14 / 31
電車で苦くて甘いヒミツの関係
6.5
しおりを挟む
「三井さん、なんだか深刻な顔になってるよ?」
少し困ったような表情で課長が私を見つめてくる。
「そう、です、か……?」
首をかしげると、課長の手が目の前に伸びてきて、私は思わず目を瞑る。
「ここ、皺が寄ってる」
課長の指先がトン、と触れたのは私の眉間。
「かわいい顔が台無しになってる」
恥ずかしくて、声も出せずに真っ赤になってしまう。
「三井さん? 悩んだとき答えを出す秘訣を教えてあげようか」
まるで今の私の気持ちが分かっているみたいな課長の言葉に、私は顔を上げる。
「悩んでいるときはね、悩んでいることとは別の事に煩わされていることがよくあるんだよ。シンプルに考えてごらん。自分がどうしたいかを」
どうしたいかなんて。
彼と、一線を越えてしまいたい気持ちは、確かにある。さんざん痴漢行為を受け入れてきて、今更するのがイヤなんて、そんな風に自分の気持ちを取り繕ったところで意味がない。
でもそんな事を続けるだなんて、絶対によくない。
彼はどういうつもりなんだろう? セックスをしたいだけ? どうして毎日私に触れてくるの? 私の事、痴漢相手以外に何か思う気持ちはあるの?。
次から次へと疑問がわいてくる。
痴漢行為を受けているだけなら、自分の事だけ考えていればよかった。自分がどうしたいか、自分はどういうつもりなのか。
でも、今日のことは自分がどうしたいかだけで決められるはずがない。だって相手がいるのだから。彼のことが分からない。彼がどういう人なのか、どういうつもりなのか、なにも分からない状態で決めるのは、とても怖い。
だって私の行動で彼がどう思うかが気になってしまう。
彼の触れ方が優しいとか、守ってくれてるみたいに温かいのが安心するだとか、私がそう思うみたいに、彼も私に触れながら、幸せな気持ちになることはあるのだろうか。私が、彼のことが好きになっていくみたいに、彼も私の事を性的な意味だけじゃなくって好きって思う気持ちがあるのだろうか。
彼も、私に対して、そういう気持ちが少しでもあるのかな。
もしそうだったら……。
気持ちが「彼」に傾きかけてふと目を上げると、課長が目に入って、また視線を落とす。
でも、私は課長のことが好きで。
決まりかけていた気持ちは、ふりだしに戻った。
課長をあきらめることが出来る気がしない。そんな状態で彼に会うというのは、自分に対しても、彼に対してもよくないことに思える。
課長を想う気持ちがちょっとでも減っていたらいいのに。そしたら……。
彼に触れられると課長を思い浮かべる。課長の声を聞くと彼を思い出す。
彼への気持ちが増えるのと一緒に、課長への気持ちも大きくなっていって。
そんな状態が続きすぎて、自分でも訳が分からないほどに気持ちはごちゃごちゃしている。
でも彼との約束に行くのなら、課長のことは忘れなくちゃいけなくて。課長が私の事を少しでも思ってくれていたのなら、彼のことをあきらめられるかもしれない。でも、きっと、私なんて課長からしたら幼く見えているだろうし。優しいけど誰にでも優しい課長に、うぬぼれるなんて出来ない。告白する勇気も出ない。
……彼は、私に触れてくるぐらいだから、それに比べたら少しは好意的って想っても良いのかもしれない。
でも、エッチな事なんて相手を好きじゃなくっても出来る。彼が私の事を好きって決まったわけじゃないし……。でも彼はいつも痴漢というより、私が気持ちよくなるように動いているだけに思えるし……。
でも彼のしていることはやっぱり痴漢で、そんな事する人と二人っきりで会うのは理性的に考えると危ないとしか言えないし。
何より、……私は、課長が好き。
そうだ。課長が好きなら、これっきりで終わらせた方が良い。それがたぶん一番正しい。
…………でも。
同じ事の堂々巡りになっていることに気付き、私は考えるのをやめて、手が止まりがちになっていた仕事に意識を戻す。
考える事は「でも」で埋め尽くされている。どちらも欲しくて、どちらかだけを選べない。
課長が言ったように、シンプルに考えられたらいいけれど、それが一番難しいのかもしれない。
彼と電車以外で会いたいって、単純に考えるには、考えなければいけない事が多すぎた。知らないことばかりだった。そして考えても答えのでないことばかりだった。
かといってやめた方が良いという結論を出すにも、気持ちが整理できなかった。
少し困ったような表情で課長が私を見つめてくる。
「そう、です、か……?」
首をかしげると、課長の手が目の前に伸びてきて、私は思わず目を瞑る。
「ここ、皺が寄ってる」
課長の指先がトン、と触れたのは私の眉間。
「かわいい顔が台無しになってる」
恥ずかしくて、声も出せずに真っ赤になってしまう。
「三井さん? 悩んだとき答えを出す秘訣を教えてあげようか」
まるで今の私の気持ちが分かっているみたいな課長の言葉に、私は顔を上げる。
「悩んでいるときはね、悩んでいることとは別の事に煩わされていることがよくあるんだよ。シンプルに考えてごらん。自分がどうしたいかを」
どうしたいかなんて。
彼と、一線を越えてしまいたい気持ちは、確かにある。さんざん痴漢行為を受け入れてきて、今更するのがイヤなんて、そんな風に自分の気持ちを取り繕ったところで意味がない。
でもそんな事を続けるだなんて、絶対によくない。
彼はどういうつもりなんだろう? セックスをしたいだけ? どうして毎日私に触れてくるの? 私の事、痴漢相手以外に何か思う気持ちはあるの?。
次から次へと疑問がわいてくる。
痴漢行為を受けているだけなら、自分の事だけ考えていればよかった。自分がどうしたいか、自分はどういうつもりなのか。
でも、今日のことは自分がどうしたいかだけで決められるはずがない。だって相手がいるのだから。彼のことが分からない。彼がどういう人なのか、どういうつもりなのか、なにも分からない状態で決めるのは、とても怖い。
だって私の行動で彼がどう思うかが気になってしまう。
彼の触れ方が優しいとか、守ってくれてるみたいに温かいのが安心するだとか、私がそう思うみたいに、彼も私に触れながら、幸せな気持ちになることはあるのだろうか。私が、彼のことが好きになっていくみたいに、彼も私の事を性的な意味だけじゃなくって好きって思う気持ちがあるのだろうか。
彼も、私に対して、そういう気持ちが少しでもあるのかな。
もしそうだったら……。
気持ちが「彼」に傾きかけてふと目を上げると、課長が目に入って、また視線を落とす。
でも、私は課長のことが好きで。
決まりかけていた気持ちは、ふりだしに戻った。
課長をあきらめることが出来る気がしない。そんな状態で彼に会うというのは、自分に対しても、彼に対してもよくないことに思える。
課長を想う気持ちがちょっとでも減っていたらいいのに。そしたら……。
彼に触れられると課長を思い浮かべる。課長の声を聞くと彼を思い出す。
彼への気持ちが増えるのと一緒に、課長への気持ちも大きくなっていって。
そんな状態が続きすぎて、自分でも訳が分からないほどに気持ちはごちゃごちゃしている。
でも彼との約束に行くのなら、課長のことは忘れなくちゃいけなくて。課長が私の事を少しでも思ってくれていたのなら、彼のことをあきらめられるかもしれない。でも、きっと、私なんて課長からしたら幼く見えているだろうし。優しいけど誰にでも優しい課長に、うぬぼれるなんて出来ない。告白する勇気も出ない。
……彼は、私に触れてくるぐらいだから、それに比べたら少しは好意的って想っても良いのかもしれない。
でも、エッチな事なんて相手を好きじゃなくっても出来る。彼が私の事を好きって決まったわけじゃないし……。でも彼はいつも痴漢というより、私が気持ちよくなるように動いているだけに思えるし……。
でも彼のしていることはやっぱり痴漢で、そんな事する人と二人っきりで会うのは理性的に考えると危ないとしか言えないし。
何より、……私は、課長が好き。
そうだ。課長が好きなら、これっきりで終わらせた方が良い。それがたぶん一番正しい。
…………でも。
同じ事の堂々巡りになっていることに気付き、私は考えるのをやめて、手が止まりがちになっていた仕事に意識を戻す。
考える事は「でも」で埋め尽くされている。どちらも欲しくて、どちらかだけを選べない。
課長が言ったように、シンプルに考えられたらいいけれど、それが一番難しいのかもしれない。
彼と電車以外で会いたいって、単純に考えるには、考えなければいけない事が多すぎた。知らないことばかりだった。そして考えても答えのでないことばかりだった。
かといってやめた方が良いという結論を出すにも、気持ちが整理できなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
240
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる