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2章
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しおりを挟む共に過ごす時間が増えて、性的な触れ合いが格段に増えた。そして抱き合う度に互いの身体が馴染んでいくような心地よさがあった。
とはいえ、ルカが主導的に正臣を抱くようになっても、正臣は変わらずルカの快感ばかり引き出そうとする。与えようとするばかりの様子がやはり悔しく、ルカもなんとか主導権を取って必死で対抗しては、手探りで正臣の気持ちいいところを探した。
正臣はそのつたない交わりを、いつも気持ちいいと言って楽しげに受け止めたが、その余裕からして快感という意味が薄いのはわかっていた。触れ合うだけで気持ちがいいと思う、ルカの幸福感と同じような感情もあったのだろう。
それが嫌というわけではない。けれど、それに物足りなさも感じていた。
ルカは、快感に乱れる正臣が見たかった。正臣にも気持ちよくなって欲しかった。与えられるばかりが嫌だった。
最近は、もう、正臣に触れるのにだいぶ慣れた。
筋の走る首もとに、喉仏に、鍛えられた腕に触れた。抱きしめ、口付け、愛撫した。割れた腹筋に、引き締まった曲線を描く脇腹に、締まった臀部に、鍛えられた太ももに。どこもかもに触れたかった。自分とは違う色づいた肌の色が美しかった。
以前はルカの愛撫に心地よさそうにするばかりだった正臣が、この頃は触れる度に小さく身体を震わせて、吐息を漏らす。
抱かれる正臣の反応は、少しずつ、快感を覚えていっているように見えた。
ルカが正臣の抱き方を覚えていったように、正臣もまた抱かれることに慣れていった。ルカに主導権を握らせ、愛撫に身を任すことに慣れてゆく。
そうして堪えることのない正臣の嬌声を聞いて、「セクシーだ」と、ルカは嬉しさを隠す事なくキスをした。
すっかりそんなルカの様子に慣れた正臣だが、以前は度々呆れていた。
「男が喘ぐのを聞いて、何が面白い」
以前そう苦笑して言った正臣に、ルカは真顔で言い募った。
「正臣さんが気持ちよさそうだと、興奮するよ。こんなにかっこいいのに、気持ちよさそうに声上げてると、すごくセクシーでかわいい。我慢してる声もセクシーだけど、我慢せずに上げる声は、私の正臣さんって感じがして、胸が苦しくなるぐらい大好きだよ!」
そんなルカの勢いに、正臣は微妙な顔をしつつ、「お前がいいのなら、いいが……」と、歯切れの悪い返事をした。
あの普段きっちりと身を整えた彼の見せるあられもない姿に、ルカは夢中だった。
ルカを女と思っていたときは、身体の関係に全く興味なさそうだった様子が、嘘のようだ。
身体を求めてしまうのは、未来がないが故の焦りもあると、ルカは自覚している。正臣も、そうなのだろうか。身体を重ねることで、その不安を埋められる錯覚をルカが覚えているように、抱き合うことに、正臣も安心感を見いだしていたのだろうか。
ルカには正臣がどういうつもりなのかはわからない。ただ、愛されているということだけはわかる。だから、それに甘えていた。自分でもどうしたら良いのか分からないぐらい、正臣が好きだった。正臣が受け入れてくれて幸せだった。
いずれくる別れから目を背けて目先のことだけ求めるのは、ひどく倒錯的にルカを溺れさせた。
「最近、気持ちよさそう。嬉しい」
抱き合ったまま、ルカは正臣の上に倒れ込むようにして抱きつく。
「ああ、気持ちがいいな」
笑う正臣にルカは口をとがらせてキスをする。
「余裕で悔しい。わけわかんないぐらい、気持ちよくさせたい」
「いつも散々俺を弄んでいる癖に、まだ足りないのか」
苦笑する正臣に胡乱な目を向ける。
「足りない。だって正臣さん、いっつも余裕じゃないか」
「そう見えるか?」
「見える」
「……気のせいだ」
抱き合うときの正臣は、ずっと楽しげだ。ルカが求めることを大抵受け入れてくれる。それが嬉しくて悔しい。ルカに愛されている今だって、笑ってルカを窘めているではないか。
「惚れた相手にこんな事をされて、余裕なわけないだろう?」
それをわざわざ言うところが余裕だというのだ。でも、そんなところが好きだと思ってしまう。抱かれているのにかっこいいと感じてしまうのだから、恋というのは、ほんとうにどうしようもない。
「……またそんなことを言って」
そう返しつつもまんざらでもないのは、緩んでしまう口元で正臣にも気付かれているだろう。軽く繰り返すキスに、正臣が楽しげに笑う。
時折他愛もない会話を挟みながら、互いに快感を求めて抱き合った。
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