スローテンポで愛して

木崎 ヨウ

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驚きの落とし物5

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「そうです…」
「へえ、いいね。素敵な名前だ。柔らかい雰囲気がとっても似合ってるよ」
 そんな風に言われたのは初めてで驚いた。いつも、女みたいな名前とか、性格に合ってないとかそんなことしか言われなかったからだ。
「…そ、そうですか…?」
「天気や気候が良い時に『良い日和ですね』とか、使うでしょ? あ、若い人は使わないかな?」
 はは、と笑った顔は愛嬌がある。人好きのする笑顔だ。
「いえ、オレだって三十代ですからあんまり変わらないと…」
「え、三上さんいくつなの?」
「三十三です…」
「わ~ぉ、一回り下だよ…!」
 歳を聞いて驚いた。
「えっ?! てっきり二つ三つ上かと…」
 日和が思った事をそのまま言うと、副島はまた笑った。
「やだなぁ、おだてても何にも出ないよ? お金盗まれてるんだから払えないからね!」
「いえ、あのっ…!」
 そんなつもりは…と慌てる日和に、副島は、
「冗談だよ。君、面白いなぁ」
 と、また笑う。
「そうですか? そんなこと…初めて言われました…」
勉強は出来たがいつもひとりぼっちで居た日和と違って、副島はいつも周りに友達があふれているようなタイプだ。話し方や振る舞いが、そういう人生だった事を物語っていると日和は思う。…これは日和の幼少期からの鬱屈した人生がそう思わせているだけなのかもしれないけれど。
「あ、ごめん。失礼だね。初対面なのに」
「いえ、良いんです。あ、お茶、おかわりどうですか?」
「あ、うん、ありがとう」
 ペットボトルから麦茶を注ぎながら、日和は何となく気になったことを聞いてみる。
「お金無いと…、家に帰るの困りません?」
「あー、まあ、大丈夫だよ。ほら、クレジットカード使えるタクシーもあるし、なんとかなるでしょ」
「それなら…良いんですけど…」
 何となく、妙な沈黙が流れる。
 お茶を飲み終わった副島は、ゴミ捨て場で転がっていた時よりずっと顔色が良くなっていた。
「助けてもらえて、本当にありがたかった。今度、改めてお礼させてほしいんだけど、店、来てもらえたりする?」
「そんな、良いですよ…、お礼なんて」
「いや、大人としてそれはダメだと思うんだよね。…まあ、それで自分の店呼びつけるのはどうなんだって話なんだけどさ。どうかな? いつでも良いよ」
 日和が貰った名刺はシンプルだけど洗練されているような印象で、会社で使うような無機質なそれとは違う。
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