魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第7章 魔法学院の授業風景編

準備

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次の日からは、週末の『地下迷宮探索演習』に向けて、それぞれのパーティーが持ち物などについて話し合っていた。それはルーシッド達のパーティーにとっても同じであった。

「一泊するってことは、とりえあず必要なものは寝具とご飯だね」
キリエが『持っていくものリスト』と書かれた紙を机に置いて考えている。いわば初めての遠足に行くような気分だ。
「水と火はキリィとルビィがいれば大丈夫だから調理に関しては問題ないね。食材だけ準備していけば大丈夫かな?」

魔法使いたちの最も便利な点はこういった外出の際に、水筒や火を起こす道具を持ち歩かなくても良いという点ではないだろうか。さすがに食材をその場で魔法で作ることはできないが、かなり持ち物が少なくて済む。
よくファンタジーで見られるような『異空間魔法』や『収納魔法』の類はこの世界にはない。火や水は何もないところから出ているように見えるが、それは妖精たちの力によって、魔力を火や水に変換しているに過ぎない。
そう考えると、別のところにワープしたり、大きなものを小さな場所に収納できないというのも納得ではないだろうか。魔法はすごく便利であるが万能ではない。ルールがあるのである。

もし、水の魔法や火の魔法を使用できる魔法使いがパーティーにいない場合は、魔法具を持っていくこととなる。
火の魔法の魔法具はいくつか種類があり、調理によく使われるのは『熱の魔法』の魔法具である。これは素材は鉄でできており、魔法具自体が熱の魔法によって発熱するものである。鉄板型のものはそこに食材を置いて調理することができる。私たちの世界で言うところのホットプレートのようなものである。また、器型のものもあり、それは中に水を入れて沸かすことができるようになっている仕組みである。
水の魔法の魔法具は、水差しのような形状をしたものが一般的で、魔法を発動させて注ぐと、そこから水が出てくるという仕組みである。
もちろんどちらも魔法石に込められた魔力で発動するので、無限に使えるというわけではない。長期間の旅行をする際には予備の魔法石を持って行ったり、途中で魔法石に魔力を込めてもらう必要がある。

「まぁあとは食器とかかな。持ち運びに便利そうなやつとか買いに行く?」
「そうね。これからも演習で使うでしょうから後で買いに行きましょう」
ルーシッドの提案にルビアが同意し、皆もうなずく。

「そういえば、ルーシィって火は起こせるけど、水って出せるの?」
「あー、一応出せるよ。でもあんまし美味しくない。水の魔法で作った水の方が美味しいから好きだな」
フェリカの質問にルーシッドが答えると、皆が不思議そうな顔をする。
「えー、水の味が変わることなんてある?」
「あるって。試してみる?」

キッチンにある魔法具から出した、いつも皆が飲んでいる水と、ルーシッドが作り出した水を2つのコップに入れて飲み比べてみる。

「……ホントだ…ルーシィが作った水は、何ていうかこう…何の味もしない」
「確かに…いつも飲んでいる水は飲み比べてみるとちょっと甘い感じがするわ」
「でしょ?何か私が作ったやつは『無』って感じだよね。さすが無色の魔力で作ったって感じ」

正確にはルーシッドが作った水が何の味もしないように感じるのは、混じり気なしの純度100%の水だからである。この世界で普通に飲まれている水は、魔法によって作られた水である。魔法によって作られた水は、青の魔力を水に変えているため、魔力の味が残っているのである。

ちなみに、この世界の自然界にも水というものはもちろん存在しており、それを飲むことも当然できる。しかし、魔法が発達しているゆえに、それをわざわざくんできたりする必要がないのである。

「後は…寝る時ってどうしたらいいんだろう?」
「野宿ってしたことないからわからないわね」
フェリカが尋ねると、ルビアが首をかしげる。
「地下迷宮って多分、岩地だよね。何か敷くものを持って行かないと固くて寝れないよね」
「魔法ではどうにもならないから持っていくしかないかしら…」
「無色の魔力で良ければ、ふわふわの素材を作ってベッド代わりにできるけど」
「何それ、超便利」


『人間って難儀ねぇ』
『そうじゃな。肉体を持つというのは不便なこともあるじゃろうな』
マリーとヒルダが4人が話し合っているのを聞いていて、そう感想をもらした。
『妖精はお腹が空いたとか、疲れたとか、眠いとか、そういうことってないものね』
『そうじゃな』


妖精は物質の体を持たない存在だ。ゆえに物質の体を維持するために必要なことをする必要がないのである。もちろんそういった欲求がないということは感情がないということではない。妖精はむしろ感情豊かである。


『でも、この〈学校〉っていう場所はなかなか興味深いわね?』
『そうじゃな。私が前に契約召喚で魔法界に来たときはこんなものはなかったな』


「あのさ、素朴な疑問なんだけどさ、妖精さん達ってのは、普段は魔法界にはいないんだよね?」
その話を聞いていたフェリカが2人に尋ねる。

『いや、半々くらいじゃないかしら』
『そうじゃな、特に低位や中位の妖精は魔法界にたくさんいると思うぞ。魔法で呼ばれる頻度も多いからな。妖精にとっては魔法界に来るのはちょっとした楽しみみたいなもんじゃろうし』
「魔法が切れたら帰らないといけないみたいなルールはないのね?」
それを聞いてルビアも質問する。
『特にないわね。でも魔法界と妖精界の行き来は基本的には一方通行なのよ。妖精界から魔法界にはリンクが形成されないと来れないわ。自分の意思では来れないのよ。妖精界に帰るのは自分の意思でできるのだけど。大昔はそうでは無かったみたいだけどね。今はそうなっているわ。

ただ、妖精の女王ティターニアは、妖精界の方からリンクを形成する力を持っているわ。だから、どうしても魔法界に行きたい妖精は妖精の女王ティターニアに頼んで、いわゆる妖精の門の鍵を開けてもらうのね』

「へぇ~、そうなってるんですね」
「あの、妖精界から魔法界の様子ってわかるんですか?」
今度はキリエが質問する。

『いや、直接はわからんな。魔法界から帰ってきた妖精から情報を聞くぐらいじゃな。魔法界と妖精界は、何と言えばよいか…と言えばよいのかな』
「同じ世界であって同じ世界でない?どういう意味ですか?」
『うーん、私にも上手く説明できないけど、要は平行世界と言えば良いのかしら。でもただの平行世界ではなく、互いに作用し、力が通い合う絡み合った世界。そんな感じかしらね。
この世界の自然界から発生する自然エネルギーによって妖精界ってのは出来上がってるのよ。つまりこの魔法界が滅びれば妖精界も滅びる。だから妖精界も魔法界の生命活動に必要な力を貸す。人間だけに自由にさせておくと好き勝手に資源を使い始めて、自然を滅ぼしかねないから。
そういう持ちつ持たれつの関係になるのがこの2つの世界って訳よ』

マリーとヒルダの話にしばし聞き入るルーシッドたちであった。

「…よくよく考えたら、妖精の口から直接妖精の話が聞けるってすごいことよね」
ルビアが、はっと気づいた感じで言う。
「確かにね。妖精に関する情報って文献とかに載ってるだけだもんね」
「その文献の情報って誰が書いたんだろうね?やっぱこんな感じで神位の妖精から聞いたのかな?」
フェリカがふと疑問に思ったことを質問する。
『まぁ、その可能性もあるな。神位の妖精にも色々なやつがおるからな。人間と友好的なやつもいれば、逆に一切魔法界に関わらないやつもおるし、魔法界にずっといるやつもおる。そんな中の誰かが教えたんじゃろう』
『あとはあれよ、魔獣。エルフとかは半分妖精みたいなものだし。妖精と会話ができるから、そういったやつらが書いたんじゃない?』
「なるほど」

そんな話をしながら、週末の初めての地下迷宮探索に向けての準備を進めていくルーシッド達であった。
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