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第11章 クラス対抗魔法球技戦編
バトルボール1年決勝④
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「ほぉ、今のは何じゃ?魔法ではないな?」
「さすがにマリーさんの目はごまかせませんでしたか」
ルーシッドが、自分の魔法具が上手く機能したことで一安心し息を吐いた時、フェリカの体を借りているマリーが話しかけてきた。
「ふむ。魔力は匂いからして黄の魔力のようじゃが、妖精界の門が開かれておらんし、そもそも詠唱も妖精音楽も聞こえてこんかったぞ?」
一方のマリー(フェリカ)は、試合中とは思えない普段の会話の雰囲気でルーシッドに話しかけてきた。ほとんど相手に注意を向けていないように思えるのに、なぜかマリーへの攻撃は1つとして当たらない。
「魔法陣を改造して、魔力を流すと妖精界の門を開かなくても、魔法界に魔力が流出するようにしたんですよ。その魔力を造形して同じ色の魔力で操作している物質にぶつけると、造形が維持できなくなって、さっきみたいになるんですよね。私はこの現象を式崩壊って呼んでます」
「なるほどな。契約召喚によって成立する、魔法界に在留する特定の妖精に対してお菓子を生成する方法に似たものがあるな」
「あ、そうですね。そっちの線も考えたんですけど、ちょっと応用できなかったので別の手段を考えました」
「魔力の面白い使い方じゃなぁ。ルーシィは本当によく研究しておるのぉ」
試合が開始して数分が経過した。試合は予想通りと言えば良いのか、ルーシッド達5クラスが順調に点数を取っていく展開となった。
「ルーシィに少し気を取られて忘れとったが、他の奴らもほんまえげつないな」
「そうね…普通ならあの中の1人でもメンバーにいればそれで十分なのに、そんなメンバーが5人もいるだなんてね」
「ルビィやリカの戦闘能力がずば抜けているのはわかっていましたけど、シアンさんがあそこまでの魔法使いだとは思ってませんでしたね」
サラに話題に出されたシアンはルーシッドが作った魔法具を使用して攻撃をしていた。今回の競技のために作ったシアン専用の魔法具だ。この前のバトルボールで選手たちが使用していた『マジックボールとマジックアローを同時に使用する魔法』を魔法具で発動できるようにしたものだ。
この魔法は新しい魔法のため、普通であれば魔法具にすることなどそう簡単なものではない。しかし、ルーシッドはそれをいとも簡単にやってのけた。これにはシアンも驚いたが、ルーシッドは『混合魔法だから音楽で表現するのはむしろ楽。ただ単に2つの音楽を和音にして流しているだけ』と言った。
この魔法はマジックボールとマジックアローを連続して発動しているわけではない。2つの魔力を使用し、2つの妖精を同時に使役した混合魔法だ。音楽によって魔法が発動する仕組みを理解しているルーシッドにとっては、2つの音楽を重ね合わせた和音で演奏すれば、混合魔法が発動するという発想に至るのはそう難しいことではなかった。
シアンが使っている魔法具は銃身が長く、左手でグリップを持ち、右手で銃身を持って構えるタイプだ。グリップのところにある引き金を人差し指で引くと、銃身に折り畳まれた魔法回路が銃口部分に展開する。例えるなら傘を開いたような感じだ。引き金から指を離すと、魔法回路は再び折り畳まれる。
銃身の右手で持つ部分には、2つの異なる魔法石、すなわち黄と青の魔法石が付けられており、そこには円筒型の演奏装置もあった。
シアンは最初にこの魔法を魔法具に組み込むつもりだと聞いた時、演奏装置で和音を出すのには演奏装置2つを同時に発動させるのだろうと思っていた。しかし、実際に完成した魔法具を見てみると、演奏装置らしきものは1つしかなかったので不思議に思った。銃身のところに円筒状のルーシッドオリジナルの演奏装置がついているだけだった。シアンがそのことについて尋ねるとルーシッドは、その演奏装置は和音を発動させるための特別なもので、上下に別々の音を発する鍵盤を連結させたもので、その2つの連結部分の歯車を回転させると中心の軸が回転し、その軸につけられたバチが上下両方の鍵盤を同時に弾くことで、重なり合った和音を演奏できるようにしたものだと答えた。
表面は演奏装置を覆うようにカバーが掛かっていたので中の仕組みはわからないが、それが呆れるほどに精巧な式であろうことはシアンにでもすぐにわかった。そんなものをこの1試合だけのために特注で作るとは…。
「シアンさんは確か入試の時の模擬戦にも出ていなかったような?」
「そうね、確かシアンさんは模擬戦の代替試験で合格していたはずよ。確か、治癒魔法の試験だったかしら。筆記試験の結果も上位だったし、勉強は得意だけど実技は苦手なのかと思ってたけど、魔法力もさることながら、予想以上に体はよく動いているし、読みもいいわ」
ルビアとシアンは背中合わせになるように立っていた。お互いにただひたすらに目の前の敵に対処することだけを考えており、後ろは気にしていない。後ろにいる人間を信頼している証拠だ。
「あなたが後ろにいてくれると心強いわ」
目の前から飛んできたサンドボールを自分のサンドボールで迎撃しながら、シアンはそう言った。サンドボールはぶつかり合ってどちらも砕け散った。同じ効果を発生させる魔法が、ほぼ同じ威力でぶつかり合った場合はこのようになる。
「それはこっちのセリフよ。正直、あなたがこんなにやれるとは思ってなかったわ」
ルビアは、この前のバトルボールでも使用していた両翼の射手とサンドボールを掛け合わせた混合魔法を使用しており、両方を巧みに用いて防御と攻撃をバランスよく果たしていた。
「まぁ、それもこれもルーシィのお陰だけどね」
「ルーシィが同じクラスでホント良かったわ。あんな化け物が敵側だったらと考えたら絶望しかないわ」
「ホントそれ。まぁ、相手チームにはちょっと同情しちゃうけど…」
「あら、そんなこと言いながら全く容赦はないのね?」
「え、だって手を抜くのは失礼でしょ?それに……負けたくないもの」
そう言われてルビアはふっと笑った。
「さすがにマリーさんの目はごまかせませんでしたか」
ルーシッドが、自分の魔法具が上手く機能したことで一安心し息を吐いた時、フェリカの体を借りているマリーが話しかけてきた。
「ふむ。魔力は匂いからして黄の魔力のようじゃが、妖精界の門が開かれておらんし、そもそも詠唱も妖精音楽も聞こえてこんかったぞ?」
一方のマリー(フェリカ)は、試合中とは思えない普段の会話の雰囲気でルーシッドに話しかけてきた。ほとんど相手に注意を向けていないように思えるのに、なぜかマリーへの攻撃は1つとして当たらない。
「魔法陣を改造して、魔力を流すと妖精界の門を開かなくても、魔法界に魔力が流出するようにしたんですよ。その魔力を造形して同じ色の魔力で操作している物質にぶつけると、造形が維持できなくなって、さっきみたいになるんですよね。私はこの現象を式崩壊って呼んでます」
「なるほどな。契約召喚によって成立する、魔法界に在留する特定の妖精に対してお菓子を生成する方法に似たものがあるな」
「あ、そうですね。そっちの線も考えたんですけど、ちょっと応用できなかったので別の手段を考えました」
「魔力の面白い使い方じゃなぁ。ルーシィは本当によく研究しておるのぉ」
試合が開始して数分が経過した。試合は予想通りと言えば良いのか、ルーシッド達5クラスが順調に点数を取っていく展開となった。
「ルーシィに少し気を取られて忘れとったが、他の奴らもほんまえげつないな」
「そうね…普通ならあの中の1人でもメンバーにいればそれで十分なのに、そんなメンバーが5人もいるだなんてね」
「ルビィやリカの戦闘能力がずば抜けているのはわかっていましたけど、シアンさんがあそこまでの魔法使いだとは思ってませんでしたね」
サラに話題に出されたシアンはルーシッドが作った魔法具を使用して攻撃をしていた。今回の競技のために作ったシアン専用の魔法具だ。この前のバトルボールで選手たちが使用していた『マジックボールとマジックアローを同時に使用する魔法』を魔法具で発動できるようにしたものだ。
この魔法は新しい魔法のため、普通であれば魔法具にすることなどそう簡単なものではない。しかし、ルーシッドはそれをいとも簡単にやってのけた。これにはシアンも驚いたが、ルーシッドは『混合魔法だから音楽で表現するのはむしろ楽。ただ単に2つの音楽を和音にして流しているだけ』と言った。
この魔法はマジックボールとマジックアローを連続して発動しているわけではない。2つの魔力を使用し、2つの妖精を同時に使役した混合魔法だ。音楽によって魔法が発動する仕組みを理解しているルーシッドにとっては、2つの音楽を重ね合わせた和音で演奏すれば、混合魔法が発動するという発想に至るのはそう難しいことではなかった。
シアンが使っている魔法具は銃身が長く、左手でグリップを持ち、右手で銃身を持って構えるタイプだ。グリップのところにある引き金を人差し指で引くと、銃身に折り畳まれた魔法回路が銃口部分に展開する。例えるなら傘を開いたような感じだ。引き金から指を離すと、魔法回路は再び折り畳まれる。
銃身の右手で持つ部分には、2つの異なる魔法石、すなわち黄と青の魔法石が付けられており、そこには円筒型の演奏装置もあった。
シアンは最初にこの魔法を魔法具に組み込むつもりだと聞いた時、演奏装置で和音を出すのには演奏装置2つを同時に発動させるのだろうと思っていた。しかし、実際に完成した魔法具を見てみると、演奏装置らしきものは1つしかなかったので不思議に思った。銃身のところに円筒状のルーシッドオリジナルの演奏装置がついているだけだった。シアンがそのことについて尋ねるとルーシッドは、その演奏装置は和音を発動させるための特別なもので、上下に別々の音を発する鍵盤を連結させたもので、その2つの連結部分の歯車を回転させると中心の軸が回転し、その軸につけられたバチが上下両方の鍵盤を同時に弾くことで、重なり合った和音を演奏できるようにしたものだと答えた。
表面は演奏装置を覆うようにカバーが掛かっていたので中の仕組みはわからないが、それが呆れるほどに精巧な式であろうことはシアンにでもすぐにわかった。そんなものをこの1試合だけのために特注で作るとは…。
「シアンさんは確か入試の時の模擬戦にも出ていなかったような?」
「そうね、確かシアンさんは模擬戦の代替試験で合格していたはずよ。確か、治癒魔法の試験だったかしら。筆記試験の結果も上位だったし、勉強は得意だけど実技は苦手なのかと思ってたけど、魔法力もさることながら、予想以上に体はよく動いているし、読みもいいわ」
ルビアとシアンは背中合わせになるように立っていた。お互いにただひたすらに目の前の敵に対処することだけを考えており、後ろは気にしていない。後ろにいる人間を信頼している証拠だ。
「あなたが後ろにいてくれると心強いわ」
目の前から飛んできたサンドボールを自分のサンドボールで迎撃しながら、シアンはそう言った。サンドボールはぶつかり合ってどちらも砕け散った。同じ効果を発生させる魔法が、ほぼ同じ威力でぶつかり合った場合はこのようになる。
「それはこっちのセリフよ。正直、あなたがこんなにやれるとは思ってなかったわ」
ルビアは、この前のバトルボールでも使用していた両翼の射手とサンドボールを掛け合わせた混合魔法を使用しており、両方を巧みに用いて防御と攻撃をバランスよく果たしていた。
「まぁ、それもこれもルーシィのお陰だけどね」
「ルーシィが同じクラスでホント良かったわ。あんな化け物が敵側だったらと考えたら絶望しかないわ」
「ホントそれ。まぁ、相手チームにはちょっと同情しちゃうけど…」
「あら、そんなこと言いながら全く容赦はないのね?」
「え、だって手を抜くのは失礼でしょ?それに……負けたくないもの」
そう言われてルビアはふっと笑った。
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