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第6章 幕間
週末④ ルーシッドの人間関係
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「お、いたいた!おーい!」
ルーシッドがリサの部屋を後にし、自室に戻ろうとしていると、後ろから声をかけられた。ルーシッドは自分を呼んでいるのかどうかわからなかったが、一応立ち止まって後ろを振り向く。
すると自分よりも少し身長が低く、キリエと同じくらいの身長の女の子が、笑顔で手を振りながらこちらに近づいてくる。誰だろう、見覚えはない。だが、ディナカレア魔法学院の学生服を着ているので、たぶん学生だろう。
「えっと…私ですか?」
ルーシッドが一応声をかける。
「そうそう。やっと会えた。どう、ルーシッドさん、学院生活楽しんでる?」
「えっと…まぁ、そうですね。はい、今のところは……ところで以前どこかでお会いしましたか?」
やたらとフレンドリーに話しかけてくるので、ルーシッドはそう尋ねた。
「おっと、失礼。こうして話すのは初めてだもんね。私はこのディナカレア魔法学院の理事長、シンシア・サクリフィスっていうの。気軽にシンディって呼んでね。よろしくね、ルーシッドさん」
「………なるほど、理事長でしたか」
「あんまり驚かないのね?新入生にこうやって声をかけると普通もっと驚くんだけど…さすがに肝が据わってるのね~」
シンシアはつまんないという感じで口をすぼめる。
「いや、驚いてますよ。理事長が学生服を着ているということに…」
「そこ!?」
「なぜ理事長が学生服を着て、こんなとこをうろうろしているんですか?」
「なんかすごいトゲがある言い方だなぁ…おほんっ、こうやって学校に溶け込むことで、リアルな学生の声を聞いて、それを校の運営に生かしたいのだよ」
「なるほど…」
もっともらしいことを言っているが、実際は学生服を着ていた方がどこにでも入り込めて便利だからである。
「いやー、ルーシッドさんは面白いよね。ホント、見てて飽きないよ。やっぱり入れて正解だったね」
「やっぱり私を編入という形で入れてくれたのは理事長の計らいでしたか」
「そうそう、この学院の先生陣もまだまだ頭が硬くてね…正規の入学は認められないって言うんでさ…妥協案として裏技的な感じでね。ごめんね、ペーパーテストも1位、模擬戦も優勝。普通なら絶対主席なのにさ。入学式にも出してあげられなくて…ホント申し訳ない。学院を代表して謝罪します」
シンシアは深々と頭を下げた。
「いや、そんな…こっちは半分入学自体無理かなと思ってたんで。むしろ本当に感謝です。ありがとうございます」
「『無色の魔力』に対する誤解も少しずつ解けていくといいんだけどね…」
「理事長は『無色の魔力』について何かご存じなんですか?」
「噂には聞いたことがあったけど、実際に見るのは初めてだね。そもそもFランクっていう評価自体も初めて見たよ」
入学試験の時に使われていた『鑑定の水晶』は、『人工魔法石』や『結晶の指輪』を作る時にも用いられる特殊な魔法石を使って作られる魔法具で、その製造方法ゆえに非常に高価でありどこにでもあるというわけではない。魔法学院のような大きな魔法研究機関や、大手ギルドや行政機関などにあるぐらいである。
魔力というのは遺伝によってその色が決まるので、ほとんどの魔法使いは親から自分の魔力の色を教えてもらうことになる。王族や特権階級、お金持ちの家などを除いて、自分のだいたいの魔力の色以外の数値に関しては知らないことが多い。親や、町や村にいる魔法使いから教わったり、本を読んで勉強したりして、魔法詠唱の基礎を身に着けていくのだ。
ルーシッドの場合もそれと同じで、親から教えられた魔力に適する魔法を唱えても全く魔法が発動せず、思い当たる魔法、ものすごく低位の魔法などありとあらゆる魔法を試したが、全く発動しなかったので、『魔力がない』『魔法の適性がない』という風に判断されてしまったのだった。
「今の魔力測定だと『純度』『基本属性数』『魔力生成速度』『最大魔力量』の4項目のどれかが0だと、『魔法が使えない』っていう評価になって、理論上はFっていう評価になると思うんだよね。
でも、魔力測定って誰もがやるわけじゃないじゃない?だから『無色の魔力』って言われてきた人たちが、ルーシッドさんと本当に同じかどうかもわからないよね。『魔力生成速度』か『最大魔力量』が0…ってのは多分あり得ないと思うから、0に限りなく近いくらい魔力が弱くて魔法が使えないっていう人が『魔力がない原因は魔力の色がないからだ』って誤解されて『無色の魔力』って言われていた可能性もあるよね」
「なるほど。確かに…そういう風に考えたことはなかったですね」
ルーシッドは興味深そうに考え込む。
「でも、ルーシッドさんの場合は、魔力がないんじゃなくて、魔力の色がないんだもんね。だから、それとは違うよね。『無色』っていう色を測定することができない『鑑定の水晶』のいわばバグみたいなものかな。でも、一研究者としてはすごく興味深い研究材料だね。これを魔法が使えないなら研究する意味がない、と頭ごなしに否定するのはどうかと思うね」
「そうですね。調べれば調べるほど新たな発見があり、疑問が出てきます。私自身もまだその全てを理解できているわけではないと思います」
「後で詳しく聞かせてね」
「えぇ、いいですよ」
「ところで、その隣にいるのは誰だい?」
ずっと気になっていたらしく、さっきからちらちらとエアリーの方を見ていたシンシアがそう尋ねた。エアリーは先ほどからルーシッドの隣で黙って2人の会話を聞いていたのだった。
「あぁ、エアリーって言いまして、私が作った人工知能を搭載した自動魔法人形みたいな感じです」
「どうも、シンシア理事長。たった今紹介に預かりましたエアリーです。以後お見知りおきを」
「こっ、これはたまげたね…エアリーには意思があるのかい?」
「意思…難しい質問ですね。私はあくまで収集した情報をもとに考えて話しているだけです。それを意思と呼ぶなら、そうなのかもしれません」
「ふむ……ルーシッドさんの本当のすごさは無色の魔力自体というか、その発想力や独創性にある気がするねぇ…」
シンシアとの立ち話を終えた辺りで、ちょうどお昼の鐘が鳴ったところだった。お昼はルビア達、そしてサラ達2年生組と食堂で食べる約束をしていたので、ルーシッドは食堂へと向かったのだった。
「……え、エアリー?」
「はい、そうです。エアリーです」
サラ達はルーシッドからエアリーを紹介されて驚き惑う。
「たっ、確かに、オリガが作ったオルガも本物と見間違うほどの完成度でしたが…これはそれ以上ですね…」
「これマジで人間じゃん、ヤバ…」
「ですよね…昨日見せられた時私たちも驚きました」
「さっきキリエが作ってもらったっていう足の魔法具を見せてもらった時も驚いたけど、これはそれ以上だわ…」
エアリーは同席することができてうれしそうに、ルーシッドの隣の席に座ってその話を聞いていた。
「やぁ、ルーシィ。一昨日はどうも」
食事をしていると、声をかけてくる生徒がいた。顔を上げてみると、レイチェル・フランメルだった。そして、横にはクレア・グランド。さらには、ゲイリー・シュトロームとオリガ・シュタインの姿もあった。
「もう体は大丈夫なんですか?」
「あのくらいどうってことないさ。ルーシィは才能はあるけど、筋力はないね。もう少し鍛えた方がいいよ」
「マーシャさんみたいなこと言わないでくださいよ…」
「ははは。みんなも今回の件では本当に迷惑をかけたね。それもこれも全て自分のギルドをまとめ上げられなかった自分の責任だ。本当にすまなかった」
レイチェルは深々と頭を下げた。
「本当は自分で解決しなければいけない問題なのに、クレアや無関係のルーシィ、それに風紀ギルドや生徒会ギルドの手まで借りてしまった。情けない話だ。私がしっかりしていれば、今回処分を受けた生徒たちもそうならずに済んだかもしれないのに…」
「レイチェル先輩は今回の件で何か処分は受けずに済んだんですか?」
「あぁ、私は自分も同罪だから処分を受けても構わないと言ったんだけどね。ゲイリーとオリガが、私が今回の件に一切関与していないと証言してくれたのでね。全校集会を妨害した件に関する厳重注意だけという形になったよ」
レイチェルは肩をすくめた。
「そういえば、ゲイリー先輩達とは仲直りできたんですね」
「おかげさまで。まぁ悪いのは元々私たちの方だったし」
ゲイリーが恥ずかしそうに答える。
「ゲイリーとオリガも本当に申し訳なかった。精神的に追い込んでしまったことで酷い目に合わせてしまった」
「レイは悪くないわ。間違った強さを求めたのは私だから。だから自分を責めないで」
「そうです。それにそのお陰で目が覚めたっていうか、間違いに気づいたので、むしろ良かったみたいな?」
「まぁいずれにしろ、今回の件を解決できたのは皆さんのお陰です。特に、ルーシィ、あなたには本当に感謝してるわ。私の無理なお願いを聞いてくれてありがとう」
クレアはそう言ってルーシッドに頭を下げた。それに合わせて、他の3人も口々にルーシッドにお礼を言って頭を下げたのだった。
「いや、そんな。お礼なんていいですよ。今回の件では私も色々と新しいアイデアのヒントをもらえたので。ウィンウィンって感じで」
「あの…さっきから気になってたんですけど、ルーシィの横に座ってるのって、魔法人形ですか?」
オリガがおずおずと尋ねる。
「あ、はい。そうです。これも今回の件で思いついたものの一つです」
「でもルーシィって『魔法の糸』使えるの?」
「いえ、使えませんよ。これは自分で動けるんです」
ルーシッドがそう言うと、人形、すなわちエアリーが頭をオリガの方に向けた。
「どうも、お久しぶりです」
「え…どこかでお会いしましたっけ?
……って今普通に返しちゃったけど、えっ、喋った!?」
「あ、これは失礼。私の方が一方的に知っているだけでした。私はルーシィによって作られた人工知能のエアリーと申します。今はルーシィからもらったこの体を借りて話しています」
「こっ、これは驚いた…人工知能っていうと、自分の意思で考えたり動いたりできるってことかい?」
「はい。皆さんのことはすでに知っていますよ。この体をもらう前から私は存在していましたから」
「これはすごいな…ちゃんと意思疎通ができるのか…これを全部ルーシィが作ったのかい?」
「私が作ったのは、人工知能の構造式とそれを動かす術式、あとはエアリーの目と耳と口の機能と、エアリーと人形の各部位を繋いで動かせるようにした術式だけですよ。人形の本体は人形師の人が作ったものです」
「すごい、というかもうむちゃくちゃです…これこそが完成形の『自動魔法人形』です。リスヴェルさんが作ったものがかすんで見えるくらいです。そもそもこの人形自体の完成度が極めて高い…こ、これはもしかして、いえ、もしかしなくてもマリエル・オネトルティア作ですか?」
「あ、はい。そうです。結構有名なんですか?」
「有名というか何というか…世界最高峰の人形師の1人です。特に人形の造形に関して言えば間違いなく世界最高ですね。触っていただければわかりますけど、もう肌の質感とか本物の人間みたいなんですよ。この素材が何なのかはマリエルさん以外は誰も知りません。私が作った木製の人形をゴムで覆ったような見た目だけのものではなく、本当に細部に至るまで人間に限りなく近く作られてるんです。私なんて到底足元にも及びません。同じ人形師を名乗るのが恥ずかしいくらいです」
「へぇ…何となくふらっと立ち寄った店だったので、そんなすごい方とは知りませんでした」
ルーシッドはエアリーの腕をふにふにと触りながら答えた。エアリーは黙って触らせている。
確かに人間の皮膚のようだ。しかも、ふにふにした中に骨のような構造のものがある…どういう風にして作っているんだろう。他の魔法人形を見たことも触ったこともないので、これがすごいものだということに気づきもしなかった。ルーシッドにとってはこれが初めて触る魔法人形なのだから。初めて手にする魔法人形がそんなに良いものだったとは。
「大きさとか用途にもよりますけど、これだけ完成度が高い魔法人形なら、オウロ金貨10枚(一千万円)はくだらないんじゃないですか?」
「ちょっ、ちょっと……る、るるっ、ルーシィ!?」
サラが目を丸くして、ルーシッドを見る。だが、一番驚いていたのはルーシッドだった。店に飾ってある人形には値段は書いてなかった。
高いんだろうなーとは思っていたけど、まさかそんなに高いとは考えていなかった。
てか、そんなものをタダで!?あの人気前良すぎでしょ!
「というか値段もそうですけど、マリエルさんは気に入った人にしか人形を売らないんです。どんなにお金を出したって欲しいって人はいっぱいいますけど、そもそも買えないんですよ。よく売ってもらえましたね?」
「あー…そのー……も、もらいました」
「……はぃ?」
全員が頭にはてなマークを浮かべたように、ぽかんとする。
「なんか、式の構築を失敗して売り物にならないやつだからって、もらいました」
「そ、そんなことってありえるの?」
「私にはどこが間違っているのか全然わかりません。恐らくマリエルさんにしかわからないちょっとした設計ミスなんじゃないでしょうか…」
「エアリーが完成したら見せるって約束していたので、今日の午後言って、お礼を言わないと…」
「そうしなさい、いいわね、ルーシィ、是非そうしなさい」
サラは自分の子供を教え諭すようにしてルーシッドに言うのだった。
「という訳で、そんなに高いものだとは知らず…本当にありがとうございます」
午後、ルーシッドはエアリーと共にマリエルの店を尋ねていた。店は休日で休みだったが、家とつながっていて、自宅の方に通されていた。家の中はアンティークな家具や小物で統一された落ち着いた部屋だった。
「いいのよ。そんなこと気にしなくて。全く、値段の事言ったのはオリガちゃんね…気にして欲しくないからあえて言わなかったのに」
「そんなにすごい方だとは知らず、申し訳ありませんでした」
「すごいだなんてとんでもない。私はただ自分の納得のいく作品を作っているだけよ。それよりも、それがあなたの言っていたものなのね?」
「はい、私が作った人工知能のエアリーを使って動かしている自動魔法人形です」
そう言うと、エアリーは頭を下げた。
「どうも、エアリーです。こんな素晴らしい体をくださってありがとうございます」
「驚いたわ…何十年も人形師をやっているけど、こんな人形は見たことがないわ。リスヴェルの自動魔法人形を見た時も驚いたけど、これはそんなものじゃないわね」
「マリエルさんはやっぱりリスヴェルさんのこと知ってるんですね」
「えぇ、古くからの友人よ。まぁ、人形師同士はほとんど知り合いだけどね。オリガちゃんもそうだし。リスヴェルはそうね…天才過ぎたわ。今回のことはすごく残念だわ。リスヴェルの素晴らしい才能をもっと良いことに使って欲しかったわ。リスヴェルも心を改めてくれると良いのだけど…」
「全く同感です。リスヴェルさんの作品がなければ、エアリーのことも思いつかなかったと思います。実はその…リスヴェルさんを倒したのは私達なんです」
「あら、そうだったの?あなた本当にすごいのね」
「まぁ、友達も一緒だったので」
「私はね、人形師をやっているけど、人形が物のように扱われるのがたまらなく辛いのよ。もちろん仕方のないことだとわかってはいるわ。人間には難しい危険な仕事を代わりにやらせる、人形には辛いとか大変とか嫌だとかいう感情もないし、そもそもそのためにあるようなものだからね、魔法人形ってのは。でも、わかってはいてもやっぱり辛いのよ。自分の人形がボロボロになって修理に持ってこられるのはね。だからなるべく人間に近くて、逆に作業とかに全然向いていない人形を作ってやろうって思ったのよ。それが逆にウケてしまっているところはあるけどね」
マリエルはいたずらっぽく笑った。
「なるほど…じゃあどうして私には譲ってくれたんですか?」
「そうね…まぁ簡単に言ってしまえば勘かしらね?人形師の勘。店に入ってきた時に何か直感的に感じたのよね。それに、あなた私の人形を見て真っ先に『かわいい』って言ってくれたし。まぁ、私の勘に狂いはなかったわね。この人形なら絶対に大事に使ってくれそうだもの。だってもうこれは生きていると言っていいでしょ?」
「そうですね。絶対大事にします」
「でももし万が一どこか調子が悪くなったら言ってね。直してあげるから。それにたまには顔を出してね。ルーシィちゃんにとってもこのエアリーは家族みたいなものでしょうけど、私にとっても子供みたいなものだから。自分が作った子供がこうして動いて喋ってるなんて、何か感動だわ」
「何でしょう…この感覚は……私に心はないはずなのに、胸のこの辺りがぽかぽかする気がします…」
エアリーは胸を手で押さえてつぶやいた。
「エアリー、それが『感情』っていうものだと思うよ。きっとその体にはマリエルさんの愛情が込められてるから、マリエルさんの言葉に本能的に反応しているんじゃないかな」
「なるほど、実に非論理的で何の根拠もありませんが、そうなのかもしれません」
「……そういうところ…ホント、エアリーらしいよね」
ルーシッドとマリエルは目が合って笑い合った。
ルーシッドがリサの部屋を後にし、自室に戻ろうとしていると、後ろから声をかけられた。ルーシッドは自分を呼んでいるのかどうかわからなかったが、一応立ち止まって後ろを振り向く。
すると自分よりも少し身長が低く、キリエと同じくらいの身長の女の子が、笑顔で手を振りながらこちらに近づいてくる。誰だろう、見覚えはない。だが、ディナカレア魔法学院の学生服を着ているので、たぶん学生だろう。
「えっと…私ですか?」
ルーシッドが一応声をかける。
「そうそう。やっと会えた。どう、ルーシッドさん、学院生活楽しんでる?」
「えっと…まぁ、そうですね。はい、今のところは……ところで以前どこかでお会いしましたか?」
やたらとフレンドリーに話しかけてくるので、ルーシッドはそう尋ねた。
「おっと、失礼。こうして話すのは初めてだもんね。私はこのディナカレア魔法学院の理事長、シンシア・サクリフィスっていうの。気軽にシンディって呼んでね。よろしくね、ルーシッドさん」
「………なるほど、理事長でしたか」
「あんまり驚かないのね?新入生にこうやって声をかけると普通もっと驚くんだけど…さすがに肝が据わってるのね~」
シンシアはつまんないという感じで口をすぼめる。
「いや、驚いてますよ。理事長が学生服を着ているということに…」
「そこ!?」
「なぜ理事長が学生服を着て、こんなとこをうろうろしているんですか?」
「なんかすごいトゲがある言い方だなぁ…おほんっ、こうやって学校に溶け込むことで、リアルな学生の声を聞いて、それを校の運営に生かしたいのだよ」
「なるほど…」
もっともらしいことを言っているが、実際は学生服を着ていた方がどこにでも入り込めて便利だからである。
「いやー、ルーシッドさんは面白いよね。ホント、見てて飽きないよ。やっぱり入れて正解だったね」
「やっぱり私を編入という形で入れてくれたのは理事長の計らいでしたか」
「そうそう、この学院の先生陣もまだまだ頭が硬くてね…正規の入学は認められないって言うんでさ…妥協案として裏技的な感じでね。ごめんね、ペーパーテストも1位、模擬戦も優勝。普通なら絶対主席なのにさ。入学式にも出してあげられなくて…ホント申し訳ない。学院を代表して謝罪します」
シンシアは深々と頭を下げた。
「いや、そんな…こっちは半分入学自体無理かなと思ってたんで。むしろ本当に感謝です。ありがとうございます」
「『無色の魔力』に対する誤解も少しずつ解けていくといいんだけどね…」
「理事長は『無色の魔力』について何かご存じなんですか?」
「噂には聞いたことがあったけど、実際に見るのは初めてだね。そもそもFランクっていう評価自体も初めて見たよ」
入学試験の時に使われていた『鑑定の水晶』は、『人工魔法石』や『結晶の指輪』を作る時にも用いられる特殊な魔法石を使って作られる魔法具で、その製造方法ゆえに非常に高価でありどこにでもあるというわけではない。魔法学院のような大きな魔法研究機関や、大手ギルドや行政機関などにあるぐらいである。
魔力というのは遺伝によってその色が決まるので、ほとんどの魔法使いは親から自分の魔力の色を教えてもらうことになる。王族や特権階級、お金持ちの家などを除いて、自分のだいたいの魔力の色以外の数値に関しては知らないことが多い。親や、町や村にいる魔法使いから教わったり、本を読んで勉強したりして、魔法詠唱の基礎を身に着けていくのだ。
ルーシッドの場合もそれと同じで、親から教えられた魔力に適する魔法を唱えても全く魔法が発動せず、思い当たる魔法、ものすごく低位の魔法などありとあらゆる魔法を試したが、全く発動しなかったので、『魔力がない』『魔法の適性がない』という風に判断されてしまったのだった。
「今の魔力測定だと『純度』『基本属性数』『魔力生成速度』『最大魔力量』の4項目のどれかが0だと、『魔法が使えない』っていう評価になって、理論上はFっていう評価になると思うんだよね。
でも、魔力測定って誰もがやるわけじゃないじゃない?だから『無色の魔力』って言われてきた人たちが、ルーシッドさんと本当に同じかどうかもわからないよね。『魔力生成速度』か『最大魔力量』が0…ってのは多分あり得ないと思うから、0に限りなく近いくらい魔力が弱くて魔法が使えないっていう人が『魔力がない原因は魔力の色がないからだ』って誤解されて『無色の魔力』って言われていた可能性もあるよね」
「なるほど。確かに…そういう風に考えたことはなかったですね」
ルーシッドは興味深そうに考え込む。
「でも、ルーシッドさんの場合は、魔力がないんじゃなくて、魔力の色がないんだもんね。だから、それとは違うよね。『無色』っていう色を測定することができない『鑑定の水晶』のいわばバグみたいなものかな。でも、一研究者としてはすごく興味深い研究材料だね。これを魔法が使えないなら研究する意味がない、と頭ごなしに否定するのはどうかと思うね」
「そうですね。調べれば調べるほど新たな発見があり、疑問が出てきます。私自身もまだその全てを理解できているわけではないと思います」
「後で詳しく聞かせてね」
「えぇ、いいですよ」
「ところで、その隣にいるのは誰だい?」
ずっと気になっていたらしく、さっきからちらちらとエアリーの方を見ていたシンシアがそう尋ねた。エアリーは先ほどからルーシッドの隣で黙って2人の会話を聞いていたのだった。
「あぁ、エアリーって言いまして、私が作った人工知能を搭載した自動魔法人形みたいな感じです」
「どうも、シンシア理事長。たった今紹介に預かりましたエアリーです。以後お見知りおきを」
「こっ、これはたまげたね…エアリーには意思があるのかい?」
「意思…難しい質問ですね。私はあくまで収集した情報をもとに考えて話しているだけです。それを意思と呼ぶなら、そうなのかもしれません」
「ふむ……ルーシッドさんの本当のすごさは無色の魔力自体というか、その発想力や独創性にある気がするねぇ…」
シンシアとの立ち話を終えた辺りで、ちょうどお昼の鐘が鳴ったところだった。お昼はルビア達、そしてサラ達2年生組と食堂で食べる約束をしていたので、ルーシッドは食堂へと向かったのだった。
「……え、エアリー?」
「はい、そうです。エアリーです」
サラ達はルーシッドからエアリーを紹介されて驚き惑う。
「たっ、確かに、オリガが作ったオルガも本物と見間違うほどの完成度でしたが…これはそれ以上ですね…」
「これマジで人間じゃん、ヤバ…」
「ですよね…昨日見せられた時私たちも驚きました」
「さっきキリエが作ってもらったっていう足の魔法具を見せてもらった時も驚いたけど、これはそれ以上だわ…」
エアリーは同席することができてうれしそうに、ルーシッドの隣の席に座ってその話を聞いていた。
「やぁ、ルーシィ。一昨日はどうも」
食事をしていると、声をかけてくる生徒がいた。顔を上げてみると、レイチェル・フランメルだった。そして、横にはクレア・グランド。さらには、ゲイリー・シュトロームとオリガ・シュタインの姿もあった。
「もう体は大丈夫なんですか?」
「あのくらいどうってことないさ。ルーシィは才能はあるけど、筋力はないね。もう少し鍛えた方がいいよ」
「マーシャさんみたいなこと言わないでくださいよ…」
「ははは。みんなも今回の件では本当に迷惑をかけたね。それもこれも全て自分のギルドをまとめ上げられなかった自分の責任だ。本当にすまなかった」
レイチェルは深々と頭を下げた。
「本当は自分で解決しなければいけない問題なのに、クレアや無関係のルーシィ、それに風紀ギルドや生徒会ギルドの手まで借りてしまった。情けない話だ。私がしっかりしていれば、今回処分を受けた生徒たちもそうならずに済んだかもしれないのに…」
「レイチェル先輩は今回の件で何か処分は受けずに済んだんですか?」
「あぁ、私は自分も同罪だから処分を受けても構わないと言ったんだけどね。ゲイリーとオリガが、私が今回の件に一切関与していないと証言してくれたのでね。全校集会を妨害した件に関する厳重注意だけという形になったよ」
レイチェルは肩をすくめた。
「そういえば、ゲイリー先輩達とは仲直りできたんですね」
「おかげさまで。まぁ悪いのは元々私たちの方だったし」
ゲイリーが恥ずかしそうに答える。
「ゲイリーとオリガも本当に申し訳なかった。精神的に追い込んでしまったことで酷い目に合わせてしまった」
「レイは悪くないわ。間違った強さを求めたのは私だから。だから自分を責めないで」
「そうです。それにそのお陰で目が覚めたっていうか、間違いに気づいたので、むしろ良かったみたいな?」
「まぁいずれにしろ、今回の件を解決できたのは皆さんのお陰です。特に、ルーシィ、あなたには本当に感謝してるわ。私の無理なお願いを聞いてくれてありがとう」
クレアはそう言ってルーシッドに頭を下げた。それに合わせて、他の3人も口々にルーシッドにお礼を言って頭を下げたのだった。
「いや、そんな。お礼なんていいですよ。今回の件では私も色々と新しいアイデアのヒントをもらえたので。ウィンウィンって感じで」
「あの…さっきから気になってたんですけど、ルーシィの横に座ってるのって、魔法人形ですか?」
オリガがおずおずと尋ねる。
「あ、はい。そうです。これも今回の件で思いついたものの一つです」
「でもルーシィって『魔法の糸』使えるの?」
「いえ、使えませんよ。これは自分で動けるんです」
ルーシッドがそう言うと、人形、すなわちエアリーが頭をオリガの方に向けた。
「どうも、お久しぶりです」
「え…どこかでお会いしましたっけ?
……って今普通に返しちゃったけど、えっ、喋った!?」
「あ、これは失礼。私の方が一方的に知っているだけでした。私はルーシィによって作られた人工知能のエアリーと申します。今はルーシィからもらったこの体を借りて話しています」
「こっ、これは驚いた…人工知能っていうと、自分の意思で考えたり動いたりできるってことかい?」
「はい。皆さんのことはすでに知っていますよ。この体をもらう前から私は存在していましたから」
「これはすごいな…ちゃんと意思疎通ができるのか…これを全部ルーシィが作ったのかい?」
「私が作ったのは、人工知能の構造式とそれを動かす術式、あとはエアリーの目と耳と口の機能と、エアリーと人形の各部位を繋いで動かせるようにした術式だけですよ。人形の本体は人形師の人が作ったものです」
「すごい、というかもうむちゃくちゃです…これこそが完成形の『自動魔法人形』です。リスヴェルさんが作ったものがかすんで見えるくらいです。そもそもこの人形自体の完成度が極めて高い…こ、これはもしかして、いえ、もしかしなくてもマリエル・オネトルティア作ですか?」
「あ、はい。そうです。結構有名なんですか?」
「有名というか何というか…世界最高峰の人形師の1人です。特に人形の造形に関して言えば間違いなく世界最高ですね。触っていただければわかりますけど、もう肌の質感とか本物の人間みたいなんですよ。この素材が何なのかはマリエルさん以外は誰も知りません。私が作った木製の人形をゴムで覆ったような見た目だけのものではなく、本当に細部に至るまで人間に限りなく近く作られてるんです。私なんて到底足元にも及びません。同じ人形師を名乗るのが恥ずかしいくらいです」
「へぇ…何となくふらっと立ち寄った店だったので、そんなすごい方とは知りませんでした」
ルーシッドはエアリーの腕をふにふにと触りながら答えた。エアリーは黙って触らせている。
確かに人間の皮膚のようだ。しかも、ふにふにした中に骨のような構造のものがある…どういう風にして作っているんだろう。他の魔法人形を見たことも触ったこともないので、これがすごいものだということに気づきもしなかった。ルーシッドにとってはこれが初めて触る魔法人形なのだから。初めて手にする魔法人形がそんなに良いものだったとは。
「大きさとか用途にもよりますけど、これだけ完成度が高い魔法人形なら、オウロ金貨10枚(一千万円)はくだらないんじゃないですか?」
「ちょっ、ちょっと……る、るるっ、ルーシィ!?」
サラが目を丸くして、ルーシッドを見る。だが、一番驚いていたのはルーシッドだった。店に飾ってある人形には値段は書いてなかった。
高いんだろうなーとは思っていたけど、まさかそんなに高いとは考えていなかった。
てか、そんなものをタダで!?あの人気前良すぎでしょ!
「というか値段もそうですけど、マリエルさんは気に入った人にしか人形を売らないんです。どんなにお金を出したって欲しいって人はいっぱいいますけど、そもそも買えないんですよ。よく売ってもらえましたね?」
「あー…そのー……も、もらいました」
「……はぃ?」
全員が頭にはてなマークを浮かべたように、ぽかんとする。
「なんか、式の構築を失敗して売り物にならないやつだからって、もらいました」
「そ、そんなことってありえるの?」
「私にはどこが間違っているのか全然わかりません。恐らくマリエルさんにしかわからないちょっとした設計ミスなんじゃないでしょうか…」
「エアリーが完成したら見せるって約束していたので、今日の午後言って、お礼を言わないと…」
「そうしなさい、いいわね、ルーシィ、是非そうしなさい」
サラは自分の子供を教え諭すようにしてルーシッドに言うのだった。
「という訳で、そんなに高いものだとは知らず…本当にありがとうございます」
午後、ルーシッドはエアリーと共にマリエルの店を尋ねていた。店は休日で休みだったが、家とつながっていて、自宅の方に通されていた。家の中はアンティークな家具や小物で統一された落ち着いた部屋だった。
「いいのよ。そんなこと気にしなくて。全く、値段の事言ったのはオリガちゃんね…気にして欲しくないからあえて言わなかったのに」
「そんなにすごい方だとは知らず、申し訳ありませんでした」
「すごいだなんてとんでもない。私はただ自分の納得のいく作品を作っているだけよ。それよりも、それがあなたの言っていたものなのね?」
「はい、私が作った人工知能のエアリーを使って動かしている自動魔法人形です」
そう言うと、エアリーは頭を下げた。
「どうも、エアリーです。こんな素晴らしい体をくださってありがとうございます」
「驚いたわ…何十年も人形師をやっているけど、こんな人形は見たことがないわ。リスヴェルの自動魔法人形を見た時も驚いたけど、これはそんなものじゃないわね」
「マリエルさんはやっぱりリスヴェルさんのこと知ってるんですね」
「えぇ、古くからの友人よ。まぁ、人形師同士はほとんど知り合いだけどね。オリガちゃんもそうだし。リスヴェルはそうね…天才過ぎたわ。今回のことはすごく残念だわ。リスヴェルの素晴らしい才能をもっと良いことに使って欲しかったわ。リスヴェルも心を改めてくれると良いのだけど…」
「全く同感です。リスヴェルさんの作品がなければ、エアリーのことも思いつかなかったと思います。実はその…リスヴェルさんを倒したのは私達なんです」
「あら、そうだったの?あなた本当にすごいのね」
「まぁ、友達も一緒だったので」
「私はね、人形師をやっているけど、人形が物のように扱われるのがたまらなく辛いのよ。もちろん仕方のないことだとわかってはいるわ。人間には難しい危険な仕事を代わりにやらせる、人形には辛いとか大変とか嫌だとかいう感情もないし、そもそもそのためにあるようなものだからね、魔法人形ってのは。でも、わかってはいてもやっぱり辛いのよ。自分の人形がボロボロになって修理に持ってこられるのはね。だからなるべく人間に近くて、逆に作業とかに全然向いていない人形を作ってやろうって思ったのよ。それが逆にウケてしまっているところはあるけどね」
マリエルはいたずらっぽく笑った。
「なるほど…じゃあどうして私には譲ってくれたんですか?」
「そうね…まぁ簡単に言ってしまえば勘かしらね?人形師の勘。店に入ってきた時に何か直感的に感じたのよね。それに、あなた私の人形を見て真っ先に『かわいい』って言ってくれたし。まぁ、私の勘に狂いはなかったわね。この人形なら絶対に大事に使ってくれそうだもの。だってもうこれは生きていると言っていいでしょ?」
「そうですね。絶対大事にします」
「でももし万が一どこか調子が悪くなったら言ってね。直してあげるから。それにたまには顔を出してね。ルーシィちゃんにとってもこのエアリーは家族みたいなものでしょうけど、私にとっても子供みたいなものだから。自分が作った子供がこうして動いて喋ってるなんて、何か感動だわ」
「何でしょう…この感覚は……私に心はないはずなのに、胸のこの辺りがぽかぽかする気がします…」
エアリーは胸を手で押さえてつぶやいた。
「エアリー、それが『感情』っていうものだと思うよ。きっとその体にはマリエルさんの愛情が込められてるから、マリエルさんの言葉に本能的に反応しているんじゃないかな」
「なるほど、実に非論理的で何の根拠もありませんが、そうなのかもしれません」
「……そういうところ…ホント、エアリーらしいよね」
ルーシッドとマリエルは目が合って笑い合った。
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