魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第7章 魔法学院の授業風景編

幕間④ オーディン

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その日の晩のこと、フェリカはルーンのカードを補充していた。フェリカ自身、ルーン魔法については完全に理解しているとは言い難い。ルーン文字は全部で24文字存在しているが、使い方がわからない文字もある。それに、ルーン魔法の発動原理に関してもわかっていない部分も多かった。今の使用法も偶然できたという感じだった。

『お、なんじゃ、ルーンか?』
ヴァンパイアのマリーが魔力のお菓子を頬張りながら尋ねた。

「うん。補充しておこうと思って。ねぇ、そう言えばマリーはオーディンに会ったことある?」

オーディンとは神位の妖精であり、伝承によればルーン文字とルーン魔法を考えた妖精だと伝えられていた。

『なんじゃ、リカはヒッ、おっと、いかんいかん、真名は内緒じゃったな…あー、オーディンに会ったことがないのか?』
「あ、真名って内緒なんだ?」
『そうじゃな。妖精は全て種族名の他に真名を持っているが、その真名を知るということは、その妖精と契約を交わすということじゃ。じゃから、契約を交わしていない妖精の真名を教えるのは禁止なのじゃ』
「へぇ~。そうだったんだ」
『しかし、オーディンに会ったことないとすれば、誰からルーン魔法を教わったんじゃ?』
「独学で」
『ほぉ、独学でか。いや、オーディンか、そういや元気でやっとるかのぉ』
「え、会ったことあるの?」
『あぁ、もちろん。あいつも私と同じで、魔法界に呼ばれることはないからの。妖精界にいる頃はしょっちゅうつるんどったわ』
マリーは楽しそうに話した。

オーディンが好む魔力は判明しておらず、それゆえにオーディンによって使える魔法というのも存在していない。

「へぇ、どんな妖精なの?」
『なんじゃ、ルーン魔法で召喚すれば良かろう?』
「え、できるの?」
『できるとも。ルーン文字の中に〈オーディン〉本人を表す文字があるじゃろ?』
「え、知らないよ?そんなの文献になかったよ?」
『なんじゃ、そうなのか?アンスールというルーンじゃ。それが〈オーディン〉を表す文字じゃぞ』
「へぇ、そうだったんだ!」
『その文字を使ってみろ。ちょっと私が呼びかけてみる』
「うん!」
フェリカが言われた通りにすると、ルーン文字が赤く光り出す。
そして、マリーが念を込める。



おーい、ヒルダ、聞こえるか?聞こえたら返事しろー



……何、誰よ?



私だ、私。マリーじゃ

え、マリー?ちょっと、あなた、急にいなくなって、どこ行ってたのよ?

すまんすまん。久しぶりに召喚されての。元気しとるか?

元気じゃないわよ…暇でしょうがないんだけど

じゃあ、こっち来てくれんか?面白い若者がおるぞ。お前が考えたルーン魔法を独学で使っておる

え、なにそれ?

じゃが、わからないところがあって、お前に聞きたいと言っておるから、ちょっと来てくれんか

そっちに行くには、このルーンじゃ足りないわ。そのルーン魔法が使える子に伝えて頂戴。アンスールソーンラドマンナズ(オーディン、門を通りて魔法界に来たれり)の順にルーンを組んで、アンスールから順になぞるように魔法を発動させてって



マリーが言われた通りにフェリカに伝える。

間違いない、これはオーディンだ。ルーンを4つ同時に使って意味がある魔法を発動させるなんて、ルーン文字の本当の意味と解釈を知っている人にしかできない。フェリカはそう確信した。
フェリカは、言われた通りの順にルーンのカードを置き、魔力を流す。すると、ルーン文字がまばゆいばかりの赤い光を発して、マリーが現れた時と同じように、そこから妖精が目に見える体を伴って現れたのだった。


『ふぅ。人間界なんて何百年振りかしら?』
『おー、オーディン、1週間ぶりくらいじゃな』
つい最近じゃないか、とフェリカは思わず心の中で突っ込んだ。

『なんで種族名なのよ…水臭いじゃない』
『いや、ほら、契約しとらんから』
マリーがフェリカを指しながら言う。
『あぁ、なるほど…えっと、あなたがルーンを使ってるっていう魔法使い?』
「あ、あの、はい。勝手に使ってすいません」
『別にいいのよ。元々魔法使いに使わせようと思って作ったものだから。でも、主流派にならずに廃れちゃったから放置してたのよ』
「え、そうだったんですか?」
『そ。すごく便利なのになー。でもよく使い方がわかったわね?』
「文献に残されていた使い方をヒントに私なりに考えたんです。なので、オリジナルとは少し違うかもしれませんが…」
『どれどれ…ふぅん、確かに…血が混じってない…でも、雰囲気が同じだわ…むしろこちらの方がいいわね…あなたこの魔力、自分の?』
「そうです。『ブラッドレッド』っていう特殊な混色なんです」
『ちょっと味見させてもらっても?』
「あ、はい、どうぞ」
そう言うと、フェリカは魔力でお菓子を作って渡した。

『……うまい!』
『じゃろ?リカの魔力は絶品じゃろ?』
『本来、ルーン魔法はその人の魔力と血を体内で混ぜて作る特殊なインクで文字を書くのよ。それがおそらくこの魔力と偶然の一致を見たのでしょうね』

オーディンは興味深そうにフェリカが作ったルーンのカードを眺めた。
オーディンは元々知識に貪欲な妖精である。自分が作ったルーン魔法を独学でこの現代に復興したというこの少女にオーディンは興味を持った。

なるほど、ルーンをカードにするという発想はなかなか面白い。こういう使い方は過去にはなかった。

「あ、やっぱりそうなんですね!」
『あなた…真名は?』
「あ、はい。フェリカ・シャルトリューです」
『私の真名はヒルダ』
「え、真名を教えてくれるってことは…」
『えぇ、あなたと契約してあげるわ』
「いいんですか?」
『えぇ。あっちにいてもどうせ暇だし。魔力は美味しいし。こっちにはマリーもいるし。それに、この現代にルーン魔法を使ってくれる人が現れたんだもの。私が直々にルーン魔法の真髄を教えてあげるわ』
「わぁ、ヒルダさん、ありがとうございます!」
『どういたしまして。私のことはヒルダでいいわ。あと敬語もいいわ』
「あ、はい!えっと…でも、オーディンって女性だったんだね?」
『ん?そうよ?』
「てっきりオーディンは男性かと思ってたよ。なんか伝承にそんなことが書いてあったような?何か髭のおじいさん的な?」
『ちょっ、誰よ、そんなこと言ったの。失礼しちゃうわね。あたしはヒルダ。れっきとした女性よ』
『こいつは通り名も多いからの。伝え聞いている間に色々情報が変わってまったんじゃろう』
「そうだったんだね~」


「フェリカー、ピシー先輩からもらったルテとお菓子があるから一緒に食べよ……って何か増えてるぅ!?」
「え、なになに?わっ、ほんとだ!いつの間に?」


こうして、ヒルダ(神位の妖精オーディン)が仲間に加わったのだった。
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