47 / 104
三十五話 気がつけば戦国?!
しおりを挟む重治が悶々とした日々を過ごすのも、早、二年になろうとしていた。
そんな二年間での重治の生活にも、少しながらは変化というものがあった。
どさくさながらに、滑り込みで入りこんだ高校である。苦労の末に受験も乗り越え、高校生活にもようやく慣れようとしていた。
生活に慣れたと言っても重治は、他の生徒からはどこか浮いた存在であり、自ら周りに溶け込もうとはしなかった。
しかし、かと言って苛めにあうほど弱くもなかった。
以前、不良学生に絡まれた(重治の入った高校は滑り止めの落ちこぼれ高校)ときなど、周りの生徒が遠巻きにするなか、一瞬で五人の不良をのしてしまった。
それからの重治は、クラスの中では腫れ物を触るように、他の生徒の方側が重治を警戒するようになってしまっていた。
しかし最近になって、ようやくその警戒感も溶け、打ち解けて話しかけてくる者も現れてきている。
暇があれば、学校でも歴史書を見る重治。
付けられたニックネームが、オタク。
歴史オタク、戦国オタクと呼ばれ始めていた。
そんな戦国オタクの重治の休日の過ごし方は、ニックネームに恥じない史跡巡りであった。
この日、重治は、カレンダーに続く赤い日、連休を利用して、伊蔵たちと共に旅をした北陸地方へと向かっていた。
朝一番の、特急しらさぎに飛び乗った重治は、9時27分、越前の入り口、福井県の敦賀に降り立っていた。
今回の旅の目的は、越前朝倉氏に関係する史跡を巡る予定であり、朝倉氏遺跡所在地である福井県にやってきたのである。
この街、敦賀は、あの秀吉が木ノ下藤吉郎時代に、必死の退却戦を繰り広げた、起点となる金ヶ崎城のあった場所である。
駅を出た重治は、目的の金ヶ崎に向かって歩き出した。
下準備で地図で調べた限り、じゅうぶんに歩いて行ける距離である。
重治は、一つの手荷物とジーンズにスニーカー、上にはトレーナーにボストン・レッドソックスのキャップを被るという軽装である。
重治は、軽快な足取りで金ヶ崎に向かった。
しかし、その道筋には、昔を思い出させる物は何一つない。それは、当然といえば当然の事であり、軽快であったはずの重治の足取りは、どんどんと重くなっていった。
金ヶ崎へ向かう道は、今では完全に整備された街並みが続く。
しかし、この道は間違いなく、重治と伊蔵たち忍び三兄弟が、信頼や愛情を初めて通じ合わせあった場所である。
「ふぅ、やっぱり本命でないと駄目か‥‥」
激戦を繰り広げた昔を感じさせる面影が全く見られない景観に、重治は、思惑が外れたのを感じていた。
しかし重治は、旅の目的を当初から朝倉一乗谷を本命としていた。
それは、一乗谷が現在、武家屋敷あとなど、発掘が進み、僅かにながらも昔の朝倉の栄華を垣間見る事ができるのを重治は調べ上げていた。
『金ケ崎城跡』いかにも公園入り口です。と見られる風景と案内板。それを確認した重治は、突然に立ち止まった。
「ふう、もどるか…」
重治は、ひとつため息を吐き出し、その場で回れ右をし、元来た道を戻りはじめた。
金ヶ崎城攻めに同行していない重治にとっては、城跡までいく意味をそれ程感じてはいなかったのである。
一乗谷に向かうためには、降り立った駅、敦賀から福井に向かい、そこからさらに越美北線に乗り換える。
早足で敦賀駅へと向かい歩く重治の気持ちは、既に一乗谷へと飛んでいた。
急ぎ駅に着いた重治は、慌ててホームにあった10時42分の列車に飛び乗った。
金ヶ崎を取り止め、たまたまその列車に乗れたことが、この先、重治の願いを叶える幸運の出会いを演出することになる。
普通各駅停車の列車は、当然、自由席。敦賀を出発した列車の席には、かなりの空席があった。
「この席、いいけの?」
にっこりと微笑んだ、おじさんが重治に声をかけてきた。
「どうぞ」
重治の隣に座ったおじさんは、親しげに重治に話しかける。
「旅行かいの?」
「どこに行くんやの?」
「いくつやの?」
矢継ぎ早に、おじさんの質問は重治に続けて向けられていた。
重治は、退屈な移動時間の暇つぶし程度のつもりでおじさんのお喋りに付き合う事にした。
そして、このおじさんとのお喋りが重治の転機に繋がっていく。
旅の目的を話した重治に、そのおじさんは興味惹かれる話しをしてくれたのである。
時刻表によると朝倉一乗谷に行くためには、各駅停車のこの列車だと福井駅の一つ手前の花堂駅で乗り換えるのが最短になる。
しかし、そのおじさんとの話しの中で出た『北の庄』と言う名前が、乗り換え駅では降りずに福井駅にまで行くと重治の予定を変えさせていた。
北の庄。その場所は、柴田勝家が豊臣秀吉に攻められ、お市とともに最期を迎えた場所である。
自分の事を息子のように可愛がってくれた勝家。
そして、初恋にも似た気持ちを感じさせた市姫。その二人の名前を聞いて重治が素通りなど出来ないと思っても、何ら不思議ではなかった。
予定を変えて、福井駅に降り立った重治は、改札をくぐり駅の外へと向かった。
この日の福井は、気温も高めの過ごしやすい良い天気である。
重治は、駅前の広場に客待ちで止まっている、タクシーの運転手に北の庄の話しを聞いてみた。
すると、その運転手は、嫌な顔もせず気軽にその場所を丁寧に重治に教えてくれた。
勝家の北の庄城のあったその場所は、駅から目と鼻の先にあり、歩いても十分ほどの所にあった。
現在は、神社や公園として整備をされているらしかった。
重治は、運転手に丁寧に礼を告げると、教えられたその道を歩き始めた。
その重治の足取りは軽く、何かを予感さえさせるその場所は、心までもウキウキと軽くさせた。
重治の足取りはどんどんと加速し早くなっていった。
重治が着いたその場所は、想像していたものとはまるで違い、期待していた古めかしい由緒ある神社など何処にもなかった。
その場所は、近代的な街並みの中、新しく整備された、小さいがとても綺麗な場所であった。
柴田神社の社の前に立った重治は、小銭入れから縁起に因んで五円玉を賽銭として投入。柏手を打って願い事を始めた。
「どうか、信長様が無事でありますように‥‥それと、俺を戦国の時代に……」
これが漫画か何かなら、『そなたの夢を叶えてしんぜよう。』
と白髭の神様が現れたりするのであるが、現実はそんなに甘くはない。
朝から、かなりの距離を歩いている重治は、期待と違った様子に軽い疲労を感じて、すぐ近くにあったベンチに腰を落とした。
『そうか、ここで勝家様と市姫が……』
戦国の世などまるで感じさせない風景ではあるが、辺りを眺め当時の様子を重ねて空想し、感傷に浸っていた。
『ぐぅ~』
場にそぐわない、空気ぶち壊しの大きな音が響いた。
たとえ重治が、どれだけの感傷に浸っていようとも、腹の虫までが感傷に浸っている訳ではない。
突然の腹の虫が鳴く声に、重治は、お腹のすいた自分を自覚した。
「どうしようか……」
重治は、手打ち蕎麦の看板を近くに見ながら、財布の中身が気にかかった。
「はあぁ‥‥」
重治は、じっと、手打ち蕎麦の看板を睨みつけてたあと、大きなため息をついた。
高校生の小遣いなどたかがしれている。
財布と相談した重治は、手打ち蕎麦を結局はあきらめ、手持ちの鞄の自称、戦国七つ道具入れの中の非常食である乾パンを取り出し、それを口に運んだ。
戦国七つ道具と言っても、そこにたいしたものは入ってはいない。
突然に戦国時代へ行った時に困らない、違和感の出ない衣装、それに皮で作られた特製の靴。
そして、歴史の流れを書いた虎の巻となるメモ用紙。救急道具に非常食の乾パンに水。
最後に最も重要な重治のためにと信長の与えてくれた刀。これらを詰めた袋をいつも重治は持ち歩いていた。
それは当然、いついかなる時に過去に行く事になっても困らないための重治の考え抜いた末の必須アイテムであった。
乾パンわ腹に詰め、少しは大人しくなった腹の虫に、重治は、かなり狂ってしまった旅行の予定をどうするか、このあとの行動の組み立て直しを始める事にした。
「一乗谷だけは、行きたいんだよなぁ‥‥。はぁ、蕎麦食いてぇ‥‥」
そういうと乏しい財布の中身を恨みながら、七つ道具の入った手持ち鞄を枕に横になった。
早朝、旅の出発に早い時間に起きたのが原因か、はたまた歩き疲れたのが原因か、とにもかくにも、重治は、突然の睡魔に襲われ、車の通りも盛んな賑やかな場所にも関わらず、深い、深い、眠りのなかに落ちていった。
「おい、そこのもの、起きろ!」
突然の怒鳴り声と脇腹を突っつかれた痛みとで、重治は目を覚ました。
「なんだ、その変な格好は!‥‥怪しいやつめ!」
重治は、やけにリアルな夢だと思った。
あまりに強い願望を抱いたために見せた都合の良い戦国時代の夢である!?
「痛って‥‥?」
重治は、再度、足軽兵に槍の根の部分で突っつかれた。
『マ・ジ!!』
重治が二年もの間あれほど思い焦がれた世界に、神の思し召しなのか、偶然なのかは解らないが、やって来る事が出来たのである。
問題は、今がいつで何処なのかである。
自分を警戒する兵士の様子から、何やら緊迫した、あまり良いタイミングとは思えない状況であることは確かであった。
「どうした。まだ抵抗する者が居るのか!?」
その声は、少し離れた場所から届いた。
重治にとってその声は、とても懐かしく、聞き覚えのあったその声が、現状の危険が何でも無いことを重治に伝えていた。
「‥‥よし、そこのお前。ついて来い」
「……」
重治には、状況がすべて把握しきれた訳ではない。
先ほどの声の主からして目の前にいる足軽が、織田家の者だということだけはハッキリしていた。
「抵抗するなよ。これ以上、死体の始末をさせないでくれ」
「…………」
重治は、もとより抵抗などする気はない。
しかし、この足軽の口ぶりでは、抵抗イコール死体である。
これは、重治の知る限りでも、かなりの厳しい粛正に思えた。
重治の知る文献の中で、織田の行ったいくつかの厳しい粛正の事例がある。
これまで過去に飛ばされてきた時、場所の極端な移動距離がなかったことから考えると、ここを越前の国だと仮定できる。重治の考えが外れてさえいなければ、長篠の合戦からせいぜい、一、二カ月後のはずである。
重治は、とりあえずは、この足軽兵に従う事にして歩き始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる