140 / 153
第11章 クラス対抗魔法球技戦編
教員会議③
しおりを挟む
「なーんかさ、つまんないんだけどー、この会議。え、なに、これはわざと話を逸らしてるのかしら?」
そう言ったのは、今までずっと傍観していた、理事長シンシア・サクリフィスだった。
全員がシンシアの方を向く。シンシアは会議の輪には入らず、少し離れたところに座って退屈そうに頬杖をついていた。
「おかしいでしょ、あんなにすごかった1年5クラスの話題が誰からも出ないなんて。口裏でも合わせてるわけ?」
またあの人はそういう火種を…リサはそう思った。
そして、ちらっと横に座っているリスヴェルを見ると、今まではつまらなそうに腕を組んで座っていたが、にやっと笑っていた。そして、近くに座っていた同僚のアイリーンも、にやにやと笑っていた。
こいつら同じ穴のむじなか。確かにこの2人はなんか似てる気がする。
リサはそう思ってため息をついた。
「…人聞きの悪いことを言わないでください、理事長。すごいのは1年生だけではありませんから。むしろ私たちは評価が集中しそうなところよりも、目立たないけど素晴らしい働きをした生徒たちのこともしっかりと見ているのです」
そう言ったのは国立ディナカレア魔法学院学長の、マドレーゼ・レルネーだ。
マドレーゼは髪をきっちりと結い、眼鏡をかけた厳格そうな初老の女性だった。
マドレーゼはこのディナカレア王国はおろか、他国でも名前を知らない人はいないほどの魔法使いであり、特に魔法考古学と魔法歴史学の分野に関しては多くの業績を残していた。魔法考古学と魔法歴史学はかつての賢人たちが書き残した資料や、過去に魔法によって作られた魔法遺物などを研究することで、過去に使われた魔法を研究する分野のことであり、実際に彼女の手によって体系化されたり、現代に復活した魔法はいくつもあった。その研究分野に関する多くの著書も残していて、その分野に関しては第一人者といっても良い存在だ。彼女のことをここ百年の中で最大の賢人の1人として挙げる人も多い。
彼女のことを尊敬する人も多くおり、その数はこの学院の教員陣や、生徒の中でもかなりの数に上るだろう。
彼女は、思想的にはいわゆる『穏健派』とされるグループだ。
この世界にはその考え方の違いから大きく3つのグループが存在している。
『保守派』『革新派』『穏健派』だ。
『保守派』の人たちは、魔法使いの歴史や伝統を重んじる。魔法の知識や技術に関しては、旧世代にすでに最高潮に達しており、今はその多くが失われてしまっているという考え方をしている。それゆえに、今受け継がれているものは大事にし、失われたものを少しずつ取り戻していくことで、この世界は繁栄していくと考えている。
保守派の魔法使いは比較的年齢層が上の人たちに多く見られる。保守派の中でも極端な考え方をする人たちは、『純色至上主義』のように、特定の魔力の色や魔力の強さを重んじ、他の魔法使いを劣っているかのように考えることもある。
それと反対の考え方をしているのが『革新派』である。『革新派』の人たちは、新しい魔法や技術をどんどん生み出していくことによって、世界は進歩していくと考えており、そのためには、時代遅れの古い考え方を見直していく必要があると考えている。
この考え方は、若い世代や魔力ランクが高くなく魔法要職につけない人たちなど、現状に不満を感じている魔法使いを中心に広がっている。しかし、この派は一時期よりはやや少数派になりつつある。それは、新しい魔法の開発がやや行き詰まっている現状や、政界の要人たちに保守派の魔法使いが多いということに原因がある。魔力ランクが高い魔法使いにとっては、伝統的な制度を守っていく考え方の方が自分にとっては都合がいいからである。
そして、3つ目は、今の世界の大部分を占める『穏健派』である。どちらの考え方も尊重し、それが世界の発展のためにプラスになるのであれば採用しようという考え方だ。そう言ってしまえば聞こえはいいが、自分たちにとって利益があるならどちらでもいい、自分たちが特に損をしないならどっちでもいい、という非常に現実主義者であるとも言える。
「ふーん、物は言いようね。じゃああなたたちとしては1年生の頑張りは評価しないってこと?今回は学年別だったからあれで済んだだけで、あの5クラスだったら多分相手が上級生だって余裕で勝てると思うけど?」
そして、理事長のシンシアは革新派である。ディナカレア魔法学院では長らく伝統を重んじる古い考え方の上層部が幅を利かせていたが、ディナカレア元老院の教育大臣に革新派であり、シンシアの大親友でもあるノエル・ヴァローナという人物が就任したことで、シンシアは革新派の急先鋒としてこの学院に赴任してきたのであった。
学院の教員の人事権は理事長にあるのだが、多くの人から尊敬されている学長のマドレーゼを無下に扱うと大きな反発があるため、そこまで大胆な改革はできない。
逆に旧体制派も、様々な新しいイベントや企画を提案し、新しいこと楽しいことが大好きな学生や若い世代を中心に圧倒的な支持を集めるシンシアの意見をないがしろにするわけにはいかない。
ディナカレア魔法学院の組織図は今そのような対立構造となっていた。
「あ、あれは、生徒たちの本来の実力ではないではありませんか。あれは…」
そう言ってマドレーゼは言葉を継ぐんだ。
「あれは、何?
魔法具の力を借りたまがい物の力だとでも言いたいの?」
そう言われてマドレーゼは沈黙する。
そう、マドレーゼは外面的には教育者という肩書もあり、中立的な穏健派の立場を取っていたが、実際のところは限りなく保守派に近い考え方を持っていた。
伝統的な保守派の人たちの考え方としては、魔法具すら本来の魔法使いの技術ではないので、魔法具を使用した魔法とその人自身の力で発令した魔法は区別されるべきである。また、その2つを比べた場合、圧倒的にその人自身の力で発令した魔法の方が高く評価されるべきである、という考え方をしていた。
現在、ほとんどの魔法使いは魔法具の有用性を認めており、その恩恵を受けているが、そういった人たちの中にも、魔法具はあくまで補助的なものであって主力にはなり得ない、詠唱による魔法発令の方が圧倒的に優れているという考えの人は多くいる。
しかし、魔法具に関しての授業を提供している教育者として、そのような考え方を表立って表明することははばかられるため、マドレーゼは言葉を濁したのだった。
「まぁ今回の5クラスが出場したほとんどの試合で魔法具が使われたことは事実ね。
でも、むしろ私はその方がすごいことだと思うけど?
今まで魔法具はあくまで補助的な役割という認識だった。でもあのクラスは魔法具の概念を大きく覆したわ。魔法具のみで普通の魔法と互角以上に渡り合っていた。魔法具の式の利点を最大限発揮し、中には普通の魔法では再現できないようなものや、普通の魔法より優れているんじゃないかと思えるものもあったわ。自分が持っていない魔力を使う魔法具だけで戦っている選手もいたわ。それを加味してもあのクラスは評価に値しないというのかしら?」
「……その魔法具を作ったのが本当に生徒なのであれば、の話です。どちらにしてもその魔法具の力と選手の力を混同するのはどうかと思いますが」
「先生たちが手助けをしたとでも?」
「そんな、私たちは何もしていません!ねぇリズ先生?」
「そうだね。私たちは本当に何もしていないね」
慌てて弁明するリサに対してリスヴェルはそう答えた。そしてそのまま言葉を続けた。
「というか…魔法学院の学長である頭のいいあなたなら本当はわかっているはずだ。あの魔法具はルーシッド・リムピッドという生徒一人の手によって作られたものだよ。あんな奇抜な魔法具あの子の他に誰にも作れないよ。
それに一つ言わせてもらうがね。『魔法具の力と魔法使いの力を混同するな』と言うが、私たちが普段から使っている集中の指輪も魔法具だよ。そういうことは指輪を外した状態で指輪をしている魔法使いに勝ってから言ったらどうだ。魔法具の補助なしで魔法を発動できないような魔法使いが易々とでかい口を叩くものじゃないよ」
その言葉に職員室の空気が凍り付く。
「……まぁ、その魔法具を使いこなせるかどうかも魔法使いの重要な強さの側面だろう?あの魔法具と全く同じものを相手チームが使用したとして、果たして私たちのクラスに勝てるだろうかね。多分、魔法具の力に翻弄されて満足にその性能を発揮できないと思うけどね」
ちょっと言い過ぎたと思ったのか、リスヴェルは少し言葉を付け足した。
「あんな形状の魔法具は見たことがありません。あれは魔法具かどうかも怪しい代物で評価の仕様がありません」
そう言ったのは、ディナカレア魔法学院で魔法工学を教えているロディア・グリニッジだった。
『魔法工学』は『造形魔法』を専門に扱う分野で、建物の建設から日常で使われる家具の設計まで、様々な物の式構築を研究する分野だ。魔法具の設計には式構築が大きく関わってくるため、魔法工学は必須と言ってもいい分野だ。魔法学院には、いわゆる魔法具師と呼ばれる先生は多くいるが、その式構築に関する部分の中心人物がロディアだった。
せっかく少し穏やかに話してあげたのに、そう言われて明らかにリスヴェルは顔つきが変わった。そして、苛立った様子で答えた。
「……おいおい、大丈夫かこの学院のレベルは?あんな優れた魔法具が発動するところを見ていて、その構造が理解できない人物がこのディナカレア魔法学院で魔法具作成の教鞭を取っているのか。あれが魔法具でないとすれば何だって言うんだ?それとも自分の才能が足元にも及ばないのを認めたくないから、見て見ぬふりをしているのか?」
「ちょっ、ちょっとリズ先生…!」
リサは慌てふためいて、リスヴェルを制した。
「いいねー、さすが魔法界屈指の天才リズ。わかってるね~」
シンシアは楽しそうに笑った。
「とにかく!
現状ではあの魔法具を評価する材料が不足しているのは確かです。製作者に関しても身内の証言だけでは信ぴょう性に欠けます。それにやはり、最優秀選手は出場している選手から選ばれるべきであり、その試合中のパフォーマンスを主な評価基準とすべきかと。また、これまで積み上げてきた実績も合わせて考慮されるべきであり、まだ入学して日が浅い1年生から選ぶのはあまり好ましくないと判断します」
そのマドレーゼの言葉にほとんどの先生が同意した。
「あー、実に素晴らしい納得のいく理屈だね。本当に教育者の鏡だよ」
聞こえないようにそう言ったリスヴェルの言葉に思わずリサは吹き出してしまった。
不謹慎だと思いながらもその言葉でどこかすっきりした気がしたのだった。
それと時を同じくして、生徒会のギルドホームにある小会議室に、生徒会メンバーが集まっていた。こちらも生徒会選出の最優秀選手を考えるためだ。生徒の投票の集計作業は翌日の午前中に行われることになっていた。
1週間の試合を振り返りながら話し合っているときに、小会議室の扉が開いた。
「あら、ニータさん。珍しいわね。あなたが会議に参加してくれるなんて」
生徒会長のフリージアはそう言って、ニータ・スペクトルに中に入るように促した。
そう言ったのは、今までずっと傍観していた、理事長シンシア・サクリフィスだった。
全員がシンシアの方を向く。シンシアは会議の輪には入らず、少し離れたところに座って退屈そうに頬杖をついていた。
「おかしいでしょ、あんなにすごかった1年5クラスの話題が誰からも出ないなんて。口裏でも合わせてるわけ?」
またあの人はそういう火種を…リサはそう思った。
そして、ちらっと横に座っているリスヴェルを見ると、今まではつまらなそうに腕を組んで座っていたが、にやっと笑っていた。そして、近くに座っていた同僚のアイリーンも、にやにやと笑っていた。
こいつら同じ穴のむじなか。確かにこの2人はなんか似てる気がする。
リサはそう思ってため息をついた。
「…人聞きの悪いことを言わないでください、理事長。すごいのは1年生だけではありませんから。むしろ私たちは評価が集中しそうなところよりも、目立たないけど素晴らしい働きをした生徒たちのこともしっかりと見ているのです」
そう言ったのは国立ディナカレア魔法学院学長の、マドレーゼ・レルネーだ。
マドレーゼは髪をきっちりと結い、眼鏡をかけた厳格そうな初老の女性だった。
マドレーゼはこのディナカレア王国はおろか、他国でも名前を知らない人はいないほどの魔法使いであり、特に魔法考古学と魔法歴史学の分野に関しては多くの業績を残していた。魔法考古学と魔法歴史学はかつての賢人たちが書き残した資料や、過去に魔法によって作られた魔法遺物などを研究することで、過去に使われた魔法を研究する分野のことであり、実際に彼女の手によって体系化されたり、現代に復活した魔法はいくつもあった。その研究分野に関する多くの著書も残していて、その分野に関しては第一人者といっても良い存在だ。彼女のことをここ百年の中で最大の賢人の1人として挙げる人も多い。
彼女のことを尊敬する人も多くおり、その数はこの学院の教員陣や、生徒の中でもかなりの数に上るだろう。
彼女は、思想的にはいわゆる『穏健派』とされるグループだ。
この世界にはその考え方の違いから大きく3つのグループが存在している。
『保守派』『革新派』『穏健派』だ。
『保守派』の人たちは、魔法使いの歴史や伝統を重んじる。魔法の知識や技術に関しては、旧世代にすでに最高潮に達しており、今はその多くが失われてしまっているという考え方をしている。それゆえに、今受け継がれているものは大事にし、失われたものを少しずつ取り戻していくことで、この世界は繁栄していくと考えている。
保守派の魔法使いは比較的年齢層が上の人たちに多く見られる。保守派の中でも極端な考え方をする人たちは、『純色至上主義』のように、特定の魔力の色や魔力の強さを重んじ、他の魔法使いを劣っているかのように考えることもある。
それと反対の考え方をしているのが『革新派』である。『革新派』の人たちは、新しい魔法や技術をどんどん生み出していくことによって、世界は進歩していくと考えており、そのためには、時代遅れの古い考え方を見直していく必要があると考えている。
この考え方は、若い世代や魔力ランクが高くなく魔法要職につけない人たちなど、現状に不満を感じている魔法使いを中心に広がっている。しかし、この派は一時期よりはやや少数派になりつつある。それは、新しい魔法の開発がやや行き詰まっている現状や、政界の要人たちに保守派の魔法使いが多いということに原因がある。魔力ランクが高い魔法使いにとっては、伝統的な制度を守っていく考え方の方が自分にとっては都合がいいからである。
そして、3つ目は、今の世界の大部分を占める『穏健派』である。どちらの考え方も尊重し、それが世界の発展のためにプラスになるのであれば採用しようという考え方だ。そう言ってしまえば聞こえはいいが、自分たちにとって利益があるならどちらでもいい、自分たちが特に損をしないならどっちでもいい、という非常に現実主義者であるとも言える。
「ふーん、物は言いようね。じゃああなたたちとしては1年生の頑張りは評価しないってこと?今回は学年別だったからあれで済んだだけで、あの5クラスだったら多分相手が上級生だって余裕で勝てると思うけど?」
そして、理事長のシンシアは革新派である。ディナカレア魔法学院では長らく伝統を重んじる古い考え方の上層部が幅を利かせていたが、ディナカレア元老院の教育大臣に革新派であり、シンシアの大親友でもあるノエル・ヴァローナという人物が就任したことで、シンシアは革新派の急先鋒としてこの学院に赴任してきたのであった。
学院の教員の人事権は理事長にあるのだが、多くの人から尊敬されている学長のマドレーゼを無下に扱うと大きな反発があるため、そこまで大胆な改革はできない。
逆に旧体制派も、様々な新しいイベントや企画を提案し、新しいこと楽しいことが大好きな学生や若い世代を中心に圧倒的な支持を集めるシンシアの意見をないがしろにするわけにはいかない。
ディナカレア魔法学院の組織図は今そのような対立構造となっていた。
「あ、あれは、生徒たちの本来の実力ではないではありませんか。あれは…」
そう言ってマドレーゼは言葉を継ぐんだ。
「あれは、何?
魔法具の力を借りたまがい物の力だとでも言いたいの?」
そう言われてマドレーゼは沈黙する。
そう、マドレーゼは外面的には教育者という肩書もあり、中立的な穏健派の立場を取っていたが、実際のところは限りなく保守派に近い考え方を持っていた。
伝統的な保守派の人たちの考え方としては、魔法具すら本来の魔法使いの技術ではないので、魔法具を使用した魔法とその人自身の力で発令した魔法は区別されるべきである。また、その2つを比べた場合、圧倒的にその人自身の力で発令した魔法の方が高く評価されるべきである、という考え方をしていた。
現在、ほとんどの魔法使いは魔法具の有用性を認めており、その恩恵を受けているが、そういった人たちの中にも、魔法具はあくまで補助的なものであって主力にはなり得ない、詠唱による魔法発令の方が圧倒的に優れているという考えの人は多くいる。
しかし、魔法具に関しての授業を提供している教育者として、そのような考え方を表立って表明することははばかられるため、マドレーゼは言葉を濁したのだった。
「まぁ今回の5クラスが出場したほとんどの試合で魔法具が使われたことは事実ね。
でも、むしろ私はその方がすごいことだと思うけど?
今まで魔法具はあくまで補助的な役割という認識だった。でもあのクラスは魔法具の概念を大きく覆したわ。魔法具のみで普通の魔法と互角以上に渡り合っていた。魔法具の式の利点を最大限発揮し、中には普通の魔法では再現できないようなものや、普通の魔法より優れているんじゃないかと思えるものもあったわ。自分が持っていない魔力を使う魔法具だけで戦っている選手もいたわ。それを加味してもあのクラスは評価に値しないというのかしら?」
「……その魔法具を作ったのが本当に生徒なのであれば、の話です。どちらにしてもその魔法具の力と選手の力を混同するのはどうかと思いますが」
「先生たちが手助けをしたとでも?」
「そんな、私たちは何もしていません!ねぇリズ先生?」
「そうだね。私たちは本当に何もしていないね」
慌てて弁明するリサに対してリスヴェルはそう答えた。そしてそのまま言葉を続けた。
「というか…魔法学院の学長である頭のいいあなたなら本当はわかっているはずだ。あの魔法具はルーシッド・リムピッドという生徒一人の手によって作られたものだよ。あんな奇抜な魔法具あの子の他に誰にも作れないよ。
それに一つ言わせてもらうがね。『魔法具の力と魔法使いの力を混同するな』と言うが、私たちが普段から使っている集中の指輪も魔法具だよ。そういうことは指輪を外した状態で指輪をしている魔法使いに勝ってから言ったらどうだ。魔法具の補助なしで魔法を発動できないような魔法使いが易々とでかい口を叩くものじゃないよ」
その言葉に職員室の空気が凍り付く。
「……まぁ、その魔法具を使いこなせるかどうかも魔法使いの重要な強さの側面だろう?あの魔法具と全く同じものを相手チームが使用したとして、果たして私たちのクラスに勝てるだろうかね。多分、魔法具の力に翻弄されて満足にその性能を発揮できないと思うけどね」
ちょっと言い過ぎたと思ったのか、リスヴェルは少し言葉を付け足した。
「あんな形状の魔法具は見たことがありません。あれは魔法具かどうかも怪しい代物で評価の仕様がありません」
そう言ったのは、ディナカレア魔法学院で魔法工学を教えているロディア・グリニッジだった。
『魔法工学』は『造形魔法』を専門に扱う分野で、建物の建設から日常で使われる家具の設計まで、様々な物の式構築を研究する分野だ。魔法具の設計には式構築が大きく関わってくるため、魔法工学は必須と言ってもいい分野だ。魔法学院には、いわゆる魔法具師と呼ばれる先生は多くいるが、その式構築に関する部分の中心人物がロディアだった。
せっかく少し穏やかに話してあげたのに、そう言われて明らかにリスヴェルは顔つきが変わった。そして、苛立った様子で答えた。
「……おいおい、大丈夫かこの学院のレベルは?あんな優れた魔法具が発動するところを見ていて、その構造が理解できない人物がこのディナカレア魔法学院で魔法具作成の教鞭を取っているのか。あれが魔法具でないとすれば何だって言うんだ?それとも自分の才能が足元にも及ばないのを認めたくないから、見て見ぬふりをしているのか?」
「ちょっ、ちょっとリズ先生…!」
リサは慌てふためいて、リスヴェルを制した。
「いいねー、さすが魔法界屈指の天才リズ。わかってるね~」
シンシアは楽しそうに笑った。
「とにかく!
現状ではあの魔法具を評価する材料が不足しているのは確かです。製作者に関しても身内の証言だけでは信ぴょう性に欠けます。それにやはり、最優秀選手は出場している選手から選ばれるべきであり、その試合中のパフォーマンスを主な評価基準とすべきかと。また、これまで積み上げてきた実績も合わせて考慮されるべきであり、まだ入学して日が浅い1年生から選ぶのはあまり好ましくないと判断します」
そのマドレーゼの言葉にほとんどの先生が同意した。
「あー、実に素晴らしい納得のいく理屈だね。本当に教育者の鏡だよ」
聞こえないようにそう言ったリスヴェルの言葉に思わずリサは吹き出してしまった。
不謹慎だと思いながらもその言葉でどこかすっきりした気がしたのだった。
それと時を同じくして、生徒会のギルドホームにある小会議室に、生徒会メンバーが集まっていた。こちらも生徒会選出の最優秀選手を考えるためだ。生徒の投票の集計作業は翌日の午前中に行われることになっていた。
1週間の試合を振り返りながら話し合っているときに、小会議室の扉が開いた。
「あら、ニータさん。珍しいわね。あなたが会議に参加してくれるなんて」
生徒会長のフリージアはそう言って、ニータ・スペクトルに中に入るように促した。
0
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】名無しの物語
ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』
父が借金の方に娘を売る。
地味で無表情な姉は、21歳
美人で華やかな異母妹は、16歳。
45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。
侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。
甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。
男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。
登場人物に、名前はない。
それでも、彼らは、物語を奏でる。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる