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第10章 1学期末テスト編
テスト対策①
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「うぅ~…難しいよぉ!」
フェリカが机に突っ伏して嘆く。
エメラルドの月(5月)の2週目となり、1学期末テストまであと2週間となった。
普段あまり勉強をしないフェリカもテスト対策を本格化させていたのだった。
ちなみにディナカレア魔法学院の1学期はペリルの月(6月)いっぱいまでである。ペリルの月には1年最初のクラス対抗戦があり、それが終わると夏休みとなる。夏休みは二か月間なので、ほとんどの学生は故郷に戻るが、寮に残る学生たちもいる。
ちなみにルーシッドのルームメイトの学力はと言うと、ルーシッドは言わずもがなで、ルビアも当然学年上位に入るくらいの頭脳である。キリエもかなり勉強ができる方である。フェリカは何度か自己申告しているようにあまり勉強が得意ではないようだ。
「学生ってのも大変なのね」
「あぁ、難儀なもんじゃ」
「そうだよね!2人もそう思うよね?」
フェリカが話しかけたのは魔法人形だった。
その魔法人形はフェリカの周りをふわふわと浮かんでいた。
そう、ただの魔法人形ではない。これは、神位の妖精の依代である。
以前リスヴェルに、マリーとヒルダの依代を作ってくれるようにお願いしていたのが完成したのだ。
大きさとしては大体フェリカの顔と同じくらいの大きさで、デフォルメされて3頭身くらいになった可愛らしい人形だ。しかし、その完成度は高く、髪形や服装、装飾品に至るまで本来の2人を忠実に再現している。しかも、顔のパーツに至っては目もまばたきでき、口も喋っているように動く。
魔法人形としては最も一般的な木製球体関節人形と言われるタイプの人形を、人間の肌を再現した特殊素材のゴムで覆うことで作られているが、関節可動域は非常に多く、指までしっかりと動かすことができる。
さすがは世界最高の魔法人形師の1人と言われるリスヴェル・ブクレシュティ作だけのことはある出来栄えである。
実はリスヴェルは密かにマリエル・オネトルティアが素体を作り、ルーシッドが魔法術式を組んだエアリーに闘志を燃やしており、それに負けないくらいの人形を作ってやると言ってこの2体を完成させたのだった。
その出来栄えは神位の妖精の2人も大いに気にいるほどで、2人は常時この依代を使って生活していたのだった。
2人いわく、完成度が高い依代は人間以上に居心地が良い、とのことだった。魔法界では依代に入っている方が落ち着けるのだそうだ。物質的な世界とはそういうものなのだろうか。
「でも研究は大切よ?研究なくして新たな発見は得られないわ」
「そうじゃな。それに昔の魔法使いはみんな1人で黙々と研究しとったもんじゃ。今はこうして仲間と勉強できる場所があるんじゃから恵まれておるじゃろ。リカ、しっかりやれぃ」
「あれ、突然の逆風!?」
「全く…普段からちゃんと予習復習をしてないからそうなるのよ」
ルビアがその様子を見てため息をついた。
「いや、だって色々忙しいんだもん…」
「まぁ確かにね~」
キリエが笑いながら言う。
「3人はいいよねー。余裕そうで」
「いや、そうでも無いわよ。ちゃんと勉強しないと私だって難しいわ。余裕なのはルーシィくらいでしょ」
「え?いや、私も分野によるよ。魔法数学とか魔法工学、魔法力学とかは得意だけど、魔法薬学とかは全然だし」
「いや、それ全部2年生以降の分野だからね!?それを得意って言ってる時点ですでにちょっとおかしいよ!」
フェリカが突っ込む。
ルーシッドは普段の言動から万能の天才かのように思われるが、実はその知識にはかなりの偏りがある。
ルーシッドが自己申告したように、ルーシッドが得意なのは主に魔法理論と応用学、そして言語学の分野である。この分野に関して言えば、ルーシッドは間違いなく魔法界で最高の頭脳と言ってよい。
しかし、魔法薬学の分野などに関してはあまり詳しくない。もちろん勉強自体は嫌いではないので、学校で勉強したものに関しては問題なくこなせているが。
「まぁそれでもペーパーテストは全然大丈夫だけど、問題は『実技試験』かな。例のごとく『判定不能』って言われなきゃいいけど」
ディナカレア魔法学院の期末テストではそれぞれの教科の『ペーパーテスト』に加え、『実技試験』も課される。実技試験は入試『模擬戦』のような対戦方式ではなく『個人実技』方式である。そこまでの段階で勉強したことを実践できるかを試すためのもので、ある課題が与えられて時間内で達成できるか、またその時間や魔法の完成度などによって評価される。公正を期するために毎年試験内容は変更され、事前に試験内容が明かされることもない。その場で出された課題に臨機応変にどう取り組むかが求められる試験である。
そう、ルーシッドがどんなに優れていても、魔法を使えないという事実は覆らない事実である。
『魔法』の定義は、魔力によって妖精を使役すること。妖精を使役していないルーシッドはどんなに強くても魔法使いではないのである。
「ほんとおかしな話よね。結果として得られるものが同じなら過程なんてどうでもいいのに」
ルビアが悔しさをにじませる。
「でも、今回の実技試験は個人実技じゃなくて『パーティー実技』だから大丈夫だよ。みんなで合格すれば良いんだし」
そう言って、キリエが励ます。
入試の時は一人一人の実力を測るため『個人実技』や決闘形式の『模擬戦』が行われたが、実際のところ魔法使いが単独で行動するということはほとんどない。魔法使いは詠唱を行っている間無防備になってしまうし、魔法具や魔石はあるとはいえ魔力によって使用できる魔法も限られるため、よほどのことが無い限り単独行動はせず、パーティーで行動するのが普通である。
それでディナカレア魔法学院では、最初の段階で決定したパーティー全員で1つの課題に取り組む『パーティー実技』を授業や試験にも採用しているのである。
「うん、ありがと」
ルーシッドは微笑んだ。
「ごめんとか、迷惑かけるとか、そういうのは無しよ。課題解決にあたっては絶対にルーシィの力が必要になるわ」
「うん、任せて」
そう言ってくれるルビアに対して、ルーシッドはその信頼に応えるべく力強く答えた。
「ルーシィの力は現在進行形で必要だよぉ!ルーシィ助けてぇ!」
フェリカがルーシィに駆け寄って、泣きつきながらそう言う。
「はいはい、どれどれ?」
ルーシッドはそんなフェリカの頭をポンポンとしながら質問を促すのだった。
フェリカが机に突っ伏して嘆く。
エメラルドの月(5月)の2週目となり、1学期末テストまであと2週間となった。
普段あまり勉強をしないフェリカもテスト対策を本格化させていたのだった。
ちなみにディナカレア魔法学院の1学期はペリルの月(6月)いっぱいまでである。ペリルの月には1年最初のクラス対抗戦があり、それが終わると夏休みとなる。夏休みは二か月間なので、ほとんどの学生は故郷に戻るが、寮に残る学生たちもいる。
ちなみにルーシッドのルームメイトの学力はと言うと、ルーシッドは言わずもがなで、ルビアも当然学年上位に入るくらいの頭脳である。キリエもかなり勉強ができる方である。フェリカは何度か自己申告しているようにあまり勉強が得意ではないようだ。
「学生ってのも大変なのね」
「あぁ、難儀なもんじゃ」
「そうだよね!2人もそう思うよね?」
フェリカが話しかけたのは魔法人形だった。
その魔法人形はフェリカの周りをふわふわと浮かんでいた。
そう、ただの魔法人形ではない。これは、神位の妖精の依代である。
以前リスヴェルに、マリーとヒルダの依代を作ってくれるようにお願いしていたのが完成したのだ。
大きさとしては大体フェリカの顔と同じくらいの大きさで、デフォルメされて3頭身くらいになった可愛らしい人形だ。しかし、その完成度は高く、髪形や服装、装飾品に至るまで本来の2人を忠実に再現している。しかも、顔のパーツに至っては目もまばたきでき、口も喋っているように動く。
魔法人形としては最も一般的な木製球体関節人形と言われるタイプの人形を、人間の肌を再現した特殊素材のゴムで覆うことで作られているが、関節可動域は非常に多く、指までしっかりと動かすことができる。
さすがは世界最高の魔法人形師の1人と言われるリスヴェル・ブクレシュティ作だけのことはある出来栄えである。
実はリスヴェルは密かにマリエル・オネトルティアが素体を作り、ルーシッドが魔法術式を組んだエアリーに闘志を燃やしており、それに負けないくらいの人形を作ってやると言ってこの2体を完成させたのだった。
その出来栄えは神位の妖精の2人も大いに気にいるほどで、2人は常時この依代を使って生活していたのだった。
2人いわく、完成度が高い依代は人間以上に居心地が良い、とのことだった。魔法界では依代に入っている方が落ち着けるのだそうだ。物質的な世界とはそういうものなのだろうか。
「でも研究は大切よ?研究なくして新たな発見は得られないわ」
「そうじゃな。それに昔の魔法使いはみんな1人で黙々と研究しとったもんじゃ。今はこうして仲間と勉強できる場所があるんじゃから恵まれておるじゃろ。リカ、しっかりやれぃ」
「あれ、突然の逆風!?」
「全く…普段からちゃんと予習復習をしてないからそうなるのよ」
ルビアがその様子を見てため息をついた。
「いや、だって色々忙しいんだもん…」
「まぁ確かにね~」
キリエが笑いながら言う。
「3人はいいよねー。余裕そうで」
「いや、そうでも無いわよ。ちゃんと勉強しないと私だって難しいわ。余裕なのはルーシィくらいでしょ」
「え?いや、私も分野によるよ。魔法数学とか魔法工学、魔法力学とかは得意だけど、魔法薬学とかは全然だし」
「いや、それ全部2年生以降の分野だからね!?それを得意って言ってる時点ですでにちょっとおかしいよ!」
フェリカが突っ込む。
ルーシッドは普段の言動から万能の天才かのように思われるが、実はその知識にはかなりの偏りがある。
ルーシッドが自己申告したように、ルーシッドが得意なのは主に魔法理論と応用学、そして言語学の分野である。この分野に関して言えば、ルーシッドは間違いなく魔法界で最高の頭脳と言ってよい。
しかし、魔法薬学の分野などに関してはあまり詳しくない。もちろん勉強自体は嫌いではないので、学校で勉強したものに関しては問題なくこなせているが。
「まぁそれでもペーパーテストは全然大丈夫だけど、問題は『実技試験』かな。例のごとく『判定不能』って言われなきゃいいけど」
ディナカレア魔法学院の期末テストではそれぞれの教科の『ペーパーテスト』に加え、『実技試験』も課される。実技試験は入試『模擬戦』のような対戦方式ではなく『個人実技』方式である。そこまでの段階で勉強したことを実践できるかを試すためのもので、ある課題が与えられて時間内で達成できるか、またその時間や魔法の完成度などによって評価される。公正を期するために毎年試験内容は変更され、事前に試験内容が明かされることもない。その場で出された課題に臨機応変にどう取り組むかが求められる試験である。
そう、ルーシッドがどんなに優れていても、魔法を使えないという事実は覆らない事実である。
『魔法』の定義は、魔力によって妖精を使役すること。妖精を使役していないルーシッドはどんなに強くても魔法使いではないのである。
「ほんとおかしな話よね。結果として得られるものが同じなら過程なんてどうでもいいのに」
ルビアが悔しさをにじませる。
「でも、今回の実技試験は個人実技じゃなくて『パーティー実技』だから大丈夫だよ。みんなで合格すれば良いんだし」
そう言って、キリエが励ます。
入試の時は一人一人の実力を測るため『個人実技』や決闘形式の『模擬戦』が行われたが、実際のところ魔法使いが単独で行動するということはほとんどない。魔法使いは詠唱を行っている間無防備になってしまうし、魔法具や魔石はあるとはいえ魔力によって使用できる魔法も限られるため、よほどのことが無い限り単独行動はせず、パーティーで行動するのが普通である。
それでディナカレア魔法学院では、最初の段階で決定したパーティー全員で1つの課題に取り組む『パーティー実技』を授業や試験にも採用しているのである。
「うん、ありがと」
ルーシッドは微笑んだ。
「ごめんとか、迷惑かけるとか、そういうのは無しよ。課題解決にあたっては絶対にルーシィの力が必要になるわ」
「うん、任せて」
そう言ってくれるルビアに対して、ルーシッドはその信頼に応えるべく力強く答えた。
「ルーシィの力は現在進行形で必要だよぉ!ルーシィ助けてぇ!」
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