魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

文字の大きさ
74 / 153
第9章 パーティー対抗戦編

パーティー対抗戦⑤ 戦況① ルーシッドVSジョン&コニア

しおりを挟む
ルーシッドは静かに壁の後ろ側に回る。壁の後ろは完全な死角となっていて、こちらからも向こうの様子は見えないが、逆にあちらからもルーシッドのことはわからない。ルーシッドはその死角をついて、壁を挟んでジョン達の真後ろに位置していた。

「この辺りかな、エアリー?」
「はい、ちょうどここが旗の真後ろです」
エアリーは、壁のある位置を指差してそう言った。

エアリーはその演算能力で見たものの距離を正確に計算することができるので、先ほど正面から見た時の情報を元に、旗の位置を正確に把握することができた。

「よし、じゃあ私が上に登って指示するからよろしくね」
「了解しました」

後ろから攻めてくるはずがないと考えれば、当然後ろへの警戒は緩むものだ。ルーシッドは滞空エアロステップを使って、壁の上まですいすいと登っていき、壁の真上に立った。そこから下を覗くと、ちょうど真下に旗があった。
そこでルーシッドは小声でこう言った。

術式コード鉄操作アイアンプロセッシング
術式展開ディコンプレッション

その声はマイクを通して情報に変換され、エアリーに伝わる。すると、エアリーの側の壁がぐにゃりとへこんで、反対側、つまり正面の方の壁から細い金属が伸びる。そして旗の柄の部分にしっかりと巻きついた。そしてその金属は旗をつかんだまま上へ、すーっと持ち上がっていった。

「意外に気づかれないもんだなぁ」

こんなに上手くいくとは思わなかった。気づかれたら強行突破しようと考えていたが、無駄な争いをせずに相手の旗を取ることができた。
壁の上まで鉄を操作して持ち上げると、旗をひょいと取るルーシッド。鉄は元通りにすると、操作した形跡は跡形もなく消え去った。
鉄の壁を再び滞空エアロステップでひょいひょい降りていき、地面に降り立つルーシッド。

「お見事です」
それを出迎えるエアリー。

「エアリーが位置を正確に把握してくれてるお陰だよ。さぁ、気づかれる前に遠くへ行こう」


それから数分経った頃。コニアが静かに言った。
「ジョン…大変…」
「どうした?コニー?」

2人は少しだけ向かい合い、それぞれが前方右と左を監視する形で、前を向きながら話す。
後ろには壁があるので、真後ろから突然奇襲されるということは考えられない。そもそも今回のルールでは相手への直接攻撃は禁止されているので、旗の位置が把握できない後ろから攻めてくるメリットはほとんどない。相手はどうにかして、2人の妨害をかいくぐって旗を取らなければいけないのだ。自分の土や鉄、コニアの氷や水は防御や妨害には適している。この作戦はかなり良いように思えた。

「…旗がなくなってる」
「……な…!?」
ジョンが焦って振り向くと、そこにあるはずの旗が忽然と消えていた。

「そんなバカな…いつの間に…!?」
「全く気付かなかった。方法もわからない」
「というかキミはすごく冷静だな…さて、どうしたものか…」
「旗を取り返すか、別の旗を狙いに行くか。でも旗を誰が取ったのかわからない状況では、取り返すのはかなり難しい」
「確かにそうだな…とりあえず他のメンバーに連絡しなければ…」

ジョンは『音の魔法具』を取り出した。

ルーシッド達のように特殊な連絡手段を持っていない普通の魔法使い達は、離れた相手とどのように連絡を取るのか。何かテレパシーのように離れた相手と連絡を取れる魔法は存在していない。
これにはいくつかの方法があるが、音の魔法や光の魔法を使って連絡を取る手段が一般的である。直接喋った内容を音の魔法で増幅すると自分たちのパーティーだけでなく全員に内容が知られてしまう。ルーシッド達のように特定の人だけに聞こえるように伝えることはできないので、あらかじめ仲間内で決めておいた暗号を伝えるようにしている。
他のパーティーも同じ方法で連絡を取り合っている場合、どれが自分のパーティーのメッセージだか分からなくなってしまうので、そうなることを避けるために、最初の音は自分たちのパーティーに特有のものにしておくのが一般的である。

ジョンは音の魔法具を発動し、自分の笛の音を増幅してメッセージを送った。


「ジョンからのメッセージだね」
事前に決めていた音が聞こえたので、クリスティーンはそう言った。
それを遠くで聞いていたリリアナとクリスティーンはメッセージを聞き逃さないように注意を集中する。

「旗が取られてしまった、ジョン達も陣地を捨てて動く、ということね」
リリアナが確認のため、メッセージを復唱する。
「あぁ、僕たちもどこかのパーティーの旗を取れるように頑張らないと負けてしまうね」
「でも、陣地すらなかなか見つからないものね。まさかみんな旗を持って移動して回っているのかしら?」
「そんな戦法取るかなぁ…おや、あれは?」
何かが動いたように感じてクリスティーンが前方に注意を向けると、フェリカが通り過ぎていくところだった。

「キリエのとこのフェリカだね。あそこのパーティーは他のパーティーの旗の位置をすでに把握している可能性が高い。フェリカについていけば他のパーティーの陣地にたどり着けるかもしれないよ。どうする?」
「そうね。何の手がかりがないままに闇雲に探すよりはいいわね。上手くいけばどさくさに紛れて旗を横取りできるかもしれないわ」

リリアナとクリスティーンは木陰に隠れながらフェリカを尾行することにしたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。

彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位! 読者の皆様、ありがとうございました! 婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。 実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。 鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。 巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう! ※4/30(火) 本編完結。 ※6/7(金) 外伝完結。 ※9/1(日)番外編 完結 小説大賞参加中

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる

あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。 魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。 しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。

処理中です...