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六十八話 いざ行かん(その三)
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「ふふ、愉しいのぉ。まるで闘志が衰えん…」
笑みを浮かべる爺さまからは何の油断も感じられない。重治は、痛む脇腹に生きている実感を感謝すると、ゆっくりと爺さまに近づき始めた。
「どうした?自棄になったのかのぉ…」
一歩二歩、僅かにながらも二人の距離は近づいていく。
爺さまは軽快しつつも重治に対応すべく右足を少し後ろに下げ半身へと体制を整える。
重治の頭の中には、智の爺さまとの係稽古の意識はなかった。
緊張の高まるなか逆に冴え渡る頭の中。思考は無になり相手の息遣いさえみえてくる。重治は、無人の野を歩くごとく何者にも囚われる事無く、少しずつ少しずつすり足しを進め、気付けば爺さまとの距離は一足一刀の間合いにまでなっていた。
一足一刀の間合い。剣術者どうしの剣先が延ばせば届く距離である。この距離にまで詰めた重治に強い思惑があった訳でない。自分よりも実力者の爺さまに一矢報いる手立ては相打ち。肉を切らせて骨を断つ。自らが傷付こうとも仲間を守り抜く。そういう剣術をずっと追いかけてきた重治である。
「ふっ、このまま一振りもいいのじゃがなぁ‥」
重治の木剣を握る手に一際力がこもる。
「まいった!!まいった重治殿」
もしも重治が、残りの一歩を踏み込んで剣先を振り下ろしていたならば
、間違いなく双方に後遺症の出る程の怪我が発生していたはずである。
爺さまに負けるつもりはないけれども、朝の係稽古程度で犯さなければならない勝負でもない。
「わしゃあ、痛いのは苦手でのぉ♪ハハハ」
一瞬にして、その場の空気の緊張を緩ませる豪快な笑いである。
重治は指先にまで張り詰めた緊張をゆっくりと解き放つ。
「ふう‥、ありがとうございました」
一つ軽く頭を下げた重治は、緊張が緩むと同時に手先の震えを感じる事になる。
『こんなんで、命のやりとりができるのか?待っているのは歴史への反逆』
震える指先を見つめながら新たな決意をする重治。
「‥あの、お爺さん。休みの三日間、俺に稽古をつけて頂けませんか‥」
「ふふ、何やら決意する事でもあったのかの?…朝夕二回の棒振り、重治ど、いや、重治もやりますかな。ハハハ♪」
重治の顔付きが一度に変貌した事に驚き、稽古の終わり決意を堅め存在そのものの変化に戸惑いながらも智の爺さまは、稽古の参入を認めるのである。
短い稽古ながらも命のやりとりまで意識した稽古である。肌寒い朝ながら緊張の冷や汗も混ざりながら汗びっしょりの重治は、屋敷傍に流れる山からの湧き水の小川で爺さまとともに汗を拭う。
「ああ、重治殿。朝飯のあと、少し見てもらいたい物がある。少し付き合って欲しい」
「はい‥」
『やはり、この若者が、古文書の記した人物に間違いなかろう』
重治を見つめる爺さまの視線には先ぼどの荒々しいほどの殺気は消え去り、慈愛さえ隠って見える。
先に顔を洗い流した重治に、爺さまはパサリと真新しいタオルを頭に掛けた。
笑みを浮かべる爺さまからは何の油断も感じられない。重治は、痛む脇腹に生きている実感を感謝すると、ゆっくりと爺さまに近づき始めた。
「どうした?自棄になったのかのぉ…」
一歩二歩、僅かにながらも二人の距離は近づいていく。
爺さまは軽快しつつも重治に対応すべく右足を少し後ろに下げ半身へと体制を整える。
重治の頭の中には、智の爺さまとの係稽古の意識はなかった。
緊張の高まるなか逆に冴え渡る頭の中。思考は無になり相手の息遣いさえみえてくる。重治は、無人の野を歩くごとく何者にも囚われる事無く、少しずつ少しずつすり足しを進め、気付けば爺さまとの距離は一足一刀の間合いにまでなっていた。
一足一刀の間合い。剣術者どうしの剣先が延ばせば届く距離である。この距離にまで詰めた重治に強い思惑があった訳でない。自分よりも実力者の爺さまに一矢報いる手立ては相打ち。肉を切らせて骨を断つ。自らが傷付こうとも仲間を守り抜く。そういう剣術をずっと追いかけてきた重治である。
「ふっ、このまま一振りもいいのじゃがなぁ‥」
重治の木剣を握る手に一際力がこもる。
「まいった!!まいった重治殿」
もしも重治が、残りの一歩を踏み込んで剣先を振り下ろしていたならば
、間違いなく双方に後遺症の出る程の怪我が発生していたはずである。
爺さまに負けるつもりはないけれども、朝の係稽古程度で犯さなければならない勝負でもない。
「わしゃあ、痛いのは苦手でのぉ♪ハハハ」
一瞬にして、その場の空気の緊張を緩ませる豪快な笑いである。
重治は指先にまで張り詰めた緊張をゆっくりと解き放つ。
「ふう‥、ありがとうございました」
一つ軽く頭を下げた重治は、緊張が緩むと同時に手先の震えを感じる事になる。
『こんなんで、命のやりとりができるのか?待っているのは歴史への反逆』
震える指先を見つめながら新たな決意をする重治。
「‥あの、お爺さん。休みの三日間、俺に稽古をつけて頂けませんか‥」
「ふふ、何やら決意する事でもあったのかの?…朝夕二回の棒振り、重治ど、いや、重治もやりますかな。ハハハ♪」
重治の顔付きが一度に変貌した事に驚き、稽古の終わり決意を堅め存在そのものの変化に戸惑いながらも智の爺さまは、稽古の参入を認めるのである。
短い稽古ながらも命のやりとりまで意識した稽古である。肌寒い朝ながら緊張の冷や汗も混ざりながら汗びっしょりの重治は、屋敷傍に流れる山からの湧き水の小川で爺さまとともに汗を拭う。
「ああ、重治殿。朝飯のあと、少し見てもらいたい物がある。少し付き合って欲しい」
「はい‥」
『やはり、この若者が、古文書の記した人物に間違いなかろう』
重治を見つめる爺さまの視線には先ぼどの荒々しいほどの殺気は消え去り、慈愛さえ隠って見える。
先に顔を洗い流した重治に、爺さまはパサリと真新しいタオルを頭に掛けた。
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