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第7章 魔法学院の授業風景編
昼休み 魔法具革命論②
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「私たちまだ勉強している途中だからそこまで詳しくないけど、その音楽を出す部分、『演奏装置』だっけ?そこは魔力とは関係なく手動ってことだよねー?」
ベルベットがそう尋ねた。
1年生で勉強する『魔法具理論』では、主に魔法具に関する基礎的な知識を学ぶ。2年生以降では、『魔法回路図法』や『魔道具製作』などで、実際に魔法具を作っていくわけだが、まだ新学期が始まったばかりなので、ベルベットの持っている知識量は一般的と言える。
「そうですね。今主流なのは、鍵盤を叩いて音を出すタイプですね。長さが違う鍵盤を叩くと音階が変えられるので、それを奏でたい音階の順番に並べて配置していき、そこを回転していく歯車のようなものが通過するときに叩いて音が出るようにしたものですね。持ち運び用の小さいやつは歯車部分が無くて、自分で叩いてリズムを合わせるシンプルなやつが多いので、少しリズムを練習する必要がありますけどね」
「ほんと、よくできてるわよね」
フランチェスカは感心するようにうなずきながら反応した。
「ルーシィがさっきの授業で言っていた、魔法回路を書き込むための最低限の面積とはそのことかい?」
「まぁというか、『演奏装置』と『魔法回路』は別だけどね」
「え、演奏装置って魔法回路のことじゃないの?」
フェリカがびっくりして尋ねた。
日常的に使っている魔法具であるが、その作動原理については考えなくても使うことができるので、知らない魔法使いも多い。
「いや、厳密に言えば、『魔法回路』って言うのは『魔法陣』と『魔法石』を組み合わせたものかな?
『魔法具』っていうと、一般的にはその『魔法回路』と『演奏装置』を組み合わせたものを言うね。まぁ、でも全部まとめて魔法回路って言ったりするから、その辺の用例は結構あいまいだと思うけど。
でも、それぞれ別個の技術だから、1人でどっちも作れる魔法具師もいれば、どっちかの方が得意な人もいるよ」
「へぇ、そうなんだ。え、でも、魔法具って魔法陣が必要なの?」
「そうだよ。ただ音楽を演奏しただけだと魔法は使えないんだ。魔法を使うためには妖精界とのリンクを形成しないといけないから。そのリンクの形成に使うのが『魔法陣』だよ」
「あれ、でも魔法陣って古代言語で書かれてるんでしょ?今は新しい魔法陣は作れないって聞いたけど…」
「それに魔法陣が描けるんなら、楽器の演奏もいらないんじゃない?」
フェリカとキリエが不思議そうに尋ねる。
「うん、本来は魔法陣ってのはそうやって使うものなんだけど、魔法陣の内縁部分を消して、外縁部分に魔力を流すと、リンクだけが形成されるってことが発見されたんだよ。この状態で楽器で音楽を流すと、特定の妖精に指示を与えることができるんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「だからまぁ、魔力を流しているのはこっちだから、『魔法回路』ってのは厳密にはこっちのことだね。まぁそもそも『演奏装置』を使わなくても『魔法回路』さえあれば魔道具で魔法を発動することはできるし」
「え、どういうこと?」
「『演奏装置』っていうのは、詠唱文を声に出して読まなくても魔法を発動できるようにするための仕組みだけど、これってのは元々吟遊詩人っていう魔法使いたちが使っていた方法をもとにしてるんだよ。吟遊詩人は音楽だけで魔法が使えたんだって。多分彼らが演奏していたのこそ、さっきの『妖精達の踊り』だったんだと思うけど。だから、本物の楽器の演奏技術がある人だったら、別に装置を使わなくても魔法は発動できるよ」
「そうだったんだ。全然知らなかった」
「このことは1年生の魔法具理論で勉強するわ。良かったわね、今のうちに予習できて」
サラはくすくすと笑いながら話した。
「それに魔法回路と演奏装置を別々にする例は普通にあるよ。例えば『魔法剣』とかは結構雑に扱うから、演奏装置を組み込まないことも多いよ。演奏装置は結構繊細だからね。その場合は盾の方に演奏装置を組み込むね」
「へぇ~、ルーシィはホント何でも知ってるね」
「だから魔法具には『魔法回路』を書き込むスペースが最低限必要ってことだね。後はまぁ、魔法石を埋め込むスペースもかな。使用回数とか使用時間を考えると、魔法石も結構大きめのものか、後は個数をつけないといけないし。どちらかと言うとこれの方がスペース取るかもね。自分の魔力を使う魔法具にしても、『結晶石』を付ける必要があるし」
『結晶石』とは、魔力を結晶化してお菓子を作る時に使用される魔法石のことで、通常は『結晶の指輪』という魔法具に用いられている。
結晶石がなくてもお菓子が作れないわけではないのだが、魔力は体全体から放出されるもののため、魔法詠唱を間違えずに詠み、お菓子のイメージをしつつ、しかも魔法のイメージもしながら、魔力を一点に集中させることは、よほどの集中力がないと難しい。そのため結晶の指輪を用いずにお菓子を作ると、人によってはかなり魔力が無駄に放出されてしまう。
そこで、現代の魔法使いたちは『結晶の指輪』という魔法具を使用する。これは透明な魔法石が持つ特性を利用したもので、透明な魔法石には魔力を吸収する働きがあるため、生み出した魔力を結晶石に一度吸収し、その一点から放出することで、魔法の詠唱に集中しやすくなり、それと同時に魔力の節約にもつながる。結晶石は、人工魔法石と基本的には同じものであるが、指にはめる程度のかなり小さいサイズのため、魔力を蓄えておくということは基本的にはできない。
この結晶の指輪が開発される前には、魔法使いたちは『魔法の杖』を使用していた。魔法使いと言えば杖を持っているイメージがあるかも知れないが、それは一昔前の魔法使いであり、現代で杖を使用している魔法使いはほとんどいない。この杖には何か特別な力があるわけではなく、杖の先に気持ちを集中するために使われた。逆に現代において、杖で魔法詠唱を行っているものがいれば、それはかなり修練をつんだ者であるということができるかもしれない。
魔法具にはこの『結晶石』をはめ込んだものと、魔力が蓄積された『人工魔法石』をはめ込んだものの2種類がある。
『結晶石』をはめ込んだ魔法具は魔力の蓄積ができないため、使うことができるのは当然その魔法に適した魔力を持つ魔法使いだけに限られる。これは単純に魔法の詠唱を簡略化するためだけに使われる魔法具であり、武器や防具などに主に用いられている。
今回ルーシッドがジョンに提案しているのもこちらのパターンの魔法具である。人工魔法石が無い分、軽量化が可能で、また比較的安価に作ることが可能である。
『人工魔法石』を組み込んだものは、人工魔法石に魔力を蓄積することができるので、誰でも自分の魔力を使わずに魔法を発動することができる。こちらの方が汎用性が高く、日用品としても幅広く使用されている。『結晶石』の魔法具と比べるとやや高い。
ベルベットがそう尋ねた。
1年生で勉強する『魔法具理論』では、主に魔法具に関する基礎的な知識を学ぶ。2年生以降では、『魔法回路図法』や『魔道具製作』などで、実際に魔法具を作っていくわけだが、まだ新学期が始まったばかりなので、ベルベットの持っている知識量は一般的と言える。
「そうですね。今主流なのは、鍵盤を叩いて音を出すタイプですね。長さが違う鍵盤を叩くと音階が変えられるので、それを奏でたい音階の順番に並べて配置していき、そこを回転していく歯車のようなものが通過するときに叩いて音が出るようにしたものですね。持ち運び用の小さいやつは歯車部分が無くて、自分で叩いてリズムを合わせるシンプルなやつが多いので、少しリズムを練習する必要がありますけどね」
「ほんと、よくできてるわよね」
フランチェスカは感心するようにうなずきながら反応した。
「ルーシィがさっきの授業で言っていた、魔法回路を書き込むための最低限の面積とはそのことかい?」
「まぁというか、『演奏装置』と『魔法回路』は別だけどね」
「え、演奏装置って魔法回路のことじゃないの?」
フェリカがびっくりして尋ねた。
日常的に使っている魔法具であるが、その作動原理については考えなくても使うことができるので、知らない魔法使いも多い。
「いや、厳密に言えば、『魔法回路』って言うのは『魔法陣』と『魔法石』を組み合わせたものかな?
『魔法具』っていうと、一般的にはその『魔法回路』と『演奏装置』を組み合わせたものを言うね。まぁ、でも全部まとめて魔法回路って言ったりするから、その辺の用例は結構あいまいだと思うけど。
でも、それぞれ別個の技術だから、1人でどっちも作れる魔法具師もいれば、どっちかの方が得意な人もいるよ」
「へぇ、そうなんだ。え、でも、魔法具って魔法陣が必要なの?」
「そうだよ。ただ音楽を演奏しただけだと魔法は使えないんだ。魔法を使うためには妖精界とのリンクを形成しないといけないから。そのリンクの形成に使うのが『魔法陣』だよ」
「あれ、でも魔法陣って古代言語で書かれてるんでしょ?今は新しい魔法陣は作れないって聞いたけど…」
「それに魔法陣が描けるんなら、楽器の演奏もいらないんじゃない?」
フェリカとキリエが不思議そうに尋ねる。
「うん、本来は魔法陣ってのはそうやって使うものなんだけど、魔法陣の内縁部分を消して、外縁部分に魔力を流すと、リンクだけが形成されるってことが発見されたんだよ。この状態で楽器で音楽を流すと、特定の妖精に指示を与えることができるんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「だからまぁ、魔力を流しているのはこっちだから、『魔法回路』ってのは厳密にはこっちのことだね。まぁそもそも『演奏装置』を使わなくても『魔法回路』さえあれば魔道具で魔法を発動することはできるし」
「え、どういうこと?」
「『演奏装置』っていうのは、詠唱文を声に出して読まなくても魔法を発動できるようにするための仕組みだけど、これってのは元々吟遊詩人っていう魔法使いたちが使っていた方法をもとにしてるんだよ。吟遊詩人は音楽だけで魔法が使えたんだって。多分彼らが演奏していたのこそ、さっきの『妖精達の踊り』だったんだと思うけど。だから、本物の楽器の演奏技術がある人だったら、別に装置を使わなくても魔法は発動できるよ」
「そうだったんだ。全然知らなかった」
「このことは1年生の魔法具理論で勉強するわ。良かったわね、今のうちに予習できて」
サラはくすくすと笑いながら話した。
「それに魔法回路と演奏装置を別々にする例は普通にあるよ。例えば『魔法剣』とかは結構雑に扱うから、演奏装置を組み込まないことも多いよ。演奏装置は結構繊細だからね。その場合は盾の方に演奏装置を組み込むね」
「へぇ~、ルーシィはホント何でも知ってるね」
「だから魔法具には『魔法回路』を書き込むスペースが最低限必要ってことだね。後はまぁ、魔法石を埋め込むスペースもかな。使用回数とか使用時間を考えると、魔法石も結構大きめのものか、後は個数をつけないといけないし。どちらかと言うとこれの方がスペース取るかもね。自分の魔力を使う魔法具にしても、『結晶石』を付ける必要があるし」
『結晶石』とは、魔力を結晶化してお菓子を作る時に使用される魔法石のことで、通常は『結晶の指輪』という魔法具に用いられている。
結晶石がなくてもお菓子が作れないわけではないのだが、魔力は体全体から放出されるもののため、魔法詠唱を間違えずに詠み、お菓子のイメージをしつつ、しかも魔法のイメージもしながら、魔力を一点に集中させることは、よほどの集中力がないと難しい。そのため結晶の指輪を用いずにお菓子を作ると、人によってはかなり魔力が無駄に放出されてしまう。
そこで、現代の魔法使いたちは『結晶の指輪』という魔法具を使用する。これは透明な魔法石が持つ特性を利用したもので、透明な魔法石には魔力を吸収する働きがあるため、生み出した魔力を結晶石に一度吸収し、その一点から放出することで、魔法の詠唱に集中しやすくなり、それと同時に魔力の節約にもつながる。結晶石は、人工魔法石と基本的には同じものであるが、指にはめる程度のかなり小さいサイズのため、魔力を蓄えておくということは基本的にはできない。
この結晶の指輪が開発される前には、魔法使いたちは『魔法の杖』を使用していた。魔法使いと言えば杖を持っているイメージがあるかも知れないが、それは一昔前の魔法使いであり、現代で杖を使用している魔法使いはほとんどいない。この杖には何か特別な力があるわけではなく、杖の先に気持ちを集中するために使われた。逆に現代において、杖で魔法詠唱を行っているものがいれば、それはかなり修練をつんだ者であるということができるかもしれない。
魔法具にはこの『結晶石』をはめ込んだものと、魔力が蓄積された『人工魔法石』をはめ込んだものの2種類がある。
『結晶石』をはめ込んだ魔法具は魔力の蓄積ができないため、使うことができるのは当然その魔法に適した魔力を持つ魔法使いだけに限られる。これは単純に魔法の詠唱を簡略化するためだけに使われる魔法具であり、武器や防具などに主に用いられている。
今回ルーシッドがジョンに提案しているのもこちらのパターンの魔法具である。人工魔法石が無い分、軽量化が可能で、また比較的安価に作ることが可能である。
『人工魔法石』を組み込んだものは、人工魔法石に魔力を蓄積することができるので、誰でも自分の魔力を使わずに魔法を発動することができる。こちらの方が汎用性が高く、日用品としても幅広く使用されている。『結晶石』の魔法具と比べるとやや高い。
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