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とらえたはずの、男の話
しおりを挟むその行為は、暴力だった。
顔見知りでしかない彼女への身勝手な性的な接触は、非難されればいいわけの余地すらない、暴力だ。けれど、彼女は躊躇いながらも受け入れてしまった。流されただけだとわかっていたが、彼女が欲しくて押し切った。俺のしたことは卑劣な行為だ。このおかしな状況が、お互いの判断力を狂わせた。だが俺は、そうとわかっていながら、この異常な状態を好機とし、欲に任せて動いた。
この特殊な状況下から出てしまえば我に返り、彼女は躊躇いを覚えるかもしれない。
そのことも計算していた。
その上で、後で無理矢理にでも口説こうと思っていた。どうとでも刷り込めると高をくくっていた。そこに好意があるから無理矢理ではないのだと。少し刺激的な始まりでしかなかったのだと。
俺のやったことは最低のことだ。けれど、彼女の様子なら落とせると思った。逃げるかもしれない。けれど、絶対に逃がすつもりはなかった。
事後に彼女とたわいのない話をしながらそんな算段をしていた。
なのに、あの状態で、彼女が口にしたのは、告白だった。好きだと、純粋にそれだけを伝えてきた。
とたんに自分のしようとしていたことに罪悪感が込み上げてくる。そんな物はとっくに捨て去ったつもりでいたのに。
本当にこれで良いのかと不安が襲ってきた。この子を、自分なんかが手にしていいはずがない。こんな人間が手に入れていいはずがない。
かといって、諦められるかというと、手放す気には到底なれない。
ならば。
「そう思わせるのを狙ったのかもしれねぇぞ」
逃げろ。俺の本心を知ってお前が逃げればいい。俺にいつまでも騙されるな。
……お前が逃げたのなら、俺はまた罪悪感なんか忘れてお前を捕まえる事ができる。
俺には追い詰めて囲いこんで手に入れる方が性に合っている。
手を広げたら飛び込んでくるような警戒心のない奴だから良心の呵責を覚えるんだ。
お前が逃げたら、ためらいなく手に入れてやる、だから、逃げろ。
「じゃ、じゃあ、成功ですね! おめでとうございます!」
ご丁寧に、拍手付きで祝われた。
…………言うに事欠いて、おめでとうございますとは何事だ。めでたいのは俺じゃなくてお前の頭だ。お前には危機感という物がないのか。
突っ込みたかったが、できなかった。突っ込むまでもない。
目の前に、笑顔でパチパチしているひなたがいる。
……無いな。危機感なんか欠片ほどもないな。俺が間違っていた。あったらこの状態にはなっていないな。
黙り込んだ俺の様子を気にして、笑いながらもキョドっているひなたを見つめる。
……かわいいな。
この小動物を見ていると、モノにしてやるだとか、どうにかしてやろうという征服欲のような凶悪な感情がごっそりとそぎ落とされる。代わりに込み上げるのは微笑ましいと思えるほどの庇護欲だ。
男の狩猟本能をそぎ落とすとはどんなスキルだ。危機感無くても守備力が高すぎるだろう。
逃げ道などないように、例え嫌がっても逃げても、どんな手を使ってでも落とす気でいた。
ところが落とすも何も、彼女は勝手に飛び込んできて当たり前のように俺の元に留まろうとしている。
どういう事だ、これは。俺の常識が一切通用しない。
一種の敗北感のような感覚があった。
抱きしめて力を込めれば潰れてしまいそうなほど小さいというのに。
落とされたのは俺か。
見上げてくる瞳が俺の中の感情をすすぐる。込み上げてくるのは紛れもなく彼女への愛しさ。
まったく。かわいいじゃねぇか。
溜息が漏れる。
抱きしめると腕の中で彼女が笑った。
そうか。逃げ道がないのは、俺の方だったか。
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