魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第11章 クラス対抗魔法球技戦編

生徒会定例会議①

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「あら、ニータさん。珍しいわね。あなたが会議に参加してくれるなんて」
生徒会長カウンサルマスターのフリージアはそう言って、ニータ・スペクトルに中に入るように促した。

生徒会カウンサルの一員でありながら、会議に参加するのが珍しいとはどういうことかという気もするが、ニータ・スペクトルはそれが許されていた。

それは彼女の役職が関係している部分も多少はある。

彼女の役職は『監査』。

『監査』は各スクールギルドの運営が適正に行われているかをチェックする仕事である。ディナカレア魔法学院の各スクールギルドは、学校側からの部費のようなものを受け取ることは基本的にはない(生徒会ギルドカウンサル風紀ギルドサーヴェイラはこの例外で、学院側から活動に必要な資金が提供される)。割り当てられるのは自由に使うことができるギルドホームや練習場などの施設だけである(例外的に対外試合や、ディナカレア祭などの一般人向けのイベントなどの時には学校からの資金が提供されることがある)。
それで、各スクールギルドは自分たちの活動に必要な資金や物資は自分たちで賄う必要がある。基本的にはギルド内の魔法使いが自給自足で何とかするか、別のギルドとの物資の交換、あるいは一般向けイベントなどにおける集客や物品の販売などで資金を確保している。そういった各ギルドの収支報告を確認し、不正や記載漏れ、不自然な金の動きがないかをチェックするのが監査の主な仕事である。
また、今回のような最優秀選手の投票結果の集計作業や生徒会長選挙など、全校生徒の投票によって決定される案件の集計作業の監督も担っている。
常任で置かれている役職だが、常に仕事があるわけではないため、生徒会カウンサルに常に顔を出す必要がないのである。しかし、必要がないとはいえ、普通なら会議くらいは出席するものだが、ニータは生徒会カウンサルの定例会議に出席したことはほとんどなかった。
ニータは自分に興味があること以外は必要最低限で済ませるという、超省エネ人間であった。

「1年生のみんなは初めてよね。さっき話してたもう一人の生徒会カウンサルメンバーのニータ・スペクトルさんよ」
フリージアがそう紹介すると、1年生の2人は律義に起立して頭を下げた。

「一体どういう風の吹き回しかしら?」
同学年のサラが、隣に座ったニータに対して多少皮肉混じりでぼそりとそう言った。

サラだって別に生徒会カウンサルに入りたかったわけではない。本当は後で入ってくるルーシッドが入れるようなギルドを旗揚げしようなんて考えていたのだ。しかし、生徒会カウンサルに強引に引き入れられて仕事を押し付けられて、せっかく念願かなってルーシッドが入学できたのに同じギルドに入ることもできなかった。サラはとにかくルーシッドと一緒にいたかった。別に生徒会カウンサルの仕事自体が嫌いなわけでも楽しくないわけでもなかったが、その時間が生徒会カウンサルの仕事で奪われることが何より嫌だった。
それなのにニータは同じ学年、同じ生徒会カウンサルでありながら自由気ままに行動している。そんなニータがサラは少しうらやましかった。

「ルーシッド・リムピッドに会ってきました」
ニータはサラの問いかけには答えずに、そう告げた。

「なっ…!?」
急なことで驚きを隠せないサラ。

「へぇ、あなたがわざわざ会いに行ったってことは、興味が沸いたってことかしら?」
フリージアは冷静にそう尋ねた。しかし、その口元は少し笑みを浮かべていた。何かこうなることを期待していたような態度だった。

「彼女は『特異点シンギュラリティ』。

我々は、歴史上の極めて重要な局面に立たされている。彼女の動向次第でこの世界は爆発的に進歩する。しかし、扱いを間違えば世界は終局へと向かう」

ニータは言葉のチョイスが少し独特で、針小棒大に言う癖がある。しかし、その話はどこか的を射ているところがあり、不思議と真実味を帯びていた。
そのことをわかっていたので、フリージアも急にそう言ったニータに同調するように言葉を返した。

「『特異点シンギュラリティ』…ね。聞いたことがあるわ。文明に大きな変化をもたらすことになりかねない『分岐点』のことよね。かつて人類は何度かその特異点に直面してきた。その一つが『魔法の制定』。人類の魔法の誤用によって発生した『魔法消失事変』もその一つね。

ふぅん…なるほどね。

で、具体的に私たちはどう行動すればいいと思うのかしら?」

「私が考える、人類が取り得る選択肢は3つ。

1つは彼女の存在を歴史の闇に埋もれさせること。今のところ彼女が持つ知識や技術は彼女だけのもの。彼女がこのまま日の目を見ることなく終われば、それらの知識や技術は失われ、魔法界の進化は今まで通りの非常にゆるやかなものとなる。この世界はを感じつつも、を取り戻す」
「なるほどね。まぁ頭が固くて上層意識が高い魔法使いのお偉いさんたちがいかにも考えそうなやり方ね。『閉塞感』、『かりそめ』…あなた自身がそれをよく思ってないことが言葉選びから伺えるわね。じゃあ2つ目の方法は?」

「彼女と対立し、彼女を世界の反逆者として排除する」

「あっ、あなたねぇ!
言っていいことと悪いことがあるわ!
そんなこと私が命に代えてでも阻止してみせるわ!」
バンッと机をバンッと叩いて立ち上がり、ものすごい剣幕で怒り出すサラ。
サラがルーシッドに対して、いわゆる重度のシスコン(血は繋がっていないが)なのを知らない生徒会カウンサルメンバーはその様子を見て少し驚いていたが、フリージアやヴァンなど、サラのことを知る人物はさして驚かず普通にしていた。

「落ち着いて、サリー。あなたがそう言うとわかっていた。だから聞いて。私はこの行動が最も危険で選んではいけない方法だと思う。これこそ人類を破滅させる行動。まず彼女を倒すこと自体が極めて困難。勝っても負けても人類は大きな打撃を受ける。それにこの行動は妖精の女王ティターニアの怒りを買う可能性が高い。そうなれば、二度目の『魔法消失』を経験する可能性が高い。しかし、妖精を使役しなくてもその力を使えるルーシッドは何の問題もない。勝敗は戦う前から明らか。この道だけは何としても避けなければならない」
「まぁ確かにせやな。ここまでの2つはどっちも愚策やな。みすみす人類の進化の機会を逃すのか、自ら人類滅亡の道を選ぶのか。どっちかて愚の骨頂や」
そう言って、シヴァは天を仰いでため息をついた。

「……『保守』か『対立』か…。この流れだと3つ目は『革新』、あるいは『穏健』ね」
フリージアはそう述べた。
「そう、第三の道こそ、我々が取るべき道。我々が在学中、しかも生徒会カウンサルに在籍している間に、『特異点シンギュラリティ』がこの学院に現れたことには運命を感じる。我々にはやるべきことがある。そして、できることがある」
「ぜひ聞かせてちょうだい。あなたの意見に興味があるわ」
フリージアは真剣な表情でニータにそう言った。

「まずは、この学院内での彼女の確固たる地位を確立する。そうすれば、この学院にはかなりの影響力があるから、卒業後は魔法職の主要ポストに就けるかも知れない。そのために生徒会カウンサルとしてできることがあるはず」

「…そらまた、たいそうな計画やな…」
シヴァは少し笑ってそう言った。

「私は、当初からその計画でした。相応しい時期が来たら、ウィンドギャザー家の後ろ盾のもと、ルーシィを世に出そうと思っていました。少しずつですが、彼女の実力を認める人たちも現れています。でも、まだまだです…」
ニータの意見が自分が考えていたことと同じだとわかり、落ち着きを取り戻したサラはそう言った。

「まぁその点、今回の魔法球技は良かったんとちゃうか?
ルーシィの驚異的な力が、無色の魔力っちゅう特殊な力だけやのうて、魔法そのものに対する知識や技術にまで及んでいるっちゅうことがわかったからなぁ。
あれが何か変な力つこて、ズルしとるんやのうて、あくまでうちらが知っとる魔法の応用の範疇やっちゅうことを、わかってもらえばえぇっちゅうこっちゃな。
ルーシィの魔法は説明されずに結果の現象だけ見せられると、何かの間違いやないか思いたなるくらい斬新な魔法や。せやから、あの力を認めさせるんは一苦労や。固有魔法や新魔法の技術に関しては、基本的には所有者にそれを公開するかどうかの権利がある。でも説明せんと納得できひん。
どこまではオープンにしていい内容で、どこまでは秘匿技術なんか、その線引きが大事なんとちゃうか?

ただまぁ…せやな…どちらにせよ一番の壁は大人たちやろうな。あいつらん頭はカッチカチやからな」
サラはシヴァの言葉に納得したようにうなずいた。

「おほん…ちょうど良い機会だから、私の今後について話すわね。私は、来年度、つまり5年生時も生徒会長カウンサルマスターを続ける意向を持っています。まぁもちろんこれは他の生徒会カウンサルメンバーの信任があって初めて成立するものなので、現段階ではあくまで私個人の意向であって決定ではないのだけれど。私を引き続き支持してくれるかどうかは、次の点を聞いてから各人が決めてくれて構わないわ。みんなの意見を尊重するわ。

私、フリージア・ウィステリアは、ルーシッド・リムピッドに最終的に生徒会カウンサルメンバーとして活躍してもらいたいと思っています」
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