魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第7章 魔法学院の授業風景編

昼休み 魔法具革命論③

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「まぁ、でもそういったスペースに関しては、工夫次第でかなりコンパクトになると思うよ」
「へぇ、例えば?」
フェリカが興味深そうに尋ねる。

「ちょうど、この前マーシャさんに言われてた『伸縮警棒』を試しに作って今日持ってきてたところだったから、これで説明するよ」

そう言うと、ルーシッドは手のひらサイズの鉄製の棒を取り出した。それは普段字を書くときに使っているペンをひと回り大きくしたくらいのサイズだった。
『伸縮警棒』はルーシッドが以前のレイチェルとの決闘の時に使用した魔法具を、通常の魔法石でも使えるように魔法回路マジックサーキットを組み直して改良したものだった。

「こ、これが魔法具?」
それを見たフランチェスカは信じられないという顔をした。
「そうですよ」
「でも…鍵盤もないし、魔法回路マジックサーキットも見当たらないし…本当にこれで魔法が発動するの?」
ルビアもありえないという表情で尋ねる。

「まぁこれだけというよりは、これと合わせて1つの魔法具だけどね。さっき言ってた魔法剣と同じで、演奏装置メロディカと別なんだよ」
そう言うと、ルーシッドは右の手首につけたものを指差した。それは私たちの世界で言うところの腕時計のような形状をしていた。
「…それが演奏装置メロディカなの?」
「そうですよ」
「そ、そんなに小さいものの中に鍵盤が入ってるの?」
「まぁ、通常とは逆の仕組みです。通常は鳴らす音の数だけ鍵盤を準備してそれを順番に叩きますけど、これは鍵盤を音階の順番に並べて、そこを突起がついたシリンダーを回して弾く仕組みになってます。これだと鍵盤の数は少なくて済みますから小さくできますし、シリンダーを変えれば、別の曲も流せます」


ルーシッドが考えた装置はオルゴールのような装置である。
この世界には私たちの世界と同じような楽器はある。ピアノや木琴・鉄琴のような鍵盤を叩いて音を出す仕組みの楽器は一般的に普及しているのだが、それを楽譜を覚えていない人にも弾けるようにする装置を考えるに当たって、楽譜の順番に鍵盤を配置してそこを順番に叩くという方法を考えたのだ。しかしこれだと、楽譜が長いとその分だけ鍵盤も準備しなくてはならなくなる。
一方でルーシッドが考えた方法はこれと逆の発想に当たる方法だ。鍵盤を音階の順に並べて配置し、シリンダーの方に楽譜を突起として記しておき、シリンダーを回転させることで、鍵盤を順番に弾いて楽譜通りに音を鳴らすという方法だ。これだと、楽譜の長さが変わっても装置の大きさは変わらない。


ルーシッドが腕の演奏装置メロディカの小さな歯車のようなものを少しだけ回すと、歯車は回したのと逆の方向にゆっくりと巻き戻り始め、音楽が流れる。
「すごい!え、これ自動で音楽が流れるの?どういうからくり?これも魔法?」
キリエが驚いて声を上げる。
「ちがうよ。この歯車の部分にバネが入ってるんだよ。歯車をこっちに回すとバネが巻かれて、手を離すとバネが戻ろうとする力でシリンダーを回す仕組みだよ」
「よくもまぁこんなものを考えるわね…」
「これは演奏装置メロディカの革命よ…」
サラとフランチェスカは半ばあきれたようにため息をつく。この1時間くらいの間に魔法具は一体何百年分進歩したというのだろう。

「実際に使うときは、この警棒をこうして伸ばして、魔法回路マジックサーキットを展開して」
ルーシッドが警棒を振ると、警棒が伸びた。
「そして、この魔法石に触れてお菓子を思い浮かべて、そして音楽を流しながら魔法のイメージをすると…」
警棒からバチバチと電気が放電する。

「おぉ!すごい!」
キリエとフェリカが拍手をする。

「でもおかしいわ。この魔法具にはその魔法回路マジックサーキットが見当たらないわ」
フランチェスカは首をかしげた。

魔法回路マジックサーキットはこの警棒全体に描いてありますよ」

確かによく見ると、警棒全体に複数の線が描かれていた。

「え、こっ、これが魔法回路マジックサーキット?それはおかしくない?魔法回路マジックサーキットは最小面積が決まっているんじゃない?」


魔法具をなるべく小さくしようという試みはずっと行われているが、もはやこれ以上小さくはできないという技術的限界に到達していると考えられていた。

その理由は大きく分けると3つある。それは演奏装置メロディカの小型化の限界と魔法石の面積の問題、そして、魔法回路マジックサーキットの最小面積の問題であった。

演奏装置メロディカはかなり小型化が進んだがもはや技術的限界に達しており、これ以上の小型化は望めないというのが、魔法具師マジックスミスたちの見方だった。まぁこの点はルーシッドがあっさりとクリアしてしまったのだが…。

そして、魔法回路マジックサーキットの最小面積の問題に関しては、現代においては魔法陣マジックサークルを描く技術は失われてしまったため、今使用されている魔法陣マジックサークルはオリジナルの正確な複製を使用しているのだが、この魔法陣マジックサークルを単純に縮小化していったときに、ある大きさを下回ると魔法が発動しないことが多くの魔法具師マジックスミス達の実験と研究によって判明している。これが魔法回路マジックサーキットの最小面積と言われているものである。現状ではこれより小さな魔法具は作ることができなかった。

だが、その限界さえもルーシッドは簡単に超えようとしていた…。

「あー、魔法回路マジックサーキットの面積ってのは実は間違いでして、魔法回路マジックサーキットで問題なのはではなく、なんですよ」
「長さ?」
「今使われてる魔法回路マジックサーキット用の魔法陣マジックサークルは、契約召喚魔法陣の外縁部分をそのまま忠実に複製したものなんですけど、外縁部分ってただの模様が描かれた円のように思われてますけど、実はあそこの部分には、古代言語ハイエイシェントで『門』を意味する言葉が書かれているんですよ」
「え、ただの模様にしか見えないけど…」
古代言語ハイエイシェントって、私たちが一般的に文字と認識しているような文字だけじゃなく、記号とか絵文字みたいなのもあるから。まぁそれもあって、一回法則がわかっちゃうと何となく推測できるから、それで解読が進んだけどね。
で、この魔法陣マジックサークルを小さくするときは、門と言う言葉は必ず入れて、なおかつ両端が繋がっていて、必要な魔力が十分に流れるだけの長さが必要なんであって、形は四角でも三角でも何でもいいんだよ。
まぁもちろん古代言語ハイエイシェントだけで魔法を発動させるためには、他の情報も書き込まないといけないし、他のルールもあるから結局サイズ的にはあんまり小さくできないけどね。
だから今回は棒の形状に合わせて蛇腹状にしてあるよ。伸ばしたところにも書き込んであって、伸ばすことによって古代言語ハイエイシェントの長さを確保してる感じだね。
まぁこれは私が考えたことじゃないかな?持ち運び用の折り畳み式魔法具とかあるし」

上に物を置いて、焼いたり温めたりする魔法具は平べったい板状の魔法具であるが、持ち運び用として2つに折りたためるタイプもある。

「こっ、これはすごい発見ですよ…今までの魔法具の常識が根底から覆るほどの…!」
「えぇ……ルーシィ、このことは今までに誰かに言った?」
サラは真顔でルーシッドに質問する。
「ううん、誰にも言ってないよ。そもそも私が普段作ってるのは無色の魔力で動作するやつだから、普通の魔力を使う魔法具は専門じゃないし」
「専門じゃなくてこれって…」
フェリカが苦笑いする。
「いい?この話はまだ公表しちゃダメよ?」
「うん、わかったよ」
親が子を諭すようにしてサラがルーシッドにそう言うと、ルーシッドは素直にうなずいた。
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