魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第11章 クラス対抗魔法球技戦編

バトルボール①

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サラの試合がちょうど行われている頃、ルーシッド達はバトルボールの会場の控室にいた。

「みんな、魔法具の動作チェックはしっかりね。練習の時も使ってはいたけど、普通の魔法具とは使用感が全然違うからね。本番中にちゃんと起動できるようにね」
ルーシッドはバトルボールに出場する選手たちにそう声をかけた。

「最初に自分がバトルボールの選手に選ばれた時は何の冗談かと思ったけどね」
「私もよ。だって私、土の魔法使えないし」
クリスティーン・チェスナットとリリアナ・ソルフェリノがそう話した。

今回出場する選手はクリスティーン・チェスナット、リリアナ・ソルフェリノ、レガリー・コチニール、ランダル・カーマイン、ミスズ・シグレの5人だった。

バトルボールのルールはいたってシンプルである。砂の魔法を用いて作った規定の大きさ(手のひらサイズ)のボールをぶつけ合い、試合時間30分でそのぶつけたポイントを競い合うというものだ。攻撃には砂の魔法以外は使用してはならないが、防御や移動に関しては他の魔法を用いても構わない。
当然のことながら、出場選手は黄の魔力を持っていることが絶対条件だと考えられていた。しかし、ルーシッド達のクラスから出場する5人のうち、4人が土の魔法を使えないという、普通に考えてありえないオーダーを組んできたのであった。

「でもこの魔法具があれば、私たちでも十分に戦えるわね」
「あぁ、そうだね」
レガリーとランダルもそう述べる。

「でも、その魔法具は時限式だし、それに…」
「十分よ」
ミスズはその言葉を遮るようにそう言った。

「問題ない。むしろこっちの方が私にとってはいいわ」
ミスズは自分の右手に装着した魔法具を見て、にやりと笑った。


試合が始まって少したった頃、試合を終えたサラとフランチェスカ達が、ルーシッド達がバトルボールの試合を行っている会場に到着した。

「会長!」
「あ、サリーさん、ここよ」
会場にはすでに生徒会カウンサルのメンバーが幾人か集まっていた。

「どうですか?ルーシッド達のチームは」
「どうもこうもないわ」
サラが尋ねると、会計のシヴァがそう答えた。

「試合開始からもう少しで10分近く経つゆうに、全員でただ逃げ回ってるだけや」
「何か策があってのことだと思うのだけど…」
「そもそも、出場メンバーのほとんどが土の魔法を使えないというのが理解できません…魔法具も持っていないようですし、どういうつもりなんでしょうか」
フリージアやヴァンも首をかしげる。

サラはただ黙って試合会場の様子に目をやった。
確かにルーシッドのクラスの選手たちは、ただ会場を逃げ回っていた。魔法を使う様子もない。逃げ回っていると言っても、全てを避けきれているわけではなく、すでに相手チームに5ポイントほど取られているという状況だった。



「ねぇ……もういいかしら?」
ミスズが焦ったそうにチームのメンバーにそう尋ねる。

「ただ逃げ回るのにももう飽きたわね~」
「あぁ、10分経過した。そろそろ頃合いだね、ランディー?」
「残り20分…これで全力で戦えるわね」
「よし、みんな。お待ちかねだ、やるぞ!」

ランダルの掛け声に合わせて、ルーシッド達のチームのメンバー全員が右手にはめていたガントレットの腕の部分にある引き金のようなものを手前に起こすと、魔法具が起動した。

「あ、あれは魔法具…?」
「そうか…あの手にはめていたガントレットは魔法具だったのか。魔法石の魔力量に合わせて試合開始10分後から使用すると決めていたんでしょうね」
「しかし、なんやあれ?あんな形状の魔法具、初めてみたわ」

ガントレットの引き金を引くと、重なり合うようにしてガントレットの表面を覆っていた薄い金属の板が開き魔法回路マジックサーキットが展開する。引き金には魔法石がはめ込まれているので、それと同時に魔法を発動するために必要な魔力が魔法回路マジックサーキットに流れる。
そしてそのガントレットとは逆の手の手首にはめてあったブレスレット状の装置を回すと音楽が流れだす。それは演奏装置メロディカだった。
魔法が発動したことを確認して、5人は引き金を元に戻した。魔法回路マジックサーキット部分はまた重なり合ってガントレットの表面を覆い、それは元の姿に戻った。

「よ、よくあんな構造の魔法具を思いつくわね…」
魔法回路マジックサーキットを折りたたむことで、使用しない時は面積を減らしているわけですね。非常に繊細なグラム構築です」
魔法回路マジックサーキットだけやない、あの演奏装置メロディカもや。あんな小さい演奏装置メロディカ見たことないわ。あれ作ったんが、そのルーシッドっちゅうやつなんか?そんなんが学生やゆうんか?ありえへんやろ」

生徒会カウンサルメンバーがルーシッドのすごさを目の当たりにしているのを見て嬉しさを隠せないサラは、口元がにやにやしていた。

土の魔法を発動させた選手たちは、手のひらに砂のボールを作り出すと、今度は自分たち自身の魔力で魔法を発動する。
クリスティーン、リリアナ、レガリー、ランダルが発動させたのは炎の翼フレアウィングだ。しかしそれは普通の炎の翼フレアウィングとは

「あれは…炎の翼フレアウィング?」
「ですが…

4人の炎の翼フレアウィングには翼が無かった。本来翼があるべき位置にあるのは、ただの渦巻く炎だった。


加速アクセル!!」


そう追加詠唱アディショナルキャストをすると、炎は勢いを増し、4人は地面を高速で滑るようにして走り出した。

「なっ、何?あの魔法は…」
「あれは多分、ルーシィが前に言っていた炎の翼フレアウィングの亜種魔法の火の移動魔法『フレアアクセル』だと思います」
驚いて尋ねたフリージアにサラが答えた。
「火の魔法であんな速度が出せるっちゅうんか?どんな造形モデリングしたらあぁなんねん。あんなん風の魔法と同じ、いや、それ以上ちゃうか?」
「ルーシィは火の魔法で風を作り出すって言ってましたけど…」
「……は…?
なんやそれ?意味わからん…魔法で魔法を作り出すっちゅうことか?」
「いや、私にも難しくてよくわかりませんでしたが…」

そう、これは飛行魔法の実験をするときに、ルーシッドがアイデアを口にしていた『移動魔法アクセル』を実用化させたものだ。
魔法詠唱文は炎の翼フレアウィングや、ルビアの両翼の射手デュアルシューターとほぼ同じ。違うのは造形モデリングだけである。造形モデリングを変えただけなのに、ここまで違う魔法になってしまうのがすごいところである。
魔法で作り出す火を竜巻のように高速で回転させることにより、周りから強制的に燃焼に必要な空気を取り込んで放出することで、気流を作り出しそれを推進力とする。これによって風の魔法を使ったり、羽ばたいたりしていないのに、推進力を得ることができる。
しかし、今まで全くイメージしたことのない新しい魔法を練習によってしっかりとものにした4人も大したものである。

4人は『フレアアクセル』によって一気に加速して、相手選手との距離を一瞬で縮め、手に持っている砂のボールをそのまま相手に

「いや、ボール投げへんのかい!」
思わずシヴァが突っ込んだ。
「言われてみれば、砂のボールで攻撃しろとは言われているけど、投げなきゃいけないとは言われてないわね…」
「近距離攻撃を得意とする選手で、しかもこれだけの速度が出せるのなら、間合いを詰めて直接ぶつける方が確かに確実ですね」
「またこういうルールの抜け道をつくような作戦を…」

移動魔法アクセルにも驚きましたが、もっと驚くべきはもう1人の選手ですね。魔法を使っていないのに、移動魔法アクセルを使っている選手と同じか、それ以上の速さで動いています。それともあれは魔法?」

コートではミスズが目にもとまらぬ速度で縦横無尽に駆け回り、砂のボールを作っては逃げ回る相手の背中からゼロ距離で投げつけるという、弱い者いじめをしているとも見える戦い方をしていた。もはやミスズ無双状態である。

他の4人も移動魔法アクセルによる炎の渦を巧みに操り、相手の攻撃を避けては確実に距離を詰め砂のボールを叩きつけている。

バトルボールの試合コートには、今までのバトルボールでは全く見たことがないような、とても球技をしているとは思えない光景が広がっていた。
しかし、全くルールに違反しているわけではないので、ゲームが止められることもなく進行していく。

「あれは…私の後輩のミスズですね。私と同じ方術師、アウラ使いですから、ミスズは。魔法を使わずとも、あれぐらいの速度は生身で出せますよ」
ヴァンに対して、ライカがそう答えた。
「むぅ…あの魔法具があれば私もバトルボールに出れたのに…ずるいぞ…!」
「ふふっ」
ちょっと拗ねたようにしてそう言うライカが面白くて、サラやフランチェスカは思わず笑ってしまうのだった。


試合は5ポイントのビハインドなどものともせず、後半の怒涛の追い上げによって、終わってみれば25対8でルーシッド達のクラスの快勝に終わったのだった。
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