魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第7章 魔法学院の授業風景編

昼休み 魔法具革命論④とリスヴェル脱獄

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「あの、ちなみにこれは、魔法石はどうなってるの?」
フランチェスカが尋ねる。
「えっと、小型化と大量生産を視野に入れて、安価な小さい魔法石を5つにしてます」
ちょうど柄の部分に5つ魔法石が並べて配置してあった。
「魔法石を5つってことは、あれよね、1つの魔法石が空になったら、また魔法を発動してっていう感じよね。まぁ値段も安いし、小型化するなら仕方ないか」
サラが納得するようにうなずいた。

「ううん、5つを全部繋いでるから、5つが全部空になるまでは魔法は切れないから大丈夫だよ」
「え、魔法石を全部一気につなぐと、上手くいかないって聞いたけど?」
「それは繋ぎ方が悪いんだよ。全部縦につなぐと、全ての魔法石の魔力が全部合計されるから出力は増加するよ。簡単に言えば、魔力生成速度を上げてる感じだね。魔力生成速度を上げても、魔法石に蓄積されている魔力の量、いわゆる最大魔力量は変わらないから、魔法によってはすぐ使えなくなっちゃうよ。あと、逆にホントは少量の魔力で済むはずの魔法に過剰な魔力を流すと、制御できなくなって失敗の原因にもなるから、使い方には魔力使用量の計算が必要だよ」


先に上げた魔法具の小型化をしていく上で立ちはだかる3つ目の問題、魔法石の面積の問題はここにあった。魔法具を小さくしようとして魔法石を小さくしてしまうと、その分蓄積できる魔力も減り、魔法の使用回数や使用時間は少なくなってしまう。なので、魔法石は、その魔法具の用途に合わせてある程度の大きさのものを組み込まなければいけないのだ。

かつて、ルーシッドと同じように魔法石をつなぎ合わせて、この面積の問題や値段の問題をクリアしようとしたものは大勢いた。しかし、ルーシッドが上げた問題点によって、それは成功しなかった。

人間が自らの魔力を用いて魔法を発動する場合と違い、魔法石の魔力生成速度は完全にその魔法石の大きさや質などによる。この魔力生成速度を上げる方法がルーシッドが言っている『直列魔法回路』である。私たちの世界で電池を直列つなぎした場合を想像してほしい。それと同様魔法石を直列つなぎすると、魔力生成速度が上がる。これによって魔法が速く使えるようになるが、最大魔力量に関しては魔法石の合計分しかないため、魔法によってはすぐに燃料切れになってしまう。また、自分の魔力の時とは違い、魔法石の場合放出される魔力量の制御は難しい。ゆえにホントは少しの魔力で良いところが急に大量に放出されてしまい、制御に失敗するということもあり得る。例えば、料理をする時に直列魔法回路の火の魔法具を使ったら、火力が強くなりすぎて、一瞬で食材が燃えてしまうとかそういう感じである。

それで、現代においては、魔法具に魔法石を複数組み込む場合には、魔法回路から枝分かれした部分にバラバラに組み込んで、1回に使用するのは1つの魔法石だけ。その魔法石の魔力が切れたら別の魔法石で魔法を発動しなおすという、いわゆる『カートリッジ方式』を採用している。

「じゃあ、これはどうやって繋いでるの?」
「これは全部の魔法石に均等に魔法回路マジックサーキットを振り分けて繋いでるんだよ。ほら、1つの魔法回路マジックサーキットを5つに枝分けして、それを魔法石につないで、そこからまた1つにまとめて魔法回路マジックサーキットに繋いでるんだよ。こうすると、魔力生成速度は1つの時と変わらないけど、最大魔力量は魔法石の分増えるから、1つの時の単純計算で5倍長く魔法が使えるようになるよ」

ルーシッドのつなぎ方はいわゆる『並列魔法回路』である。

「ホントによくもまぁ、次から次へとこんな事を思いつくわね…」
「というかなぜ今までこれを試さなかったのかしら?」
サラがあきれたように言うと、フランチェスカが不思議そうに質問する。こんな簡単なことなら誰かが試してみても良かったようなものだが。

「それはあれよ、魔法陣マジックサークルの形が変わってしまうからよ。真っすぐに繋ぐやり方は、魔法陣マジックサークルに並べて配置すればいいから試してみたんでしょうけど、並べて繋ぐと、魔法陣マジックサークルが円でなくなるからダメだと思ったんでしょうね」
「あぁ、そっか…ルーシィはそもそも魔法回路マジックサーキットの形を変えても大丈夫だと知っているから試してみたというわけね」
「えぇ、この方式は間違いなく今後魔法回路マジックサーキットの主流になるでしょうね…」
「これは魔法具の歴史が変わっちゃうわね…」

「みんな、改めて言うわ。今聞いたことは、今はまだここだけの秘密よ。これはルーシッドが考えたルーシッドの技術よ。その賛辞はルーシッドだけに贈られるべきものだと私は思うわ。いずれルーシッドが正当な評価を得られる時が絶対に来ると私は思ってる。だからその時までは秘密にしてちょうだい」
そう言ってサラが頭を下げる。
サラはウィンドギャザー家というこの国の貴族の娘だ。そのサラがルーシッドのために頭を下げてお願いしているということが、サラがルーシッドの事を認め、そして愛しているという証拠でもあった。

「サリー、私の事なら別にいいのに。こんなの趣味でやってるようなもんだし」
「ダメよ、ルーシィ。あなたは自分の偉大さをもっと自覚すべきだわ。あなたはこの魔法界の歴史で最も偉大な魔法使いと呼ばれるにふさわしい存在だわ」
「んー、まぁ、サリーがそう言うなら。じゃあこのマーシャ先輩に頼まれて作った魔法具は使わない方がいいかな?」
「うーん、なんかこう、もうちょっと現代の基準で考えてもギリギリ許容できるくらいのすごさにダウングレードした方がいいんじゃないかしら…」
「うーん…まぁちょっと考えてみるよ…」
「すごすぎる技術を持っていると逆に大変なのね」
フランチェスカが苦笑いし、それを見てみんなが笑った。

「でも、ほら、身内でこっそり使う分にはいいんじゃないか?」
ライカが何かを言いたそうにちらちらと見る。
「まぁ技術が漏れない分にはいいんじゃないかしら?」
「その伸縮警棒とやらは非常に有用だと思うんだけど…?」
「なにー、ライカ欲しいの?」
ベルベットがにやにやして尋ねる。
「いや、そのまぁ…」
「ライカ、ずるいわ、私だって欲しいのに」
サラがライカによくわからない突っ込みをする。
「サリーってそういうところあるわよね…」
フランチェスカが半笑いで言う。
「欲しい人は後であげますよ。組み込みたい魔法を言ってくれれば演奏装置メロディカと魔法石さえ変えれば作れますから。魔法石代はもらいますけど。まぁ…口止め料ってことで?」
最後の一言は冗談っぽく言ったルーシッドだった。

「なんだか、本当の魔法具の発注みたいになってるわね」
「もう商売始めちゃったらいいんじゃないかしら」
サラとフランチェスカは笑いあった。

ジョンの魔法具は後で一緒に考えて作ってみるということで話が終わり、午後の授業にそろそろ行こうかと話をしていた時の事だった。

「あっ、ルーシィ、いたいた!探してたのよ!」
「あれ、ゲイリー先輩?どうしたんですか?」

ルーシッドを見つけ、走ってきて声をかけたのはゲイリー・シュトロームだった。

「あなたに言っておかなければいけないことがあるのよ」
「え、何ですか?」


「リスヴェル・ブクレシュティが事情聴取のために入れられていた留置場から脱獄したみたいよ…」
「そっ、そんな!どうやって!?」
サラが驚いて聞き返す。
「わからないわ…魔法を詠唱させないように口には常に猿ぐつわをはめられて、一日中見張られていたし、魔法具の類も一つも持っていなかったはずなのに、ほんの一瞬目を離したすきに忽然と姿を消したそうよ…」
「リスヴェル博士は古代言語魔法ハイエイシェントマジックが使えますから、恐らくは文字を書いて魔法を発動させたんだと思います。あの時の仕掛けでは土の魔法が使われてましたから、多分リスヴェル博士は土の魔法が使えると思います。土の魔法で地面から逃げたんじゃないですかね」
「な…なるほど……」
「まぁいずれにしろ、リスヴェルが脱獄した理由は復讐の可能性が高いわ、ルーシィ、研究を邪魔されたあなたへのね。十分気をつけてね」

あのリスヴェルが…狂気の天才人形魔法師リスヴェルがこの街のどこかにいる。
全員が固唾を飲んだ。






ふふふ…

ふふふふふ…

私のルーシィ

待っててね

今会いに行くわよ
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