足りなかった」
「足りなかった?」
ラナ「うん」
ラナが私の額から銃口を離し、そのまま投げ捨てるように私に銃を返した。そして、どこへ向かうのか、適当に歩き出した。
話は歩きながらってことか。
ラナ「前回の周。君は最終決戦に向かう前に死に、その影響でネイも生き残れなかった。そして、英雄となった彼が世界の扉を焼き付くし、物語はそこで終焉を迎えた」
「失敗したってことかしら」
あれだけ用意周到にやって来たと認識してたのに、それでも失敗するなんて、本当、無能にも程があるわ。ーーまあ、それは私の責任なのでしょうけど。
ラナ「僕は、形式的には未来を迎えた世界を捨て、再び過去へと戻ってきた。といっても、ただ戻るだけでは同じことの繰り返しだ。だから、僕は君という存在が生まれた時間軸に飛んできた」
「それはつまり、未来を知った私がいる世界線ってことかしら」
ラナ「ああそうだ。未来を知る君。その君が取る選択肢ならば、絶望の未来を塗り替えられる。僕は最後の仮説としてそれを選んだ。そして、見事に君は別の未来を歩み出している。実に興味深いよ」
「……」
でも、私がこのまま変わった未来を辿ったら……
ラナ「ネイが生まれなくなる。そう思っているのだろう?」
「っ……!」
ラナ「安心したまえ。そのために僕がこうしてギルドの一員としているのさ。能力的には前回のネイに劣るが、これでも僕は君が知っているネイほどの力はあるからね。なんなら、何万回も世界を繰り返したせいで、精神力はずば抜けて高いよ。これでも不安かい?」
「……いえ、そういうわけじゃないわ。ただーー」
私は知っている。先の未来で、彼とネイが結ばれることを。そして、結ばれた2人がいたからこそ、数々の戦いを突破できたのだということを。
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「……いえ、分からないわ」
ラナ「だろうね。僕にとっても未知の世界だ。ネイが生まれない世界。僕という代役はあるが、それでも苦しい戦いが続くことは必至だろう。でも、違う可能性を辿らなければ辿り着けない未来がある。だから、君は安心してこの世界を生きると良い。僕は暫し、書庫に戻るとするよ」
そう言って、ラナは唐突に消えた。代わりに、私の目の前にあったのは、明かりの消えたグランメモリーズのギルドハウスだった。
「……仲直り……そういう表現でいいのかは分からないけど、とりあえず、蟠りは解けってことかしら」
明かりは付いていなくとも、中に何人かいるのは分かる。扉の取っ手に手をかけるが、その瞬間に手が震え出す。
必死に抑えようとするけども、そうすればするほど手の震えが増していく。
「本当、ろくでもない未来だわ」
ただ居場所が欲しいだけなのに、なぜこんなにも怖がらなければならないのだろうか。
ラナ、どうせなら扉だけでも開けていってよ。
カタカタと震えながらも、まるで重たいものでも押し開けるかのようにして、両手で扉を開く。どんな罵倒を浴びせられるのか、そう身構えていたのに、私の身には何も起きなかった。
そう、誰も私を歓迎してくれはしない。鋭く月夜に光る剣先が、私の鼻っ面に当たるだけ。
「……フウロ……ね。流石、ギルドの番人だわ」
フウロ「色々と聞きたいことがある。このまま拘束させてもらうぞ」
後ろの方にはグリードとヴェルドの2人が縄を持って構えている。その更に奥は暗がりで何も見えないが、少なくとも人はいない。そう、ここに彼はいない。
「……残念だけど、大人しく捕まってやる義理はないわ」
フウロ「ほう。これだけの面子を相手にしても余裕でいられるか」
「ええ余裕ね。あなた達がいくら束になろうとも私には勝てない。絶対的な自信がある。だってあなた達、傍から見ても雑魚なんだから」
ヴェルド「んだと!」
フウロ「待て、ヴェルド」
1歩踏み出しかけたヴェルドを、フウロが右目で制す。
「で、どうする?このまま私に挑んで負ける?それとも、私を放し飼いにする?いえ、放し飼いって表現も変ね」
フウロ「何が言いたい?」
「ーー私、彼……ヴァル以外に話すつもりはないから。彼が戻ってくるまでの間、自由にさせてもらうわ」
「俺がどうかしたか」
突然、背後から声がした。警戒はしていたはずなのに、まるで突然そこに転移してきたかのように気配が突然現れた。
「っ……」
ヴァル「何でか知らねぇけど、俺になら話すって言ってんだろ?なら、しばらく2人にしてくれ。大丈夫、死にはしねぇよ」
ヴェルド「お前、それ死ぬ奴のセリフだからな」
ヴァル「散々フラグ立てるグリードが今の今まで生きてんだ。大丈夫だ」
グリード「おいそれどういう意味だァ」
ヴァル「そのまんまの意味だよ。ーーんじゃ、行くか」
ヴァルが去っていく音がする。私がああ言った手前、ついて行かなきゃいけないのだけど、足が動かない。それに、振り向くことすら出来ない。
ヴァル「どうした?ヒカリ。話すことがあるんじゃねぇのか」
「っ……ねぇ、覚えてる?」
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深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
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