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第9章 パーティー対抗戦編
パーティー対抗戦⑤ 戦況① ルーシッドVSジョン&コニア
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ルーシッドは静かに壁の後ろ側に回る。壁の後ろは完全な死角となっていて、こちらからも向こうの様子は見えないが、逆にあちらからもルーシッドのことはわからない。ルーシッドはその死角をついて、壁を挟んでジョン達の真後ろに位置していた。
「この辺りかな、エアリー?」
「はい、ちょうどここが旗の真後ろです」
エアリーは、壁のある位置を指差してそう言った。
エアリーはその演算能力で見たものの距離を正確に計算することができるので、先ほど正面から見た時の情報を元に、旗の位置を正確に把握することができた。
「よし、じゃあ私が上に登って指示するからよろしくね」
「了解しました」
後ろから攻めてくるはずがないと考えれば、当然後ろへの警戒は緩むものだ。ルーシッドは滞空を使って、壁の上まですいすいと登っていき、壁の真上に立った。そこから下を覗くと、ちょうど真下に旗があった。
そこでルーシッドは小声でこう言った。
「術式:鉄操作
術式展開」
その声はマイクを通して情報に変換され、エアリーに伝わる。すると、エアリーの側の壁がぐにゃりとへこんで、反対側、つまり正面の方の壁から細い金属が伸びる。そして旗の柄の部分にしっかりと巻きついた。そしてその金属は旗をつかんだまま上へ、すーっと持ち上がっていった。
「意外に気づかれないもんだなぁ」
こんなに上手くいくとは思わなかった。気づかれたら強行突破しようと考えていたが、無駄な争いをせずに相手の旗を取ることができた。
壁の上まで鉄を操作して持ち上げると、旗をひょいと取るルーシッド。鉄は元通りにすると、操作した形跡は跡形もなく消え去った。
鉄の壁を再び滞空でひょいひょい降りていき、地面に降り立つルーシッド。
「お見事です」
それを出迎えるエアリー。
「エアリーが位置を正確に把握してくれてるお陰だよ。さぁ、気づかれる前に遠くへ行こう」
それから数分経った頃。コニアが静かに言った。
「ジョン…大変…」
「どうした?コニー?」
2人は少しだけ向かい合い、それぞれが前方右と左を監視する形で、前を向きながら話す。
後ろには壁があるので、真後ろから突然奇襲されるということは考えられない。そもそも今回のルールでは相手への直接攻撃は禁止されているので、旗の位置が把握できない後ろから攻めてくるメリットはほとんどない。相手はどうにかして、2人の妨害をかいくぐって旗を取らなければいけないのだ。自分の土や鉄、コニアの氷や水は防御や妨害には適している。この作戦はかなり良いように思えた。
「…旗がなくなってる」
「……な…!?」
ジョンが焦って振り向くと、そこにあるはずの旗が忽然と消えていた。
「そんなバカな…いつの間に…!?」
「全く気付かなかった。方法もわからない」
「というかキミはすごく冷静だな…さて、どうしたものか…」
「旗を取り返すか、別の旗を狙いに行くか。でも旗を誰が取ったのかわからない状況では、取り返すのはかなり難しい」
「確かにそうだな…とりあえず他のメンバーに連絡しなければ…」
ジョンは『音の魔法具』を取り出した。
ルーシッド達のように特殊な連絡手段を持っていない普通の魔法使い達は、離れた相手とどのように連絡を取るのか。何かテレパシーのように離れた相手と連絡を取れる魔法は存在していない。
これにはいくつかの方法があるが、音の魔法や光の魔法を使って連絡を取る手段が一般的である。直接喋った内容を音の魔法で増幅すると自分たちのパーティーだけでなく全員に内容が知られてしまう。ルーシッド達のように特定の人だけに聞こえるように伝えることはできないので、あらかじめ仲間内で決めておいた暗号を伝えるようにしている。
他のパーティーも同じ方法で連絡を取り合っている場合、どれが自分のパーティーのメッセージだか分からなくなってしまうので、そうなることを避けるために、最初の音は自分たちのパーティーに特有のものにしておくのが一般的である。
ジョンは音の魔法具を発動し、自分の笛の音を増幅してメッセージを送った。
「ジョンからのメッセージだね」
事前に決めていた音が聞こえたので、クリスティーンはそう言った。
それを遠くで聞いていたリリアナとクリスティーンはメッセージを聞き逃さないように注意を集中する。
「旗が取られてしまった、ジョン達も陣地を捨てて動く、ということね」
リリアナが確認のため、メッセージを復唱する。
「あぁ、僕たちもどこかのパーティーの旗を取れるように頑張らないと負けてしまうね」
「でも、陣地すらなかなか見つからないものね。まさかみんな旗を持って移動して回っているのかしら?」
「そんな戦法取るかなぁ…おや、あれは?」
何かが動いたように感じてクリスティーンが前方に注意を向けると、フェリカが通り過ぎていくところだった。
「キリエのとこのフェリカだね。あそこのパーティーは他のパーティーの旗の位置をすでに把握している可能性が高い。フェリカについていけば他のパーティーの陣地にたどり着けるかもしれないよ。どうする?」
「そうね。何の手がかりがないままに闇雲に探すよりはいいわね。上手くいけばどさくさに紛れて旗を横取りできるかもしれないわ」
リリアナとクリスティーンは木陰に隠れながらフェリカを尾行することにしたのだった。
「この辺りかな、エアリー?」
「はい、ちょうどここが旗の真後ろです」
エアリーは、壁のある位置を指差してそう言った。
エアリーはその演算能力で見たものの距離を正確に計算することができるので、先ほど正面から見た時の情報を元に、旗の位置を正確に把握することができた。
「よし、じゃあ私が上に登って指示するからよろしくね」
「了解しました」
後ろから攻めてくるはずがないと考えれば、当然後ろへの警戒は緩むものだ。ルーシッドは滞空を使って、壁の上まですいすいと登っていき、壁の真上に立った。そこから下を覗くと、ちょうど真下に旗があった。
そこでルーシッドは小声でこう言った。
「術式:鉄操作
術式展開」
その声はマイクを通して情報に変換され、エアリーに伝わる。すると、エアリーの側の壁がぐにゃりとへこんで、反対側、つまり正面の方の壁から細い金属が伸びる。そして旗の柄の部分にしっかりと巻きついた。そしてその金属は旗をつかんだまま上へ、すーっと持ち上がっていった。
「意外に気づかれないもんだなぁ」
こんなに上手くいくとは思わなかった。気づかれたら強行突破しようと考えていたが、無駄な争いをせずに相手の旗を取ることができた。
壁の上まで鉄を操作して持ち上げると、旗をひょいと取るルーシッド。鉄は元通りにすると、操作した形跡は跡形もなく消え去った。
鉄の壁を再び滞空でひょいひょい降りていき、地面に降り立つルーシッド。
「お見事です」
それを出迎えるエアリー。
「エアリーが位置を正確に把握してくれてるお陰だよ。さぁ、気づかれる前に遠くへ行こう」
それから数分経った頃。コニアが静かに言った。
「ジョン…大変…」
「どうした?コニー?」
2人は少しだけ向かい合い、それぞれが前方右と左を監視する形で、前を向きながら話す。
後ろには壁があるので、真後ろから突然奇襲されるということは考えられない。そもそも今回のルールでは相手への直接攻撃は禁止されているので、旗の位置が把握できない後ろから攻めてくるメリットはほとんどない。相手はどうにかして、2人の妨害をかいくぐって旗を取らなければいけないのだ。自分の土や鉄、コニアの氷や水は防御や妨害には適している。この作戦はかなり良いように思えた。
「…旗がなくなってる」
「……な…!?」
ジョンが焦って振り向くと、そこにあるはずの旗が忽然と消えていた。
「そんなバカな…いつの間に…!?」
「全く気付かなかった。方法もわからない」
「というかキミはすごく冷静だな…さて、どうしたものか…」
「旗を取り返すか、別の旗を狙いに行くか。でも旗を誰が取ったのかわからない状況では、取り返すのはかなり難しい」
「確かにそうだな…とりあえず他のメンバーに連絡しなければ…」
ジョンは『音の魔法具』を取り出した。
ルーシッド達のように特殊な連絡手段を持っていない普通の魔法使い達は、離れた相手とどのように連絡を取るのか。何かテレパシーのように離れた相手と連絡を取れる魔法は存在していない。
これにはいくつかの方法があるが、音の魔法や光の魔法を使って連絡を取る手段が一般的である。直接喋った内容を音の魔法で増幅すると自分たちのパーティーだけでなく全員に内容が知られてしまう。ルーシッド達のように特定の人だけに聞こえるように伝えることはできないので、あらかじめ仲間内で決めておいた暗号を伝えるようにしている。
他のパーティーも同じ方法で連絡を取り合っている場合、どれが自分のパーティーのメッセージだか分からなくなってしまうので、そうなることを避けるために、最初の音は自分たちのパーティーに特有のものにしておくのが一般的である。
ジョンは音の魔法具を発動し、自分の笛の音を増幅してメッセージを送った。
「ジョンからのメッセージだね」
事前に決めていた音が聞こえたので、クリスティーンはそう言った。
それを遠くで聞いていたリリアナとクリスティーンはメッセージを聞き逃さないように注意を集中する。
「旗が取られてしまった、ジョン達も陣地を捨てて動く、ということね」
リリアナが確認のため、メッセージを復唱する。
「あぁ、僕たちもどこかのパーティーの旗を取れるように頑張らないと負けてしまうね」
「でも、陣地すらなかなか見つからないものね。まさかみんな旗を持って移動して回っているのかしら?」
「そんな戦法取るかなぁ…おや、あれは?」
何かが動いたように感じてクリスティーンが前方に注意を向けると、フェリカが通り過ぎていくところだった。
「キリエのとこのフェリカだね。あそこのパーティーは他のパーティーの旗の位置をすでに把握している可能性が高い。フェリカについていけば他のパーティーの陣地にたどり着けるかもしれないよ。どうする?」
「そうね。何の手がかりがないままに闇雲に探すよりはいいわね。上手くいけばどさくさに紛れて旗を横取りできるかもしれないわ」
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