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Veritas1章 【運命の少女】
Veritas1章6 【変わる運命】
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運命の流れとは実に奇怪なもの。
同じことを繰り返しても同じ結果になるとは限らず、またその逆も然り。違うことをやっても同じ結果に結び付く。
僕は運命が嫌いだ。自分の思った通りに変わってくれない。同じことをしてくれない。まるで、僕に対して嫌がらせを働いてるかのようだ。でもーー
「今、この瞬間。運命は変わったと思うよ」
1人の少年と1人の少女が"出会った"物語。変わらないままの運命を変える存在へと成り得た瞬間。今、この瞬間におめでとうと言っておこうか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「やっと気付いたか。でも、もう遅いよ、運命の番人達」
ヒカリが死亡するはずだった未来が変わった。ヴァルの叫びが彼女に届いた。彼の拳が彼女を受け止めた。
その様を見て僕は不覚にもニヤリと笑ってしまう。あれだけ邪魔をしてくれた運命に一矢報いることが出来たのだ。
ラース「なんだと……!?」
流石の事態にラースも唖然としている。
「ここまで来たらもう用はないね」
刀を振り回し、煙の中に亀裂を作って脱出する。そしてすぐさまラースの首元を狙って刀を振り落とそうとするがーー
「ちっ、予定調和に無いことでも君達は邪魔をするというのか」
ラースを守るようにして煙が集結する。そしてヒカリを連れ去った時のように煙が大きな渦を作り出し、ラースをどこかへと連れ去っていってしまった。
「何が起きているのか分からないから、君達はとりあえずの決着を見送った。そういうことか」
本来ならここで倒されていたはずのラース。彼を生き延びさせたのは煙達にとっても本望ではないだろう。それでもラースを生き延びさせる未来を選んだということは、まあ、考え直す時間が欲しかっただけか。
僕もヒカリが生き延びることによって変わる未来に予測が付けられない。お互い、痛み分けという形にするのが最善だね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
ヴァル「……」
ラナ「君達、いつまでそうしてるつもりだい?お手手を繋いでてもラースは勝手にやられてくれないよ」
「うるさいわね、分かってるわよそんなこと」
1日過ぎ、ここはギルドの救護室。真っ白な壁があるだけの退屈な空間。そこで私はヴァル、ラナ、テミの3人とだけ話をしていた。
本当ならみんなとも話をしなきゃいけないんだろうけど、今はなんとなく合わせる顔がない。
ラナ「体に異常はない……と言えば安心してくれるかな」
「変に引っかかる言い方ね」
ヴァル「異常ありってことか?」
ラナ「ああ。メモリ6本。本来、人体には挿すことが出来ないものを取り込んでいる。人格を保てている方が不思議だ。ヒカリ、君になら分かるだろうがーー」
「ええ、言わなくても分かるわ」
本来の歴史なら、私は6本のメモリで人格が一時的に壊れていた。そしてヴァル達を傷付け、その過程で兄が仲間になっていた。でも、この世界は少し違う。
私は人格崩壊を起こしていない。更にを言えば、体に不調もない。でも、ラナが言うにはメモリ6本が体内に存在しているのは確か。
「何か、別の異常が起きている?」
アルテミス「……?」
ラナ「別の異常……。考えられる可能性としては……いや、まさかね」
ヴァル「何かあんのか?」
ラナ「いや、これはあくまで可能性だが、もしかしたらメモリが彼女の体内で親和性を高めている可能性がある。もしかすると、彼女は素の状態で超人になるかもねぇ」
変な言い方をするわね。
体内にある6本のメモリ。フレイム、エレキ、ウォーター、トルネード、ブリザード、シャイン。ダークとクリスタルはクロムさんの城に置き忘れてしまったけど、まさか全部を揃えたら例のアレが出来るとか言わないでしょうね。
……いや、でも可能性はある。あのメモリだってネイが親和性を高めていたが故に出来た代物。ならば、今の私でも作れるのではなかろうか?
「……ラナ、クロムさんの城にダークとクリスタルのメモリがある。それを回収してきてくれないかしら」
ラナ「もしや、作る気なのかい?」
「ええ、対ラース用の最終兵器。今作ったって問題ないでしょ」
ラナ「……分かったよ。君に賭けてみよう」
そう言って、ラナは転移で姿を消した。
アルテミス「何が何だか知んないけど、とりあえずラクは無事ってことでみんなに報告してくるね」
そう言って、なぜかテミも慌てるようにして部屋を出ていった。
ヴァル「……よく話が見えねぇんだが、つかなんでラナがメモリについて詳しいんだよ。あいつも敵側なのか?」
「いいえ、ラナは間違いなく味方よ。少しウザイけど」
ヴァル「そうか……」
「……」
今、この部屋にいるのは私とヴァルだけ。恐らく、テミは気を使ってくれたのだろうか。全く、余計なお世話だっつぅの。でもーー
「……好きな人と一緒にいられるのなら」
ヴァル「なんか言ったか?」
「ううん。何でもない。ねぇ、ヴァル。覚えてる?」
ヴァル「何をだ?」
「……」
そう、やっぱり覚えてないんだ……。
寂しいな。自分だけが覚えてる記憶だなんて……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロムの城に無断で侵入し、暗証番号は誕生日の数字である金庫を普通に空け、そこから2本のメモリを取り出す。
「……持って行くべきなのだろうか」
ここまで来て少し躊躇う。ワールドメモリーズは確かに強力だ。使いこなせるようになればステラでさえ倒すことが出来る。しかしーー
「使いこなすためには心理状態に迷いが生じていてはならない。今のヒカリにはまだ無理だろう。だが、なぜか彼女はその運命すら変えてしまいそうな気がするねぇ」
運命の流れを変えるのは良いが、歴史を巻でやるのはどうなんだろうか?先の未来をより複雑にしてしまわないのだろうか?
幾万と歴史を見届けてきた者として、僅かではあるが考えなくてはならない可能性に頭を悩ませる。
「……いけないね。この物語の主人公は僕ではないというのに」
最終的に決めるのはヒカリだ。僕があれこれ悩む必要はない。そう……頭では理解してるんだけどねぇ。
「やはり、僕もまだ甘いということかな」
ヴァルとヒカリ。これまでの運命には無かった組み合わせ。ヒカリはネイと違ってありとあらゆるものに抗う術を持たない。精々頭の良さを活かして上手く立ち回るだけだ。だから、もしかしたら勝てない戦いが発生してくるかもしれない。
例えばそう、王都での対ドラゴン戦とか……。
「……」
「なぁにを悩んでんのか知らねぇが、俺の出番はまだかよ」
「……ずっと、誰かにつけられてるような気がしたが、まさか君とはね」
ゆっくりと後ろを振り返る。そこに波の人間なら一瞬で殺される指が置かれていても、僕には関係のない話だ。
「残念だが、ちょっと事情が変わってる。君の出番は無さそうだよ。エンマ」
エンマ「姿がちょっと違ぇなって思ったけど、あんたで間違いねぇんだな」
「……ああそうか。今は猿人だったね」
頭を撫でるように手を回し、僕は本来の姿へと戻った。
誰の目から見ても嫌悪感しか湧かない龍の角、長いスカートからでもはみ出して見える大きな尻尾。翼に関しては元から畳んでいたので特に変わりはない。
エンマ「お前さんに依頼されたやつだが、ありゃどうなってんだ?なんで死んでねぇんだよ、あいつ」
エンマが壁にもたれ掛かり、睨むようにして僕に問いかけてきた。君の依頼人は、正しくは僕じゃないんだけどね。
「事情が変わったんだ。ヒカリは生き残ることになった。君がわざわざネイの強化を手助けする必要は無くなったんだよ」
エンマ「ちぇっ、面白くねぇなぁ」
「まあそう言わないでくれ。……で、君がここに現れた理由。ただそれを確認しに来ただけじゃないんだろう?」
エンマ「ーーよく分かってんじゃねぇか」
目元を隠しながらもハッキリと見える不気味な笑み。何を企んでいるのか知らないが、多分彼のことだからよからぬ事ではないことは確かだ。
まさか、デストラクションのメモリを寄越せとか言わないだろうねぇ……。
エンマ「あの女が何かしたのが原因だってのは分かってんだが、ちょっとした問題が精霊界に起きてな」
「……精霊界」
エンマ「黒い煙みてぇな奴ら。精霊王が言うには運命の抗体『ヴェリア』って言うらしいが、そいつらが暴れ出している。多分、お前さんらも接触しただろ?」
なるほど。あれは精霊だったのか。通りで攻撃が効かないはずだ。エンマのような上位精霊は少し話が変わるが、普通の精霊は僕達と生きている軸が違う。どちらかに干渉する力が無ければ触れることが叶わない。そのヴェリアとやらは、多分何らかの方法で軸の切り替えが出来るのだろうね。厄介な相手だ……。
「……ヴェリアか。奴らが現れた原因、それは分かっているのかい?」
エンマ「先に言っただろ。あの女が原因だって」
「彼女か……」
ヒカリが大きく運命を変えてしまったから現れたということなのか。いや、だとしたら、なぜ今になって現れた?
僕だってヒカリ同様運命を大きく変える存在だ。ならば、僕が現れた時点でヴェリアが現れたってなんの不思議もない話だ。なぜ、ヒカリの行動が"変わったこと"でなんだ?
「……分からないね。なぜ彼女なんだ」
エンマ「さあな。俺には分からねぇし、精霊王にすら分からねぇ。だが、あれが現れてるってことは世界が上手く行ってねぇってことなんだよ」
「……だろうね」
エンマ「……俺は面白ぇ事にしか基本取り合わねぇ。だが、面白くねぇ状況がずっと続くってんなら、例え面白くねぇ仕事だとしても俺はそっちを取るぜ」
……なるほど。
「ヒカリを殺す。いや、ヒカリの記憶を奪う。君はそうするつもりだね」
エンマ「ああ。殺しちまったらそれはそれで問題が起きそうな気がするからな。まあ、記憶を奪うタイミングはこっちで考えとくぜ」
そう言い、エンマは壁の中に溶け込むようにして消えて行った。
「……冗談じゃないね」
折角最後の可能性が動き出したんだ。例え相手が精霊だろうが邪魔をされては困る。
「ゼラ。君は僕の味方でいてくれると助かるね」
赤色のペンダントを握り締め、僕も人が来る前にとこの城を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……っはぁ……っはぁ」
クソっ、ミラーもビズも死んでしまったか……。オマケに、最悪殺すことを視野に入れていたヒカリをみすみす奴らの手に渡らせてしまった……。
もしかしたらあの場で死んでいたかもしれない。初めて感じた死の"恐怖"。何かの力で生き残れはしたものの、しばらくは戦えそうにない。
「っ……なぜ、裏切った……ヒカリ……!」
彼女は部下達の中でも取り分け頭のいい子で、情に流されず、ただ任務を淡々とこなす優れた部下だった。なのに、この世界に降り立ってからというもの、どうにも調子が悪そうだった。
「あの男……確かヴァルとか言ったか……」
赤髪の龍殺し。奴がヒカリに何かをした。……いや、そんな洗脳とかを働く奴には見えなかった。むしろ、あの魔導士共の中では頭の悪い部類にあるとさえ見えた。
なぜ?なぜなんだ?奴に何がある?
「……っクソ……」
頭がいつものように回らない。メモリを酷使しすぎた反動が来ている。右の拳に握り締めたメモリは、この下水道のように、茶色く内側のパーツをはみ出させている。次の使用が最後になるかもしれん。
「……まあいい。我が夢が叶わなくとも、最後に一矢、奴ら……いや、彼奴に報いてやろう」
同じことを繰り返しても同じ結果になるとは限らず、またその逆も然り。違うことをやっても同じ結果に結び付く。
僕は運命が嫌いだ。自分の思った通りに変わってくれない。同じことをしてくれない。まるで、僕に対して嫌がらせを働いてるかのようだ。でもーー
「今、この瞬間。運命は変わったと思うよ」
1人の少年と1人の少女が"出会った"物語。変わらないままの運命を変える存在へと成り得た瞬間。今、この瞬間におめでとうと言っておこうか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「やっと気付いたか。でも、もう遅いよ、運命の番人達」
ヒカリが死亡するはずだった未来が変わった。ヴァルの叫びが彼女に届いた。彼の拳が彼女を受け止めた。
その様を見て僕は不覚にもニヤリと笑ってしまう。あれだけ邪魔をしてくれた運命に一矢報いることが出来たのだ。
ラース「なんだと……!?」
流石の事態にラースも唖然としている。
「ここまで来たらもう用はないね」
刀を振り回し、煙の中に亀裂を作って脱出する。そしてすぐさまラースの首元を狙って刀を振り落とそうとするがーー
「ちっ、予定調和に無いことでも君達は邪魔をするというのか」
ラースを守るようにして煙が集結する。そしてヒカリを連れ去った時のように煙が大きな渦を作り出し、ラースをどこかへと連れ去っていってしまった。
「何が起きているのか分からないから、君達はとりあえずの決着を見送った。そういうことか」
本来ならここで倒されていたはずのラース。彼を生き延びさせたのは煙達にとっても本望ではないだろう。それでもラースを生き延びさせる未来を選んだということは、まあ、考え直す時間が欲しかっただけか。
僕もヒカリが生き延びることによって変わる未来に予測が付けられない。お互い、痛み分けという形にするのが最善だね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
ヴァル「……」
ラナ「君達、いつまでそうしてるつもりだい?お手手を繋いでてもラースは勝手にやられてくれないよ」
「うるさいわね、分かってるわよそんなこと」
1日過ぎ、ここはギルドの救護室。真っ白な壁があるだけの退屈な空間。そこで私はヴァル、ラナ、テミの3人とだけ話をしていた。
本当ならみんなとも話をしなきゃいけないんだろうけど、今はなんとなく合わせる顔がない。
ラナ「体に異常はない……と言えば安心してくれるかな」
「変に引っかかる言い方ね」
ヴァル「異常ありってことか?」
ラナ「ああ。メモリ6本。本来、人体には挿すことが出来ないものを取り込んでいる。人格を保てている方が不思議だ。ヒカリ、君になら分かるだろうがーー」
「ええ、言わなくても分かるわ」
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私は人格崩壊を起こしていない。更にを言えば、体に不調もない。でも、ラナが言うにはメモリ6本が体内に存在しているのは確か。
「何か、別の異常が起きている?」
アルテミス「……?」
ラナ「別の異常……。考えられる可能性としては……いや、まさかね」
ヴァル「何かあんのか?」
ラナ「いや、これはあくまで可能性だが、もしかしたらメモリが彼女の体内で親和性を高めている可能性がある。もしかすると、彼女は素の状態で超人になるかもねぇ」
変な言い方をするわね。
体内にある6本のメモリ。フレイム、エレキ、ウォーター、トルネード、ブリザード、シャイン。ダークとクリスタルはクロムさんの城に置き忘れてしまったけど、まさか全部を揃えたら例のアレが出来るとか言わないでしょうね。
……いや、でも可能性はある。あのメモリだってネイが親和性を高めていたが故に出来た代物。ならば、今の私でも作れるのではなかろうか?
「……ラナ、クロムさんの城にダークとクリスタルのメモリがある。それを回収してきてくれないかしら」
ラナ「もしや、作る気なのかい?」
「ええ、対ラース用の最終兵器。今作ったって問題ないでしょ」
ラナ「……分かったよ。君に賭けてみよう」
そう言って、ラナは転移で姿を消した。
アルテミス「何が何だか知んないけど、とりあえずラクは無事ってことでみんなに報告してくるね」
そう言って、なぜかテミも慌てるようにして部屋を出ていった。
ヴァル「……よく話が見えねぇんだが、つかなんでラナがメモリについて詳しいんだよ。あいつも敵側なのか?」
「いいえ、ラナは間違いなく味方よ。少しウザイけど」
ヴァル「そうか……」
「……」
今、この部屋にいるのは私とヴァルだけ。恐らく、テミは気を使ってくれたのだろうか。全く、余計なお世話だっつぅの。でもーー
「……好きな人と一緒にいられるのなら」
ヴァル「なんか言ったか?」
「ううん。何でもない。ねぇ、ヴァル。覚えてる?」
ヴァル「何をだ?」
「……」
そう、やっぱり覚えてないんだ……。
寂しいな。自分だけが覚えてる記憶だなんて……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロムの城に無断で侵入し、暗証番号は誕生日の数字である金庫を普通に空け、そこから2本のメモリを取り出す。
「……持って行くべきなのだろうか」
ここまで来て少し躊躇う。ワールドメモリーズは確かに強力だ。使いこなせるようになればステラでさえ倒すことが出来る。しかしーー
「使いこなすためには心理状態に迷いが生じていてはならない。今のヒカリにはまだ無理だろう。だが、なぜか彼女はその運命すら変えてしまいそうな気がするねぇ」
運命の流れを変えるのは良いが、歴史を巻でやるのはどうなんだろうか?先の未来をより複雑にしてしまわないのだろうか?
幾万と歴史を見届けてきた者として、僅かではあるが考えなくてはならない可能性に頭を悩ませる。
「……いけないね。この物語の主人公は僕ではないというのに」
最終的に決めるのはヒカリだ。僕があれこれ悩む必要はない。そう……頭では理解してるんだけどねぇ。
「やはり、僕もまだ甘いということかな」
ヴァルとヒカリ。これまでの運命には無かった組み合わせ。ヒカリはネイと違ってありとあらゆるものに抗う術を持たない。精々頭の良さを活かして上手く立ち回るだけだ。だから、もしかしたら勝てない戦いが発生してくるかもしれない。
例えばそう、王都での対ドラゴン戦とか……。
「……」
「なぁにを悩んでんのか知らねぇが、俺の出番はまだかよ」
「……ずっと、誰かにつけられてるような気がしたが、まさか君とはね」
ゆっくりと後ろを振り返る。そこに波の人間なら一瞬で殺される指が置かれていても、僕には関係のない話だ。
「残念だが、ちょっと事情が変わってる。君の出番は無さそうだよ。エンマ」
エンマ「姿がちょっと違ぇなって思ったけど、あんたで間違いねぇんだな」
「……ああそうか。今は猿人だったね」
頭を撫でるように手を回し、僕は本来の姿へと戻った。
誰の目から見ても嫌悪感しか湧かない龍の角、長いスカートからでもはみ出して見える大きな尻尾。翼に関しては元から畳んでいたので特に変わりはない。
エンマ「お前さんに依頼されたやつだが、ありゃどうなってんだ?なんで死んでねぇんだよ、あいつ」
エンマが壁にもたれ掛かり、睨むようにして僕に問いかけてきた。君の依頼人は、正しくは僕じゃないんだけどね。
「事情が変わったんだ。ヒカリは生き残ることになった。君がわざわざネイの強化を手助けする必要は無くなったんだよ」
エンマ「ちぇっ、面白くねぇなぁ」
「まあそう言わないでくれ。……で、君がここに現れた理由。ただそれを確認しに来ただけじゃないんだろう?」
エンマ「ーーよく分かってんじゃねぇか」
目元を隠しながらもハッキリと見える不気味な笑み。何を企んでいるのか知らないが、多分彼のことだからよからぬ事ではないことは確かだ。
まさか、デストラクションのメモリを寄越せとか言わないだろうねぇ……。
エンマ「あの女が何かしたのが原因だってのは分かってんだが、ちょっとした問題が精霊界に起きてな」
「……精霊界」
エンマ「黒い煙みてぇな奴ら。精霊王が言うには運命の抗体『ヴェリア』って言うらしいが、そいつらが暴れ出している。多分、お前さんらも接触しただろ?」
なるほど。あれは精霊だったのか。通りで攻撃が効かないはずだ。エンマのような上位精霊は少し話が変わるが、普通の精霊は僕達と生きている軸が違う。どちらかに干渉する力が無ければ触れることが叶わない。そのヴェリアとやらは、多分何らかの方法で軸の切り替えが出来るのだろうね。厄介な相手だ……。
「……ヴェリアか。奴らが現れた原因、それは分かっているのかい?」
エンマ「先に言っただろ。あの女が原因だって」
「彼女か……」
ヒカリが大きく運命を変えてしまったから現れたということなのか。いや、だとしたら、なぜ今になって現れた?
僕だってヒカリ同様運命を大きく変える存在だ。ならば、僕が現れた時点でヴェリアが現れたってなんの不思議もない話だ。なぜ、ヒカリの行動が"変わったこと"でなんだ?
「……分からないね。なぜ彼女なんだ」
エンマ「さあな。俺には分からねぇし、精霊王にすら分からねぇ。だが、あれが現れてるってことは世界が上手く行ってねぇってことなんだよ」
「……だろうね」
エンマ「……俺は面白ぇ事にしか基本取り合わねぇ。だが、面白くねぇ状況がずっと続くってんなら、例え面白くねぇ仕事だとしても俺はそっちを取るぜ」
……なるほど。
「ヒカリを殺す。いや、ヒカリの記憶を奪う。君はそうするつもりだね」
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そう言い、エンマは壁の中に溶け込むようにして消えて行った。
「……冗談じゃないね」
折角最後の可能性が動き出したんだ。例え相手が精霊だろうが邪魔をされては困る。
「ゼラ。君は僕の味方でいてくれると助かるね」
赤色のペンダントを握り締め、僕も人が来る前にとこの城を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……っはぁ……っはぁ」
クソっ、ミラーもビズも死んでしまったか……。オマケに、最悪殺すことを視野に入れていたヒカリをみすみす奴らの手に渡らせてしまった……。
もしかしたらあの場で死んでいたかもしれない。初めて感じた死の"恐怖"。何かの力で生き残れはしたものの、しばらくは戦えそうにない。
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「あの男……確かヴァルとか言ったか……」
赤髪の龍殺し。奴がヒカリに何かをした。……いや、そんな洗脳とかを働く奴には見えなかった。むしろ、あの魔導士共の中では頭の悪い部類にあるとさえ見えた。
なぜ?なぜなんだ?奴に何がある?
「……っクソ……」
頭がいつものように回らない。メモリを酷使しすぎた反動が来ている。右の拳に握り締めたメモリは、この下水道のように、茶色く内側のパーツをはみ出させている。次の使用が最後になるかもしれん。
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