魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第11章 クラス対抗魔法球技戦編

ストライクボール1年決勝②

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マリン・デレクタブルはデレクタブル家の一人娘である。デレクタブル家自体はそこまで魔法使いの名家というわけではないので、マリンが魔力ランクAAという優れた魔法の才能を持って生まれたのは偶然と言える。
マリンの両親はマリンがディナカレア魔法学院に入学できたこと、それに加えて生徒会カウンサルのメンバーに選ばれたことを非常に喜んでくれていたが、マリンにとって唯一の汚点とも言える出来事が入試の模擬戦でのルビアに対する敗北だった。

それはマリンにとっては初めて味わう敗北だった。

ランクは確かにルビアが明らかに上だった。しかし、属性的には自分の方が有利だったはずだ。魔法の技術だって負けていない自信があった。
それからと言うものマリンはより一層熱心に魔法の練習に励み、今日という日を迎えたのだった。
マリンは子供のころから一人娘として可愛がられ大事に育てられてきたこともあり、少し自意識が高いところもあるが、決して自分の魔力の高さにおごって努力を怠るような人間ではない。その自信は、積み重ねてきた努力に裏打ちされた確固たるものだった。


しかし、それはルビアとて同じことであるが。


「遂にこの時が来たわ、ルビア・スカーレット!あの時の雪辱を晴らさせてもらうわよ!」

「………そう。お互い良い試合をしましょう」
威勢よくマリン・デレクタブルからそう言われて、少しの間の後にそう答えたルビア。
味方のメンバーは誰しもが「あ、こいつマリンのこと忘れてるな」と思った。

ちなみに今回のストライクボールの決勝戦の5クラスのオーダーは、ルビア・スカーレット、シャルロッテ・キャルロット、フェリカ・シャルトリュー、コニア・ディースバッハ、ペルカ・パーチメントの5人だった。

「あっ、あの時のようにはいかないわよ!こっちだってあれから色々と進化したんだから!」
「それは楽しみだわ。言っておくけど、よ。わずかでも勝機が欲しいのなら必死に私たちの詠唱についてきなさい。舌噛まない程度にね」
「そっ、そんなこと言われなくてもわかってるわ!」





そんなことは魔法使い同士の魔法対決であれば当たり前のことだ。先に魔法を発動した方が圧倒的に有利。そんなことはわかりきっていることである。

しかし、ルビアは心の中で思った。



いいえ、あなたはわかってないわ。

本当に一瞬で勝負がつくということがどういうことなのかをね。


試合開始の合図が闘技場に鳴り響く。

瞬時にマリンは左手に持っていた魔法の杖の演奏装置メロディカを発動させる。

しかし、それだけではなかった。
マリンは魔法具を発動させながら、魔法の詠唱も始めたのだ。

「おぉ、魔法具の発動と魔法詠唱を同時に。すごい集中力と技術だね」

試合を選手控室から観戦していたルーシッドはそう褒めた。

「でも…

それじゃあちょっと足りないかな」


試合開始の合図と同時に動き出したのは当然マリンたちだけではなかった。
5クラスのメンバーも詠唱を開始する。最初に詠唱を始めたのはペルカだった。ペルカに少しだけ遅れて詠唱を開始したのがフェリカ。しかし、それは遅れたというよりはタイミングを計って意図的に遅らせたという感じだった。フェリカが詠唱の最初の一節

"oPen the fiAry GATE."
(開け、妖精界の門)

という節を詠むと、残りの3人はこう詠唱した。

"USE the SAME GATE."
(我、同じ門を使用せり)

複数の魔法使いが同時に、同じ魔法の詠唱を行う輪唱サーキュラーカノンのための詠唱文である。しかし、通常であればこの後は同じ詠唱文を全員で輪唱していくが、今回の詠唱はそうではなかった。それ以降の詠唱はフェリカだけが行った。フェリカはこう続ける。


in-g,rE,DIeNT = BlooD-Re:D.
(食材は血の色の魔力)

DARK LORD VAMPIRE.
(闇の支配者なる妖精ヴァンパイアよ)

INcarNATE, sHoW UR poWER and gloRY.
(今こそ顕現し、汝の力と栄光を示したまえ)

すると、フェリカの頭上に漆黒のドレスと翼をまとった妖精が出現した。それは会場にいる全員に見える形で現れた神位の妖精ヴァンパイアだった。

「なっ、なにあれ…?」

会場の観客には動揺が走る。通常魔法を使用する際に妖精が形を伴って現れるということはない。

フェリカがここまで詠唱した辺りで、ペルカが自分の魔法の詠唱を終えた。ペルカの魔法が発動すると、選手たちの背後に発生した光源体から眩い光が放たれる。


「めっ、目くらまし?」
「いえ…そんな単純な手を、この決勝でルーシッドさんが使ってくるとは…」

それを見ていたフリージアとヴァンがそう話す。そもそも目くらましを狙うのであれば、光源体は相手選手たちの前に置くはずである。自分たちの背後に置いたのでは意味がない。ルーシッドの狙いは別のところにあるはずだ。

ペルカの魔法発動にちょうど合わせるようにして、他の3人はこう詠唱した。

"saCRi-fiCE = blACk."
(我らの黒き魔力を代わりに使いたまえ)

その瞬間、フェリカの影から無数の黒い触手のようなものが、ストライクボールのまとめがけて高速で伸びていった。


それは本当に一瞬のことだった。


全てのまとに触手が絡みついたかと思うと、その瞬間メキメキと音を立ててまとを粉砕した。

あまりに一瞬のことで会場は何が起きたのかわからず、静寂に包まれた。

ちょうどフェリカが魔法を発動する前にマリンの魔法具の魔法が発動したが、時すでに遅し。マリンが発動した『砂の壁』はフェリカ達の視界を塞ぐことに成功したが、顕現したマリーは砂の壁を物ともせずに、闇の魔法によって的を破壊したのだった。

5クラスの勝利コールと共に、会場は一転、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。5クラスは自らが作ったストライクボールの最短試合時間の記録を、再び自らの手で塗り替えたのだった。



「あれは…『操影魔法シャドウオペレイション』ですね?」
「えぇ、あの『光の魔法』は影を発生させるためのものだったのね。
今回はフェリカさん単独の魔法ではなかったわね。単独だったら詠唱は必要ないはずだわ。影の魔法を使用するためにはヴァンパイアと言えど、黒系統の魔力を使用する必要がある。でもこれだけの量のまとを同時に破壊するための魔力はフェリカさんだけでは補えなかったから、輪唱サーキュラーカノンを行ったということね」
「しかし、輪唱サーキュラーカノンを複数の魔法使いが同時に提供しなければ成立しないはず。フェリカさんの魔力は結合が強すぎて分解できないのでは?他の魔法使いが血の色ブラッドレッドの魔力を持っているはずもないですし…どうやったのでしょう?」
「これは推測だけど…多分、ルーシィさんが『食材の魔力』と『実際の魔法を使用する際の魔力』を別々に提供できるように、輪唱サーキュラーカノンの詠唱文を作り変えたんじゃないかしら。そもそもヴァンパイアを使役する魔法の詠唱文自体が今まで存在しなかったわけだから、今回の試合のために新しい詠唱文を作ったんだと思うわ」


試合を終えた選手たちは会場を後にし、控室へと戻っていく。

「お疲れ様」
肩を落とすマリンにルビアが声をかける。
「結局何もできなかったわ…」
「そんなことないわ。魔法具の発動と魔法詠唱を同時にやるなんてびっくりしたわ。私も前に試したけど無理だったわ。相当努力したんでしょうね」
「……でも負けたわ」
ルビアから自分の努力を認められて少しだけ嬉しかったマリンだが、悔しそうにそう言った。
「マリン、あなたは確かに一人でも十分に強い魔法使いだと思うわ。私もこの学院に入るまでは自分一人でどんな相手だろうが勝てると思ってたわ。でも違った。この学院に入って、チームで戦うことの大事さ、強さを学んだわ。今回の勝利も私の勝利じゃない。チームの勝利よ。今回の試合に出ていないけど、陰でサポートしてくれた仲間も含めてね。あなたはどう?今回の球技戦で仲間を頼った?一人で頑張ろうとしたんじゃないかしら?」
「そっ、それは………」
マリンは言葉を濁した。

確かにそうだ。ルビアを倒すことしか考えてなくて、他のメンバーと作戦を立てたり話し合ったりしなかった。そもそも魔力ランクAAの自分がいれば、他のメンバーなど必要ないとすら思っていた。
でも、このルビアは違う。ランクSでありながら、ランクDやCのメンバーと協力したと言った。
なるほど、自分とルビアの違いはそういうところかと思い、マリンは天を見上げた。

「マリン、あなたはきっと、もっともっと強くなれるわ。この学年を背負って立つくらいにね。まぁ、私だってまだまだ強くなるつもりよ。お互いに頑張りましょう?」

そう言うと、ルビアは握手を求めて手を出した。
その手をしばらく黙って見ていたマリンだったが、ふっと笑ってその手を握りこう言った。

「次は負けないから」
「私も負ける気はないわ」

そうしてルビアとマリン、赤と青の対極的な2人の魔法使いは笑いあった。
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