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第二章「子爵領任され先が見えない」モブなオレ。

短編1「かなりマジにカレー食いたい」実現するぜ。

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「オレにカレーを食わせろ!」短フレーズを連呼した。前世の歌が印象にある。
かなり前から活動するロックバンドのヴォーカリスト。執筆や俳優でも有名人。

 もしかしてになるが近くにいたかもしんない。ひび割れ風のメイクは目立つ。
メジャーレーベルに多彩な楽曲を発表する才能。裏面でインディーズの活動だ。

 どこか私鉄沿線の駅前で手狭なライブハウス。特撮ライブに衝撃をくらった。
なんとなくだけど記憶に残る理由も同じはずだ。サンパールにはカレーがない。


「日本印度化計画」あれは楽曲としてネタになる。大元のインドやスリランカ。
スパイシーな香り漂う日本のカレー文化は別物だ。良し悪しじゃなく違う料理。


 塩や胡椒はもちろん異世界でメジャーな調味料。強い刺激の唐辛子もあった。
それでもカレーに最低限必要な香辛料が足らない。この異世界で見つからない。

 手抜きが可能な料理研究家もおそらくできない。カレーを作ることは難しい。
前世の記憶が戻って不満を感じることのないオレ。それでもカレーは食いたい。


 食用米が見つからないのは異世界転生の定番だ。探せばどこかにあるだろう。
大豆はある。小豆もあった。もちろん小麦が主食。大麦はあるのにコメがない。

 この国もそれなりに広い。どこかにきっとある。どこかで主食かもしれない。
コーヒーとカカオ。これも王都の商会で広い範囲を探して見つからないままだ。

 かなり本気で海賊王を目指したくなった。貿易で世界を動かすこともできる。
この辺境が世界のどこになるかもしらない。世界の中心はフラグかもしれない。


 いつかは目指すことになる予感もあった。なんとなくそのイメージが浮かぶ。
まずは自分にできることからコツコツとだ。すこしずつでいいから前進しよう。


「おにーちゃん凄い。料理できるんだ♪」声はもちろん銀の髪。傍の美少女だ。

「んー見たことない種子。香辛料らしいよ。祖母が見つけて送ってくれたんだ」
 庭でも西端に位置する厨房は控えになる。立位なら数人が動ける程度の狭さ。


 前の子爵は食通だったのかもしれない。魔導コンロが三つと炊事場に換気扇。
これなら強烈な香りが漂っても問題ない。区分した袋の一つを皿にぶちまけた。

「うわぁ。なんかヒリヒリしちゃったぁ。カラァィ」傍の少女が顔をそむける。
「クミンじゃん。やったぜバーちゃん!」強烈なスパイシー感。香りに悶絶だ。


 どこかで耳にして驚愕した記憶もある。カレーの材料には欠かせない香辛料。
「カレーはクミンがないと味にならない」それぐらい必要不可欠なスパイスだ。

 それでも日本のカレーは再現できない。ある種「カレー風味」どこかが違う。
仕方ないけど麺にかけて食べるしかない。懐かしいうどんよりもパスタだろう。


 パスタの専門店で見つけたこともある。黄色の再現は難しいから赤トマトだ。
なんとなくイメージするスパイスカレー。とろみの再現が難しいから丁度いい。

 いい加減なオレは調理師のはずもない。ただカレーマニアの可能性があった。
それでもルウの成分まで詳しくしらない。クミンシードはエスニックな芳香環。


 過去の記憶に埋もれたスパイスの香り。コリアンダーは甘く爽快な香辛料だ。
ターメリックなら鮮やかで黄色いウコン。代行になるくちなしは見つけてある。

 アネトールが成分になるアニスもない。それでも八角みたいな植物があった。
カルダモンはいくつか種子の組みあわせ。ショウガやニンニクを代行品にする。

 シナモンやローレルっぽい葉物はある。それなりに香り立つペーストにした。
レイラさんの赤い唐辛子はチリペッパー。ジンジャーとガーリックに葉物野菜。

 黄色いウコンがないのは残念すぎるよ。それでもカレー風味のトマトソース。
これなら女の子たちにも受けんじゃねぇ。メインになる最後の食材が……肉だ。


 その瞬間だった。庭園に舞い降りる鳥。もはや鶏肉の塊にしか見えなかった。
指先を突きだして細い熱線のイメージだ。まっすぐに伸びる光線で頭が弾ける。

「キャアァァァッッ……」倒れる美少女。ダンジョンじゃないから当然だった。
屋敷から侍女を数人呼びだして運ばせる。いよいよここから先がオレのターン!

 キジかカモかもわかんない鳥はデカい。頭がないのに腕からはみでるサイズ。
間違いなく数キロの重さで肉づきもいい。ナイフですべての羽毛をそぎ落とす。

 腹切りで内蔵を抜くとキレイな色味だ。生レバーとハートがめっちゃ旨そう。
このまま生でも刺身の盛りあわせで造り。なんとなく危険だから次の機会かな。


 生きたままで鶏をさばいた記憶はない。それでも難なく体と脚をブツ切りだ。
鳥骨でダシがでるから野菜と一緒に投入。家令に酒をもらってグツグツ煮こむ。

 大量に生まれるアクを捨てながら半日。ごっついい感じにすばらしい香りだ。
端切れの骨をかじったら一瞬でとろけた。人参。ポテト。オニオンも柔らかい。

 鳥は適度に細切れでみじん切りの野菜。つぶしたクミンシードにスパイスだ。
フライパンみたいな鉄板にまとめて投入。ちいさな火で軽く炒めるだけでいい。

 傍の鍋は熱湯で塩ひとつかみにパスタ。すこし固いパスタをフライパン移動。
鳥肉と野菜を赤いトマトソースに絡める。なんともいえないスパイシーな香り。

 異世界にカレー風のパスタが爆誕した。素人料理でも文句ない完成度だった。


「これすごい美味しいよ。おにーちゃん」口をはぐはぐ。銀髪美少女は夢中だ。
「これなら王宮でも絶賛される。完璧だ」なぜか上品さ。かなぐり捨てる王女。

「うんうん。ソースが違うだけじゃない」瞳を輝かせる。熱い語りの伯爵令嬢。
「子爵代理。このまま献上品にできます」ソースを味わう真剣さ。本気の家令。

 また無意識にやらかしたかもしんない。日本料理のすばらしさ。なめてたよ。
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