敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

文字の大きさ
151 / 163
後日談

番外編1 男の独白1

しおりを挟む

 俺はあのとき、お前より一回り半も年上で、惚れたはれたはある程度経験していた。周りの同年代の奴らはとっくに結婚して、その子供は成人する年齢だ。それを見た上で、自分には向いていないと、生涯独り身と諦めていた。

 ……だからお前に会った時、未だ心が浮き立つ思いをしたことに、ひどく驚いた。
 美しい異国の女が密かに見せた、意思の強い目が、忘れられなかった。まさかの男だったが、それさえどうでもいいというほど、俺は溺れきっていた。
 旅券を偽装し、性別を変えねばならぬような立場で、相当する者から、身元を洗い出すのはそう難しいことではなかった。
 自分の元で囲う事を許されない人間だと知って、良かったと思うほど、溺れていた。
 囲われて満足するような人間ではない。手放さねばならぬのなら、俺はお前を潰さずにすむ。

 必死に生き抜く姿は可愛らしくも美しく、目が離せなかった。
 最後の恋だ。失うものとわかっていて、それに殉じることを覚悟した。だがおまえは若かった。お前までこんな俺に殉じることはない。広く世界を見るといい。俺になどこだわるな。真面目なお前は、約束をしてしまえば守ろうと心を殺すだろう。忘れてくれ。お前の幸せこそが俺の望みだ。そして恋など一つではないと知るといい。

 だが、願ってもいいだろうか。もし、もしも、でいい。お前が俺とのひとときを心の片隅に良い思い出として残してくれるというのなら、いつか、一目、会えることを。お前が懐かしんで、訪れることを……。

 殉じる俺の心は秘めておく。お前が若さを懐かしんで、世話になったと、一言、伝えにきてくれる、その日を願って、生きていこう。
 勝手に餞別にと奪った口付けは、お前を怒らせてしまったが。そのくらいは許してくれと、苦笑した。
 そうして、必ず戻ってくると言った、約束の桜の木に、いつかの願いを託し、それを拠り所に飽きもせず通う。
 来ないだろういつかを夢見るのは、悪くなかった。


 なのに、三十年を過ぎて、ルカは現れた。
 残りの時間を俺と共に生きるために帰ってきた。
 俺が果たされることはないと思っていた約束を、ルカは守ったのだ。
 たった十九だった青年が、あの青い想いを守り続けたのか。それはどれほどルカを苦しめただろう。そんな思いをさせたくなかったからこそ突き放したというのに、あえて俺と同じ道を選び続けたルカの思いの深さに震えた。
 それは、奇跡と言って相違なかった。

 出会った頃から、ルカの存在は、俺にとって奇跡そのものだった。
 美しく凛とした、奇跡だった。
 だというのに、異国の紳士然とした大人になったルカは、苦しげに懺悔をした。

「もっと、早く来ればよかった」

 ルカはそう言って、苦しげに喉をつまらせた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...