グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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Veritas2章 【運命の欠落点】

Veritas2章5 【未来のお話】

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「……」

 下唇を軽く舐める。

「これも、ヴェリアのせいってことになるんですかね」

「……」

 まさか、復活して早々こんな奴がやって来るとは……

「何しに来たんですか。エレノアさん」

エレノア「……少し、ネイさんの様子を見にって言おうかとも思いましたけど、それだと嘘になりますね」

 七色に光る剣を持つ彼女は、不気味な笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。

「……」

エレノア「困りますよ、ネイさん。ちゃんと、私達の時代にいてくれないと」

「なるほど。そういうことでしたか」

 ある意味予想通り。

 彼女はエレノアであるが、この時代のエレノアではない。少し先の未来。いや、別の世界から私を引き戻すためにヴェリアが送ってきた刺客と言ったところか。

「あの世界には私がいます。ちゃんと幸せになってくれた私がいます。わざわざ連れ戻す必要なんてないでしょう?」

エレノア「……言い訳、でしたね。そうですね、あの世界にもネイさんはいる。幸せになったネイさんがいる。でも、ただいたらいいわけじゃないんですよ。何勝手に身代わりを置いてるんですか?」

 ヴェリアに操られている状態とは言えど、あの世界での彼女を見た後だから、剣を握る手に迷いが現れる。構えているはずなのに、イマイチ敵に剣先を向けられていない。覇気が足りない。

エレノア「ネイさん。この時代にあなたのような人がいるのは不都合が生じます。大人しく、私達の未来に帰ってください。これ以上、歴史を荒らす前に」

「……残念な話ですが、それは出来ない」

 勢いよく剣を蹴飛ばしてエレノアの顔面を狙う。一瞬エレノアが怯んだ隙に部屋を飛び出し、そのままの足で翼を広げて低空飛行を始める。

エレノア「やれやれ、乱暴ですね」

 エレノアが素早く後を追ってくる。みんながいるところで追いつかれてしまい、そのまま激しい戦闘に切り替わる。

ヴェルド「なんだなんだ!?」

 テーブルを派手にぶっ壊し、壁も打ち破るくらいの勢いで互いに飛び交う。

フウロ「エレノア!?」

エレノア「あの、私ここにいるんですけど」

セリカ「エレノアが2人……?」

 拳と剣を打ち合わせて、しばらく睨みあったところでみんなが私とエレノアの存在に気が付く。

エレノア「大人しく未来に帰りましょう。ネイさん」

「断る。妾は別の未来を見るために時間から切り離した存在じゃ!ヴェリアの思うようにはさせん!」

 姿を和装のヨミに変え、蹴飛ばした剣を転移で回収する。そして、そのまま夜月の剣も手に握り、万全の体勢を整える。

グリード「おめえらァ何喧嘩してんだァ!俺様も混ぜろやァ」

「寝ててください」

 酒に酔った空気の読めない人は寝かしつけ、その隙にと迫ってきていたエレノアの剣を両手で受け止める。

「っ……!」

 流石は七色の剣士。この妾が押されかけておるとはな……。

「流石にヨミの力だけではどうにもなりませんか……」

 別の力を解放しようとした瞬間、辺りに黒い煙が舞う。

「めんどくさいのが来たのう。じゃが、妾に此奴らの妨害は効かん」

 夜月の剣で煙を一刀両断。

エレノア「めんどうな力を持ってますね」

「一応時の創界神なんでな。こんな事態が発生することくらい予測済みじゃ。妾はラナよりも優秀なんでな」

 そのままエレノアに急接近し、七色に光る剣を折った。

エレノア「っ!?」

「五龍王継承」

 一旦エレノアから距離を取り、五つの魂を集約させて6色の光になる。

「容赦はせん。輝け、六王の光」

 エレノアに向けて、6体の龍王による攻撃を放つ。いくら七色の力を使おうと、所詮贋物は贋物に過ぎない。運命の矯正点だかなんだか知らんが、運命の欠落点に勝てると思うな。

「……っ!がっ!」

 エレノアの姿が煙になって消え、力を解いた瞬間に凄まじい反動が襲ってくる。

 やはり、まだ成長していないヒカリの体でここまで無茶をするべきではなかったか。暴走しなかっただけマシだが。

「……誰も、心配してはくれんのじゃな」

 背中にひしひしと感じる恐怖の念。右目を金色にしていなくても聞こえてくるような畏怖の声。

 剣を支えにして立ち上がり、ここにいるべきではないと、外に出ようとしてみる。でも、すぐに体の芯が崩れ、あっけなくその場に倒れてしまう。でも、完全に倒れてしまう前に、大きくて優しい腕が寸でのところで支えてくれる。

「やっぱり、お主は優しいのう」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァハト「むぅ……」

「すまんのう。また派手に壊してしまって……あ、この世界線じゃ壊すのは初めてか」

 すっかりと静まり返ってしまったギルド。昔から何1つ変わらない。それどころか、ヒカリちゃんが改装したあれよりも前の時間なので、より懐かしさが身に染み渡る。

ヴァハト「どう見ても2代目じゃ……」

ミラ「2代目?」

ヴァハト「歴代のギルドマスターの事じゃ。ネイと言ったか。お前さんのその格好、その顔、その龍の姿、2代目と合致する点しかない」

「そりゃそうでしょう。事実2代目なんですから」

ヴァル「……?未来人って言ってるのに、じっちゃんの言い方だと過去の人間みたいにならねぇか?それ」

ヴェルド「確かに……。いや、2代目マスターって龍人なのかよ!」

フウロ「今そこは関係ないぞ、ヴェルド」

 まあ、ちょっとした矛盾にはなりますよね。元々、前の世界では過去の人間として生きていたわけですし、それが正史になるはず。

ヴァル「なあ、ネイ。お前、何なんだ?つい体が勝手に動いちまったけど、お前、俺にとっての何なんだ?」

「……」

 寂しいな。あれだけのことを積み重ねたのに、その全てが失われてしまったような気分。別に奪われたわけでもないし、忘れられたわけでもない。なのに、そのどちらかをされたかのような気分になる。

「……信じますか。私の話を」

「「「 …… 」」」

 その質問にみんなが黙り込む。ここら辺は昔も未来も何も変わりませんね。

ヴァハト「……儂は信じよう。2代目の話を」

「……。分かりました。話します」

 しっかりと椅子に座り直し、私は1冊の本を召喚してから話を始めた。

「私にとっては過去の話。でも、皆さんにとっては未来のお話になります」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 前述の通り、私は未来から来た人間です。少しどころじゃないくらいにおかしな力を持っていますが、皆さんと同じ人間です。

 この世界は私が経験した世界とは違う物語を歩んでいます。私が歩んだ物語。それは、"絶望"と言わざるを得ない世界でした。

 数々の思い出を積み重ね、世界を、自分達の居場所を守るために戦った魔導士達。その多くは、最悪の敵を倒すことなく死んでいきました。ある者は最悪の邪龍に全滅まで追い込まれ、ある者は皇帝同士の戦いで敗れた。ある者は家族と共に戦いながらも、家族、親友、多くの者を失った。そして、ある者は自らの命を犠牲に、世界で1番愛した者に力を与えた。英雄と呼ばれた炎は、世界の厄災を全て焼き付くし、たった1人、死んでいった仲間達の死体の前で泣き叫んだ。そして、英雄王と崇められ、愛した女の子の死体を抱えて玉座に君臨した。

 玉座に座る彼は言った。俺はお前の笑顔がもう一度見たい。

 世界は悲しみの結末を迎えた。その結末を変えようと1人の男が奮闘した。しかし、英雄はその男が作り出した偽りの夢物語げんじつを認めなかった。誰もが幸せになれる世界を、英雄はその手で焼き尽くした。涙を枯らして。

 私はそんな未来からやって来た。

 悲しいままに終わってしまった未来を変えるために。いや、未来を変えることは出来ない。あれはもう確定した未来だから。でも、私はみんなが幸せになれる未来を見たかった。見たかったからーー

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「この時代にやって来た」

「「「 …… 」」」

「未来は確定してしまった。でも、それはあの世界での話。また別の物語、この世界でならその未来も変えられる。そう信じて、私はここにやって来た」

 そして、また同じ人間を愛するために来た。

「ここに来る過程……いえ、前の世界での最後の戦いで、私は魂の半分を失ってしまいました。体はヒカリちゃんのを使っているから存在することが出来ていますが、私単独でこの世界に存在することは出来ません。そのせいなのかは知りませんが、私は時々暴走します。魂の半分を埋めたくて、他人の血を求めるようになります。それでも、どうか私をここにいさせてください。2代目ギルドマスターとしてではなく、ネイという、1人の人間として」

「「「 …… 」」」

 ーーやっぱり、この話は今するべきではなかったかもしれない。前の世界みたいに、ちょっとずつみんなに馴染んでいってから話した方が良かったかもしれない。

 でも、みんなには伝わらなくても、彼だけには知ってほしかった。

ヴェルド「さっぱり話が見えねぇ……」

ライオス「同感だ」

「……」

 まあ、そりゃそうですよね。

セリカ「あのさ、もしかしてなんだけど、ネイりんが言ってた英雄って……」

 1人、セリカだけが何かを察したかのようにヴァルを見る。

ヴァル「……え?俺なの?」

 セリカの視線に気づいた彼は、自分に指さして「嘘だろ?」と言った顔で私の方を見てくる。

「……事実って、言ったらどう思いますか?」

ヴァル「……ぶっちゃけ、実感が湧かねぇ……。俺、そんなに覚悟があるような人間に見えるか?」

ヴェルド「確かに、お前は覚悟するよりも先に手を出すような奴だからな。人殺す時は俺に一言断れよ」

ヴァル「うるせぇ!殺すまでは殴らねぇよ!」

 ……何でしょうかね。確かに、殺しはダメなんですけど、先の未来を知ってるからなのか、ヴァルのこの発言に大きな違和感を感じてしまう。触れないようにはしてましたけど、普通に悪は殺してますからね。メモリ使いのカゲロウとか、出オチに見せかけて殺してますからね。

「……まあ、英雄の正体は彼で間違いありません。前の世界での厄災は、彼の炎が全て焼き払う形になりました」

ヴァル「マジなのかよ……」

セリカ「じゃあ、抱えていた女の子の死体って……」

「私です」

シアラ「あれ?それだと変な話になりませんか?」

ヴェルド「変?」

シアラ「だって、ネイさんは死んだってわけですよね。だったら、なんでその絶望の未来から来たって言うネイさんが私達の前にいるのでしょうか?」

ヴァル「どうなんだ?」

 ……これに関しては、未だに私もよく分かっていないからどう説明するべきか……。

「私もよく分かんないんですけど、多分、死んだように見せかけて魂の半分だけは体に残ってたんだと思います。前の世界で、偽りの夢物語げんじつを作り出した男の手によって、私の魂は一時的に活動可能になっていました。でも、半分だけの魂は自我を持つことが出来ないはずです。ここにいる私も、ヒカリちゃんという魂があるから動けているだけで、ヒカリちゃんがいなくなったら、多分私もいなくなります」

ヴァル「あ……?」

セリカ「何言ってるか分かんない……」

「私も分かっていない話なので、まあ、死んで生き返ったような存在って認知しといてください」

ヴァル「お、おう……」

 まあ、恐らくはあの男がしでかしたことが繋がってるんでしょうけど、何者だったんですかね?あの男。

「で、多分私が未来人ってのは何となくで理解してもらえたので話すんですけど……」

ヴェルド「これ以上まだ何かあんのかよ。正直、その龍人の顔見てるだけで腹立つから早くしてほしいんだけど」

「じゃあ、寝ててもらいましょう」

 指を軽く鳴らし、ヴェルドをその場に倒れこませた。

「大丈夫。1時間もすれば起きます」

「「「 …… 」」」

「一応未来人なんで、魔法の腕は皆さんを遥かに凌駕するってこと、覚えといてください」

 まあ、未来人は関係ないんですけどね。昔から私はこういう存在ですけど、神様とか言ってたら話が終わらない気がするんで黙っときましょう。

「で、続きなんですけど、多分そろそろやって来るんじゃないですかね?」

ヴァル「何が?」

「お、お前らァァ!」

「ほら来た」

 青髪筋肉質の聖王、いえ、この時代ではまだ王子様であるクロムが、従者のアランとフェリシアを連れて血塗れの姿でギルドに上がり込んできた。
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