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Maledictio4章 【物語の罰】
Maledictio4章6 【好きで大好きだから】
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『好きです。大好きです』
ーー今にして思えば、このセリフはあいつが唯一素直に感情を表現する言葉だったように感じる。
その言葉の意味はそのまま好きだという気持ちを表すもので、その対象は人、世界、物事と様々に及んだ。
サテラ「ん?どうかしました?」
今、こいつは「好きで大好きだからです」と言った。若干言い方が違ったが、ニュアンス的にはネイがよく言っていたセリフと同じだ。
偶然……偶然、だよな?
だってそうだろ?そりゃ、あいつの口癖だったとは言えど、別に似たような言い回しをする奴くらい他にたくさんいそうな言葉だ。これだけでこいつが……こいつが、ネイだなんて、思うわけない……だろ?
「……なぁ」
それでも確かめなくちゃならない。
さっきのセリフは本心から生まれた言葉なのかを。それとも、誰かから借りた言葉なのかを。
「サテラ。お前は……」
思えば、『サテラ』という名前の登場人物はこれまでの周回で現れたことがなかった。
偶然?いや、偶然なわけがない。だって、何千何万回と繰り返してきたんだぞ?その中で1回たりとも出なかった奴が、こんな、ネイが消えたというタイミングで初めて現れるだなんて、そんな出来すぎた話があるかよ。
「お前は、ネイ……なのか?」
サテラ「……」
その質問に対し、サテラは特に困ったような表情もせず、ただ少し驚いたように目を見開いた後、やがてあいつを思わせるような悪戯っぽい笑みを浮かべて質問に答えた。
サテラ「……全く、気付くのが遅いですよ」
「……!」
何でだ……。何で、なんだ……。
「何で、お前……」
サテラ「言いたいことは分かります。でもーー」
まだ言いたいことだらけだった俺の口に人差し指を当て、それ以上は言わせまいとサテラ、否、ネイは言葉を続ける。
サテラ「それはまた今度。今はヴェリアを倒すのが先、でしょ?」
「……」
そう悪戯っぽい笑みで言われちゃ、ついついそのまま1歩引きそうになってしまう。でも、今日ばかりはそのまま流されるわけにはいかない。
「確かにそれは大事だ。でも、俺にとってはネイを取り戻すことが1番なんだ。ーー教えてくれ。何でこんなことになった。何でヴェリアなんてもんが現れた。……何で拐われたはずのお前がそんな格好してここにいるんだ」
他にも聞きたいことはたくさんあった。でも、多分聞きたいことってのはくだらないことの方が多く、特に聞きたいことに要点を絞って問い詰めた。それでも結構多いと思ったが。
サテラ「……多分、答えないと次に進んでくれないんですよね」
「他にも聞きてぇことは山ほどあるぞ」
サテラ「でしょうね。じゃあ、1つずつ答えていきますか。まずは……ヴェリアについてお話ししましょうか」
「……」
サテラ「概要は大体本に書いた通りです。今まで消えていった世界の残穢が、煙のような形になって現れた。そのトリガーとなったのは、私が精霊になったこと。精霊界にとってイレギュラー中のイレギュラーである私を消すために、精霊王は残穢を使って世界を在るべき形に矯正しようとした。というのが、ヴェリアの正体」
そこまでは本に書いてあった通りだ。なんてことをしやがる精霊王とは思ったが、それについては後でぶっ飛ばしに行くからいい。問題はーー
サテラ「そして、この世界がこうなった理由。これも本に書いたとおり、ヒカリちゃんの死がトリガーとなって世界が崩壊する。それは絶対で、回避する手段は今のところ不明。方法として考えたのは、ヴァルがヒカリちゃんの精神的支柱になること……だったんですけどねぇ……」
「……悪いが、俺は2人も同時に愛せるほど器用じゃねぇぞ」
サテラ「でしょうね。だから私がこうして消えることを考えた。私さえいなければヴァルはーー」
「そんな仕方ない理由でヒカリを愛せるとでも思うのか?」
サテラ「……」
「俺がこの世界で愛したのはお前だけだ。それはこれからも変わらない。変わることはない。それはお前もよく知ってるはずだろ?」
サテラ「……」
俺のその一言に、こいつは悟ったような顔をして俯く。
こいつの計画は、一見すれば抜け目なく作られた完璧なものだと言える。でも、その計画はただ1つとして間違いを許してはくれない完璧主義に近いものだった。
何度も繰り返すことを前提に作られたものだから、そういった妥協を許してくれないのは分かる。でも、確実に妥協しなくてはいけないポイントがあって、そこを妥協してしまうと計画が絶対に完遂しなくなる。それは、俺がネイを捨ててヒカリを愛するということ。
「出来るわけねぇだろ。お前だって知ってるはずだ。俺がお前を失って、どれだけ悲しんだか。現実を受け入れられなくて、アルトが作り出した偽モンに救いを求めかけたってことを」
サテラ「……知ってますよ」
「なら、何で!」
サテラ「でも、それは私と過ごしたヴァルだけ」
「……」
サテラ「ヴァルの中にはこの時代を生きるヴァルがいる。そのヴァルはまだ私への感情が未来ほどに育っていない。それどころか、多分ヒカリちゃんの方に傾いているはずです」
「それは……」
確かに、俺が来る前の俺はそうだったのかもしれない。でも、その俺はここにはいない。……いない、のか?
サテラ「今は勝手が分からないだけです。でもそのうち、未来のヴァルと、この時代のヴァル。2人が同時に存在するようになって、私みたいに会話とかも出来るようになりますよ」
「……」
サテラ「私がここに未来のヴァルを呼んだのは、この周回を私無しの状態でベストに仕上げてもらうため。そして、この先の周回を記憶を引き継ぐ人として頑張ってもらうため」
「……じゃあ、俺は……お前を愛した俺はどうなる……。お前がどうやっても現れない世界で、俺は何を理由に頑張るってんだ」
サテラ「それは……、多分、この周回を終わらせる頃には理由が見つかると思います。今は言えませんけど、必ずヴァルは別の目的を見つけて頑張ることになります」
今は言えないって、そんなフワッとした状態で俺が頑張れるわけねぇだろ……。
……でも、こいつの顔を見てると、何でかは分からないけど頑張らなきゃいけないって気になってくる。
「それでも俺は認めねぇぞ。お前がいなくなるくらいなら、無限に繰り返すままの方がマシだ」
サテラ「……まあそれでいいですよ。どの道残りの期限は約2ヶ月。それまでに精霊界くらいだったら攻略してみせるんで、一緒にがんばりましょう」
そう言うと、ネイは話が終わったとばかりに歩き出してしまった。
本当はもっと言いたいことがあるってのに、こいつはそれさえもお見通しで、分かってるみたいな背中を見せて歩いていく。でも、俺に見せないようにしても、雫が頬を零れ落ちてしまっては、その背中はただの強がりにしか見えなかった。
「……強がるなよ」
だから、そっと後ろから抱き締めて、溜め込んだ涙を拭うように頬を撫でる。
「本当は諦めたくないんだろ。どうにかして自分が消えなくてもいい方法を探したんだろ。それこそ、もう残りの期限がギリギリになって、諦めるしかなくなるまで探し続けたんだろ」
サテラ「……分かるわけないですよ」
「分かるさ。失う辛さってのは人一倍知ってるから」
サテラ「っ、分かるわけ……っ、ないですよ……っ!」
「なら、お前が納得するくらい全部分かるまで頑張るよ。だから諦めんな。助けてほしいなら助けてくれって言えよ。俺、頑張るから」
ボロボロと零れる涙を両手で受け止め、震えるその身を温めるように炎を灯す。
俺にはこうすることしか出来なくて、それが唯一の取り柄で、でも今は、この炎の力を持っていて良かったって思える。
だって、この手を離してしまったら、すぐにでも消えて無くなりそうなこいつの心を、こうやって温めることが出来るのだから。
「正直になれよ。今、お前の後ろにいる男はそんなに頼りない男だったのかよ?それだったら心外ってもんだぜ」
サテラ「っ……!忘れてほしくない!消えたくない!みんなと!ヴァルと!ずっと、ずっと一緒にいたい!……嫌いになってほしくない!」
「ああ。嫌いになんかならねぇよ。何万回も繰り返してそれは分かってるはずだろ」
サテラ「助けて……っ!助けてください!ヴァル!」
「言われなくたってそうするつもりだ。だって、俺はお前の"英雄"なんだから」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
サテラ「やっぱり、こうしてヴァルの背中に乗ってると落ち着きますね~」
「子供かよ。ったく……」
サテラことネイがひとしきり泣いた後、俺たちは改めてギルドに戻るために歩き出していた。
さっきのですっかりタガが外れてしまったのか、今はこうして子供っぽくおんぶしてくれとねだられ、悪い気はしないので言われた通りにしている。
「なあ、今聞き直すのもどうかと思うんだけどよ」
サテラ「あれ?何か言い忘れてました?」
「いや、1番大事なとこなんだけど、お前ヴェリアに連れ去られた後、どうやってこっちに戻ってきたんだ?」
サテラ「……あ、そういえば」
そういえばって、1番大事なとこ忘れてたのかよ……。
サテラ「方法は簡単です。私、一応これでも精霊なんで、召喚すれば拘束されてようが簡単にこっちに来られるんですよ」
「……誰が召喚してんだ?」
サテラ「私です。私が私をこちらの世界に召喚したっていう、ただそれだけの話です」
「???」
やべぇ。全く理解出来ねぇ。
サテラ「分かってなさそうですね~」
「そもそも精霊魔法は専門外だ」
サテラ「じゃあお勉強がてら教えてあげましょうか。まず、精霊の召喚について。セリカさんとかベルメルさんが使ってる精霊魔法ってのは、厳密には召喚魔法の位置付けになります」
「……もしかして召喚の方も説明はいる感じか?」
サテラ「ええ。詳しくはまた別の機会にしておきますけど、召喚魔法ってのは、本体を召喚するわけではなくて、その魂を具現化する魔法なんです」
「魂?」
サテラ「はい。だから、召喚しても本体は別の場所、別の時間に存在しているので、召喚されたものをいくら攻撃しようが本体には一切影響が無いわけですね。で、それは精霊も同じで、セリカさんたちの呼びかけに応じて魂のみこちらの世界に来ている状況です。一部、エンマのように本体ごと来る人もいますが」
「はー……。じゃあ、今のサテラって名乗る前のお前は……」
サテラ「はい。例外である本体ごと来ちゃってるパターンです。普通、精霊ってのは本体をこちらの世界に持ってくるメリットがあまりにも無いからやらないんですけど、召喚主がいなかったり、精霊王に反旗を翻したりするような精霊は、そうやってこっちの世界に来るわけです」
「……」
あれ?もしかしてエンマって、かなりリスキーなことしてこっちに来てた?ただ楽しいってだけの理由でか?
サテラ「で、最初に戻りますが、向こうの世界にある私の体は、今現在精霊王とヴェリアによって拘束されています。なので、私自身を召喚するという荒業でこっちの世界に戻ってきたわけです」
「もしかしなくてもだけど、それってお前だけしか出来ない?」
サテラ「そうです。私くらいしか出来ません。なので、精霊王もヴェリアも気付いてないと思いますよ」
「とんでもねぇ抜け穴だな……。で、じゃあ何でサテラなんて名乗って俺たちの前に現れたんだ?」
サテラ「ネイとして戻ってきたら精霊王にバレちゃうじゃないですか。ヴェリア越しにこっちの世界を見てるんですよ?捕まえたはずの人間が堂々とこっちの世界にいたら、カラクリにすぐ気付かれちゃいますよ」
「だから美少女魔法探偵とか名乗ってたのか。……自分で言ってて恥ずかしいとか思わなかったのかよ」
サテラ「え?私美少女ですよね?」
「……」
そういやこいつ、自意識だけは他に見劣りしねぇレベルで高かったな。
サテラ「……なんか言ってくださいよ」
「あー、まあそうだな。お前は世界一可愛いよ」
サテラ「……ありがとうございます」
「じゃあさ、サテラって名前はどっから付けてきたんだ?」
サテラ「……子供に付けようと思ってた名前のうちの1つです。意味は月。私の子供としてピッタリでしょ?」
「太陽の部分も入れてくれよ。俺の属性なんだから」
サテラ「ええ。ですからこれはボツになりました。でも、私個人を名乗る名前としてならアリかなと思ってそう名乗ってたわけです。まあ、流石に難しすぎたのか、名前だけで誰も気付いちゃくれませんでしたけど」
「流石に難問すぎるだろ。それで察しろってのは無理だ」
サテラ「でしょうね。だからわっかりやすいヒントを与えてあげたら、流石に気付いてくれましたけど」
「……好きで大好きです……か」
サテラ「そう。気付いたら私の口癖になってて、私とヴァルだけに通じる暗号のような言葉です」
「確かに、俺以外じゃ分からなかったかもな」
サテラ「ヴァルだけが分かってくれればそれでいいんですよ」
「そうかよ」
やっぱり、どんだけの時間を過ごしてても、こいつはこいつなんだなって改めて感じる。
どこか子供っぽくて、そのくせ知識の量だけは常人の域を軽く超えてて、甘えたがりなこいつを、俺は絶対に守るって誓ったんだ。
今度はもう失わない。失うわけにはいかない。2ヶ月の期限だろうと何だろうと、そんなものはこの手で燃やし尽くしてみせる。
「ネイ」
サテラ「はい」
「約束だ。俺が必ずこの世界に未来を、幸せな未来を訪れさせてみせる。だから、もう自分を犠牲にしてまで頑張らないでくれ」
サテラ「……」
「例えまた何度も繰り返すことになっても、お前のいない世界が来るくらいなら、俺が全部焼き払う。だからーー」
サテラ「分かってます。あなたが思い描く未来に私がいる奇跡を、私も願うから」
「……」
ーーやることは山積みだ。
ヴェリア、精霊王、ヒカリ、失った仲間たち。
何度でも繰り返すなんて言ったが、こんな歪んだ物語、この1回で終わらせてやる。
俺は英雄だ。ネイの英雄であり、世界の英雄王。不可能だなんて笑わせるな。
「奇跡、起こしてやろうぜ!」
ーー今にして思えば、このセリフはあいつが唯一素直に感情を表現する言葉だったように感じる。
その言葉の意味はそのまま好きだという気持ちを表すもので、その対象は人、世界、物事と様々に及んだ。
サテラ「ん?どうかしました?」
今、こいつは「好きで大好きだからです」と言った。若干言い方が違ったが、ニュアンス的にはネイがよく言っていたセリフと同じだ。
偶然……偶然、だよな?
だってそうだろ?そりゃ、あいつの口癖だったとは言えど、別に似たような言い回しをする奴くらい他にたくさんいそうな言葉だ。これだけでこいつが……こいつが、ネイだなんて、思うわけない……だろ?
「……なぁ」
それでも確かめなくちゃならない。
さっきのセリフは本心から生まれた言葉なのかを。それとも、誰かから借りた言葉なのかを。
「サテラ。お前は……」
思えば、『サテラ』という名前の登場人物はこれまでの周回で現れたことがなかった。
偶然?いや、偶然なわけがない。だって、何千何万回と繰り返してきたんだぞ?その中で1回たりとも出なかった奴が、こんな、ネイが消えたというタイミングで初めて現れるだなんて、そんな出来すぎた話があるかよ。
「お前は、ネイ……なのか?」
サテラ「……」
その質問に対し、サテラは特に困ったような表情もせず、ただ少し驚いたように目を見開いた後、やがてあいつを思わせるような悪戯っぽい笑みを浮かべて質問に答えた。
サテラ「……全く、気付くのが遅いですよ」
「……!」
何でだ……。何で、なんだ……。
「何で、お前……」
サテラ「言いたいことは分かります。でもーー」
まだ言いたいことだらけだった俺の口に人差し指を当て、それ以上は言わせまいとサテラ、否、ネイは言葉を続ける。
サテラ「それはまた今度。今はヴェリアを倒すのが先、でしょ?」
「……」
そう悪戯っぽい笑みで言われちゃ、ついついそのまま1歩引きそうになってしまう。でも、今日ばかりはそのまま流されるわけにはいかない。
「確かにそれは大事だ。でも、俺にとってはネイを取り戻すことが1番なんだ。ーー教えてくれ。何でこんなことになった。何でヴェリアなんてもんが現れた。……何で拐われたはずのお前がそんな格好してここにいるんだ」
他にも聞きたいことはたくさんあった。でも、多分聞きたいことってのはくだらないことの方が多く、特に聞きたいことに要点を絞って問い詰めた。それでも結構多いと思ったが。
サテラ「……多分、答えないと次に進んでくれないんですよね」
「他にも聞きてぇことは山ほどあるぞ」
サテラ「でしょうね。じゃあ、1つずつ答えていきますか。まずは……ヴェリアについてお話ししましょうか」
「……」
サテラ「概要は大体本に書いた通りです。今まで消えていった世界の残穢が、煙のような形になって現れた。そのトリガーとなったのは、私が精霊になったこと。精霊界にとってイレギュラー中のイレギュラーである私を消すために、精霊王は残穢を使って世界を在るべき形に矯正しようとした。というのが、ヴェリアの正体」
そこまでは本に書いてあった通りだ。なんてことをしやがる精霊王とは思ったが、それについては後でぶっ飛ばしに行くからいい。問題はーー
サテラ「そして、この世界がこうなった理由。これも本に書いたとおり、ヒカリちゃんの死がトリガーとなって世界が崩壊する。それは絶対で、回避する手段は今のところ不明。方法として考えたのは、ヴァルがヒカリちゃんの精神的支柱になること……だったんですけどねぇ……」
「……悪いが、俺は2人も同時に愛せるほど器用じゃねぇぞ」
サテラ「でしょうね。だから私がこうして消えることを考えた。私さえいなければヴァルはーー」
「そんな仕方ない理由でヒカリを愛せるとでも思うのか?」
サテラ「……」
「俺がこの世界で愛したのはお前だけだ。それはこれからも変わらない。変わることはない。それはお前もよく知ってるはずだろ?」
サテラ「……」
俺のその一言に、こいつは悟ったような顔をして俯く。
こいつの計画は、一見すれば抜け目なく作られた完璧なものだと言える。でも、その計画はただ1つとして間違いを許してはくれない完璧主義に近いものだった。
何度も繰り返すことを前提に作られたものだから、そういった妥協を許してくれないのは分かる。でも、確実に妥協しなくてはいけないポイントがあって、そこを妥協してしまうと計画が絶対に完遂しなくなる。それは、俺がネイを捨ててヒカリを愛するということ。
「出来るわけねぇだろ。お前だって知ってるはずだ。俺がお前を失って、どれだけ悲しんだか。現実を受け入れられなくて、アルトが作り出した偽モンに救いを求めかけたってことを」
サテラ「……知ってますよ」
「なら、何で!」
サテラ「でも、それは私と過ごしたヴァルだけ」
「……」
サテラ「ヴァルの中にはこの時代を生きるヴァルがいる。そのヴァルはまだ私への感情が未来ほどに育っていない。それどころか、多分ヒカリちゃんの方に傾いているはずです」
「それは……」
確かに、俺が来る前の俺はそうだったのかもしれない。でも、その俺はここにはいない。……いない、のか?
サテラ「今は勝手が分からないだけです。でもそのうち、未来のヴァルと、この時代のヴァル。2人が同時に存在するようになって、私みたいに会話とかも出来るようになりますよ」
「……」
サテラ「私がここに未来のヴァルを呼んだのは、この周回を私無しの状態でベストに仕上げてもらうため。そして、この先の周回を記憶を引き継ぐ人として頑張ってもらうため」
「……じゃあ、俺は……お前を愛した俺はどうなる……。お前がどうやっても現れない世界で、俺は何を理由に頑張るってんだ」
サテラ「それは……、多分、この周回を終わらせる頃には理由が見つかると思います。今は言えませんけど、必ずヴァルは別の目的を見つけて頑張ることになります」
今は言えないって、そんなフワッとした状態で俺が頑張れるわけねぇだろ……。
……でも、こいつの顔を見てると、何でかは分からないけど頑張らなきゃいけないって気になってくる。
「それでも俺は認めねぇぞ。お前がいなくなるくらいなら、無限に繰り返すままの方がマシだ」
サテラ「……まあそれでいいですよ。どの道残りの期限は約2ヶ月。それまでに精霊界くらいだったら攻略してみせるんで、一緒にがんばりましょう」
そう言うと、ネイは話が終わったとばかりに歩き出してしまった。
本当はもっと言いたいことがあるってのに、こいつはそれさえもお見通しで、分かってるみたいな背中を見せて歩いていく。でも、俺に見せないようにしても、雫が頬を零れ落ちてしまっては、その背中はただの強がりにしか見えなかった。
「……強がるなよ」
だから、そっと後ろから抱き締めて、溜め込んだ涙を拭うように頬を撫でる。
「本当は諦めたくないんだろ。どうにかして自分が消えなくてもいい方法を探したんだろ。それこそ、もう残りの期限がギリギリになって、諦めるしかなくなるまで探し続けたんだろ」
サテラ「……分かるわけないですよ」
「分かるさ。失う辛さってのは人一倍知ってるから」
サテラ「っ、分かるわけ……っ、ないですよ……っ!」
「なら、お前が納得するくらい全部分かるまで頑張るよ。だから諦めんな。助けてほしいなら助けてくれって言えよ。俺、頑張るから」
ボロボロと零れる涙を両手で受け止め、震えるその身を温めるように炎を灯す。
俺にはこうすることしか出来なくて、それが唯一の取り柄で、でも今は、この炎の力を持っていて良かったって思える。
だって、この手を離してしまったら、すぐにでも消えて無くなりそうなこいつの心を、こうやって温めることが出来るのだから。
「正直になれよ。今、お前の後ろにいる男はそんなに頼りない男だったのかよ?それだったら心外ってもんだぜ」
サテラ「っ……!忘れてほしくない!消えたくない!みんなと!ヴァルと!ずっと、ずっと一緒にいたい!……嫌いになってほしくない!」
「ああ。嫌いになんかならねぇよ。何万回も繰り返してそれは分かってるはずだろ」
サテラ「助けて……っ!助けてください!ヴァル!」
「言われなくたってそうするつもりだ。だって、俺はお前の"英雄"なんだから」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
サテラ「やっぱり、こうしてヴァルの背中に乗ってると落ち着きますね~」
「子供かよ。ったく……」
サテラことネイがひとしきり泣いた後、俺たちは改めてギルドに戻るために歩き出していた。
さっきのですっかりタガが外れてしまったのか、今はこうして子供っぽくおんぶしてくれとねだられ、悪い気はしないので言われた通りにしている。
「なあ、今聞き直すのもどうかと思うんだけどよ」
サテラ「あれ?何か言い忘れてました?」
「いや、1番大事なとこなんだけど、お前ヴェリアに連れ去られた後、どうやってこっちに戻ってきたんだ?」
サテラ「……あ、そういえば」
そういえばって、1番大事なとこ忘れてたのかよ……。
サテラ「方法は簡単です。私、一応これでも精霊なんで、召喚すれば拘束されてようが簡単にこっちに来られるんですよ」
「……誰が召喚してんだ?」
サテラ「私です。私が私をこちらの世界に召喚したっていう、ただそれだけの話です」
「???」
やべぇ。全く理解出来ねぇ。
サテラ「分かってなさそうですね~」
「そもそも精霊魔法は専門外だ」
サテラ「じゃあお勉強がてら教えてあげましょうか。まず、精霊の召喚について。セリカさんとかベルメルさんが使ってる精霊魔法ってのは、厳密には召喚魔法の位置付けになります」
「……もしかして召喚の方も説明はいる感じか?」
サテラ「ええ。詳しくはまた別の機会にしておきますけど、召喚魔法ってのは、本体を召喚するわけではなくて、その魂を具現化する魔法なんです」
「魂?」
サテラ「はい。だから、召喚しても本体は別の場所、別の時間に存在しているので、召喚されたものをいくら攻撃しようが本体には一切影響が無いわけですね。で、それは精霊も同じで、セリカさんたちの呼びかけに応じて魂のみこちらの世界に来ている状況です。一部、エンマのように本体ごと来る人もいますが」
「はー……。じゃあ、今のサテラって名乗る前のお前は……」
サテラ「はい。例外である本体ごと来ちゃってるパターンです。普通、精霊ってのは本体をこちらの世界に持ってくるメリットがあまりにも無いからやらないんですけど、召喚主がいなかったり、精霊王に反旗を翻したりするような精霊は、そうやってこっちの世界に来るわけです」
「……」
あれ?もしかしてエンマって、かなりリスキーなことしてこっちに来てた?ただ楽しいってだけの理由でか?
サテラ「で、最初に戻りますが、向こうの世界にある私の体は、今現在精霊王とヴェリアによって拘束されています。なので、私自身を召喚するという荒業でこっちの世界に戻ってきたわけです」
「もしかしなくてもだけど、それってお前だけしか出来ない?」
サテラ「そうです。私くらいしか出来ません。なので、精霊王もヴェリアも気付いてないと思いますよ」
「とんでもねぇ抜け穴だな……。で、じゃあ何でサテラなんて名乗って俺たちの前に現れたんだ?」
サテラ「ネイとして戻ってきたら精霊王にバレちゃうじゃないですか。ヴェリア越しにこっちの世界を見てるんですよ?捕まえたはずの人間が堂々とこっちの世界にいたら、カラクリにすぐ気付かれちゃいますよ」
「だから美少女魔法探偵とか名乗ってたのか。……自分で言ってて恥ずかしいとか思わなかったのかよ」
サテラ「え?私美少女ですよね?」
「……」
そういやこいつ、自意識だけは他に見劣りしねぇレベルで高かったな。
サテラ「……なんか言ってくださいよ」
「あー、まあそうだな。お前は世界一可愛いよ」
サテラ「……ありがとうございます」
「じゃあさ、サテラって名前はどっから付けてきたんだ?」
サテラ「……子供に付けようと思ってた名前のうちの1つです。意味は月。私の子供としてピッタリでしょ?」
「太陽の部分も入れてくれよ。俺の属性なんだから」
サテラ「ええ。ですからこれはボツになりました。でも、私個人を名乗る名前としてならアリかなと思ってそう名乗ってたわけです。まあ、流石に難しすぎたのか、名前だけで誰も気付いちゃくれませんでしたけど」
「流石に難問すぎるだろ。それで察しろってのは無理だ」
サテラ「でしょうね。だからわっかりやすいヒントを与えてあげたら、流石に気付いてくれましたけど」
「……好きで大好きです……か」
サテラ「そう。気付いたら私の口癖になってて、私とヴァルだけに通じる暗号のような言葉です」
「確かに、俺以外じゃ分からなかったかもな」
サテラ「ヴァルだけが分かってくれればそれでいいんですよ」
「そうかよ」
やっぱり、どんだけの時間を過ごしてても、こいつはこいつなんだなって改めて感じる。
どこか子供っぽくて、そのくせ知識の量だけは常人の域を軽く超えてて、甘えたがりなこいつを、俺は絶対に守るって誓ったんだ。
今度はもう失わない。失うわけにはいかない。2ヶ月の期限だろうと何だろうと、そんなものはこの手で燃やし尽くしてみせる。
「ネイ」
サテラ「はい」
「約束だ。俺が必ずこの世界に未来を、幸せな未来を訪れさせてみせる。だから、もう自分を犠牲にしてまで頑張らないでくれ」
サテラ「……」
「例えまた何度も繰り返すことになっても、お前のいない世界が来るくらいなら、俺が全部焼き払う。だからーー」
サテラ「分かってます。あなたが思い描く未来に私がいる奇跡を、私も願うから」
「……」
ーーやることは山積みだ。
ヴェリア、精霊王、ヒカリ、失った仲間たち。
何度でも繰り返すなんて言ったが、こんな歪んだ物語、この1回で終わらせてやる。
俺は英雄だ。ネイの英雄であり、世界の英雄王。不可能だなんて笑わせるな。
「奇跡、起こしてやろうぜ!」
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悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
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