魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

文字の大きさ
70 / 153
第9章 パーティー対抗戦編

パーティー対抗戦①

しおりを挟む
地下迷宮探索を終え、リスヴェルが学校に赴任してきてから1週間ほど経った。今はディアナの月(4月に相当)の4週目である。学院は平穏を取り戻していた。
地下迷宮の調査は終了し、多少地形の変化は見られたが特に荒らされた様子もなく危険性もないので、再び解放されていた。元々リスヴェルがルーシッドを出迎えるために仕掛けを用意しただけなので当然なのだが。

ルーシッド達のクラスでは次に行われるクラスの演習について担任のリサ・ミステリカから話されていた。



「パーティー対抗戦ですか?」


「はい、パーティー対抗戦はクラス内で行われる実技演習の1つで、今まで行ったチーム演習や地下迷宮探索演習とは異なり、パーティー同士で勝負してもらうことになります。ゲームはその時によって様々ですが、今回のゲームは『キャプチャー・ザ・フラッグ(旗取り戦)』です。
ルールは簡単で、自陣に用意された旗を取り合って最後に旗を一番多く持っていたパーティーが優勝です。
ゲーム時間は午後の授業時間の3時間です。このゲームに関しては相手への直接攻撃は物理的なものも魔法的なものも禁止です。魔法は防御魔法や移動魔法など、攻撃以外に使用するものに限ります。何か質問はありますか?」
「先生、どこでやるんですかー?」
ライム・グリエッタが手を上げて尋ねる。
「あぁ、そうでしたね。今回の会場は学院の裏にある大森林です」
「他に質問はありますか?」
「優勝したら何か賞品ありますかー?」
再びライムが尋ねる。クラスの授業で賞品なんて出るわけないとみんなが笑っていると
「ありますよ」
とリサは答えた。その言葉にクラスの目の色が変わる。
「まぁそんなに大したものではありませんが、今晩の夕食時に優勝者限定デザートと交換できる『デザート引換券』がもらえます」

「限定デザート……」
ライムがごくりと唾を飲む。
「みんな!頑張ろう!限定デザートだって!」
「え、えぇ、そうね…」
すごい気迫に押されてそう答えるシアン・ノウブル。
「限定って言われると食べたくなるわね~」
うふふと笑うロイエ・ネイプルス。

「他に質問は?」

「先生、旗を取るために魔法を使用することはルール違反になりませんか?」
シアンがそう尋ねると、リサは良い質問だと思い少し微笑んだ。

「えぇ、それはルール違反ではありません」
「では、旗を取るための魔法の流れ弾が相手選手に当たってしまうことは?」
「故意でなければ問題ありません。審判は私とリスヴェル先生、そして、今回の演習からは白澤ハクタクのシシル・アラギキ先生も審判に加わってくださいます」
白澤ハクタクとは何ですか?」
白澤ハクタクはクシダラ国出身の魔獣で、八つの目があり人間よりもはるかに広い視野を持ち、また非常に知恵に富んでいます。私たちの学院にはなくてはならないとても貴重な方ですよ」

魔獣の中にも、人間と一定の距離を取って生活している者たちと、人間社会に完全に溶け込んで生活している者たちなど色々な者がいる。例えば、ドラゴンやエルフ、ユニコーンなどは人間社会にあまり出てこない者が多い。これは人間が嫌いとかそういうわけではなく、環境的な要因が大きい。多くの魔獣は自然を好むため、人間の手があまり加えられていない場所に住んでいることが多いからだ。しかし一概にそうという訳ではなく、中には都会が好きという個体もいる。魔獣には人型と獣型がいるが、魔獣はアウラ(生体エネルギー)の量が人間よりも圧倒的に多く、それを扱う能力も人間より高いため、獣型の魔獣の中には形態変化シェイプシフトして、人型になって人間界で生活している者も多い。これは別に姿を隠している訳でなく、獣型のままだと単純に生活が不便だからである。

そんな中でも白澤ハクタクはとりわけ人間に友好的な魔獣であり、この学院ではその能力ゆえに、広い場所で行う対抗戦形式の演習の審判や、遠征に行く際の監視役など色々な役目を負ってくれている。実は、入学試験の時に審判を務めていたのも、このシシルである。

ちなみにこの世界の共通語は魔法界共通語リンガ・マジカと呼ばれるもので、我々の世界の英語に近い文字や文型を持つ言語である。しかし、シシルの出身国であるクシダラ国には古来から『クシダラ語』と呼ばれる独自言語が存在している。これは日本語によく似ている。

その言葉によると、シシル・アラギキは『新聞あらぎき 知識ししる』となる。

魔法界共通語リンガ・マジカ古代言語ハイエイシェントは『書記言語』であり、妖精や魔獣、魔法使い達が共通で話している『口頭言語』に文字を当てたものである。この口頭言語は単純に『言葉ことば』と呼ばれている。この世界には基本的に1つの口頭言語しかないため、他と区別する必要がないからである。しかし、クシダラ語と区別するため『妖魔語』という言い方が用いられることもある。
一方でクシダラ語やルーン文字は独自の言語であり、使用される単語やその意味、文字の発音や文法体系も異なるものである。クシダラ国内では、普通に妖魔語も話されているが、言語表記や単語、またとりわけ人名にはクシダラ語が使われる。クシダラ国外で生活している魔法使い達は自分の名前の表記を魔法界共通語リンガ・マジカで書き換えているのである。



「他に質問はありますか?」
「先生、自陣の旗は自陣に置いておく必要があるのですか?」
ルーシッドがそう尋ねると、これまた良い質問だとリサは思った。
「いえ、そういうわけではありません」
リサは多くは語らず、ただそう答えた。

この質問とその答えに意味を見出した生徒がどれだけいたかはわからない。

「他に質問がなければ説明は以上です。昼休みのうちにパーティーで戦略を考えておくと良いでしょう」


そう、このゲームのルールは『自陣に用意された旗』を取り合うことだ。自陣の旗を自陣に置いておかなければならないという訳ではない。
『キャプチャー・ザ・フラッグ(旗取り戦)』はクラス対抗戦などでも行われるゲームであるが、そのように味方がある程度の人数存在している場合は、攻守にメンバーを分けて試合を行うのが定石だろう。
しかし、今回のようにメンバーが4~5人となると、分けてしまうとどちらかが手薄になってしまう可能性もある。そうなった場合はパーティーメンバーの魔法バランスを考えて、守備重視にするか攻撃重視にするかを考える必要がある。
しかし、『自陣の旗を自陣に置いておく必要がない』ということであれば、戦略の幅が広がると考えられる。
このルールをどのように用いるかは、そのパーティーの戦略に委ねれれている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...