魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

文字の大きさ
48 / 153
第7章 魔法学院の授業風景編

授業⑧ チーム演習⑥ 

しおりを挟む
「ジョンのところは簡単だよ」
「か、簡単かい?」
「うん、アンならもうわかるんじゃない?」
「そうね。コニーにならできるわ。さっき私たちがやったことを思い出してみて。一度の魔法で登ろうと思わないで」
そう言われて、コニアは静かに言った。
「なるほど、わかった」


そう、コニアの魔力の色は『紺色』。
紺色は『青と黒の混色』で、全ての色の中で唯一、単色で『氷の魔法』が使える魔力である。

そして、氷の魔法も石の魔法と同様に、魔法によって作り出された物質は、外的な要因によって壊されたり溶かされたりしない限りは、魔法の発動が終了してもそこに残り続けるという特徴を持つのだ。


"oPen the fiAry GATE.
(開け、妖精界の門)

in-g,rE,DIeNT = blUE + blACK.
(食材は青と黒の魔力)

re:ciPE = ICE-cREam.
(調理法は氷菓)

1 OF the ele:MenTs, UN-DINE + icE fiaRY, jaCK O' froST.
(四大の一つ、水の精ウンディーネ、氷の妖精、ジャックフロストよ)

brING watER → ICE.
(水よ来りて、形を変え、氷塊となれ)

ICE CREATE + MODELING MAGIC."
(氷の生成および造形魔法)

氷の魔法を使う方法は3種類ある。1つは今コニアがやったように、水の妖精と氷の妖精の2人を同時に使役する方法である。これをするには青と黒の混色の魔力が必要である。もう1つはそこに元々存在する水を使う方法で、これだと黒の魔力だけで良い。だがこれは魔法を使用できるかが状況によって左右されてしまう。以前にキリエとマリーが行ったように、他の魔法使いが生成した水を使用するという手もある。
そしてもう1つは、神位の氷の妖精を使役する方法である。神位の妖精は1人で2属性以上使用でき、とりわけ神位の氷の妖精は単体で氷を発生させることができるため、紺の魔力をそのままつかうことができる。
だが、神位の妖精であるため、ランクが低い魔法使いだと使用することはできない。
これは『鉄の生成および造形魔法』にも同じことが言える。『火の妖精と土の妖精』の2体を使役する方法と、『神位の鍛冶の妖精』を使役する方法の2通りがある。


コニアは氷の魔法で氷塊を1段、また1段と作り、チームメンバーはそこを登っていく。


「なるほど…確かにこうすれば、何回か魔法を繰り返せば、階段を作ったのと同じ効果になるな」
「すごいわね、コニー」
「すごいのは私じゃない、ルーシィ」


「はい、ジョンさん達のチームもクリアですね。先ほどのシアンさん達のアイデアを上手に氷の魔法に応用しましたね。素晴らしい機転です」



残りはランダル達のチームだけとなった。
「とりあえず僕とレガリーだけでも炎の翼で上まで行ってみようと思うんだが、時間的に微妙なんだが可能だろうか?」
まずは、ランダル・カーマインが尋ねた。
「えっと、ランダルさんは…」
「ランディでいいよ」
「じゃあ、私もルーシィでいいよ。ランディはランクBで紅の魔力だったね?魔力純度比率と最大魔力量は?」
「魔力純度は赤7:青2:黄1で、最大魔力量は7200だ」
「てことは、炎の翼の効果時間は12、13秒だね。炎の翼は垂直に上昇するのに不向きだから厳しいんじゃないかな」
「やはりそうか…」
「じゃあどうしたらいいかしら?」
「垂直に上昇しなければいいんじゃない?」
「……え、どういうこと?」
ルーシッドが思ってもいないことを言うので、ぽかんとするレガリー。

「この演習の目的は『あの柱の上に登ること』だよ。別に下から登れなんて一言も言われてないよ」
ルーシッドに言われて、ランダルははっとする。そして、闘技場の観客席を見る。
「ははは、そうか。なるほど、考えもしなかった。キミは天才だな。…だが、それでもやはり2人で息を合わせて他の人を運ぶというのはバランスが難しいな…」
輪唱サーキュラーカノンしたらいいんじゃない?」
「さ、輪唱サーキュラーカノン…?なんだいそれは?」


ルーシッドが輪唱サーキュラーカノンについて説明する。


「なるほど…そんな詠唱法があったのか」
「知らなかったわ…でも、それならいけるわね!
 いや…でも、それでも距離的にはギリギリ…賭けね…」
「まぁ、そこはビリーの出番だね」
「……へ、俺?」
急に自分の名前をルーシッドに呼ばれて、ぽかんとするビリー・ジェンクスだった。


「助走の間に詠唱を完結させなければいけないわ。走りながら息を切らさず正確に詠唱をする。しかも、全員の息をぴったり合わせる必要があるわ…全くとんでもない作戦だわ。よくこんな作戦思いつくものね」
レガリーはため息をつく。だがそれはあきれ返ってというよりは、驚嘆してという感じだった。
「あぁ、全くだ。だが勝算はある」


そう、ルーシッドが考えた作戦は、下から飛ぶのではなく、横からつまり観客席から飛ぶというものだった。ちょうど柱の高さは観客席よりも低い位置にあるため、ゆっくり下降しながら降り立てるだろうという作戦だ。

「観客席からあの柱に登るなんて発想、考えもつかなかった…でも、だとしてもどうやって?」
リサはランダル達のチームが観客席に移動するのを見てそうつぶやいた。

「じゃあまずはアヤメから行こう。レガリー、アヤメ、準備はいいか?」
2人がうなずく。
「よし、行くぞ!」
ランダルの掛け声に合わせて、ランダル、アヤメ、レガリーの3人が同時に走り出す。ちょどアヤメが2人の間に挟まって、3人が肩を組む形だ。

ランダルが炎の翼の詠唱を始める。

"oPen the fiAry GATE.
(開け、妖精界の門)

その後に続いてレガリーが詠唱を始めるが、通常の第ー節とは異なっていた。

"USE the SAME GATE.
(我、同じ門を使用せり)

そう、輪唱サーキュラーカノン。それは、複数の魔法使いが同時に、同じ魔法の詠唱を行う手段である。ただ同時に詠唱するだけでは、バラバラに魔法が発動されるだけだが、この輪唱サーキュラーカノンという詠法によって、詠唱は美しい旋律となり重なり合い、1つの詠唱となって魔法が発動する。

in-g,rE,DIeNT = Re:D./in-g,rE,DIeNT = Re:D.
(食材は赤き魔力)


re:ciPE = FInanCieR./re:ciPE = FInanCieR.
(調理法は貝殻型の焼き菓子)

IM-mortAL fiRE BirD, PHOE-NIX./IM-mortAL fiRE BirD, PHOE-NIX.
(不死なる火鳥フェニックスよ)

pLEAse L-END Me UR W-ingS./pLEAse L-END Me UR W-ingS.
(我に汝の翼を貸し与えたまえ)


最後の部分は2人で息をぴったりと合わせてその魔法名を歌った。

""CIRCULAR CANON, SYNTHETIC FLARE WINGS!!""
(輪唱発動、合成魔法、炎の翼!!)

魔法が発動すると、大きな炎の翼が形成された。ちょうど3人の真ん中あたりから翼が生えているような形だ。そう、魔法を輪唱サーキュラーカノンした2人が1つの個体として認識されたことにより、全体に均等に揚力が働くようにして翼が形成されたのだ。そして、3人は大きな炎の鳥となって、観客席から飛び立った。

「よし、成功」
ルーシッドが静かに言った。

「やった!成功よ!」
「わー!飛んでるー!すごい!」
「あぁ、しかもルーシィの言っていたように、最初に詠唱を始めた方が主旋律ということになって、どちらの翼も同時に動かせる!」
「ビリーも上手くやってくれてるわね。下から風を受けてるわ」


ルーシッドが出したもう1つのアイデアは、ビリーが地上から『風の魔法』を使うことにより、翼が下から風を受けるようにし、降下する速度を遅らせるというものだった。
その効果もあり、炎の翼の効果時間内で無事に柱の頂上に着地することができたのだった。


「はい!ランダルさん達のチームもクリアですね!先生びっくりしました!あんな作戦よく思いつきましたね!しかもまだ習っていない『輪唱サーキュラーカノン』まで使って、素晴らしいです!」
「ありがとうございます。でも、全てルーシッドさんの考えた作戦です。ルーシッドさんがいなければクリアは絶対に無理だったと思います」

「そうですね。みなさんもお疲れさまでした!このチーム演習を全てのチームがクリアできるというのはとてもすごいことです!チームワークの大切さがみなさんもわかったんじゃないでしょうか?」

リサが皆に語りかけると、全員がうなずいた。1人ではできないことがチームでならできる。チームで考えてもわからないことでも、皆で考えればわかる。それを実感することができたのだった。それこそが、このチーム演習の意義だった。

だが、その中でも特に、ルーシッドという頭脳の存在が大きいということを誰しもが理解していた。結局のところ、ほとんどのチームはルーシッドのアドバイスがなければクリアすることはできなかっただろう。
それで皆がルーシッドを囲み、口々にお礼を言ったり、握手をしたり、肩を叩いたり、頭をなでたり、抱きしめたりするのだった。
ルーシッドはそんな風にされたことがなかったので、どうしたらいいかわからないという困った感じで、恥ずかしそうにしていた。


「はい、皆さん。それでは今日の午後の授業は少し早いですが、これで終わりです。チーム演習が予定より早く終わりましたからね。そして、さっそく週末には次の演習がありますよ。今度はチームごとではなく『クラス演習』です。そして、行く場所はこの下です」

リサが地面を指差すので、皆が地面を見た。

そう、全員がこの下に何があるのかを知っていた。
ディナカレア魔法学院の地下にはあるものが存在していた。
それは……



「次の演習は『地下迷宮探索』です」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...