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第6章 幕間
週末② プレゼント
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「おかえり~」
リビングで本を読んでいたキリエが帰ってきた2人を迎える。
「ただいま~。あれ、ルーシィは?」
「朝からずっと部屋にこもって何かやってるよ」
「え、お昼も食べずに?」
「うん、誘ったんだけど、今いいところだから後で食べるって」
「何やってるんだか…」
「ドーナッツ買ってきたからみんなで食べようって呼んでみるね」
その時だった、勉強部屋の扉がゆっくりと開いた。
「あ、ルーシィ、ただいま。今呼ぼうと思ってたとこ…」
「リカ。おかえりなさい。どうでしたか?市内観光は?」
部屋から出てきたのはルーシッドではなかった。すごく美人ではあるが見慣れない女性だった。
「……え、誰?」
「あ、みんなおかえり」
ルーシッドが後ろからひょっこり顔を出す。
「あ、ルーシィ!誰、この人?」
「あぁ、エアリーだよ」
「はい、エアリーです」
「ちょっと待って、状況が飲み込めない…」
頭を抱えて考え込むフェリカ。
「うん、あれだね。やっぱりエアリーは人間だったんだ。人工知能にしては出来過ぎてるというか、人工知能なんてありえないって思ってたんだ」
キリエは妙に納得したようにうんうんとうなずく。
「いえ、私は人間ではありません。これは魔法人形の体です。私が人形を術式によって動かしています。ルーシィが作ってくれました」
「まぁ、魔法人形の体自体はプロの人形師が作ったものだけどね。私が作ったのは術式だけね」
「まっ、魔法人形?人間にしか見えないわ…」
「確かに言われてみてから、じっくり観察すると人形だってわかるけど、言われなきゃわからないね…」
ルビアとフェリカはその精巧さに息をのむ。
「腕のいい人形師だよね。本当によくできてる」
「いや…人形自体の精巧さもそうだけど、エアリーの場合、普通に会話もできるし、もう人間と変わらないよ」
「仕草に関してはまだまだ勉強中です。体を動かすのは初めてなもので」
「てかさ、自立型の魔法人形ってすごいことなんじゃ…」
「そうね…この前のリスヴェルが作った自動魔法人形は、自動とは言え思考はしてなかったわ。多分魔法使いの魔力とか熱とか音とか、そういうものを検知して動いていたと思う…エアリーはその…見えているのよね?」
エアリーはルビアの方を向く。
「はい、見えていますよ。元々ルーシィの視界を通して見ていましたが、今はこの目で見ています。音も聞こえてますよ。さすがに匂いを嗅いだり、物を食べたりはできませんが」
『こりゃ本当にすごいな…何というかこれは…もはや人工生命体じゃな…』
人工生命体とは、魔法に関する文献に出てくる生成魔法『創造の魔法』によって作られる生命のことで、神の生命創造を魔法で再現しようという試みである。文献をもとに様々な魔法使いたちが取り組んだが、今のところ成功したものは誰一人としていない。
「人工生命体って本当にできるんですか?マリーさん」
『神位の妖精の中にはその力を持つものもおるだろうが、魔法でできるかと言われるとまぁ無理じゃろうな…〈魔法〉という定められた法の中では、求められる対価となる魔力が足りなすぎる。〈契約召喚〉に応じる神位の妖精もおらんじゃろうし、実質的は不可能じゃな…』
そう言うとマリーは黙ってしまった。
やはりこの『無色の魔力』は、ただの魔力の突然変異種ではない。
サラが持つ『全色の魔力』と特性が良く似てはいるが、やはり似て非なるものだ。
この力はやはり……
「あっ、そうそう。はい、キリエ。これ、プレゼント」
そう言って、ルーシッドはニーハイソックスとガーターベルトのセットを手渡した。
「え?私に?」
「うん、つけてみて?」
「うん、ありがとう?」
キリエはよくわからないまま言われた通りに履いてみる。右足は動かないので、履くのに少し時間がかかったが履くことができた。
「じゃあ、歩いてみて?」
「え?」
「多分、歩けると思うんだけど…」
ルーシッドにそう言われて、キリエは今まで全く感覚がなかった右足に確かに力が入っていることに気づく。
キリエはおそるおそる杖で体を支えるのをやめ、自分の足で立ってみる。
「うそ…立てる……」
その光景を見て、ルビアとフェリカも目を丸くする。
そして、右足を前に出そうとしてみると、確かにそれは自分の意志で動いた。
「え……なんで…?」
キリエの目から自然と涙が落ちる。
「人間の脳は、実は思考するときに微量だけど電気を発してるんだよ。その魔法具はその電気刺激を読み取って解析して、それをソックスの部分に伝えて、ソックス全体に薄く張り付けてある無色の魔力が、筋肉の伸縮の動きを疑似的に再現するようにできてるんだ」
「そんなことよく思いつくわね…」
ルビアがため息をつく。
「リスヴェルさんが全身に魔力回路を書き込んでいるのをみて思いついたんだよ。体じゃなくて、ソックスみたいに肌にぴったりフィットする素材のものに魔法回路を組み込んだら上手くいくんじゃないかなって」
「るっ、ルーシィ…あっ、ありがとう…わたしっ、私、もう二度と自分の足で、歩くことなんて、できないって、あきらめてた。私を、こんな私を、パーティーに誘ってくれただけでも、ほんとに、本当に、嬉しかったのに、私の足まで動けるようにしてくれて…ルーシィ…ルーシィはなんでそんなに私に優しくしてくれるの?」
キリエは嬉しすぎて泣きじゃくりながら尋ねる。
「なんだろう…全然違うけど、自分に重ねちゃうんだよね。人にできることが自分にできない。そんな中で何か自分にできることはないかって、あがいてもがいて……でもキリィは私と違って、そんな中でも人に当たり散らすこともなく、いつも笑顔で明るくて…そんなキリィを見てると私も元気をもらえるんだよね。だからその感謝かな」
「感謝したいのは私の方だよぉ~…ルーシィ、ありがとう。大切にするね」
キリエは満面の笑みでそう言った。
ルーシッドはその笑顔を見て、休日の成果に大いに満足したのだった。
やっぱり誰に何と言われようとまとまった時間が取れる休日は家にこもって研究するに限る、そんなおかしな結論に達するルーシッドだった。
リビングで本を読んでいたキリエが帰ってきた2人を迎える。
「ただいま~。あれ、ルーシィは?」
「朝からずっと部屋にこもって何かやってるよ」
「え、お昼も食べずに?」
「うん、誘ったんだけど、今いいところだから後で食べるって」
「何やってるんだか…」
「ドーナッツ買ってきたからみんなで食べようって呼んでみるね」
その時だった、勉強部屋の扉がゆっくりと開いた。
「あ、ルーシィ、ただいま。今呼ぼうと思ってたとこ…」
「リカ。おかえりなさい。どうでしたか?市内観光は?」
部屋から出てきたのはルーシッドではなかった。すごく美人ではあるが見慣れない女性だった。
「……え、誰?」
「あ、みんなおかえり」
ルーシッドが後ろからひょっこり顔を出す。
「あ、ルーシィ!誰、この人?」
「あぁ、エアリーだよ」
「はい、エアリーです」
「ちょっと待って、状況が飲み込めない…」
頭を抱えて考え込むフェリカ。
「うん、あれだね。やっぱりエアリーは人間だったんだ。人工知能にしては出来過ぎてるというか、人工知能なんてありえないって思ってたんだ」
キリエは妙に納得したようにうんうんとうなずく。
「いえ、私は人間ではありません。これは魔法人形の体です。私が人形を術式によって動かしています。ルーシィが作ってくれました」
「まぁ、魔法人形の体自体はプロの人形師が作ったものだけどね。私が作ったのは術式だけね」
「まっ、魔法人形?人間にしか見えないわ…」
「確かに言われてみてから、じっくり観察すると人形だってわかるけど、言われなきゃわからないね…」
ルビアとフェリカはその精巧さに息をのむ。
「腕のいい人形師だよね。本当によくできてる」
「いや…人形自体の精巧さもそうだけど、エアリーの場合、普通に会話もできるし、もう人間と変わらないよ」
「仕草に関してはまだまだ勉強中です。体を動かすのは初めてなもので」
「てかさ、自立型の魔法人形ってすごいことなんじゃ…」
「そうね…この前のリスヴェルが作った自動魔法人形は、自動とは言え思考はしてなかったわ。多分魔法使いの魔力とか熱とか音とか、そういうものを検知して動いていたと思う…エアリーはその…見えているのよね?」
エアリーはルビアの方を向く。
「はい、見えていますよ。元々ルーシィの視界を通して見ていましたが、今はこの目で見ています。音も聞こえてますよ。さすがに匂いを嗅いだり、物を食べたりはできませんが」
『こりゃ本当にすごいな…何というかこれは…もはや人工生命体じゃな…』
人工生命体とは、魔法に関する文献に出てくる生成魔法『創造の魔法』によって作られる生命のことで、神の生命創造を魔法で再現しようという試みである。文献をもとに様々な魔法使いたちが取り組んだが、今のところ成功したものは誰一人としていない。
「人工生命体って本当にできるんですか?マリーさん」
『神位の妖精の中にはその力を持つものもおるだろうが、魔法でできるかと言われるとまぁ無理じゃろうな…〈魔法〉という定められた法の中では、求められる対価となる魔力が足りなすぎる。〈契約召喚〉に応じる神位の妖精もおらんじゃろうし、実質的は不可能じゃな…』
そう言うとマリーは黙ってしまった。
やはりこの『無色の魔力』は、ただの魔力の突然変異種ではない。
サラが持つ『全色の魔力』と特性が良く似てはいるが、やはり似て非なるものだ。
この力はやはり……
「あっ、そうそう。はい、キリエ。これ、プレゼント」
そう言って、ルーシッドはニーハイソックスとガーターベルトのセットを手渡した。
「え?私に?」
「うん、つけてみて?」
「うん、ありがとう?」
キリエはよくわからないまま言われた通りに履いてみる。右足は動かないので、履くのに少し時間がかかったが履くことができた。
「じゃあ、歩いてみて?」
「え?」
「多分、歩けると思うんだけど…」
ルーシッドにそう言われて、キリエは今まで全く感覚がなかった右足に確かに力が入っていることに気づく。
キリエはおそるおそる杖で体を支えるのをやめ、自分の足で立ってみる。
「うそ…立てる……」
その光景を見て、ルビアとフェリカも目を丸くする。
そして、右足を前に出そうとしてみると、確かにそれは自分の意志で動いた。
「え……なんで…?」
キリエの目から自然と涙が落ちる。
「人間の脳は、実は思考するときに微量だけど電気を発してるんだよ。その魔法具はその電気刺激を読み取って解析して、それをソックスの部分に伝えて、ソックス全体に薄く張り付けてある無色の魔力が、筋肉の伸縮の動きを疑似的に再現するようにできてるんだ」
「そんなことよく思いつくわね…」
ルビアがため息をつく。
「リスヴェルさんが全身に魔力回路を書き込んでいるのをみて思いついたんだよ。体じゃなくて、ソックスみたいに肌にぴったりフィットする素材のものに魔法回路を組み込んだら上手くいくんじゃないかなって」
「るっ、ルーシィ…あっ、ありがとう…わたしっ、私、もう二度と自分の足で、歩くことなんて、できないって、あきらめてた。私を、こんな私を、パーティーに誘ってくれただけでも、ほんとに、本当に、嬉しかったのに、私の足まで動けるようにしてくれて…ルーシィ…ルーシィはなんでそんなに私に優しくしてくれるの?」
キリエは嬉しすぎて泣きじゃくりながら尋ねる。
「なんだろう…全然違うけど、自分に重ねちゃうんだよね。人にできることが自分にできない。そんな中で何か自分にできることはないかって、あがいてもがいて……でもキリィは私と違って、そんな中でも人に当たり散らすこともなく、いつも笑顔で明るくて…そんなキリィを見てると私も元気をもらえるんだよね。だからその感謝かな」
「感謝したいのは私の方だよぉ~…ルーシィ、ありがとう。大切にするね」
キリエは満面の笑みでそう言った。
ルーシッドはその笑顔を見て、休日の成果に大いに満足したのだった。
やっぱり誰に何と言われようとまとまった時間が取れる休日は家にこもって研究するに限る、そんなおかしな結論に達するルーシッドだった。
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