グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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Maledictio4章 【物語の罰】

Maledictio4章5 【未来を変えるために】

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 さて、無事にみんなと共に戦う決意を固めたところで、次に決めるべき話題がある。それはーー

セリカ「戦うって言っても具体的にどうするの?」

 代表してるわけじゃないんだが、セリカがみんなが思っている言葉を口にする。

 確かにそうだ。戦う戦うとは言ってるが、具体的に何と戦えばいいのか。俺たちは何をしなくてはならないのか。一応大雑把な目標としてネイの奪還があるのだが、その為にどうすればいいのかを決めなくてはならない。

「まず一旦の目標としてネイと再会する必要がある。いくら緻密な計画書を用意されたところで、まだ分かんねぇ事だらけだし、あいつがいなくならなくてもいい方法がきっとあるはずなんだ。話し合うためにもまずはあいつを見つけ出す」

ヴェルド「いけ好かねぇ野郎だが、まあお前が余っ程信じてる相手ってんだから仕方ねぇか」

ライオス「しかし、あのヴェリアというものに拐われて以来行方が不明だ」

エレノア「単純に考えればヴェリアの本拠地?みたいなところにいると思うんですけど……」

レラ「そもそもどこから来てるのかも分かんない相手だしねぇ……」

 みんながうんうんと唸る。ヴェリアの正体が掴めない以上早速手詰まりとなってしまう辺り、本当に何も教えてねぇみたいだな。

「あいつが残していった本には、ヴェリアの正体も書かれてる。ヴェリアは滅んだ世界の残穢で出来た物らしくて、言うなれば世界そのもの。それがどういう訳か精霊界を通じてこっちの世界に干渉してきてるってのがヴェリアの正体らしい」

シアラ「世界そのもの?うん?」

ヴェルド「それ勝ち目なくねぇか?」

「まあな。残穢つっても、世界全体の残りカスなんだから普通の魔導士じゃ太刀打ち出来ない。けど、ネイならあいつが持ってる世界殺しワールドスレイヤーの力でぶった切ってるらしいんだ」

セリカ「……えーっと、ヴァルたちが持ってる龍殺しドラゴンスレイヤーの世界版?」

「概ねそんな感じだ」

サテラ「あ、なるほど!だからあの時ヴァルさんの魔法でヴェリアを燃やし尽くしたと!」

ヴェルド「何がなるほどなんだよ……」

サテラ「え、だって今の言い方的に、ヴァルさんもそのワールドスレイヤーとやらの力を持ってるんじゃないんですか!?」

ヴェルド「いや、ヴァルは……4年もあったらそんな力持ってるってか?」

「まあな。つっても、人からの貰いもんみてぇなもんだけど」

 これは推測でしかないが、恐らくネイが死ぬ直前、アヌを焼き払う為に俺にくれた力だと思ってる。実際どのタイミングでくれたのかについては本人に聞かなきゃ分からんが、多分タイミング的にはあの時で間違いない。

「現状あいつらを倒せるのは俺だけになってる。あとはアリスも小さい方だったら封印とかいうゴリ押しでやっちまうみてぇだけど、ちゃんと倒せるのは多分俺だけ」

ヴェルド「他に世界殺し持ちがいれば話が変わったんだろうな」

レラ「書き方的にそんなおっそろしい力持ってる人うじゃうじゃいてほしくないけどね」

ヴェルド「そりゃそうだ」

ライオス「そうなると、ヴェリアを倒そうにも戦力が足りなさすぎるな。ヴァルとアリスだけでは手が回り切らん」

デン「一応俺たちみたいな弱い方の魔導士でも、抵抗くらいなら出来るんですけどね」

レイ「バカね。抵抗出来るだけじゃ消耗戦になって私たちの負けでしょ」

ギーグ「でもそれくらいしか出来ねぇしなぁ」

 みんなの悩みは分かる。このギルド内じゃ比較的強い方のフウロとグリードが呆気なくやられたんだ。そりゃ、2人より弱いと思ってる自己評価低めな奴は足がすくむだろう。けど、何も1人で戦えなんて言ってるわけじゃない。

「現状俺たちの戦力はまだまだ足りない。ヴェリアが本腰入れてきた以上、黙ってても各個撃破されてこの世界が無かったことにならざるを得ない日が近くなる。だからーー」

 頭の中に思い浮かべるのはいつも俺の隣にいてくれたネイの姿。そして、俺の後ろや、前で、必死に戦い続けた戦友たち。

「この国、いや、世界中の仲間たちに協力してもらうんだ。拒否されたって構わない。1人でも多く戦力を手に入れてーー」

 クロム、ラスト、まだ俺との関わりはないデルシア、それ以外にも多くの出会いが俺の物語には刻まれていた。

 みんな、どうしようもないくらいいい奴らで、多分言えばすぐに協力してくれるだろう。

 本来巻き込むべきではない奴ら。でも、もう巻き込むしかないだろ。だって、俺があいつらの傍にいたように、ネイもあいつらの傍にいて、そこには確かに俺たちの物語が存在したのだから。

「精霊界に殴り込みをかける!ネイはそこにいるはずだ!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

サテラ「うーん、本当素晴らしい演説!一見まとまりの無さそうに見えたあのギルドを、こうも簡単にまとめあげてしまうとは!流石英雄!私もパクりたいくらいです!……で、なんで私があなたとペアなんですか?」

 道すがら、よくそんなに喋る話題に尽きないなと感心しつつ、珍しく俺に話を振ってきたのでサテラの疑問に答えてやる。

「これから行くギルドがな、まー、すっげー俺たちと仲悪いギルドなんだよ。特にこの世界線だと想像以上にな」

 何でそうなったのかって聞かれたら、多分色々と昔にあったんだろうけど、それを大会中に消化し切れてないというまさかの問題が発生していた。

 いやまあ、別に無理に説得することも無いんだろうけど、あいつらが俺たちのギルドより遥かに強いってのは身を持って知っている。だからこそ、出来れば仲間になってほしいとこなんだが。

「他の奴らに任せたら確実に喧嘩になるだろ?だから、事情を特に知らなそうなお前と一応冷静なつもりでいる俺がって考えたんだ」

サテラ「挑発したらすぐ喧嘩になりそうですけどね」

「それは言わないでくれよ。一応王様だったんだからそれなりの落ち着きはあるはずだって」

 多分、と自分に言い聞かせ、俺は目的地であるギルドの扉を押し開ける。

 今回俺が担当することになったのはコールドミラーの面々。こればっかりは本当に他の奴らには任せられないと言ったはいいものの、いざこうしてこのギルドに訪れてみると、なんか上手くやれるのかどうか不安になってくる。

 まあ、不安に思ってても仕方ない。前進あるのみだ!

「邪魔するぜー!……っと」

 勢い良く中へ踏み込むと、そこはお通夜?とでも聞きたくなるような暗い雰囲気が漂っていた。

 いくら王国最強ったって、ここまで暗いか?と疑問に感じたのも束の間、俺はなぜこんなにも暗い雰囲気になっているのかをすぐに悟った。

「……おい、リアム。今日は1人か?」

リアム「……」

 てっきり出会い頭に殴られでもするんじゃないかって予想してたんだが、そんなことはなく、それどころかリアムはこちらを見上げるなり「ああ、お前か……」とギリギリ聞き取れるか?くらいの声でそう言ってきた。

リアム「……1人……な。1人か……。っはは」

「おい、何があったんだよ……」

リアム「……もうずっと1人だよ。俺以外みんな死んじまったからな……」

 絞りカスみたいな声でリアムはそう言う。

 何があったのかは分からない。しかし、リアムの態度からして、先程の発言が虚言の類ではないことを容易に察した。

リアム「なあ、聞いてくれよ。嘘みてぇな話だと思ったんだけどさ、一昨日ここによく分からねぇ化け物がやってきたんだ」

 化け物……ヴェリアか。

リアム「いきなりのことでさ、まず最初に不意打ち喰らった何人かが瞬殺された。……その後、必死に応戦したんだけどよ、攻撃がなんも効かなくて、1人、また1人と殺されたんだよ……」

 途中、その時のことを思い出したのか言葉に感情が籠っていたが、すぐに弱々しい声になって、最後の方はやはり聞き取れるかどうか程度にまで落ちていた。

リアム「確か、お前ら言ってたっけか?異形の怪物が空を飛び回る。俺たちの攻撃は一切効かない。んな、バカみてぇな話があるかよって思ってたよ」

 リアムは暗く沈んだ瞳をこちらに向け、一際ドスの効いた声で語る。

リアム「嘘じゃなかったんだな」

「……ああ。嘘じゃない。現実にあいつらはいる」

リアム「……」

 ーーそこからは、お互いに当たり障りない会話をするだけだった。とてもじゃないが、精霊界に向けての仲間になってほしいとは言える雰囲気じゃなかった。

 流石のサテラも、あの手この手で励まそうとしてみたものの、その全てが空振りに終わり意気消沈していた。

「なあ、リアム。こんな時にこんなことを言うのはあれかもしれねぇけど……」

 ただそれでも、ここまで来て無駄足で帰るわけにはいかない。例え断られると分かっていても、言うだけ言って、ダメなら諦める。それくらいはしなくては。

「俺たちは今、1人でも多くの仲間を必要としてる。今のお前にこんなこと伝えんのも気が引けんだけど……」

リアム「俺に、ついて来て欲しい……ってか?」

 察したように言うリアムに対し、俺は軽く首を縦に振る。

リアム「……。悪ぃ。まだしばらく1人にしてくれねぇか」

「……分かった」

 多分、短期間で立ち直るのは無理だろうなと悟り、俺は最後に一言だけ、「気が向いたらグランメモリーズのギルドに来い」とだけ伝えてその場を去った。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ーーその後、俺たちは王城に出向いた後、この世界線ではまだ交流が無いが、話くらいは通じるだろうと創真の城にも行ってみたのだが、どちらも暗いお通夜みたいな雰囲気が漂っており、共通して言ってたのが、「煙の化け物にやられた」だった。

サテラ「まさか、我々の行く手を読んで先回りしているとは……。こりゃ、本格的に手を出させないつもりじゃないんですかね」

「ああ、まさかここまでとは思わなかったな」

 この調子だと、他のメンバーに任せた随所も、似たような感じで襲撃にあった後だろう。完全に後手に回らされた感じだが、それだけで諦める程俺たちは弱くはない。

「現状、来るかもしれねぇのはデルシアくらいか……」

サテラ「大分気分は落ち込んでましたけどね……」

「それでも他と比べたらまだ戦う気はあるみてぇだったし……んまぁ、本当可能性はあるってくらいだが」

 期待はしない方がいいだろうな。

 これまでに起きたことのない展開。ヴェリアによる、俺たちと縁のある面々への襲撃。

 俺一人でどうにか出来れば楽なんだけど、そうもいかねぇのが現実か。俺も、ネイくらいぶっ飛んだ力を持ってたらって思うが、そんな無いものねだりしてる暇あったら他にやることあるしな。

サテラ「あ、ヴァルさん!ドーナツ屋がありますよ!ちょっと息抜きに寄っていきましょうよ!」

 ーーと、考え事をしていたらサテラが袖を引っ張ってそう言ってくる。

 そんなことしてる暇は……とも考えたが、別にドーナツ食ったくらいで世界が滅ぶわけじゃないしな、と考えサテラの提案通り、息抜きをする。

 偉い人はなんか言ってたよな。ずっと考え事してるより、適度にガス抜きした方がいい案が浮かんでくるって。

「そういや、あいつの好物ドーナツだったっけか?」

 懐かしい記憶が蘇ってくる。本人が特にそう言ってたわけじゃないが、気付けばいつも片手に持ってたような気がする。記憶を無くしたあいつも、見てるこっちが不安になってくる手つきで菓子作りをしてたし、今となっちゃ懐かしい思い出だな。

サテラ「よく分からない人ですけど、そのネイさんって人、余っ程大事な人だったんですね~」

「まあ、嫁だからな」

サテラ「嫁ってだけでここまで本気でやる人もいないと思いますけどね~」

「ん?何でだ?」

サテラ「だって、嫁って言っても所詮他人じゃないですか~。それに面倒臭い言い回しで結局助けてくれって、なら最初からそう言えよってなりますよ」

「まあ、そうだけど」

 でも、そういうめんどくせぇ感じなのがあいつだしな。もう慣れ切ってるから今更どうとは思わねぇんだけど。

サテラ「あと、計画とやらに自分が消えることで完成するって書いてあるんなら、もうその通りにやっちゃえばいいじゃないですか」

「いや、だからそれは……」

サテラ「だってそうでしょ。ヴァルさんにとっては大切な人でも、その他大勢にとってはどうでもいい人ってことでしょう?消えることで世界が救われるなら、じゃあ消えてくださいって、私含めて多くの人はそういうと思いますよ」

「……まあ、それは客観的に見たらって話だな」

サテラ「ヴァルさんは優しすぎるんですよ。世界を救う!って勇者みたいなことを言うんだったら、時には冷酷に、鉄血の心を持って立ち向かわないと!現実はフィクションのように上手くは行かないんですから!」

「……」

 確かに、サテラの言うことは最もだと思う。

 この世界が物語のように何もかも都合よく進めば、なんてみんながそう願うのは当たり前のことだと思う。でも、世の中がそんな都合よくできてないことを俺は身をもって知っている。

 みんな死んだ。ネイも死んだ。そんな現実が受け入れられなくて、1度はアルトが作り出した偽りの現実を受け入れそうになった。それは、紛れもない事実だった。

「確かに、現実はそう上手くはいかねぇよ。助けたいと思ったやつは助けられないし、未来を知ってても変えられねぇもんは変えられねぇ。でもよーー」

 1度失敗した。だが、それがどうしたというのだ?

 確かにあれは現実だったが、それは全て無かったことにされた。あの世界でも、必死に生きていた奴はたくさんいたが、それも全て無かったことになった。

 その事実を俺は嘆けばいいのか?

「違うだろ。俺は変えたいと願ってたはずなんだ」

 だから必死に頑張った。

 失ったものの代わりを求めて、あれこれ頑張った。でも、結局無駄になっちまった。……全部ってわけじゃないけどな。

 あの世界で俺が頑張ったこと、頑張ろうとしたこと。その全てとは言わないが、俺の努力は、未だ絶望に染まりきってないこの世界できっと役に立てるはずなんだ。

「都合よく行かねぇのが現実だなんて言われて、はいそうですかって流れに身を任せるわけねぇだろ。あんな未来、もう二度と来させねぇよ。全部、俺がまとめて都合のいい方に進めてやるんだよ」

 それが、この時代に戻ってきた俺の役目なんだろうと思う。みんなを救って、幸せな未来を目指す。フウロもグリードも、他のみんなも、どうにかして救う。救う方法はこれから考えるが、やろうと思えばなんでも出来るはずだ。

サテラ「……そうですか。そりゃまあ、大層ご立派な目標なことで」

 サテラはそう言うと、砂糖の着いた指をなめ、帽子を被り直して立ち上がる。

サテラ「全部、上手く行くといいですね」

 そして、可もなく不可もなくな無難な返答をしてくるのだった。

「……そういや、今更だけどお前なんで俺らに付き合ってくれてんだ?正直なとこ、良いことなんて1つもねぇだろ」

 ここで、俺は本当に今更な疑問をサテラに投げかけてみる。

サテラ「本当に今更ですね」

「だってそうだろ。最初の依頼にあった形見を探すってのは、多分もう無理になっちまったし、これから俺たち結構やべぇのとやり合うんだぞ?関係ねぇうちに逃げるのも手だろ」

サテラ「まあ、それもそうですけど、色々聞いちゃった後ですしね~。いわゆる、乗りかかった船的な?それに、今現在のこの世界の状況見ちゃったら、ヴェリアに対抗出来るヴァルさんたちの近くにいるのが余っ程安全ですし」

「まあそれもそうか」

サテラ「私は泥船かタイタニックに乗ったくらいの気分でヴァルさんたちの手伝いを頑張りますよ!」

「……せめて小船くらいの沈まなさそうなやつにしてくれよ」

 サテラの頑張る理由についてはイマイチだったが、これもまたいないよりかはマシ。むしろ言霊の魔法とやらが少しでも対抗手段になる今、サテラがいてくれるのはとても心強かった。

 さてさてと、2人で店を後にし、この後はどうしようかと相談する。結果、一旦ギルドに戻ってみんなの報告を待とうということになり、帰路に着くことになった。

サテラ「さっきの話の続きになりますけど、確かにヴェリアとやり合うのはとっても危険ですよ。本当は戦わなくていい方法があるならそれがいいくらいです」

「……でも、戦ってくれるんだろ?」

サテラ「ええそうです。だって私はーー」

 そこでサテラは妖しげな笑みを浮かべてこちらに振り返り、予想だにしなかった言葉を吐き出す。

サテラ「この世界が、好きで大好きだからです」
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